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突撃! あなたが晩ごはん
籠る男 2
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軟禁生活29年。
今までろくすっぽ外出などしたことないけれども、そんなあたしにも一張羅というものが一応はある。
白のフリル襟に鶯色のベルベット・ワンピース……
こんな昭和レトロ丸出しの服、一体誰が着るのよ?
靴もこれまた昭和チックな黒いエナメルのパンプスだし。
けれど、こんなのまだいい方。
普段着なんて昭和どころか江戸の雰囲気漂う黄八丈のおべべってどういうこと?
……お母様、御自身はとてもエレガントな着こなしでらっしゃったのに、どうしてきざみの服はこんなにもダサいの?
などと、他界したお母様に今更愚痴を漏らしても詮無きこと。
鶯のベルベット・ワンピースと黒のパンプス……このどうしようもない地味な配色に、あたしは差し色となる赤のセクシー・ブラポシェットをコーディネート。
いかが?
これで少しは街のおしゃれさんに近づけたかしらん。
丑の刻の深夜2時。
一張羅を纏ったあたしは1匹の黒猫に導かれ、ひんやりとした空気に浮かぶ孤高の月桂を浴びながら夜の街をひたすら突き進む。
こんな時間に幼女が一人だなんて物騒極まりないけれども、そこは大丈夫。
黒猫は猫目、ブラポシェットの中身は砂時計の砂翁、そしてあたしが小脇に抱える像印の炊飯器は空腹丸――いまいち頼りにならないけれども、それでも三妖怪があたしを守護しているんですもの。
特に猫目は人の気配を察する能力に長けているようだから、夜間を巡回する警察の方や、幼女誘拐を目論む変態さんに遭遇する心配は全くないのだそう。
……安心なのはいいけれど、ちょっぴり残念。
何故って?
だって、危険に晒される懼れもないと同時に、イケメンにナンパされる機会も奪われてしまったのだから。
イケメン……じゅるり。魅惑の響き。
来るべききざみの初夜は、是非ともイケメンにご指導を賜りたいものだわ。
不本意かつ不謹慎ながらドキドキする。
今からあたしが寿命を奪おうとする殿方は、果たしてどのような目鼻立ちなのかしらん?
時と場合によっては、今回の標的から外してもよくってよ。
だって、猫目は言ってたもの。
ニートなんていっぱいいるって。
あたしの目的はたった24杯の米齢時を食べる(貯める)こと……即ち標的はイケメンである必要なんてまるでないのだから。
先を行く猫目の四足がピタリと止まり、徐にこちらを振り返って「にゃあ」と鳴く。
どうやら着いたようね。
目の前の家はどうってことのない、至って普通の一軒家。
駐車場にはこの国を代表する白の大衆車、軒先に吊られた季節外れの風鈴が、秋風に吹かれて寂しくチリンと音を立てる。
午前中に偵察を済ませていた猫目の情報によれば、ここの家族構成は父・母・兄・妹の4人。
父は某食品メーカーの営業職で母はパート勤務、妹は高校受験を控えた大事な時期で、部活を引退後は塾通いと恋愛の板挟みで大変らしい。
順風満帆ではないにせよ、それでも彼らは社会から与えられた役割をそれなりにこなしていると言えよう。
問題は長兄。
聞くところによると、この男は一浪して苦労した末に漸く合格した私立大学をタダの一度も通ってないご様子。
父親にはシカト対応、母親には暴力を含む八つ当たり、そして妹には……あろうことか密かに恋心を抱いてるのですって。
何とまあ破廉恥な!
この男、典型的な内弁慶の穀潰し……どうしようもないクズね。
はっきり言って、これでよほどのイケメンでなければ生きてる価値などありゃしないわ。
とりあえず、会ってみないことには話にならない。
さりとて、男の部屋は2階で況して、こちらは不法侵入者の身。
ピンポンと呼び鈴を鳴らして威風堂々と面会するわけにもいかず。
ならば、直接2階へ向かえばよろしい。
ブラポシェットから砂時計を取り出し、あたしはシモベに命ずるの。
「砂翁、階段に変化なさい」
「畏まりですぢゃ」
瞬く間に砂時計の白砂はみすぼらしい脚立へと様変わり……
え、脚立ですって?
