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introduction
melons
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「道化師ね……。なるほど、天真爛漫なエリスらしいよ。尤も、不器用なオマエにジャグリングやパントマイムの才があるとも思えないんだけど」
「そこんとこは旅をしながら追い追い修業するんだよっ」
追い追い、か。
今のオレにはその表現が”ノープランの先延ばし”としか解釈できない。
「というワケで、ボクもハークお兄ちゃんと一緒に南へ行くからねっ?」
「納得だよ。だから、ずっと悲愴感も抱かずそんなに落ち着いていられたんだな。でもさ、活動拠点を定める必要のない道化師だからこそオレと行動を共にできるんであって、それは結果的にたまたまそうなったまでだよ。もし託宣で『パン屋になれ』って言われたら、やっぱりオレ達は離れ離れになってたんだぜ?」
「どうしてさ? 南でパン屋やったっていいじゃんっ? あのね、最初からボクの中に”離れ離れ”って選択肢はなかったんだよっ。例えハークお兄ちゃんが漁師になったとしても、ボクは漁船でパンを捏ねてただろうしねっ!」
寒気がした。コイツなら本気でやりかねない。
「それにさ、ボクだってサーニ様から贈り物をもらってるんだっ。だからハークお兄ちゃんのサポートくらいできると思うんだよねっ」
そこまでして、こんなオレと一緒にいたいのか? 嬉しいを通り越して、逆に恐怖を覚えるんだが。
……でも、やっぱり嬉しい、のかな。
お別れが心細かったのはオレの方かもしれない。
冷めた紅茶に口をつけながら、冷静にそう思える自分がいる。
「あ、ハークお兄ちゃん、顔が綻んでるっ! もしかして嬉しいのっ?」
「違うよ。エリスとは死んでも腐れ縁だなと思って苦笑しただけださ。それよりも、疑問に思わないか?」
「何がっ?」
「今、エリスが言った通り、確かにオマエもヘビの毒に対しては無敵という贈り物を授かっている。にもかかわらず、どうしてオレだけサーペントマスターなんだろう?」
「マスターじゃなく、ボクは女だから”ミストレス”じゃないのっ?」
「言い方の問題じゃないんだ。じゃあ、どうしてオマエの職業は”ミストレスオブサーペント”じゃなく”フール”なんだよ?」
「そんなの答えられないよっ。何たってボクは”馬鹿”なんだからさっ」
根に持ってるな。まあ、エリスから明確な回答が得られるとは最初から思ってなかったけど。
何かあるんだ。
エリスになくて、このオレにあるものが……。
紅茶の香りにはリラックス効果がある。
ずっと託宣を控えて緊張していたオレの心身が今、解きほぐされようとしている。
次第に心身がリフレッシュされ、頭が冴え渡……
あれ?
紅茶の香りが急に臭くなったのはどういうことだ?
しかもコレ、今朝も嗅いだばかりの臭いだぞ。
と、その時だった。
「巨乳っ!」
いきなり立ち上がった敵意剥き出しのエリス。
オレ的におっぱいは大歓迎だけど、如何せんその悪臭がな……。せっかくのティータイムが台無しだよ。
「託宣、終ワッタアルノナ?」
何で知ってる? 両親に聞いたのだろうか。
一昨日やってきたこの妙齢の女性は、どういう理由か不明だが【閑古鳥】に連泊してこの日を迎えている。相変わらず鼻と口を覆う黒いフェイスベール、隠すならまず胸の谷間だろ。大体、そんな薄いサッシュ・ブラウスで寒くないのか?
「オレ達のこと、尾行していたんですか?」
「ハークっ! そんな巨乳に話しかけなくていいよっ!」
「そんなに牙を剥くなって。それに失礼だろ。この人を胸だけで判断するなんてさ」
と言いつつ、オレも心の中で”馬糞メロン”と呼んでるが。
「フンっ、何さ、偉そうにプルプル揺らしちゃってっ! 『揺れねえメロンはタダのメロン』ってか?」
「アターシャ、地獄耳アルノナ。はーく、さーぺんとますたー。えりす、ふーる。二人揃ッテ冒険者アルノネ」
な、何だと?
