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リョンで一番の厩舎を営む赤ら顔の男――スタングは、いまだベッドから起き上がる気配はない。
無駄にたるんだ目蓋と頬、それに時折ゴホゴホ咳き込むその姿は、長年に渡る彼の不摂生な生活習慣を連想させる。
「500ラント……まるで足んねえな。話にならねえ。寧ろ、最初にここへ来た時より減ってるじゃねえかよ。大体、そのガキ二人は何だ? 悪いことは言わねえ。穀潰しならとっとと捨てちまいな」
「大キナオ世話アルゾ。はーくト”赤イ貧乳”、アターシャノ大切ナ仲間アルノナ」
嬉しいこと言ってくれてるけど、残念ながらスタングの言う通りだ。オレとエリスは、現時点だと本当にタダの穀潰し以外何物でもない。病的に太った豚のような家畜商人に対し、何も言い返せない自分がもどかしい。
隣のエリスも怒り心頭。ただし、その手はいまだ貧乳を掴んだまま。……穀潰しならぬ乳潰しだな。
憎々しい形相のスタングはここで一転、その表情を和らげて言う。
「なあ、おっぱいねえちゃん。確か職業は薬草師って言ってたな?」
「ソレ違ウ。”有能ナ”薬草師アルゾヨ」
「自分で言うとは大した自信だな。なら、頼みがある。オレのこの体を自慢の薬草で治してくんねえか? 最近、どうも飯がマズくっていけねえ。食ってねえ割に体が浮腫むしよ」
「ソイツハ肝臓アルナ」
「ほう、即答ときたか。どうしてそう思う?」
「初対面デ気ヅイテタアル。簡単ナコト……白目ガ黄色――黄疸アルノネ。顔赤イ。特ニ左ノホッペ。口臭キツイ」
「うるせえッ! オマエこそ妙に馬糞臭えじゃねえか! 厩舎で働くオレ達より馬糞臭いってどういうことだよ」
「アト、オ酒飲ミ過ギ。条件ぱーふぇくとデソロッテルアルヨ」
スタングはそれに反論せず「幾らだ? 100ラントくらいか?」と値踏みにかかる。
「ゴ冗談ヲ」
一笑に付すセリスナに焦る男、
「ま、まさか、馬代の12000ラントってことはねえだろうな?」
「アターシャ、金ノ亡者違ウアルヨ。ソレトコレトハ別。チャントオ金払ウアルヨ。人ノ足元見ナイアルノネ」
「それはオレに対する当てこすりか? まあいい。じゃあ幾らなんだよ?」
「11999らんと」
「ぐ……!」
薬草の相場はわかんないけど、おもいっきり足元を見てるくらいはわかる。
当然、スタングはこれに憤慨する。
「たった銅貨1枚で正義面するんじゃねえやッ! オレはあの芦毛を買い取る際、ヤツらに5000ラントも払ったんだ! それをどうしてオマエにタダ同然でくれてやらなきゃなんねえんだッ? こっちの大損じゃねえかッ!」
「最初ニ言ッタ筈アルノナ。ふれべるノ所有者、元々アターシャアル、ト」
「そんなの知ったこっちゃねえ! 相手が盗人だろうが悪魔だろうが客は客だ! オレから言わせれば、馬を盗まれたオマエが悪い! 違うか?」
「異論ナイアル。肝臓ブッ壊シ薬代ケチッテ死ンデユク者ト同様ニ悪イアルネ。……デハ、邪魔シタアルナ」
ここでセリスナはオレとエリスの肩に手を置き、共に退室を促す。
「オ、オイ……大事な愛馬がどうなってもいいのかよ?」
「オ構イナク。アターシャトふれべる、少ナクトモアンタヨリ長ク生キルアルノナ。買イ取リ交渉、ソレカラスルアルノネ。アンタ以外ノ誰カト」
「――ッ!? ま、待ってくれッ! そりゃあんまりだぜッ! 確かにオレは金の亡者かもしんねえが、そんなオレにだって守るもんくらいあるんだッ! オマエにあの馬をタダでやっちゃ、ここで働く従業員に払う金がなくなっちまうんだ!」
セリスナの足が止まり、ゆっくり振り返る。
「ナラバ、7000らんと。ソレデ肝臓治ス薬草売ルアルノネ」
「……ま、まだ高いぜ!」
「ナラバ、他ヲ当タルアルノナ。……イヤ、モウ既ニ当タッテルケド、一向ニ治ラナイアルネ? ソコデコノアターシャニ、藁ニモ縋ル思イデ頼ミ込ンダ……」
「畜生、そこまでわかってやがんのか! で、どこから7000という途方もない値がついた?」
「アンタガ盗人ニ払ッタ5000らんとハ働イテ返スアルガ、残ル7000らんとハアンタノ儲ケデシカナイアルナ。……アンタノ命、7000らんとヨリ安イアルノカ?」
「あなたに払えますかね?」
と、ここまで黙っていたエリスが颯爽と割って入る。
項垂れるスタング、そしてついに折れた。
「……わかったよ。7000ラントでオレの命が助かるんなら文句は言えねえ。どうか、よろしく頼むぜ」
「それを聞きたかった」
最後にそう締めくくったのも、赤いメガネのブリッジを人差し指で上げるエリスだ。
どうしてオマエが全てを解決したみたいになってる?
