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第3章
3-4
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クーラーの利いた書斎にて。
父親のパソコンを俺のユーザーアカウントで立ち上げたところ愕然となった。
ネット、遮断されてるし……。
狐珠め、徹底的に俺達を監禁するつもりだな。
これって立派に犯罪レベルだろ。神様サイドのヤツがやることとは思えない。
二日後が不安になってきた。本当に狐珠は現れるのだろうか?
まあ、そこは疑ってもしょうがない。
窓ガラスを叩き割って脱出したところで誰もこの俺に同情しないだろうし、むしろ近所の高校生が暴れ出したと通報されるかもしれない。
時間の経過を待つしかないんだ。狐珠に比べたらこっちは圧倒的に無力なんだから。
俎上の鯉、なるようになれ、だ。
諦観の境地に達したところで内線が鳴る。
『スンダ』
「そうか。……ところで、ハブラシ持ってきたか?」
『ナイ』
だろうな。お泊りセットもなしに、あの大きなカバンに何が入ってんだ?
「そこの机の引き出しに一回も使ってないハブラシが入ってる。去年、旅館からパクってきたヤツだ。食事が済んだらそれを使え」
『イヤダ』
「もうオニギリやらないぞ?」
『……ミガク』
これだ! ヤツを扱うコツを掴んだ。
いろいろ試してみよう。
「あとさ、俺のマンガ読んでもかまわないけど、絶対に鳥糞で汚さないでくれよな?」
『ムリカモ』
「じゃ、明日から飯抜き」
『……イジワル』
勝った。痛快だ。猛獣使いになった気分で気持ちいい。
『シタイク』
「え、また? もう歯を磨くのか?」
『マダ』
トイレかな?
「別にいいけど。俺はまだ書斎にいるからいつでも下りていいぜ」
無言のまま電話が切れる。
愛想が悪いのは仕方ないが、ここまで手なずければ今日のところは満足しなきゃな。
ただ、オムスビを食べ物で操れることはわかったものの、出せる物は今のところブサイクでクソまずいオニギリしか思いつかない。
握らなくてもごはんを茶碗に盛るだけなら超ラクだが、おかずが一切ないのでそれだけだと獄中食みたいで何だか侘しすぎる。
彼女にはそれで十分だとしても、問題は俺もそれを食べるということだ。
まだ塩をまぶしたオニギリの方がみすぼらしさは軽減される。
なのでネットでオニギリの作り方を調べようと思ったのに、狐珠のせいでそれもダメになってしまった。
明日の朝は残ってるオニギリがあるからいいとして。
オニギリ……
「まさかな」
ちょっと気になる。
聞き耳を立ててみると、オムスビが階段を上る音が聞こえた。用事は済んだようだな。
内線を待つが、なかなか鳴らない。
それから十分待ったものの、相変わらず知らせて来ない。
これは重大なルール違反だ。
辛抱堪らず、俺は書斎を出てキッチンに移動した。
まさかとは思うが……。
「――ッ!」
やられた!
さっきまでテーブルの上にあったオニギリが大皿ごとなくなってる。
俺の食いかけまでない。それを除いても五個は残ってたはずだ。
内線でオムスビを呼ぶ。
なかなか出ない。……さっきの仕返しのつもりか?
そのまましばらく待つものの、三分が我慢の限界だった。
考えてみれば、待つより直接部屋まで行った方が早い。
階段を上って部屋のドアを叩く。
「オニギリ! 今、下のオムスビ全部持ってっただろ!」
「ギャク」
ドア越しで歯舞の声がした。……間違えた。
「ワロス」
「ややこしい名前にしたオマエが悪い! どうせ笑うなら声出して笑いやがれ!」
「ハハハハ」
歯舞、完全に棒読みじゃねーか! オッサンの方の声だし余計にムカつくな!
「おい、オムスビ! オニギリ確保したからって歯磨きしないつもりじゃないだろうな?」
「アヤマレ」
はあ?
「何で俺が謝罪すんだ? オマエの歯だろうが!」
「アリガタ」
アリガタ? アリゲーター?
