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夏
母なる女
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涼音は二回りも違う私のことを父のようだと言った。涼音は時に娘のようだ。このような奇妙な関係は、私たちの間の張りつめた糸をより切れないようにしていた。それだけに、涼音が私に男を求めるときは多少の戸惑いを胸に抱く。だがそれよりも涼音の色気に圧倒される。胸の内が切なくなるあの感覚は、恐怖を連想させる。愛するものを腕に抱くという、恐怖を。あたかも大金を手に入れたときのような幸福感である。
涼音は私の腕で穏やかにぐっすりと眠る。まるで子供に返ったようで安心する。私は飽きることなく涼音を見る。気づけば私も微睡んでいる。
現実は惨くグロテスクだ。涼音はまるで泥沼に咲いた蓮華のように清く輝いて見えた。そのような綺麗な花を自分のようなものが腕に抱いていいのか悩むことがある。腕の中で咲くあの花は相変わらず汚れに染まることなく輝いているのだが、罪悪感が占領する。
私は気づけば、ベランダに出ていた。一人になると時に残された妙な安心感を得る。追放された堕ちることのないその場所は、私をどこまでも包み込む。
「何をしているの? 」
追って出てきた涼音は、私を不思議そうに見て微笑む。
「ああ、別に。なんでもないよ。ただ外に出ただけ」
「変なの」
私は声が震えていないか心配だった。
「君は、綺麗だよ」
「何よ、急に」
「君が思ってるほど現実は綺麗じゃないってことさ」
「まるで世間知らずみたいに」
私は世間に未だ汚れない彼女をふと強烈に抱きしめたくなった。
「私は、君をどうしたら良いかわからない」
「どうしたの、何か変だよ」
どうしたら良いのかわからなかった。世間に染まらず綺麗で咲いていて欲しい、一方で世間の惨さを知らない者はその惨さを身に染みて味わう時、地獄を見るのだから。
「君は、もっと世間を知ってたくさん汚れてみてみなさい」
私は天邪鬼かのように見えた。
「私、あなたが言うほど綺麗じゃないよ」
「君はわかっていないんだ、私には君だけが輝いて見えてるよ」
蝉が嫌というほど鳴いていた。
涼音は私の腕で穏やかにぐっすりと眠る。まるで子供に返ったようで安心する。私は飽きることなく涼音を見る。気づけば私も微睡んでいる。
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私は気づけば、ベランダに出ていた。一人になると時に残された妙な安心感を得る。追放された堕ちることのないその場所は、私をどこまでも包み込む。
「何をしているの? 」
追って出てきた涼音は、私を不思議そうに見て微笑む。
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「変なの」
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*作者ご都合主義の世界観のフィクションです
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