光のもとで1

葉野りるは

文字の大きさ
743 / 1,060
第十三章 紅葉祭

41話

しおりを挟む
 ツカサは迷わず佐野くんのもとへ向かった。
「佐野、実験に付き合え」
「えっ!? なんのですかっ!?」
「佐野、悪ぃ……。ちょっと頼むよ」
 海斗くんが話に加わった。
「まさか藤宮先輩までエスコート代わってほしいとか言いませんよねっ!?」
 その言葉にツカサの動作が一瞬止まり、顔の向きは変えずに視線だけを私に向ける。
「ふーん……風間に頼んだことってこれか」
「…………」
「翠は俺に隠しごとはできない星のもとに生まれたんだな」
 どこか愉悦に満ちた笑みを見せるツカサに対し、私は何も答えることができない。
 佐野くんは海斗くんの顔を見て、
「俺、なんかやばいこと言った?」
 海斗くんは苦笑いを浮かべ、「どんまい」と佐野くんの肩を軽く叩く。
「やっぱり地球人じゃない時点で人外決定だな」
 ツカサ特有のシニカルな笑みを見て、やっぱり苦笑冷笑嘲笑しか見られる気がしなかった。

 佐野くんの手が目の前にあり、緊張しながらその手に自分の手を翳す。
 手を重ねる一歩手前、手が触れる瞬間に佐野くんが手を引いた。
「悪いっ、でもっ――緊張半端ないんだけどっ!?」
「……佐野、無理なら翠は自分で手を引く。それだけだ」
「佐野くん、ごめんね。でも、たぶん……たぶんだけど大丈夫だと思うの」
 何分根拠のない「大丈夫」で申し訳ない。
「あのさ、俺……目瞑っててもいいかな?」
 訊かれてコクリと頷いた。
 佐野くんは深呼吸をしてから手を出し目を瞑った。
 私も深呼吸をしてその手に自分の手を伸ばす。
 左手にツカサの体温を感じながら、静かに右手を重ねた。
「大丈夫なら握ってみろ」
「ん……」
 佐野くんの手を握るけど、何も感じない。
「佐野くん、ありがとう。大丈夫」
 普通に握るよりも力を入れて握り話しかけた。
 佐野くんはへなへなをとその場にしゃがみこむ。
「俺、今間違いなく寿命が縮まった気がする」
「ごめんね……」
「いや、いいよ。じゃ、俺がステージに上がった時点で御園生の隣に行けばいいのね?」
「頼む」
「お願いします」