「メイワク」
有難迷惑……。
こちとら既にオマエの四兆七千億倍ほど迷惑してるんだがな。
ただでさえ会話がチグハグなのに、このドア越しの会話がますますうっとうしい。
内鍵なんてないし勝手に開けてやろうかと思ったが、オムスビがキャミソール姿だと彼女だけでなく俺も困る。
悲鳴なんて上げられた日にはこっちが悪さしてるみたいだからな。
悲鳴……
無言女に無理やり出させてやろうか。
いや、草食系男子にそんなドSな趣味はない。
更に困ったことに、俺は相手に包丁を渡してしまっている。
電波のオムスビがまともな神経の持ち主とは言い難いので、本気で刺してくることも十分に考えられる。
「いいよ、勝手にしろ」
怒りを通り越し呆れ果てた俺は階段を下りながら、ほんの少し……認めたくないけれど、ラズベリーのようなほんのり甘酸っぱい喜びも同時に感じている。
それは自分を大いに驚かせた。
何だろう、この感情は……。
書斎でその感情を分析してみる。
俺自身でさえ食べられなかった氷で握った邪道オニギリ……それを独り占めするのは、あんな物でもオムスビが受け入れたってことだ。
よほど腹が減ってて、部屋に籠城するため当座の食糧としてやむなくオニギリを確保したと解釈しても、それでも俺はやっぱり嬉しい。
苦労して握った甲斐があるというものだ。
不思議と、明日以降はもっとまともな物をアイツに食べさせてやりたくなった。
この気持ちって何だろう?
迷い猫に住みつかれ、仕方なく餌をやっているうちに情が移ったようなものか。
悔しいが、気になるな。
このままじゃ宿題も手につかない。……いや、全然やる気なかったし、教材も手元にないけどさ。
さっきまで無関心を装ってたけども、やっぱり俺はオムスビをいろいろ知りたい。これが正直な気持ちだ。
オムスビは俺と会ったことがあるんだろうか?
狐珠のミスで二十九の漢字がシャッフルしてしまったとしても、マッグプロのうさんくさいソフトが俺用に選び出した女の子がオムスビだから、当然この俺を知ってるだろう。
もしくは、近い将来会うはずだったのが、狐珠によって先に出会うことになったのかもしれない。
とあると、やはり鍵はシャッフル後の二十八の漢字だ。
ところが俺は今、シャッフル前の二十九文字しか知らない。
やるか……。
もう一度、ラーメン屋で撮ったケータイの画像を見てみる。
羅列された二十九文字は俺の理想とする彼女を注文したものだが、これから組
み合わせる二十八文字はオムスビを表す意味でなくてはならない。
必然、マイナスの表現が多くなる。不潔の二文字が一際輝いて見える。
さて、これをどう組み変えよう……。
漢字の分離と融合の可能性も考えると、そう簡単にはいかないだろうな。
そのまま画面を見続けていたら、次第に目が疲れてうまく集中できなくなった。
俺はパソコンで読む電子書籍とか苦手だから、マンガもラノベももっぱら紙媒体を好んでる。本は溜まると邪魔だけど、読みやすいというメリットを俺は重視している。
よし、書き出そう。
俺の部屋はオムスビと歯舞に占領されてるから、父親のノートか何かを拝借しようと思ったが、あいにく手頃な紙が見当たらない。
仕方がないので、押し入れの古新聞の山からチラシを一枚抜き取った。裏が白紙なヤツだ。それと、ボールペン。
A4サイズのチラシ裏の右半分に最初の二十九文字を書き出す。
鳥肌黒髪歯我慢慎
薄化粧香水不思議
無垢異彩清潔引取
舞台米羊武
左半分はオムスビを表す二十八文字をこれから書いていく。
まず、オムスビに該当する漢字。
不潔鳥歯舞黒化粧
肌垢
分離が考えられる漢字をまとめてみよう。
”慢”……りっしんべんと曼
”慎”……りっしんべんと真、もしくは十と具
”香”……禾と日、もしくは木と白
”思”……田と心、田は口と十にもなる
”議”……言と義
”異”……田と共、”思”同様に田は口と十にもなる
”清”……さんずいと青
”取”……みみへんに又
ざっと思いついたのでこんなもん……まだまだあるかも。
”取”のみみへんは微妙に耳にはならないな。この場合の解釈はどうなるんだ?
