光のもとで1

葉野りるは

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番外編

初めてのバレンタイン Side 司 02話

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 午後もケンに付き合ってもらい、二回に分けて事務室と教室を往復した。
 理解できないのは、毎年こうなるとわかっていてプレゼントを渡しにくる人間の心境。
 まだ、呼び止められてその場で……というほうが受け入れられる。その場で断わる選択権が自分に与えられるからだ。置いていかれたものに関しては、拒否権も何もあったものじゃない。
「司、今日部活は?」
「悪い、休む」
「……だと思った」
「いつもと同じ練習メニューやらせておいて」
「わかった」
 ケンと別れ、帰る途中に梅香館へ寄り本を数冊借りてから帰宅すると、
「おかえりなさい」
 いつものように母さんに出迎えられ、ハナもどこか足取り軽やかに寄ってきた。
「ただいま」
「今年も、部活は休んだのね」
「…………」
 母さんはクスクスと笑い、
「その機嫌、二階へ行ったら治るんじゃないかしら」
「は?」
「ついさっき、翠葉ちゃんが来たの」
 何をしに、と訊くのもバカらしい。間違いなく、母さんと父さんにも菓子を配りに来たのだろう。でも、二階へ行ったらって何……?
「面と向かって渡す勇気がないって言ってたわ」
 それだけ言うと、母さんはハナを連れてリビングへと戻っていった。

 面と向かって渡せない……? 焼き菓子ならもらったけど……。
 疑問に思いながら自室へ向かい部屋のドアを開ける。と、デスクの上に小さな手提げ袋が置いてあった。
 引き寄せられるように歩みを進め、中を見る。
 真上から見ただけでは黒いもの、という認識しかできない。
 手にとって初めてマフラーであることを理解する。
「……手編み?」
 メッセージカードを開くと、「いつもありがとう。携帯ホルダーとストラップ、とても重宝しています。マフラーはそのお礼です」と書かれていた。
 読んで笑みが漏れる。
 間違いなく、翠はバレンタインの趣旨を履き違えている。
 あまりにも翠らしくて笑いを堪えることができなかった。
 ほかの人間と同等に扱われてるとかそれ以前の問題。
 翠はいつだって人の想像を越えて斜め上を行く。
「さすがは翠だ……」
 くつくつと笑いながらマフラーを頬に引き寄せる。
 毛一〇〇パーセントのそれは弾力があり、肌がチクチクすることなく心地良い。
 すぐに電話をしようかと思ったけど、少し考えてやめた。
 翠のことだ。ここに来たあとは病院へ行き、そのあとはホテル――
 フルコースで世話になった人間に菓子を配って回るに違いない。
 そう思えば、絶対に携帯がつながる時間帯まで待つことにした。

 翠がバレンタインにマフラーを作ることは御園生さんから聞いて知っていた。バレンタインが家庭内の域を出ないイベントであることも。
 だからこそ、自分の手元にマフラーがあることが嬉しく思える。
 間違いなく、「その他大勢」からは外れることができた。俺が一番近づきたいと思っていた家族
――御園生さんと同等の距離にまで。
 クラスメイトやそのほかに菓子を配って回るのは、誰かに友チョコや義理チョコなるものを吹き込まれたからだとして、相当数の焼き菓子を作るとなれば、コンシェルジュが使うオーブンを借りたと考えるのが妥当。
 本を読みながらもらった焼き菓子を摘み、デスクの脇に畳んで置いたマフラーを時折眺める。
 そうこうしていると十一時になった。この時間なら風呂に入ってることもないだろう。
 リダイヤルから電話をかけると、
『もしもし……ツカサ?』
「そう。マフラーのお礼が言いたくて」
『…………』
 どうしてそこで黙るんだか……。
「黙られると困るんだけど」
『あ、わ、ごめんっ……。あの、迷惑じゃなかった?』
 必要以上にこちらをうかがう訊き方。
「もらって迷惑するほど編み目がひどいわけじゃないし、普通に使えると思うけど……」
『……本当?』
「……こんなことで嘘をつくほど面倒な人間じゃないつもり」
『そっか……そうだよね。あ、お菓子は? 食べてくれた?』
「今、食べながら本を読んでた。どっちも美味しかった」
『よかったっ! また作ったら食べてくれる?』
「いつでもどうぞ」
『あのね……』
 言葉の途中で声が途切れる。
「翠?」
『あのねっ、お菓子はたくさん作ったけど、マフラーは蒼兄と唯兄とお父さんとツカサにしか編んでないのっ。それとねっ、お菓子っ……お菓子も、家族の分とツカサの分は機械使わないでちゃんと自分で作ったのっ』
 やけに必死になって言うからおかしかった。でも、「特別」であることを伝えようとしていることがうかがえて、愛しいと思う。
「……わかってるつもり」
『本当に?』
 どこか不安そうな響きが返ってくる。
「たぶん」
 笑って答えると、
『……なんで今電話なんだろう』
 不可解な言葉が返された。
「意味、わからないんだけど……」
『だって、今笑っていたでしょう?』
「…………」
『すごく普通に笑っている気がしたから、だから顔見たかったな、と思って……』
 俺は言葉に詰まる。
 翠はどうしてこういうことを普通に口にできるのか。
「まるで、俺が普段しかめっ面しかしていないように聞こえる」
『でも、デフォルトが無表情でしょう? 作られた、きれいで底冷えするような笑みは見たことがあるけれど、普通に笑ったところはほとんど見たことがないもの』
「……そのうち見られるんじゃない?」
『え?』
「……一緒にいれば、そのうち見られるんじゃない? じゃぁ、もう夜も遅いから」
 言って、一方的に通話を切った。

 この日、ひとつ学んだ。
 一方的に置いていかれたとしても、相手が翠なら問題がないということを――
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