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第10章 一人、足んない
一人、足んない B1―4
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やっぱり出てきたか。
僕の中の”俺”はずっと待ってたんだ。ギリギリまで僕が追い込まれるのを……。
でも、こういう切迫した状況だからこそ、僕は使用済みティッシュの声を聞き、新たなスペル魔を召喚することができる。
わざわざ”俺”に頼る必要なんてないんだ。
***********************************
召喚? 無駄だよ、無駄。
今回はサキュバスもいなければ雀蜂もいない。
僕ちゃんのピンチじゃねーんだ。
つまり、この階じゃ死なないんだよ。僕ちゃんも眼鏡のねーちゃんも猫娘も……あの鏡に魅了されない限りはな。
あのナルシストパンダ娘が死ぬだけで、残るパーティは次へと進めるんだ。
所詮は他人事……よって、安全圏で胡坐かいてる僕ちゃんはスペル魔も召喚できない。
当然、この俺もな。
もどかしいぜ。
その体、そろそろ俺に譲れよ? いつまで我を張っててもしょうがねーだろ?
どっちみち、俺は僕ちゃんであり、僕ちゃんはこの俺……何も変わんねーんだし。
いいのか?
グズグズしてっと、僕ちゃんのつまんねー意地があのパンダ娘の命を奪う。
……ま、だから何だって話だけどな。俺にしたら、自分以外の命なんざ糞以下だからよ。
どうでもいい。捨てちまえ、あんな下品な女。
でも、僕ちゃんにしたら、俺のこんな考え方が受け入れられねーんだよな?
じゃあ、救ってやれよ。自分を殺してみな。
っつっても、実際に死ぬワケじゃないから。
それもイヤだってんなら道は一つ。
簡単なことじゃん?
オマエは俺になれ!
それで全てが解決すんだぜ?
***********************************
消えろッ!
僕は惑わされないぞ。
自分を責める点はただ一つ。
ほんの一瞬でも、望海ちゃんの命を早々とあきらめてしまったこと。
あの時、望海ちゃんは身の危険も顧みず、雀蜂の大群から僕を守ろうとしてくれた。
僕は今、何のリスクも負わずにこの場をクリアしようとしてる。虫がよすぎる。
僕はみんなを守るリーダーなのに……僕こそが糞以下だよ。
僕は”俺”に感謝しなきゃいけない。
何故なら、彼は僕に重大なヒントをくれたから。
・”俺”は望海ちゃんを救える。
・”俺”はこの場面で新たなスペル魔を召喚できない。
・”俺”は僕。
ならば答えは一つ。
僕は現有戦力だけでこの場を切り抜けることができる。……”俺”のハッタリじゃなければの話だけど、そこを疑ってたら何もできない。
まずは何としてでも、トランス状態の望海パンダの進行を食い止めなくちゃならない。
「白衛門! 足だ! 足を掛けろッ!」
腰車で投げられ横たわってた白衛門は僕の指示通りに右脚を伸ばす。
足元ガラ空きの望海パンダはその足首に引っ掛かり、すってんと豪快に倒れた。
やった!
……危なかった。あと数十センチで、望海ちゃんは悪魔の姿見に触れるところだった。
でも、安心するのはまだ早い。
ここからが勝負なんだ! 僕の羞恥心がどこまで耐えられるか……。
僕達の目的はあの悪魔の姿見を倒すことじゃないし、そんな力は僕達にない。
このダンジョンの敵は自分自身だ。
望海ちゃんがあの姿見の誘惑を振り切って階段を下りればいいだけだ。
猫助が既に答えを出してくれてる。
花子さんもそれに賛同した。
何も失いたくない卑怯者の僕だけが、それを拒絶してた。
「望海ちゃん! ホラ、こっち見てよ!」
……僕はおもむろにジーンズを脱ぐ。
やってやるよ。
望海ちゃんが見たがってたしこしこ踊りを。
よし、こっちを向いた。
ターゲットの望海ちゃんだけでなく、猫助、それに花子さんも。……は、恥ずかしい。
キミらは見なくていいんだよ! 僕のブリーフなんてさ!
――ッ! 空気が変わった。
悪魔の舌打ちがかすかに聞こえたような気がする。
やるなら今だ!
「……し、しーこしこしこ、しこしこ音頭♪ 狐も狸もしーこしこ♪ 月夜の晩にしーこしこ♪」
顔が熱い! 早くも心が折れそうになる。
ところが、花子さん!
「しーこしこしこ、しーこしこ♪ かわいいあの娘でしーこしこ♪ 祭囃子で気分はハイ♪ ピーヒャラピーヒャラ、ドッピュドピュ♪」
と、まさか手拍子つけて僕に続いてきた。
……何て歌詞だよ! 今までのクールキャラ完全に崩壊しまくってんじゃん!
しかも、「拓海様、踊るのです!」と真剣な顔で命令する始末。
猫助もノリノリだ。
「しこにゃんしこにゃん、しこにゃんにゃん♪ ティッシュがなければ買ってこい♪ しこしこ音頭は愉快だにゃん♪」
踊るどころか、二人の即興歌詞に呆然と固まってしまう僕……。
けれども、望海パンダには効果テキメンだった。
四つ足でノソノソ僕に向かって近づいてくる。
「拓海様、続きを!」
花子さんの言葉にハッとなる。
ええい、もうヤケクソだ。
僕は脱いだジーンズを肩に羽織って適当に踊りながら歌う。
「HEY!YO! 四股を踏むよりシコ執行♪ 死後の思考はしこしこ志向♪ チェケラッチョ! シコラッチョ! 至高のしこしこ、四五二十! オイラはしこしこエブリディ♪ そういや今日は出してねぇ♪ しこしこティッシュを四個敷こう♪」
……何コレ?
