ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第15章 キューティクルが足んねえ

キューティクルが足んねえ 7

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 矢も盾もたまらず海へ飛び込んじまった俺は、すぐさま後悔することになる。
 行動そのものにじゃねえ。
 あまりにも不用意な猪突猛進型の己に対してだ。するにしても、少しはシミュレーションしろってんだ!
 すぐにカッとなっちまう性分なのは今に始まったことじゃねえ。
 前世からそうだし、拓海を乗っ取って以降、よく白衛門にたしなめられたもんだ。

 その白衛門に見送られた俺は今、僅かばかりの月夜に照らされて深夜の海の中、肩までドップリ浸かっている。これが湯船なら極楽脱力状態なんだが。
 当然ながらジャージはズブ濡れ、鼻や口にはしょっぱい海水が無遠慮に入り放題、頭に戴いている統治の王冠クラウンもどこかに流されちまうのは時間の問題だ。

 俺は右手でそれを押さえながら、

「オイ、3号!」

 と、怒鳴りつける。

「ハッ、何でありましょうか?」

「オメー、何で俺を背負ってやがる?」
「ご命令でしたので」
「馬鹿野郎! ちったあ考えろ! こんなんじゃ風邪ひいちまうじゃねーか! 今すぐその身を捧げてサーフボードと化しやがれ!」

 我ながら理不尽な怒りだと思いつつ、このイライラを誰かにぶつけなきゃやってられなかった。
 そして今のところ、その誰かは人魚マーマン3号をおいて他にはいねえ。

 言われるがままサーフボードになって俺に土足で踏みつけられる人魚マーマン3号……クズ野郎には違いねえが、さすがに不憫に思えてきた。
 こんなんでも、一応は俺の分身だし。

白鯨はくげい

「……は?」
「オメーの名前だ。いつまでも3号じゃ不便だろ? 喜べよ、俺の好きな冒険小説からつけてやったんだぞ」
「博学ですな」
「茶化すなよ。小難しいゲーテは趣味じゃねえが、メルヴィルやジュール・ヴェルヌなら何冊か読んだぜ。本を選んだのは俺じゃねーけどよ」

 ”僕ちゃん”拓海も冒険に対する憧れくらいはあったみてえだな。

 どうだ? ここまでキツいリアルな冒険、岩清水拓海がオメーのままなら一生体験できなかったぞ。感謝しやがれってんだ。
 とは言うものの、ここから先は俺拓海でも前途多難だ。
 白鬼が赤い海を捉えたまんまだから、鴉王の居場所はわかる(尤も、そこにいるかどうかもわかんねーけど)。
 だが、そこに辿り着くまで途方もねえ距離を、人魚マーマン3号改め白鯨の背中に乗り続けなきゃなんねえ。
 それまでずっとこの態勢、辛抱できるか? 不可能だ。
 
 けど、進むしか道はねえんだ。
 鉄砲玉だから、元の世界……それにフレールの所へ戻る考えなんざ持っちゃいねえしよ。
 まじないごとさえ唱えりゃ、ティッシュマスターは瀕死の状態に陥ってもある意味無敵、寿命が尽きない限り不死身とも言える。
 正直なところ、いろんな場面に遭遇しても俺が二の足を踏まねえのは、その能力に依存するところが大きい。

 んだけどよ……。
 
 その源となるのは使用済みティッシュだ。まじない唱え続けてりゃ、いつかは弾がなくなっちまう。
 そうなんねーようにシコシコエブリディを心掛けなきゃなんねーのに、失恋やら何やらで衝動的に逃避行動をとった俺は、あろうことか大切なティッシュを軍艦に置いてきちまったじゃねーか! こんなの不死身でも何でもねーぞ!! 今更気づいてどうすんだよッ!!!
 謎の空間――使用済みティッシュ置き場にどれくらい在庫があるのかわからねえ。多分、ちょっとやそっとじゃなくならねーだろう。
 かと言って、調子こいて際限なくスペル魔を召喚し続けりゃいつかはなくなっちまう。一昔前の鉱山と同じだ。ティッシュがなけりゃ補充もできねーし。
 召喚せずとも、白海星しろヒトデ……アレなんかも出す度に使用済みティッシュを再使用してるしよ。
 
 そうだ。俺、海上でオナニーすんのか?
 現に今、白いのいっぱい精子工場に溜ってるぞ。早く出荷してえ。
 白鯨も白衛門みてえに精子を吸収できんのかな……。
 単刀直入に訊いてみっか。

「なあ、オメーってティッシュの塊だよな?」
「さようでございます」

 俺を背に乗せたまま、事も無げにスイスイ大海原を泳ぐ白鯨。こりゃ頼もしい。

「だったら、オメーに射精したら精子引き取ってくれるか?」
「嫌でございますよ! そんなモン、海に向かって放てばよろしいじゃございませんか!」

 にべもなく拒絶する子分にむかっ腹を立てそうになるが、冷静に考えりゃ野郎の言う通りだ。
 見渡す限り360度、どこに発射しても文句は言われねえ。わざわざ白鯨の背に出すまでもねーわ。
 そう考えると白衛門は偉大……って、そうじゃねーだろ!!!

 ティッシュが足んねえ。
 いや、足んねえじゃなく、まるでねえ。

 そういや、咲柚が言ってたな。
 ティッシュができたのは20世紀になってからだってよ。

 ティッシュがなければ綿で拭けばいいじゃない……って、海のど真ん中のどこに綿があるんだよ、マリー!

 つーか、さすがだな、俺。
 飯の心配する前にティッシュの心配するとは……腹減った。

「なあ、白鯨。オメー、この状態のままで魚獲れるか?」
「いえ、さすがに。何しろ、魚が水を掻く私から逃げているくらいですからね。餌があればともかく」

 餌か。

「んじゃ、撒き餌でもすっか」

 もうヤケクソだ。
 拭くモンなんていらねーや。海水でゆすげば済む話じゃねーかよ。

 俺は海に向かってチ○コを出し、久々に咲柚を想像しながらムスコをしごいた。
 すげえ解放感だぜ。
 最初は躊躇したが、今はこの海の支配者になった気分だ。

 海は広いぜ大きいぜ♪
 俺のチ○コはすぐ縮む♪

 ウワハハハ! 
 地母神リデリアめ、妊娠すんじゃねーぞ!
 






 ……ものの数分で、白鯨は俺製の撒き餌に寄って来た魚を手掴みしやがった。


 魚類、馬鹿過ぎんだろ。

 ともあれ、一石二鳥!


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