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beanbag
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よく晴れた昼下がり。
スタングのために煎じる薬草を育てるべく第二の馬糞玉を捏ね終わったセリスナが、芦毛馬――フレベルのいる厩舎を離れて今、父なる太陽の光をそれに浴びせるべく牧草地の中央にボーっと突っ立っている。
何だか近寄りがたいオーラ……。
声を掛けていいんだろうか?
ちゃんとした儀式ならば勿論それは控えるべきだ。
けれども前日、彼女はせっかく拵えた馬糞玉に神聖な太陽光と月光を一切浴びせることなく、おまけに一晩中フレベルと語り明かしてそれを失念するという大失態をやらかした結果が今のこうした無駄な停滞に繋がっている。
普通ならば考えられないミス……まして、有能な薬草師ならば尚更だ。
オレが思うに……いや、エリスも同様に感じていることだが。
セリスナが言うように、彼女は本当に有能な薬草師かもしれない。もしくは、そうじゃないかもしれない。
だが、肝心なところでヘマをするおっちょこちょいタイプであることはもはや疑いようのない事実だ。
おそらく、セリスナ自身にもその自覚があるのだろう。
だからこそ、それをフォローする仲間を求めているワケで。
つまりはオレ達の存在。
愛馬のフレベルさえいればセリスナは容易く金を稼げるし、彼女自身もそう高を括っていたのだろうが、どうにもこうにもうまくいっていない。事実、セリスナはその愛馬さえも手放しているのが現状だ。
でも、これでいいんだ。
セリスナがドジキャラだとわかったところで、オレ達の絆はいっそう深まった……と思う。
少なくとも、妙な親近感が生まれたのは間違いない。
だって、オレ達も冒険者としてはまだまだなんだからさ。
さて、もう一人のドジキャラ――我が妹エリスだが、何とこの空いた時間を利用して熱心にお手玉の練習(たった一個だけど)をしている。
しかもそれが事もあろうに、セリスナから渡された例の馬糞玉を使ってのお手玉特訓ときたもんだ。
これは意外だった。
エリスのことだから、すぐにそれを叩き割ってセリスナに悪態をつくだろうと思っていたからだ。
ところがそのエリス、一瞬だけ硬直したものの何を思ったか、その汚らわしき馬糞玉を手にしたままスタングの部屋を飛び出すこと暫く……次に見たその馬糞玉は何とピンク一色に塗布されていた。
「エリス……こ、これは?」
「えへ、可愛いでしょっ?」
「……微妙」
「昨日さ、ハークお兄ちゃんと一緒に納屋に入ったよね? ほら、ピッチフォークもらいに行ったトコ。そこにあったのを思い出したんだよ、ピンクのペンキがっ!」
わからん……。
ピンクのペンキを塗っただけなのに、あれだけ毛嫌いしていた馬の糞をこうも簡単に「可愛い」と言えるようになったのは何故か……。
エリスは嬉しそうにピンクの馬糞玉を撫で回している。
「ボクの永遠のアイドルなんだっ」
「馬糞がか?」
「違うよ。古い日本のアニメでさ、道端に落ちてるウ○コでお手玉するロボットの女の子がいたんだ。でさ、そのウ○コの色が見事なピンク色なんだよっ。ほら、見て見て、美味しそうっ! ストロベリー味のトリュフみたいっ!」
「……食うなよ」
「食べないって、さすがにっ!」
ますますわからん! コイツは一体、何に憧れてるんだ!
「そのロボットガールがさ、大きなメガネを掛けてて、それが彼女を象徴するトレードマークになってたんだっ。だからボクもメガネなんだよっ。異世界に来てもねっ!」
それで2500ラントの出費か。なるほどね。
「百歩譲ってメガネを真似るのは理解できるよ。だからって、馬糞のお手玉まで真似する意味はあるのか?」
「ピンクで可愛いからいいのっ。それにペンキの臭いが見事に馬糞臭を消してくれてるしっ」
普段は赤オシのエリス、ウ○コに限ってはピンクオシか。何だ、そりゃ!
「だからさ、巨乳に馬糞玉もらった直後は放心しちゃったけど、すぐに天職だと思ったねっ。『このためにボクは道化師に選ばれたんだ』ってさ。……あ、ハークお兄ちゃん! ボクのコト呆れてるんでしょっ?」
「別に。道化師の自覚が芽生えたのはいいことだしな」
「『オマエがそう思うんならそうなんだろう。オマエの中ではな』……って顔してるねっ?」
「そして、オマエは”今のセリフが言えて幸せ”って顔してんな?」
「まあねっ♪」
一寸先は闇だ。世の中、何が起こるかわからない。
まさか、フレベルの馬糞がこんなに役立つとはね。……ただし、たった一個のお手玉をたったの一度もキャッチできてない道化師エリスの前途は多難だけど。
日がとっぷり暮れる。
スタングと彼につく数人の使用人はまだ帰って来ない。ランジェも同様だ。
「……次はないですよ?」
そう言って睨まれたあの顔が忘れられない。
わかってるさ。
ただ、今のオレにできるのはセリスナを信じることのみ。待つしかない。
セリスナは昼間と同じ姿勢のまま、月神の光の元にその身と馬糞玉を照らしている。
お手玉特訓に疲れ果てたエリスは部屋へと戻り、ベッドでくぅくぅ寝息を立てている。トレードマークのメガネを外すことなく。
そんな寝姿を見ながら、オレはオレで全く別なことを考えていた。
こうしている間にも、彼らは活発な動きを見せている筈なんだ。
絶対神の加護を受けず、影を持たない闇の種族どもが月光を浴びながら……。
スタングのために煎じる薬草を育てるべく第二の馬糞玉を捏ね終わったセリスナが、芦毛馬――フレベルのいる厩舎を離れて今、父なる太陽の光をそれに浴びせるべく牧草地の中央にボーっと突っ立っている。
何だか近寄りがたいオーラ……。
声を掛けていいんだろうか?