ただ、これらが必ず分離するとも限らない。
次に融合できる漢字を考えてみる。
りっしんべんは青とくっつくいて情になる。情……
ああッ、できた! 薄情!
そうだよ、オムスビは薄情な女だ! 何たってオニギリ作った俺を部屋から追い出したからな。薄情決定!
となると、”慢”か”慎”が曼か真、もしくは十と具になる。
今の時点でどっちとも言えないので保留。
次に融合できそうなのは……無言! これも完璧だ!
俺はまだオムスビの肉声を聞いてない。喋れないのか喋らないのかはさておき、無言は外せないだろ!
となると”議”は義となって残るな。
”台”……これって心と融合したら怠になる。……怠慢! これだ!
オムスビ、夏休みの宿題を全然やってないって言ってたもんな。
高校生がこの時期にそれはマズイだろ。怠慢、当てはまる! その理由じゃ、俺もバリバリ怠慢だけどな。
ここで”慢”を使うから、青とくっつくりっしんべんは”慎”の方。
よって真、もしくは十か具が残る。
すげえいいカンジ!
やっぱ、実際に手で書いて見ると違うもんだな。
ここまでできた分をまとめてみよう。
不潔鳥歯舞黒化粧
肌垢薄情無言怠慢
これで十六文字
手つかずの漢字は
髪我香水異彩引取
米羊武
それに、分離したままのパーツを挙げると、
”慎”の真、もしくは十か具、”思”の田、もしくは口と十、”議”の義と”清”のさんずい……。
これらを組み合わせて残り十二文字になればいいんだ。
よし、半分は越えたな。
ただ、書き上げた十六文字が絶対に合ってるとは断言できない。
自信がないのも幾つかある。
特に一番疑わしい”鳥”。
歯舞という名前の”鳥”のことだ。
それだけでいいのか?
固有名詞があるだろう。……そう、歯舞が何度も言っていたヨーム。
ああ、もどかしい。ネットで調べれば一発なんだけどな。
思い出せ。
俺は最初、あの鳥を見た時にインコかオウムと間違えた。
オムスビは歯舞がオウムではないと否定し、そして言わせた。
「ヨーム」
ヨーム……ヨウム……これを漢字で書けないだろうか?
ケータイに内蔵されている辞書でヨウムを検索してみると……
要務
用務
この二つが出た。当然、違う。
オウムと違ってマイナーな鳥だから、ケータイの辞書じゃ無理があったか。
少なくとも、俺は初めてその名前を耳にしたし。
ヨウムの”ム”はおそらくオウムの”ム”だろう。見た目があんなに似てるんだし。
試しにオウムを検索してみるか。
鸚鵡
ム……鵡! ”武”に”鳥”!
こ、これだッ! バッチリ融合できる!
となるとヨウだ。
”羊”か?
いや、いやいやいや!
”清”で分離したさんずいが余ってる!
さんずいがつく漢字は”羊”と、”慎”か”思”を分離した田からできる十だけ。
十とさんずいで汁……汁はないとみていい。やっぱ”羊”だ。コイツが洋となる。
ヨウム……洋鵡!
さんずいはここで使わないとずっと余ったままになる。
歯舞の固有名詞は洋鵡で間違いない!
一気に片づいた。
残るは、
髪我香水異彩引取
米真田義
ここまできたら的を絞るのは簡単……もはや小学生レベルだ。
香も異も真も田も取も、これ以上の分離はないと断言できる。
後は読み方の問題だ。
そうとう特殊だぞ、コイツは……。
そこで、けたたましく内線が鳴った。
時計を見ると、もう夜の十時半を過ぎていた。
書斎にこもってかれこれ三時間強……我ながら凄まじい集中力だと思う。
「……まだ起きてたのか?」
俺の声は震えていた。
自分でもものすごく興奮しているのがわかる。
『オリル』
オムスビはそう答えさせた。歯舞という名の洋鵡に。
「どうぞ」
『ハミガキ』
意外な言葉に、俺は思わず苦笑する。
「ちゃんと磨くんだ。偉いな」
オムスビは無言のままに内線を切る。相変わらずの素っけなさ。
だけど心地よい。
おい、狐珠。
必ず期限内に解いてやるからな。オマエの意図的なハプニングを。
いや、もうほぼ解けてるか。
俺の解釈に間違いがなければ……。
父親のパソコンを俺のユーザーアカウントで立ち上げたところ愕然となった。
ネット、遮断されてるし……。
狐珠め、徹底的に俺達を監禁するつもりだな。
これって立派に犯罪レベルだろ。神様サイドのヤツがやることとは思えない。
二日後が不安になってきた。本当に狐珠は現れるのだろうか?