「んじゃ、ラストだからね! みんな、思いっきり楽しむよっ!」
 久先輩の言葉に、みんな嬉々とした声をあげた。
 生徒会メンバー、紅葉祭実行委員、放送委員、フォークソング部、軽音部は半分に別れ、円形ステージとスクエアステージから上がる。
 ミキシングルームに詰めていた放送委員たちも、最後は先生にその場を任せて北側の半月ステージに姿を見せる。
 ステージで演奏した人、ずっと奈落でステージを支えていた人たちが全員ステージや花道へ上がるのだ。
 吹奏楽部は最後まで円形ステージの周りで演奏をしており、お茶出しなどをしていた調理部の人たちも、ステージや花道の周りにずらりと並ぶ。
 そのほかにステージという土台を作った人や花を飾った人たちもいるけれど、その人たちは今日は観覧席にいる。
 みんなで作ったステージをみんなで終わりにする。
 そういうコンセプトで曲も選ばれていた。
 ラストを飾る歌は、嵐の「5×10」。
 人数は五人じゃないけれど、今日を成功させられたのはみんなが力を合わせたから。そんな歌。
 茜先輩はピアノ演奏に加わるため、久先輩にエスコートされて先にステージへ上がっている。
 中央昇降機には歌を歌う生徒会男子メンバー、右昇降機には私とツカサ、左昇降機には嵐子先輩と桃華さん。
 吹奏楽部の前奏に合わせてステージへ上がる。
 会場から聞こえるスネアの音を聞いて思う。
 このスネアはきっと、ツカサの「優しくなりたいな」を一緒に演奏してくれた人だ、と。
 同じ楽器でも奏者が変われば同じ音はしない。人によって音は変わる。
 スクエアステージで一番最初に上がってくるのはフォークソング部。
 北側の半月ステージにはは照明やカメラを担当していた人たち。
 私たちが昇降機から降り、フラットなスペースへ移動すると、昇降機はまたすぐに奈落へ下りていく。
 円形ステージには久先輩がだけが留まり、歌を歌う男子メンバーは円形ステージとスクエアステージをつなぐ花道へ向かい、半月ステージまでの間に等間隔に立つ。
 私たちは、次に上がってくるスタッフたちを迎え、上がってきた人と「お疲れ様」と声を掛け合いながら握手をする。
 ステージに上がれば、みんな歌を口ずさみながら花道へと移動するのだ。
 そうやって少しずつ少しずつ、三つのステージが人の手でつながり始める。
 演奏部隊として活躍したフォークソング部や軽音部が上がってくるときには一際大きな拍手が起こった。
 実行委員全員がステージに上がると、半月ステージから円形ステージまで人がびっしりと並び、みんなが左右の人と手をつないで笑顔で歌を口ずさんでいた。
 最終便が上がってくると、佐野くんが私の隣に来て手を差し出してくれた。
 私は、「ありがとう」とその手に自分の手を重ねる。
 マイクを持っているのは生徒会男子のみ。でも、みんなが口ずさんでいるから大合唱状態。さらには観覧席からも歌や手拍子が聞こえてくる。
 観覧席に座っている生徒はひとりもいなかった。
 すごい……。こんなにたくさんの人の気持ちがひとつになるなんて、すごい――
 吹奏楽部の人たちも、演奏している人たちも楽しいって思っていると思う。
 音が、楽しいって……そう聞こえる。
 ふと、隣から視線を感じそちらを見ると、ツカサが私を見ていた。
「大丈夫だよ」と伝えたくて、でも歌ってるから言えなくて、私は笑みを返した。
 普通に笑えたと思う。だって、すごく楽しいと思っているから。
 嬉しい楽しいと思っていたら、突然悲しくて寂しい出来事に直面して、これが恋なんだって知った途端に失恋して、記憶はないのに男性恐怖症のような状態に陥って、本当にいっぱいいっぱいで――
 それでも、今はまた楽しいと思っている。
 この数時間でいったいどれだけ浮き沈みしただろう。
 私、情緒不安定なのかな。
 歌の終盤に入ると腕が上げられた。
 ステージや花道に並ぶみんなの手がつながれており、その手が上に掲げられる。
 まだあと一日あるけれど、今日、一日目の紅葉祭が終わる。
 終わっちゃうんだ……。
 泣いても笑っても、今という時間は一歩一歩歩いていくことしかできない。
 何もない日々ではなく、何かある毎日を送れる私は幸せなのだろう。
 それは全然普通のことじゃない。
 友達と話すことも、誰かを好きになることも。
 楽しくて嬉しくて悲しくて寂しくて、そんなたくさんのことを感じられる場所にいられる私はきっと幸せ。
 最後、会場はスタンディングオベーション状態。
 ステージにいる人はみんな笑っていた。きっと吹奏楽部の人たちも笑っていると思う。観覧席には人の笑顔が溢れていた。
 私、この学校に来られて良かったよね?
 この身体じゃなければ、一年留年しなければ、私はここにはいなかった。
 狂ってしまった歯車にどれほどの負の感情を抱いただろう。
 でも、今は感謝している。感謝できる。
 神様――この身体を与えてくれたこと、たくさんの出逢いを用意してくれたこと、色んな気持ちを知る機会を作っていただけたことを感謝します。ありがとうございます――
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...