太陽の烙印、見えざる滄海(未完)

よん

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herbalist

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 朝市でパン屑が詰まった袋を1ラントで購入し、それを三人で分け合った。今のオレ達には鳩の餌が分相応だ。
 お釣りを渡される時に店主が凄く不快な顔をしたのは、たった1ラントのパン屑をセリスナから貰った銀貨で払ったからだろう。
 そこには「銅貨で払えよ」と「くせえ金だな」という、二重の意味合いが込められているようだ。
 そんなもの無視して、ここで手持ちを確認しておこう。

 オレの所持金    99ラント(銅貨99枚)
 エリスの所持金  100ラント(銀貨1枚)
 セリスナの所持金 366ラント(銀貨3枚と銅貨66枚)


……ヤバイな。
 三人合わせたところで金貨1枚にも満たない。しかもコレ、ついさっきまではセリスナ一人のお金だし。
 にもかかわらず、これから金貨12枚分の買い物をしようとしている。これを無謀と言わずして何と言うだろう。
 しかし、厩舎に向かってズンズン先を行くセリスナは存外強気の発言だ。

「大丈夫アルノナ。アターシャ働イテ、イツカふれべる買イ戻スアルノナ」
「『買い戻す』って……具体的にどうやって? 今までそれができなかったのにさ」
「考エ方変エタアルヨ。ふれべる高イ。ダケド、ふれべるノウ○コナラキット無料タダ……アターシャ、薬草師ハーバリストアル。ふれべるノウ○コネレバ、オ金幾ラデモ稼ゲルアルノナ。少ジズツ貯メタラバ、イツノ日カふれべる助ケラレルアルゾ」

 と、ここで急にエリスが道端にしゃがみ込んだ。

「どうした?」
「ハークお兄ちゃん。ボクな……おなかおかしいねん」
「何だよ、その口調?」
「ずっと……ビチビチやねん」
「き、汚いなッ! いちいち報告しないで黙ってトイレ行けよなッ!」

 すると、エリスは勢いよく立ち上がってオレを睨みつける。

「オイ、そんなに素早く動くと出ちゃ」「冗談だよっ、ビチビチなんて真っ赤な嘘っ! 純情レディに何を言わせるのさっ!」
「オレは言ってねえッ! オマエが勝手にしゃがんで勝手に言ったんだッ!」
「何さ、巨乳メロンズの馬糞話には真剣な顔して耳を傾けるのに、人糞だと『汚い』ってまるでじゃないかっ!」

 糞種差別……初めて聞いた。
 要するに「ボクにもかまってよ」ってことか。どんな注意の引きつけ方だ。
 
「差別なんかしてない。それに百歩譲って純情レディを自称するなら、そのパフォーマンスだけはよせ」
「この際だからハッキリしてっ! ハークは馬糞とボクのウ○コ、どっちが好きなんだよっ?」
「この際だからハッキリ言ってやる! どっちも好きじゃねえッ! おっぱいはともかく馬糞にまで対抗心燃やすなッ!」

 エリスが不服そうに頬を膨らませ、肩を怒らせながら先頭のセリスナを大股で追い越した。さっき言ってた姉妹の盃とやらはどうなったんだ?
 
 それにしても……。

 ずっと疑問だったけれども、今もってわからない。
 薬草師ハーバリストと馬糞がどう結びつくのだろう。
 エリスが離れて話しやすくなったオレは、その疑問を直接ぶつけてみる。
 
「もしかして、フレベルの馬糞は薬草ハーブの肥料になるのかな?」
「肥料違ウ。アルヨ」

 は?

 馬糞=薬草ハーブ……

「じゃ、じゃあ、セリスナが煎じる薬って純度100%の馬糞ってコト……?」
「ソウイウコトアルナ。シードモ水モ土サエ要ラナイアル。シイテ言エバ大地に立チ、馬糞玉バフンダマニ父ナル太陽ト母ナル月ノ光ヲ照ラス必要アルアルガ」

 何て事だ……。
 どんなに神聖な太陽光や月光を浴びたところで、とどのつまりそれはねて球体にした単なる馬糞トリュフじゃないか。薬はいいとして”薬草ハーブ”の草要素は何処いずこ
 だが、今の困窮するオレ達にとって、まだ見ぬその”馬糞玉”こそが唯一の頼りなんだ。
 オレ達はフレベルが排泄するを馬飼いから譲ってもらう必要がある。
 のみならず、目標の12000ラントが貯まるまでは、フレベルを手放さぬようお願いしなければならないのだ。



 再度、厩舎に到着。
 オレ達の応対に出たのはまたもや小間使いの少女だった。茶髪の寝グセ風ボブで額のヘッドバンドはオレンジ……空一面の夕空と同じ色だったから昨日はそれに気づかなかった。 

「主人、今モぱぶアルカナ?」
「いえ、さすがに朝からお酒は……と言うより、明け方まで呑んでいらっしゃったようで、まだお部屋にとどまったままでございます。ですが先程、セリスナ様の来訪をお伝えしたところ『案内あないせよ』と仰せでしたので。……どうぞ、こちらへ」

 ランジェと名乗った小間使いの少女は、かろうじてオレよりも背が低かった。セリスナもエリスも女性にしては長身だから、彼女みたいな小柄なコに会うと正直ホッとする。
 チンチクリン……エリスよ、オレはいまだあの発言に傷ついてるんだぜ。

 厩舎から少し離れた、古いが大きな屋敷に入る。個人宅なのに部屋数は【閑古鳥】を優に上回る。
 とりわけ広い一室。ランジェがそこの分厚い扉をノックすると、野太い声で「通せ」と命令する声が聞こえた。

 ランジェがオレ達を中へと促し、自身は持ち場へと戻っていた。
 ベッドに横たわったまま、馬飼いの太った男――スタングはセリスナを見るや、

「よう、おっぱいねえちゃん。昨日も来たんだってな。約束通り12000ラント、用意してきたか?」

 出し抜けに大声で失礼な男だな。
 だが、セリスナは眉一つ動かさず言い返す。

「持ッテキタアルノナ。500らんと」

 セリスナ……そういうのは普通”持ってきた”とは言わないぞ。
 これを受け呆気に取られるかと思いきや、スタングの視線は何故か初対面のエリスに注がれていた。よほどメガネが珍しいのだろう。

「な、何だよっ? ボクがどうかしたっ?」
「女、なのか?」
「はあぁっ? し、失敬だなっ! 実に失敬だな、アンタっ!」
「胸はついてない」
「―――っ!? あ、あ、あんなのは飾りです。エロい人にはそれがわからんのですよ……って、ついてるに決まってるじゃないかああっ!!! 乳首ニップル乳暈アリオラ性感帯エロジナスゾーン……全てのおっぱいの産みの親! ボクの戴冠宝器レガリアに揃い踏みだーっ!!!」

 女王陛下の王冠クラウン王笏セプター宝珠オーヴをそんなものに例えるな!
 あと、自ら胸を鷲掴みするな!

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