まあ、そこは疑ってもしょうがない。
窓ガラスを叩き割って脱出したところで誰もこの俺に同情しないだろうし、むしろ近所の高校生が暴れ出したと通報されるかもしれない。
時間の経過を待つしかないんだ。狐珠に比べたらこっちは圧倒的に無力なんだから。
俎上の鯉、なるようになれ、だ。
諦観の境地に達したところで内線が鳴る。
『スンダ』
「そうか。……ところで、ハブラシ持ってきたか?」
『ナイ』
だろうな。お泊りセットもなしに、あの大きなカバンに何が入ってんだ?
「そこの机の引き出しに一回も使ってないハブラシが入ってる。去年、旅館からパクってきたヤツだ。食事が済んだらそれを使え」
『イヤダ』
「もうオニギリやらないぞ?」
『……ミガク』
これだ! ヤツを扱うコツを掴んだ。
いろいろ試してみよう。
「あとさ、俺のマンガ読んでもかまわないけど、絶対に鳥糞で汚さないでくれよな?」
『ムリカモ』
「じゃ、明日から飯抜き」
『……イジワル』
勝った。痛快だ。猛獣使いになった気分で気持ちいい。
『シタイク』
「え、また? もう歯を磨くのか?」
『マダ』
トイレかな?
「別にいいけど。俺はまだ書斎にいるからいつでも下りていいぜ」
無言のまま電話が切れる。
愛想が悪いのは仕方ないが、ここまで手なずければ今日のところは満足しなきゃな。
ただ、オムスビを食べ物で操れることはわかったものの、出せる物は今のところブサイクでクソまずいオニギリしか思いつかない。
握らなくてもごはんを茶碗に盛るだけなら超ラクだが、おかずが一切ないのでそれだけだと獄中食みたいで何だか侘しすぎる。
彼女にはそれで十分だとしても、問題は俺もそれを食べるということだ。
まだ塩をまぶしたオニギリの方がみすぼらしさは軽減される。
なのでネットでオニギリの作り方を調べようと思ったのに、狐珠のせいでそれもダメになってしまった。
明日の朝は残ってるオニギリがあるからいいとして。
オニギリ……
「まさかな」
ちょっと気になる。
聞き耳を立ててみると、オムスビが階段を上る音が聞こえた。用事は済んだようだな。
内線を待つが、なかなか鳴らない。
それから十分待ったものの、相変わらず知らせて来ない。
これは重大なルール違反だ。
辛抱堪らず、俺は書斎を出てキッチンに移動した。
まさかとは思うが……。
「――ッ!」
やられた!
さっきまでテーブルの上にあったオニギリが大皿ごとなくなってる。
俺の食いかけまでない。それを除いても五個は残ってたはずだ。
内線でオムスビを呼ぶ。
なかなか出ない。……さっきの仕返しのつもりか?
そのまましばらく待つものの、三分が我慢の限界だった。
考えてみれば、待つより直接部屋まで行った方が早い。
階段を上って部屋のドアを叩く。
「オニギリ! 今、下のオムスビ全部持ってっただろ!」
「ギャク」
ドア越しで歯舞の声がした。……間違えた。
「ワロス」
「ややこしい名前にしたオマエが悪い! どうせ笑うなら声出して笑いやがれ!」
「ハハハハ」
歯舞、完全に棒読みじゃねーか! オッサンの方の声だし余計にムカつくな!
「おい、オムスビ! オニギリ確保したからって歯磨きしないつもりじゃないだろうな?」
「アヤマレ」
はあ?
「何で俺が謝罪すんだ? オマエの歯だろうが!」
「アリガタ」
アリガタ? アリゲーター?
