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リョン到着の翌朝、不覚にもオレとエリスは揃って悪魔の掏摸に有り金全部を盗まれてしまった。
こうなると必然、三人の立場は逆転する。
オレやエリスがこれまで年嵩のセリスナに対等以上で接することができたのは、紛れもなく【神官宮】から貰った祝い金が手元にあったからに他ならない。
それを失った今、オレ達は右も左もわからない未熟な冒険者……セリスナにしてみれば足手まとい以外何物でもなかった。
オレとエリスは完全な文無し、セリスナは僅かながら所持金がある。こんなところで彼女に見捨てられたら、オレ達は路頭に迷ってしまう。ピンチ!
朝市のパンや肉の焼けるいい匂いが、腹を空かせたオレ達の鼻腔を「これでもか」と刺激する。
重苦しい沈黙の中、エリスの腹の虫が「ぐぅ」と鳴った。何てタイミングだよ。
「あ、あのさ、セリスナさん。ボク、おながが空いちゃったんだけどな……チラっ! チラっ!」
擬態語を声に出すな。そういうところがあざといんだよ!
「ダカラ?」
「お、奢ってって頼んでるんじゃないんだからねっ?」
「……ツマリ?」
心なしか、セリスナの態度がそっけない。卑屈なエリスとは対照的だ。
「お金……貸してくれないかなあ~なんて……ダメっ?」
「勿論」
「も、勿論っ? それってどっちの意味なのっ?」
「貸サナイアルヨ」
「WRYYYYYYYYYYYYY―――っ!? どっ、どうしてそうなるのさっ!?」
「”赤イ貧乳”、同ジコト言ッタアルネ。アターシャ、ソレ真似シタダケアルノナ。ドウダ、文句アルカヨ?」
ぐうの音も出ない、とはこのことだ。相変わらず、腹の虫だけはグーグー鳴ってるが。
歯噛みして悔しがるエリスだが、こんなことで諦めるような女ではない。
「確かに言ったよっ! 『ボクと巨乳との間には友情すらない』って。でもさ、それは昨日……いや、ついさっきまでのことだよっ。今のボクと巨乳との間には正義超人ばりの友情が芽生えたんだもんっ! だったら、お金の貸し借りくらいあって然るべきなんだからねっ!」
青い瞳は怪訝丸出し。
「友情、芽生エテナイアルゾ?」
「おっぱいだよ、おっぱいっ! たった今、ボク達はお互い揉んで揉まれまくった仲、姉妹の盃を交わしたも同然じゃんかっ! だったら、巨乳のお金はボクのもの、ボクのお金もボクのものじゃないかっ!」
「それって沙翁の『尺には尺を』のセリフじゃないか。もうムチャクチャだな」
「誰だよ、ソイツ?」
……オマエ、本当にイギリス人か?
喉元までそのツッコミが出ていたけれど、セリスナの前だからどうにか思いとどまった。
「ヂャイアニズムもわかんないハークは黙っててよっ! とにかくっ! ボクはパンと串刺し肉が食べたいんだっ! 巨乳、しのごの言わず奢れっ!」
借りるんじゃなかったのかよ。
「オパーイ友情……ワカッタアル」
「ほ、本当っ?」
「ナラバ、アターシャ、はーくトモ友情深メタイアル。……はーく、アターシャトツイデニえりすノオパーイ揉ムアルノナ」
え、ええぇ――ッ!? いいのかッ?
一瞬ドキリとするも、セリスナの底意地の悪そうな眼差しですぐにわかった。これはエリスをからかっているのだと。
「ダ、ダメ過ぎるぅ――っ!!! それだけは絶対にNGだからねっ! ハークなんか一生、牛や馬のおっぱい揉んでりゃいいんだよっ!」
なんか呼ばわりされてしまった。
「牛や馬でもいいけどさ。問題が山積している中、”おっぱい”から少し離れてみないか? 今のオレ達はけっこうヤバイ状態にあるんだし」
セリスナとエリス、揃って頷く。
そうなんだ。こんな無駄話をしている余裕はない。
「それでさ、セリスナ。確認しておきたいんだけど……今のオレ達は無一文だから、残念ながらアンタの愛馬を買い戻すことに協力できなくなった」
「ソウアルナ」
「……で、どうする? オレ達はリョンで解散するか?」
「……」
「それでもいいんだぜ。だってオレ達にはあの祝い金以外、何の価値もないんだ。見限られても仕方ない」
セリスナは黙ったまま、革袋から取り出した2枚の銀貨をオレに握らせた。
「これは……?」
「アターシャノ分……かむちゃかカラりょんマデノ馬車賃アル。借リ、返シタアルノナ。半分ハ”赤イ貧乳”ニアゲルアルノネ」
「マ、マジでっ!? おお、巨乳! 心の友よ! ぱふぱふっ♪ ぱふぱふっ♪」
セリスナに抱きついたエリス、その豊満なおっぱいに顔を埋める。
あ、あれがPAFUPAFUなのかッ?
……正直、アイツが羨ましい。鼻がひん曲がる馬糞臭であっても、おっぱいはおっぱいだ。
でも、コレって……。
オレは手の平の200ラントが手切れ金だと勘繰った。
だよな。今のままじゃ、オレとエリスはパパとママに養ってもらっていた”穀潰し”と何ら変わらないから。
「アターシャ、絶対ニ仲間裏切ラナイアルノナ。ダカラ、ソンナ顔シナイアル」
――ッ!?
