ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

文字の大きさ
85 / 176
第10章 一人、足んない

一人、足んない B1―4

しおりを挟む
 やっぱり出てきたか。
 僕の中の”俺”はずっと待ってたんだ。ギリギリまで僕が追い込まれるのを……。
 
 でも、こういう切迫した状況だからこそ、僕は使用済みティッシュの声を聞き、新たなスペル魔を召喚することができる。
 わざわざ”俺”に頼る必要なんてないんだ。




 ***********************************




 召喚? 無駄だよ、無駄。

 今回はサキュバスもいなければ雀蜂もいない。
 僕ちゃんのピンチじゃねーんだ。
 つまり、この階じゃ死なないんだよ。僕ちゃんも眼鏡のねーちゃんも猫娘も……あの鏡に魅了されない限りはな。
 あのナルシストパンダ娘が死ぬだけで、残るパーティは次へと進めるんだ。
 所詮は他人事……よって、安全圏で胡坐かいてる僕ちゃんはスペル魔も召喚できない。
 当然、この俺もな。
 
 
 もどかしいぜ。
 ? いつまで我を張っててもしょうがねーだろ?

 どっちみち、俺は僕ちゃんであり、僕ちゃんはこの俺……何も変わんねーんだし。

 いいのか? 

 グズグズしてっと、僕ちゃんのつまんねー意地があのパンダ娘の命を奪う。
 ……ま、だから何だって話だけどな。俺にしたら、自分以外の命なんざ糞以下だからよ。
 どうでもいい。捨てちまえ、あんな下品な女。


 でも、僕ちゃんにしたら、俺のこんな考え方が受け入れられねーんだよな?

 じゃあ、救ってやれよ。自分を殺してみな。
 っつっても、実際に死ぬワケじゃないから。

 それもイヤだってんなら道は一つ。 

 簡単なことじゃん?


 オマエは俺になれ! 

 それで全てが解決すんだぜ?




 ***********************************




 消えろッ!

 僕は惑わされないぞ。
 自分を責める点はただ一つ。
 ほんの一瞬でも、望海ちゃんの命を早々とあきらめてしまったこと。
 あの時、望海ちゃんは身の危険も顧みず、雀蜂の大群から僕を守ろうとしてくれた。
 僕は今、何のリスクも負わずにこの場をクリアしようとしてる。虫がよすぎる。

 僕はみんなを守るリーダーなのに……僕こそが糞以下だよ。

 僕は”俺”に感謝しなきゃいけない。
 何故なら、彼は僕に重大なヒントをくれたから。

 ・”俺”は望海ちゃんを救える。
 ・”俺”はこの場面で新たなスペル魔を召喚できない。
 ・”俺”は僕。

  ならば答えは一つ。
 僕は現有戦力だけでこの場を切り抜けることができる。……”俺”のハッタリじゃなければの話だけど、そこを疑ってたら何もできない。


 まずは何としてでも、トランス状態の望海パンダの進行を食い止めなくちゃならない。


「白衛門! 足だ! 足を掛けろッ!」

 腰車で投げられ横たわってた白衛門は僕の指示通りに右脚を伸ばす。
 足元ガラ空きの望海パンダはその足首に引っ掛かり、すってんと豪快に倒れた。
 やった!
 ……危なかった。あと数十センチで、望海ちゃんは悪魔の姿見に触れるところだった。

 でも、安心するのはまだ早い。
 ここからが勝負なんだ! 僕の羞恥心がどこまで耐えられるか……。


 僕達の目的はあの悪魔の姿見を倒すことじゃないし、そんな力は僕達にない。

 このダンジョンの敵は自分自身だ。

 望海ちゃんがあの姿見の誘惑を振り切って階段を下りればいいだけだ。

 猫助が既に答えを出してくれてる。
 花子さんもそれに賛同した。
 何も失いたくない卑怯者の僕だけが、それを拒絶してた。


「望海ちゃん! ホラ、こっち見てよ!」


 ……僕はおもむろにジーンズを脱ぐ。



 やってやるよ。



 望海ちゃんが見たがってたしこしこ踊りを。


 よし、こっちを向いた。
 ターゲットの望海ちゃんだけでなく、猫助、それに花子さんも。……は、恥ずかしい。
 キミらは見なくていいんだよ! 僕のブリーフなんてさ!

 ――ッ! 空気が変わった。

 悪魔の舌打ちがかすかに聞こえたような気がする。
 やるなら今だ!

「……し、しーこしこしこ、しこしこ音頭♪ 狐も狸もしーこしこ♪ 月夜の晩にしーこしこ♪」

 顔が熱い! 早くも心が折れそうになる。

 ところが、花子さん!

「しーこしこしこ、しーこしこ♪ かわいいあの娘でしーこしこ♪ 祭囃子で気分はハイ♪ ピーヒャラピーヒャラ、ドッピュドピュ♪」

 と、まさか手拍子つけて僕に続いてきた。
 ……何て歌詞だよ! 今までのクールキャラ完全に崩壊しまくってんじゃん!
 しかも、「拓海様、踊るのです!」と真剣な顔で命令する始末。
 猫助もノリノリだ。

「しこにゃんしこにゃん、しこにゃんにゃん♪ ティッシュがなければ買ってこい♪ しこしこ音頭は愉快だにゃん♪」

 踊るどころか、二人の即興歌詞に呆然と固まってしまう僕……。

 けれども、望海パンダには効果テキメンだった。
 四つ足でノソノソ僕に向かって近づいてくる。

「拓海様、続きを!」

 花子さんの言葉にハッとなる。
 ええい、もうヤケクソだ。
 僕は脱いだジーンズを肩に羽織って適当に踊りながら歌う。

「HEY!YO! 四股しこを踏むよりシコ執行♪ 死後の思考はしこしこ志向♪ チェケラッチョ! シコラッチョ! 至高のしこしこ、四五二十しごにじゅう! オイラはしこしこエブリディ♪ そういや今日は出してねぇ♪ しこしこティッシュを四個しこ敷こう♪」



 ……何コレ?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

処理中です...