「メイワク」
有難迷惑……。
こちとら既にオマエの四兆七千億倍ほど迷惑してるんだがな。
ただでさえ会話がチグハグなのに、このドア越しの会話がますますうっとうしい。
内鍵なんてないし勝手に開けてやろうかと思ったが、オムスビがキャミソール姿だと彼女だけでなく俺も困る。
悲鳴なんて上げられた日にはこっちが悪さしてるみたいだからな。
悲鳴……
無言女に無理やり出させてやろうか。
いや、草食系男子にそんなドSな趣味はない。
更に困ったことに、俺は相手に包丁を渡してしまっている。
電波のオムスビがまともな神経の持ち主とは言い難いので、本気で刺してくることも十分に考えられる。
「いいよ、勝手にしろ」
怒りを通り越し呆れ果てた俺は階段を下りながら、ほんの少し……認めたくないけれど、ラズベリーのようなほんのり甘酸っぱい喜びも同時に感じている。
それは自分を大いに驚かせた。
何だろう、この感情は……。
書斎でその感情を分析してみる。
俺自身でさえ食べられなかった氷で握った邪道オニギリ……それを独り占めするのは、あんな物でもオムスビが受け入れたってことだ。
よほど腹が減ってて、部屋に籠城するため当座の食糧としてやむなくオニギリを確保したと解釈しても、それでも俺はやっぱり嬉しい。
苦労して握った甲斐があるというものだ。
不思議と、明日以降はもっとまともな物をアイツに食べさせてやりたくなった。
この気持ちって何だろう?
迷い猫に住みつかれ、仕方なく餌をやっているうちに情が移ったようなものか。
悔しいが、気になるな。
このままじゃ宿題も手につかない。……いや、全然やる気なかったし、教材も手元にないけどさ。
さっきまで無関心を装ってたけども、やっぱり俺はオムスビをいろいろ知りたい。これが正直な気持ちだ。
オムスビは俺と会ったことがあるんだろうか?
狐珠のミスで二十九の漢字がシャッフルしてしまったとしても、マッグプロのうさんくさいソフトが俺用に選び出した女の子がオムスビだから、当然この俺を知ってるだろう。
もしくは、近い将来会うはずだったのが、狐珠によって先に出会うことになったのかもしれない。
とあると、やはり鍵はシャッフル後の二十八の漢字だ。
ところが俺は今、シャッフル前の二十九文字しか知らない。
やるか……。
もう一度、ラーメン屋で撮ったケータイの画像を見てみる。
羅列された二十九文字は俺の理想とする彼女を注文したものだが、これから組
み合わせる二十八文字はオムスビを表す意味でなくてはならない。
必然、マイナスの表現が多くなる。不潔の二文字が一際輝いて見える。
さて、これをどう組み変えよう……。
漢字の分離と融合の可能性も考えると、そう簡単にはいかないだろうな。
そのまま画面を見続けていたら、次第に目が疲れてうまく集中できなくなった。
俺はパソコンで読む電子書籍とか苦手だから、マンガもラノベももっぱら紙媒体を好んでる。本は溜まると邪魔だけど、読みやすいというメリットを俺は重視している。
よし、書き出そう。
俺の部屋はオムスビと歯舞に占領されてるから、父親のノートか何かを拝借しようと思ったが、あいにく手頃な紙が見当たらない。
仕方がないので、押し入れの古新聞の山からチラシを一枚抜き取った。裏が白紙なヤツだ。それと、ボールペン。
A4サイズのチラシ裏の右半分に最初の二十九文字を書き出す。
鳥肌黒髪歯我慢慎
薄化粧香水不思議
無垢異彩清潔引取
舞台米羊武
左半分はオムスビを表す二十八文字をこれから書いていく。
まず、オムスビに該当する漢字。
不潔鳥歯舞黒化粧
肌垢
分離が考えられる漢字をまとめてみよう。
”慢”……りっしんべんと曼
”慎”……りっしんべんと真、もしくは十と具
”香”……禾と日、もしくは木と白
”思”……田と心、田は口と十にもなる
”議”……言と義
”異”……田と共、”思”同様に田は口と十にもなる
”清”……さんずいと青
”取”……みみへんに又
ざっと思いついたのでこんなもん……まだまだあるかも。
”取”のみみへんは微妙に耳にはならないな。この場合の解釈はどうなるんだ?
ただ、これらが必ず分離するとも限らない。
次に融合できる漢字を考えてみる。
りっしんべんは青とくっつくいて情になる。情……
ああッ、できた! 薄情!