ちゃんとした儀式ならば勿論それは控えるべきだ。
けれども前日、彼女はせっかく拵えた馬糞玉に神聖な太陽光と月光を一切浴びせることなく、おまけに一晩中フレベルと語り明かしてそれを失念するという大失態をやらかした結果が今のこうした無駄な停滞に繋がっている。
普通ならば考えられないミス……まして、有能な薬草師ならば尚更だ。
オレが思うに……いや、エリスも同様に感じていることだが。
セリスナが言うように、彼女は本当に有能な薬草師かもしれない。もしくは、そうじゃないかもしれない。
だが、肝心なところでヘマをするおっちょこちょいタイプであることはもはや疑いようのない事実だ。
おそらく、セリスナ自身にもその自覚があるのだろう。
だからこそ、それをフォローする仲間を求めているワケで。
つまりはオレ達の存在。
愛馬のフレベルさえいればセリスナは容易く金を稼げるし、彼女自身もそう高を括っていたのだろうが、どうにもこうにもうまくいっていない。事実、セリスナはその愛馬さえも手放しているのが現状だ。
でも、これでいいんだ。
セリスナがドジキャラだとわかったところで、オレ達の絆はいっそう深まった……と思う。
少なくとも、妙な親近感が生まれたのは間違いない。
だって、オレ達も冒険者としてはまだまだなんだからさ。
さて、もう一人のドジキャラ――我が妹エリスだが、何とこの空いた時間を利用して熱心にお手玉の練習(たった一個だけど)をしている。
しかもそれが事もあろうに、セリスナから渡された例の馬糞玉を使ってのお手玉特訓ときたもんだ。
これは意外だった。
エリスのことだから、すぐにそれを叩き割ってセリスナに悪態をつくだろうと思っていたからだ。
ところがそのエリス、一瞬だけ硬直したものの何を思ったか、その汚らわしき馬糞玉を手にしたままスタングの部屋を飛び出すこと暫く……次に見たその馬糞玉は何とピンク一色に塗布されていた。
「エリス……こ、これは?」
「えへ、可愛いでしょっ?」
「……微妙」
「昨日さ、ハークお兄ちゃんと一緒に納屋に入ったよね? ほら、ピッチフォークもらいに行ったトコ。そこにあったのを思い出したんだよ、ピンクのペンキがっ!」
わからん……。
ピンクのペンキを塗っただけなのに、あれだけ毛嫌いしていた馬の糞をこうも簡単に「可愛い」と言えるようになったのは何故か……。
エリスは嬉しそうにピンクの馬糞玉を撫で回している。
「ボクの永遠のアイドルなんだっ」
「馬糞がか?」
「違うよ。古い日本のアニメでさ、道端に落ちてるウ○コでお手玉するロボットの女の子がいたんだ。でさ、そのウ○コの色が見事なピンク色なんだよっ。ほら、見て見て、美味しそうっ! ストロベリー味のトリュフみたいっ!」
「……食うなよ」
「食べないって、さすがにっ!」
ますますわからん! コイツは一体、何に憧れてるんだ!
「そのロボットガールがさ、大きなメガネを掛けてて、それが彼女を象徴するトレードマークになってたんだっ。だからボクもメガネなんだよっ。異世界に来てもねっ!」
それで2500ラントの出費か。なるほどね。
「百歩譲ってメガネを真似るのは理解できるよ。だからって、馬糞のお手玉まで真似する意味はあるのか?」
「ピンクで可愛いからいいのっ。それにペンキの臭いが見事に馬糞臭を消してくれてるしっ」
普段は赤オシのエリス、ウ○コに限ってはピンクオシか。何だ、そりゃ!
「だからさ、巨乳に馬糞玉もらった直後は放心しちゃったけど、すぐに天職だと思ったねっ。『このためにボクは道化師に選ばれたんだ』ってさ。……あ、ハークお兄ちゃん! ボクのコト呆れてるんでしょっ?」
「別に。道化師の自覚が芽生えたのはいいことだしな」
「『オマエがそう思うんならそうなんだろう。オマエの中ではな』……って顔してるねっ?」
「そして、オマエは”今のセリフが言えて幸せ”って顔してんな?」
「まあねっ♪」
一寸先は闇だ。世の中、何が起こるかわからない。
まさか、フレベルの馬糞がこんなに役立つとはね。……ただし、たった一個のお手玉をたったの一度もキャッチできてない道化師エリスの前途は多難だけど。
日がとっぷり暮れる。
スタングと彼につく数人の使用人はまだ帰って来ない。ランジェも同様だ。
「……次はないですよ?」
そう言って睨まれたあの顔が忘れられない。
わかってるさ。
ただ、今のオレにできるのはセリスナを信じることのみ。待つしかない。
セリスナは昼間と同じ姿勢のまま、月神の光の元にその身と馬糞玉を照らしている。
お手玉特訓に疲れ果てたエリスは部屋へと戻り、ベッドでくぅくぅ寝息を立てている。トレードマークのメガネを外すことなく。
そんな寝姿を見ながら、オレはオレで全く別なことを考えていた。
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