僕の中の”俺”はずっと待ってたんだ。ギリギリまで僕が追い込まれるのを……。
でも、こういう切迫した状況だからこそ、僕は使用済みティッシュの声を聞き、新たなスペル魔を召喚することができる。
わざわざ”俺”に頼る必要なんてないんだ。
***********************************
召喚? 無駄だよ、無駄。
今回はサキュバスもいなければ雀蜂もいない。
僕ちゃんのピンチじゃねーんだ。
つまり、この階じゃ死なないんだよ。僕ちゃんも眼鏡のねーちゃんも猫娘も……あの鏡に魅了されない限りはな。
あのナルシストパンダ娘が死ぬだけで、残るパーティは次へと進めるんだ。
所詮は他人事……よって、安全圏で胡坐かいてる僕ちゃんはスペル魔も召喚できない。
当然、この俺もな。
もどかしいぜ。
その体、そろそろ俺に譲れよ? いつまで我を張っててもしょうがねーだろ?
どっちみち、俺は僕ちゃんであり、僕ちゃんはこの俺……何も変わんねーんだし。
いいのか?
グズグズしてっと、僕ちゃんのつまんねー意地があのパンダ娘の命を奪う。
……ま、だから何だって話だけどな。俺にしたら、自分以外の命なんざ糞以下だからよ。
どうでもいい。捨てちまえ、あんな下品な女。
でも、僕ちゃんにしたら、俺のこんな考え方が受け入れられねーんだよな?
じゃあ、救ってやれよ。自分を殺してみな。
っつっても、実際に死ぬワケじゃないから。
それもイヤだってんなら道は一つ。
簡単なことじゃん?
オマエは俺になれ!
それで全てが解決すんだぜ?
***********************************
消えろッ!
僕は惑わされないぞ。
自分を責める点はただ一つ。
ほんの一瞬でも、望海ちゃんの命を早々とあきらめてしまったこと。
あの時、望海ちゃんは身の危険も顧みず、雀蜂の大群から僕を守ろうとしてくれた。
僕は今、何のリスクも負わずにこの場をクリアしようとしてる。虫がよすぎる。
僕はみんなを守るリーダーなのに……僕こそが糞以下だよ。
僕は”俺”に感謝しなきゃいけない。
何故なら、彼は僕に重大なヒントをくれたから。
・”俺”は望海ちゃんを救える。
・”俺”はこの場面で新たなスペル魔を召喚できない。
・”俺”は僕。
ならば答えは一つ。
僕は現有戦力だけでこの場を切り抜けることができる。……”俺”のハッタリじゃなければの話だけど、そこを疑ってたら何もできない。
まずは何としてでも、トランス状態の望海パンダの進行を食い止めなくちゃならない。
「白衛門! 足だ! 足を掛けろッ!」
腰車で投げられ横たわってた白衛門は僕の指示通りに右脚を伸ばす。
足元ガラ空きの望海パンダはその足首に引っ掛かり、すってんと豪快に倒れた。
やった!
……危なかった。あと数十センチで、望海ちゃんは悪魔の姿見に触れるところだった。
でも、安心するのはまだ早い。
ここからが勝負なんだ! 僕の羞恥心がどこまで耐えられるか……。
僕達の目的はあの悪魔の姿見を倒すことじゃないし、そんな力は僕達にない。
このダンジョンの敵は自分自身だ。
望海ちゃんがあの姿見の誘惑を振り切って階段を下りればいいだけだ。
猫助が既に答えを出してくれてる。
花子さんもそれに賛同した。
何も失いたくない卑怯者の僕だけが、それを拒絶してた。
「望海ちゃん! ホラ、こっち見てよ!」
……僕はおもむろにジーンズを脱ぐ。
やってやるよ。
望海ちゃんが見たがってたしこしこ踊りを。
よし、こっちを向いた。
ターゲットの望海ちゃんだけでなく、猫助、それに花子さんも。……は、恥ずかしい。
キミらは見なくていいんだよ! 僕のブリーフなんてさ!
――ッ! 空気が変わった。
悪魔の舌打ちがかすかに聞こえたような気がする。
やるなら今だ!
「……し、しーこしこしこ、しこしこ音頭♪ 狐も狸もしーこしこ♪ 月夜の晩にしーこしこ♪」
顔が熱い! 早くも心が折れそうになる。
ところが、花子さん!
「しーこしこしこ、しーこしこ♪ かわいいあの娘でしーこしこ♪ 祭囃子で気分はハイ♪ ピーヒャラピーヒャラ、ドッピュドピュ♪」
と、まさか手拍子つけて僕に続いてきた。
……何て歌詞だよ! 今までのクールキャラ完全に崩壊しまくってんじゃん!
しかも、「拓海様、踊るのです!」と真剣な顔で命令する始末。
猫助もノリノリだ。
「しこにゃんしこにゃん、しこにゃんにゃん♪ ティッシュがなければ買ってこい♪ しこしこ音頭は愉快だにゃん♪」
踊るどころか、二人の即興歌詞に呆然と固まってしまう僕……。
けれども、望海パンダには効果テキメンだった。
四つ足でノソノソ僕に向かって近づいてくる。
「拓海様、続きを!」
花子さんの言葉にハッとなる。
ええい、もうヤケクソだ。
僕は脱いだジーンズを肩に羽織って適当に踊りながら歌う。
「HEY!YO! 四股を踏むよりシコ執行♪ 死後の思考はしこしこ志向♪ チェケラッチョ! シコラッチョ! 至高のしこしこ、四五二十! オイラはしこしこエブリディ♪ そういや今日は出してねぇ♪ しこしこティッシュを四個敷こう♪」
……何コレ?
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