無駄にたるんだ目蓋と頬、それに時折ゴホゴホ咳き込むその姿は、長年に渡る彼の不摂生な生活習慣を連想させる。
「500ラント……まるで足んねえな。話にならねえ。寧ろ、最初にここへ来た時より減ってるじゃねえかよ。大体、そのガキ二人は何だ? 悪いことは言わねえ。穀潰しならとっとと捨てちまいな」
「大キナオ世話アルゾ。はーくト”赤イ貧乳”、アターシャノ大切ナ仲間アルノナ」
嬉しいこと言ってくれてるけど、残念ながらスタングの言う通りだ。オレとエリスは、現時点だと本当にタダの穀潰し以外何物でもない。病的に太った豚のような家畜商人に対し、何も言い返せない自分がもどかしい。
隣のエリスも怒り心頭。ただし、その手はいまだ貧乳を掴んだまま。……穀潰しならぬ乳潰しだな。
憎々しい形相のスタングはここで一転、その表情を和らげて言う。
「なあ、おっぱいねえちゃん。確か職業は薬草師って言ってたな?」
「ソレ違ウ。”有能ナ”薬草師アルゾヨ」
「自分で言うとは大した自信だな。なら、頼みがある。オレのこの体を自慢の薬草で治してくんねえか? 最近、どうも飯がマズくっていけねえ。食ってねえ割に体が浮腫むしよ」
「ソイツハ肝臓アルナ」
「ほう、即答ときたか。どうしてそう思う?」
「初対面デ気ヅイテタアル。簡単ナコト……白目ガ黄色――黄疸アルノネ。顔赤イ。特ニ左ノホッペ。口臭キツイ」
「うるせえッ! オマエこそ妙に馬糞臭えじゃねえか! 厩舎で働くオレ達より馬糞臭いってどういうことだよ」
「アト、オ酒飲ミ過ギ。条件ぱーふぇくとデソロッテルアルヨ」
スタングはそれに反論せず「幾らだ? 100ラントくらいか?」と値踏みにかかる。
「ゴ冗談ヲ」
一笑に付すセリスナに焦る男、
「ま、まさか、馬代の12000ラントってことはねえだろうな?」
「アターシャ、金ノ亡者違ウアルヨ。ソレトコレトハ別。チャントオ金払ウアルヨ。人ノ足元見ナイアルノネ」
「それはオレに対する当てこすりか? まあいい。じゃあ幾らなんだよ?」
「11999らんと」
「ぐ……!」
薬草の相場はわかんないけど、おもいっきり足元を見てるくらいはわかる。
当然、スタングはこれに憤慨する。
「たった銅貨1枚で正義面するんじゃねえやッ! オレはあの芦毛を買い取る際、ヤツらに5000ラントも払ったんだ! それをどうしてオマエにタダ同然でくれてやらなきゃなんねえんだッ? こっちの大損じゃねえかッ!」
「最初ニ言ッタ筈アルノナ。ふれべるノ所有者、元々アターシャアル、ト」
「そんなの知ったこっちゃねえ! 相手が盗人だろうが悪魔だろうが客は客だ! オレから言わせれば、馬を盗まれたオマエが悪い! 違うか?」
「異論ナイアル。肝臓ブッ壊シ薬代ケチッテ死ンデユク者ト同様ニ悪イアルネ。……デハ、邪魔シタアルナ」
ここでセリスナはオレとエリスの肩に手を置き、共に退室を促す。
「オ、オイ……大事な愛馬がどうなってもいいのかよ?」
「オ構イナク。アターシャトふれべる、少ナクトモアンタヨリ長ク生キルアルノナ。買イ取リ交渉、ソレカラスルアルノネ。アンタ以外ノ誰カト」
「――ッ!? ま、待ってくれッ! そりゃあんまりだぜッ! 確かにオレは金の亡者かもしんねえが、そんなオレにだって守るもんくらいあるんだッ! オマエにあの馬をタダでやっちゃ、ここで働く従業員に払う金がなくなっちまうんだ!」
セリスナの足が止まり、ゆっくり振り返る。
「ナラバ、7000らんと。ソレデ肝臓治ス薬草売ルアルノネ」
「……ま、まだ高いぜ!」
「ナラバ、他ヲ当タルアルノナ。……イヤ、モウ既ニ当タッテルケド、一向ニ治ラナイアルネ? ソコデコノアターシャニ、藁ニモ縋ル思イデ頼ミ込ンダ……」
「畜生、そこまでわかってやがんのか! で、どこから7000という途方もない値がついた?」
「アンタガ盗人ニ払ッタ5000らんとハ働イテ返スアルガ、残ル7000らんとハアンタノ儲ケデシカナイアルナ。……アンタノ命、7000らんとヨリ安イアルノカ?」
「あなたに払えますかね?」
と、ここまで黙っていたエリスが颯爽と割って入る。
項垂れるスタング、そしてついに折れた。
「……わかったよ。7000ラントでオレの命が助かるんなら文句は言えねえ。どうか、よろしく頼むぜ」
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