あたし、階段って言ったじゃないの、この耄碌ジジイ!
まあ、よろしくってよ。
これから間男よろしく忍び込もうってのに、デザイン性に優れた純白の螺旋階段を想像したあたしの方が間違っているのだわ。
だからと言って、脚立ってのもお粗末じゃなくて?
屋根の修繕に挑むDIY親父じゃあるまいし。
お尻がヒヤっとする。
嫌だわ。
もしも誰かに下から覗かれたら、おパンツが丸見えじゃないの。
小脇に炊飯器を抱えているため、片手でワンピースを抑えることもままならない。
"見せパン"ならまだしも……
――はッ!?
抜かったわ。
Iカップに憧れるあまり、今の今まで"下の勝負下着"って概念がまるで欠落していたじゃない。
さすがに、おパンツまでお母様のお下がりってわけにもいかないから新調するのが当然の流れなのでしょうけども、上がセクシーブラで下がウサちゃん柄ショーツではアンバランスにも程があるわね。
閑話休題。
丑の刻も過ぎようとしているのに、標的の部屋にはいまだ照明が煌々と射している。
引き籠りのくせに早く寝なさいよ。
電気代が勿体ないじゃない。
月明かりと間違えた金蚉じゃあるまいし、あなたは何のために光を欲するの?
窓に手を触れると、生意気にも鍵が掛かっている。
脚立を上ってきたお胸プリンプリンの喪服女、それに爺さんに戻った砂翁と目配せする。
窓の上部にあるスライド開閉式の換気口――そこもやはり閉まっていたのだけれども、細かな粒の集合体である砂翁はそんな僅かな隙間も見逃さない。
事も無げに侵入すると内鍵をこっそり開ける。
勿論、何かに夢中になっている男は、そんなことなど露知らず。
再び猫化した猫目が、砂翁の開けたスペースから第2の侵入。
「にゃあ」
そこには聞こえる筈もない猫の鳴き声……驚いて声を上げようとする男の口に、第3の侵入を遂げたあたしが間髪入れずに右腕をこれでもかと喉の奥まで突っ込んだ。
「……お静かに願います。"時間泥棒"です」
今までろくすっぽ外出などしたことないけれども、そんなあたしにも一張羅というものが一応はある。
白のフリル襟に鶯色のベルベット・ワンピース……
こんな昭和レトロ丸出しの服、一体誰が着るのよ?
靴もこれまた昭和チックな黒いエナメルのパンプスだし。
けれど、こんなのまだいい方。
普段着なんて昭和どころか江戸の雰囲気漂う黄八丈のおべべってどういうこと?
……お母様、御自身はとてもエレガントな着こなしでらっしゃったのに、どうしてきざみの服はこんなにもダサいの?
などと、他界したお母様に今更愚痴を漏らしても詮無きこと。
鶯のベルベット・ワンピースと黒のパンプス……このどうしようもない地味な配色に、あたしは差し色となる赤のセクシー・ブラポシェットをコーディネート。
いかが?
これで少しは街のおしゃれさんに近づけたかしらん。
丑の刻の深夜2時。
一張羅を纏ったあたしは1匹の黒猫に導かれ、ひんやりとした空気に浮かぶ孤高の月桂を浴びながら夜の街をひたすら突き進む。
こんな時間に幼女が一人だなんて物騒極まりないけれども、そこは大丈夫。
黒猫は猫目、ブラポシェットの中身は砂時計の砂翁、そしてあたしが小脇に抱える像印の炊飯器は空腹丸――いまいち頼りにならないけれども、それでも三妖怪があたしを守護しているんですもの。
特に猫目は人の気配を察する能力に長けているようだから、夜間を巡回する警察の方や、幼女誘拐を目論む変態さんに遭遇する心配は全くないのだそう。
……安心なのはいいけれど、ちょっぴり残念。
何故って?
だって、危険に晒される懼れもないと同時に、イケメンにナンパされる機会も奪われてしまったのだから。
イケメン……じゅるり。魅惑の響き。
来るべききざみの初夜は、是非ともイケメンにご指導を賜りたいものだわ。
不本意かつ不謹慎ながらドキドキする。
今からあたしが寿命を奪おうとする殿方は、果たしてどのような目鼻立ちなのかしらん?