そうだよ、オムスビは薄情な女だ! 何たってオニギリ作った俺を部屋から追い出したからな。薄情決定!
となると、”慢”か”慎”が曼か真、もしくは十と具になる。
今の時点でどっちとも言えないので保留。
次に融合できそうなのは……無言! これも完璧だ!
俺はまだオムスビの肉声を聞いてない。喋れないのか喋らないのかはさておき、無言は外せないだろ!
となると”議”は義となって残るな。
”台”……これって心と融合したら怠になる。……怠慢! これだ!
オムスビ、夏休みの宿題を全然やってないって言ってたもんな。
高校生がこの時期にそれはマズイだろ。怠慢、当てはまる! その理由じゃ、俺もバリバリ怠慢だけどな。
ここで”慢”を使うから、青とくっつくりっしんべんは”慎”の方。
よって真、もしくは十か具が残る。
すげえいいカンジ!
やっぱ、実際に手で書いて見ると違うもんだな。
ここまでできた分をまとめてみよう。
不潔鳥歯舞黒化粧
肌垢薄情無言怠慢
これで十六文字
手つかずの漢字は
髪我香水異彩引取
米羊武
それに、分離したままのパーツを挙げると、
”慎”の真、もしくは十か具、”思”の田、もしくは口と十、”議”の義と”清”のさんずい……。
これらを組み合わせて残り十二文字になればいいんだ。
よし、半分は越えたな。
ただ、書き上げた十六文字が絶対に合ってるとは断言できない。
自信がないのも幾つかある。
特に一番疑わしい”鳥”。
歯舞という名前の”鳥”のことだ。
それだけでいいのか?
固有名詞があるだろう。……そう、歯舞が何度も言っていたヨーム。
ああ、もどかしい。ネットで調べれば一発なんだけどな。
思い出せ。
俺は最初、あの鳥を見た時にインコかオウムと間違えた。
オムスビは歯舞がオウムではないと否定し、そして言わせた。
「ヨーム」
ヨーム……ヨウム……これを漢字で書けないだろうか?
ケータイに内蔵されている辞書でヨウムを検索してみると……
要務
用務
この二つが出た。当然、違う。
オウムと違ってマイナーな鳥だから、ケータイの辞書じゃ無理があったか。
少なくとも、俺は初めてその名前を耳にしたし。
ヨウムの”ム”はおそらくオウムの”ム”だろう。見た目があんなに似てるんだし。
試しにオウムを検索してみるか。
鸚鵡
ム……鵡! ”武”に”鳥”!
こ、これだッ! バッチリ融合できる!
となるとヨウだ。
”羊”か?
いや、いやいやいや!
”清”で分離したさんずいが余ってる!
さんずいがつく漢字は”羊”と、”慎”か”思”を分離した田からできる十だけ。
十とさんずいで汁……汁はないとみていい。やっぱ”羊”だ。コイツが洋となる。
ヨウム……洋鵡!
さんずいはここで使わないとずっと余ったままになる。
歯舞の固有名詞は洋鵡で間違いない!
一気に片づいた。
残るは、
髪我香水異彩引取
米真田義
ここまできたら的を絞るのは簡単……もはや小学生レベルだ。
香も異も真も田も取も、これ以上の分離はないと断言できる。
後は読み方の問題だ。
そうとう特殊だぞ、コイツは……。
そこで、けたたましく内線が鳴った。
時計を見ると、もう夜の十時半を過ぎていた。
書斎にこもってかれこれ三時間強……我ながら凄まじい集中力だと思う。
「……まだ起きてたのか?」
俺の声は震えていた。
自分でもものすごく興奮しているのがわかる。
『オリル』
オムスビはそう答えさせた。歯舞という名の洋鵡に。
「どうぞ」
『ハミガキ』
意外な言葉に、俺は思わず苦笑する。
「ちゃんと磨くんだ。偉いな」
オムスビは無言のままに内線を切る。相変わらずの素っけなさ。
だけど心地よい。
おい、狐珠。
必ず期限内に解いてやるからな。オマエの意図的なハプニングを。
いや、もうほぼ解けてるか。
俺の解釈に間違いがなければ……。
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