セリスナのその言葉に、オレは心を見透かされた気分だった。
卑屈な自分が情けなくて泣きたくなる。
「そうだよ、ハークお兄ちゃんは独りじゃない」
セリスナのおっぱいから顔を出したエリスが、嘘泣き丸出しで言う。
「仲間がいる゛よっ!」
説得力なさ過ぎ……。
オマエのその視線、ずっとオレの手の平の銀貨だし。
こうなると必然、三人の立場は逆転する。
オレやエリスがこれまで年嵩のセリスナに対等以上で接することができたのは、紛れもなく【神官宮】から貰った祝い金が手元にあったからに他ならない。
それを失った今、オレ達は右も左もわからない未熟な冒険者……セリスナにしてみれば足手まとい以外何物でもなかった。
オレとエリスは完全な文無し、セリスナは僅かながら所持金がある。こんなところで彼女に見捨てられたら、オレ達は路頭に迷ってしまう。ピンチ!
朝市のパンや肉の焼けるいい匂いが、腹を空かせたオレ達の鼻腔を「これでもか」と刺激する。
重苦しい沈黙の中、エリスの腹の虫が「ぐぅ」と鳴った。何てタイミングだよ。
「あ、あのさ、セリスナさん。ボク、おながが空いちゃったんだけどな……チラっ! チラっ!」
擬態語を声に出すな。そういうところがあざといんだよ!
「ダカラ?」
「お、奢ってって頼んでるんじゃないんだからねっ?」
「……ツマリ?」
心なしか、セリスナの態度がそっけない。卑屈なエリスとは対照的だ。
「お金……貸してくれないかなあ~なんて……ダメっ?」
「勿論」
「も、勿論っ? それってどっちの意味なのっ?」
「貸サナイアルヨ」
「WRYYYYYYYYYYYYY―――っ!? どっ、どうしてそうなるのさっ!?」
「”赤イ貧乳”、同ジコト言ッタアルネ。アターシャ、ソレ真似シタダケアルノナ。ドウダ、文句アルカヨ?」
ぐうの音も出ない、とはこのことだ。相変わらず、腹の虫だけはグーグー鳴ってるが。
歯噛みして悔しがるエリスだが、こんなことで諦めるような女ではない。
「確かに言ったよっ! 『ボクと巨乳との間には友情すらない』って。でもさ、それは昨日……いや、ついさっきまでのことだよっ。今のボクと巨乳との間には正義超人ばりの友情が芽生えたんだもんっ! だったら、お金の貸し借りくらいあって然るべきなんだからねっ!」
青い瞳は怪訝丸出し。
「友情、芽生エテナイアルゾ?」
「おっぱいだよ、おっぱいっ! たった今、ボク達はお互い揉んで揉まれまくった仲、姉妹の盃を交わしたも同然じゃんかっ! だったら、巨乳のお金はボクのもの、ボクのお金もボクのものじゃないかっ!」
「それって沙翁の『尺には尺を』のセリフじゃないか。もうムチャクチャだな」
「誰だよ、ソイツ?」
……オマエ、本当にイギリス人か?
喉元までそのツッコミが出ていたけれど、セリスナの前だからどうにか思いとどまった。
「ヂャイアニズムもわかんないハークは黙っててよっ! とにかくっ! ボクはパンと串刺し肉が食べたいんだっ! 巨乳、しのごの言わず奢れっ!」
借りるんじゃなかったのかよ。
「オパーイ友情……ワカッタアル」
「ほ、本当っ?」
「ナラバ、アターシャ、はーくトモ友情深メタイアル。……はーく、アターシャトツイデニえりすノオパーイ揉ムアルノナ」
え、ええぇ――ッ!? いいのかッ?
一瞬ドキリとするも、セリスナの底意地の悪そうな眼差しですぐにわかった。これはエリスをからかっているのだと。
「ダ、ダメ過ぎるぅ――っ!!! それだけは絶対にNGだからねっ! ハークなんか一生、牛や馬のおっぱい揉んでりゃいいんだよっ!」
なんか呼ばわりされてしまった。
「牛や馬でもいいけどさ。問題が山積している中、”おっぱい”から少し離れてみないか? 今のオレ達はけっこうヤバイ状態にあるんだし」
セリスナとエリス、揃って頷く。
そうなんだ。こんな無駄話をしている余裕はない。
「それでさ、セリスナ。確認しておきたいんだけど……今のオレ達は無一文だから、残念ながらアンタの愛馬を買い戻すことに協力できなくなった」
「ソウアルナ」
「……で、どうする? オレ達はリョンで解散するか?」
「……」
「それでもいいんだぜ。だってオレ達にはあの祝い金以外、何の価値もないんだ。見限られても仕方ない」
セリスナは黙ったまま、革袋から取り出した2枚の銀貨をオレに握らせた。
「これは……?」
「アターシャノ分……かむちゃかカラりょんマデノ馬車賃アル。借リ、返シタアルノナ。半分ハ”赤イ貧乳”ニアゲルアルノネ」
「マ、マジでっ!? おお、巨乳! 心の友よ! ぱふぱふっ♪ ぱふぱふっ♪」
セリスナに抱きついたエリス、その豊満なおっぱいに顔を埋める。
あ、あれがPAFUPAFUなのかッ?
……正直、アイツが羨ましい。鼻がひん曲がる馬糞臭であっても、おっぱいはおっぱいだ。
でも、コレって……。
オレは手の平の200ラントが手切れ金だと勘繰った。
だよな。今のままじゃ、オレとエリスはパパとママに養ってもらっていた”穀潰し”と何ら変わらないから。
「アターシャ、絶対ニ仲間裏切ラナイアルノナ。ダカラ、ソンナ顔シナイアル」
――ッ!?
セリスナのその言葉に、オレは心を見透かされた気分だった。
卑屈な自分が情けなくて泣きたくなる。
「そうだよ、ハークお兄ちゃんは独りじゃない」
セリスナのおっぱいから顔を出したエリスが、嘘泣き丸出しで言う。
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