時と場合によっては、今回の標的から外してもよくってよ。
だって、猫目は言ってたもの。
ニートなんていっぱいいるって。
あたしの目的はたった24杯の米齢時を食べる(貯める)こと……即ち標的はイケメンである必要なんてまるでないのだから。
先を行く猫目の四足がピタリと止まり、徐にこちらを振り返って「にゃあ」と鳴く。
どうやら着いたようね。
目の前の家はどうってことのない、至って普通の一軒家。
駐車場にはこの国を代表する白の大衆車、軒先に吊られた季節外れの風鈴が、秋風に吹かれて寂しくチリンと音を立てる。
午前中に偵察を済ませていた猫目の情報によれば、ここの家族構成は父・母・兄・妹の4人。
父は某食品メーカーの営業職で母はパート勤務、妹は高校受験を控えた大事な時期で、部活を引退後は塾通いと恋愛の板挟みで大変らしい。
順風満帆ではないにせよ、それでも彼らは社会から与えられた役割をそれなりにこなしていると言えよう。
問題は長兄。
聞くところによると、この男は一浪して苦労した末に漸く合格した私立大学をタダの一度も通ってないご様子。
父親にはシカト対応、母親には暴力を含む八つ当たり、そして妹には……あろうことか密かに恋心を抱いてるのですって。
何とまあ破廉恥な!
この男、典型的な内弁慶の穀潰し……どうしようもないクズね。
はっきり言って、これでよほどのイケメンでなければ生きてる価値などありゃしないわ。
とりあえず、会ってみないことには話にならない。
さりとて、男の部屋は2階で況して、こちらは不法侵入者の身。
ピンポンと呼び鈴を鳴らして威風堂々と面会するわけにもいかず。
ならば、直接2階へ向かえばよろしい。
ブラポシェットから砂時計を取り出し、あたしはシモベに命ずるの。
「砂翁、階段に変化なさい」
「畏まりですぢゃ」
瞬く間に砂時計の白砂はみすぼらしい脚立へと様変わり……
え、脚立ですって?
あたし、階段って言ったじゃないの、この耄碌ジジイ!
まあ、よろしくってよ。
これから間男よろしく忍び込もうってのに、デザイン性に優れた純白の螺旋階段を想像したあたしの方が間違っているのだわ。
だからと言って、脚立ってのもお粗末じゃなくて?
屋根の修繕に挑むDIY親父じゃあるまいし。
お尻がヒヤっとする。
嫌だわ。
もしも誰かに下から覗かれたら、おパンツが丸見えじゃないの。
小脇に炊飯器を抱えているため、片手でワンピースを抑えることもままならない。
"見せパン"ならまだしも……
――はッ!?
抜かったわ。
Iカップに憧れるあまり、今の今まで"下の勝負下着"って概念がまるで欠落していたじゃない。
さすがに、おパンツまでお母様のお下がりってわけにもいかないから新調するのが当然の流れなのでしょうけども、上がセクシーブラで下がウサちゃん柄ショーツではアンバランスにも程があるわね。
閑話休題。
丑の刻も過ぎようとしているのに、標的の部屋にはいまだ照明が煌々と射している。
引き籠りのくせに早く寝なさいよ。
電気代が勿体ないじゃない。
月明かりと間違えた金蚉じゃあるまいし、あなたは何のために光を欲するの?
窓に手を触れると、生意気にも鍵が掛かっている。
脚立を上ってきたお胸プリンプリンの喪服女、それに爺さんに戻った砂翁と目配せする。
窓の上部にあるスライド開閉式の換気口――そこもやはり閉まっていたのだけれども、細かな粒の集合体である砂翁はそんな僅かな隙間も見逃さない。
事も無げに侵入すると内鍵をこっそり開ける。
勿論、何かに夢中になっている男は、そんなことなど露知らず。
再び猫化した猫目が、砂翁の開けたスペースから第2の侵入。
「にゃあ」
そこには聞こえる筈もない猫の鳴き声……驚いて声を上げようとする男の口に、第3の侵入を遂げたあたしが間髪入れずに右腕をこれでもかと喉の奥まで突っ込んだ。
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