町中だからと、英語で喋らなかったのが却って仇となったな。
「盗み聞きまでしてたんなら、尾行も否定できないですね。……で、オレ達に何か用ですか?」
「金、貸シテクレアルノヨ」
間髪いれずに金の無心ときた。初対面じゃないけど、それに等しい相手に向ってそれはあまりにも非常識過ぎやしないか?
絶句するオレ達に対し更に、
「金アルノナ? 託宣済ンダラ10000らんとモラエル知ッテルアル。ホレ出セ」
そう言うが早いか、今すぐ頂戴と言わんばかりに馬糞の臭いがする両手を差し出してくる。
呆れ果てるオレとは対照的に、相手が巨乳というだけで無条件に敵愾心を燃やすエリスが顔を近づけつっかかる。
「アンタ、バカァ!? 成人したばかりの右も左もわかんないボク達が見ず知らずの人間にいきなりお金を貸すと思ってんのっ? お金は命より重いんだよっ!」
……守銭奴発言だな、今の。
「髪、赤イアルノナ」
「か、関係ないんだよ、今はそんなことっ!」
「顔、少シ可愛イ」
「え? あ、ありがと……ん、少しってゴルァ!」
「ソシテ胸、ぺったんこアル」
「……ぐふぅっ!?」
「オイ、”赤イ貧乳”。シノゴノ言ワズ金出スアルノナ」
「ボクのこと”赤い彗星”みたいに言うなーっ!!! 例え3倍返しでもオマエなんかに絶対貸すもんかーっ!!!」
……ダメだな、この二人。おっぱいの大小とかそんな問題じゃない。
仲良くしようなんて考え、最初から持ち合わせてないもんな。
と、ここで興奮しまくってるエリスをうっちゃらかして、オレに照準を絞った”馬糞メロン”が意味深な発言をしてきた。
「はーく、オマエニ”イイモン”見セルアルノナ。路地裏来イ」
彼女は「ついて来い」と言わんばかり、先にテラス席を離れていく。
い、いいもんッ!?
そ、それって……やっぱり生のメロンなのかッ???
「そこんとこは旅をしながら追い追い修業するんだよっ」
追い追い、か。
今のオレにはその表現が”ノープランの先延ばし”としか解釈できない。
「というワケで、ボクもハークお兄ちゃんと一緒に南へ行くからねっ?」
「納得だよ。だから、ずっと悲愴感も抱かずそんなに落ち着いていられたんだな。でもさ、活動拠点を定める必要のない道化師だからこそオレと行動を共にできるんであって、それは結果的にたまたまそうなったまでだよ。もし託宣で『パン屋になれ』って言われたら、やっぱりオレ達は離れ離れになってたんだぜ?」
「どうしてさ? 南でパン屋やったっていいじゃんっ? あのね、最初からボクの中に”離れ離れ”って選択肢はなかったんだよっ。例えハークお兄ちゃんが漁師になったとしても、ボクは漁船でパンを捏ねてただろうしねっ!」
寒気がした。コイツなら本気でやりかねない。
「それにさ、ボクだってサーニ様から贈り物をもらってるんだっ。だからハークお兄ちゃんのサポートくらいできると思うんだよねっ」
そこまでして、こんなオレと一緒にいたいのか? 嬉しいを通り越して、逆に恐怖を覚えるんだが。
……でも、やっぱり嬉しい、のかな。
お別れが心細かったのはオレの方かもしれない。
冷めた紅茶に口をつけながら、冷静にそう思える自分がいる。
「あ、ハークお兄ちゃん、顔が綻んでるっ! もしかして嬉しいのっ?」
「違うよ。エリスとは死んでも腐れ縁だなと思って苦笑しただけださ。それよりも、疑問に思わないか?」
「何がっ?」
「今、エリスが言った通り、確かにオマエもヘビの毒に対しては無敵という贈り物を授かっている。にもかかわらず、どうしてオレだけサーペントマスターなんだろう?」
「マスターじゃなく、ボクは女だから”ミストレス”じゃないのっ?」
「言い方の問題じゃないんだ。じゃあ、どうしてオマエの職業は”ミストレスオブサーペント”じゃなく”フール”なんだよ?」
「そんなの答えられないよっ。何たってボクは”馬鹿”なんだからさっ」
根に持ってるな。まあ、エリスから明確な回答が得られるとは最初から思ってなかったけど。
何かあるんだ。
エリスになくて、このオレにあるものが……。
紅茶の香りにはリラックス効果がある。
ずっと託宣を控えて緊張していたオレの心身が今、解きほぐされようとしている。
次第に心身がリフレッシュされ、頭が冴え渡……
あれ?
紅茶の香りが急に臭くなったのはどういうことだ?
しかもコレ、今朝も嗅いだばかりの臭いだぞ。
と、その時だった。
「巨乳っ!」
いきなり立ち上がった敵意剥き出しのエリス。
オレ的におっぱいは大歓迎だけど、如何せんその悪臭がな……。せっかくのティータイムが台無しだよ。
「託宣、終ワッタアルノナ?」
何で知ってる? 両親に聞いたのだろうか。
一昨日やってきたこの妙齢の女性は、どういう理由か不明だが【閑古鳥】に連泊してこの日を迎えている。相変わらず鼻と口を覆う黒いフェイスベール、隠すならまず胸の谷間だろ。大体、そんな薄いサッシュ・ブラウスで寒くないのか?
「オレ達のこと、尾行していたんですか?」
「ハークっ! そんな巨乳に話しかけなくていいよっ!」
「そんなに牙を剥くなって。それに失礼だろ。この人を胸だけで判断するなんてさ」
と言いつつ、オレも心の中で”馬糞メロン”と呼んでるが。
「フンっ、何さ、偉そうにプルプル揺らしちゃってっ! 『揺れねえメロンはタダのメロン』ってか?」
「アターシャ、地獄耳アルノナ。はーく、さーぺんとますたー。えりす、ふーる。二人揃ッテ冒険者アルノネ」
な、何だと?
町中だからと、英語で喋らなかったのが却って仇となったな。
「盗み聞きまでしてたんなら、尾行も否定できないですね。……で、オレ達に何か用ですか?」
「金、貸シテクレアルノヨ」
間髪いれずに金の無心ときた。初対面じゃないけど、それに等しい相手に向ってそれはあまりにも非常識過ぎやしないか?
絶句するオレ達に対し更に、
「金アルノナ? 託宣済ンダラ10000らんとモラエル知ッテルアル。ホレ出セ」
そう言うが早いか、今すぐ頂戴と言わんばかりに馬糞の臭いがする両手を差し出してくる。
呆れ果てるオレとは対照的に、相手が巨乳というだけで無条件に敵愾心を燃やすエリスが顔を近づけつっかかる。
「アンタ、バカァ!? 成人したばかりの右も左もわかんないボク達が見ず知らずの人間にいきなりお金を貸すと思ってんのっ? お金は命より重いんだよっ!」
……守銭奴発言だな、今の。
「髪、赤イアルノナ」
「か、関係ないんだよ、今はそんなことっ!」
「顔、少シ可愛イ」
「え? あ、ありがと……ん、少しってゴルァ!」
「ソシテ胸、ぺったんこアル」
「……ぐふぅっ!?」
「オイ、”赤イ貧乳”。シノゴノ言ワズ金出スアルノナ」
「ボクのこと”赤い彗星”みたいに言うなーっ!!! 例え3倍返しでもオマエなんかに絶対貸すもんかーっ!!!」
……ダメだな、この二人。おっぱいの大小とかそんな問題じゃない。
仲良くしようなんて考え、最初から持ち合わせてないもんな。
と、ここで興奮しまくってるエリスをうっちゃらかして、オレに照準を絞った”馬糞メロン”が意味深な発言をしてきた。
「はーく、オマエニ”イイモン”見セルアルノナ。路地裏来イ」
彼女は「ついて来い」と言わんばかり、先にテラス席を離れていく。
い、いいもんッ!?
そ、それって……やっぱり生のメロンなのかッ???
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