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無理矢理食べて、口から出すか?下から出るか?
打ち切り天狗と計算幼女
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「お母様、きざみから質問してもいいかしら?」
「あらあら、藪から棒にどうしたの?」
「ずっと気になっていたことがあったのです。"大人の事情"ってどういう意味なのか……差し支えなければ教えてくださいませんでしょうか?」
「それは漠然として難しいわね。そうだ、例え話で説明してあげるわ。昔ね、母がまだうーんと若かった頃、大好きなテレビアニメがあったのだけれど」
「当時、元号は昭和でございますわね?」
「当たり前です。そのアニメはイタズラをした子供の天狗が、人間界に逃れた108匹の妖怪を退治するという内容だったのだけれど」
「面白そう!」
「ええ、母も夢中になって観ていたわ。ところが、倒した妖怪はたったの30匹、全19話でアニメは矢庭に終了してしまったのよ。俗に言う"打ち切り"というやつね」
「まあ、どうして?」
「どうもこうもありません。きざみ、いいこと? これ以上の詮索は野暮なのです。これら全てをひっくるめた物が、あなたの知りたがっていた"大人の事情"というものなの」
そう言って、お母様はたわわなIカップをゆさゆさ揺らし笑っておられた。
あたしはその説明に釈然とせず、ただただお母様の豊満なお胸に釘付け…………
という夢を見た。
お懐かしいお母様のお胸……ではなく、お母様の教え。
今やきざみは分別ある立派なアラサー。
"大人の事情"がどんな意味なのかちゃんとわかっててよ。
でも、このタイミングであの夢を見たのには、ちゃんとした別の理由があることを悟るの。
アニメに於ける子天狗の妖怪討伐率
30÷108×100≒27.8%
次いで、あたしに課せられた米齢時のセーブ率
1÷24×100=4.17%
何よ、この差……比較にならない。
当時、"大人の事情"の意味がわからないあたしは、子天狗のことをただただ嘲笑っていた。
中途半端だって。
その報いね。
今にして、あたしはその子天狗にドヤ顔で嗤われているの。
だから、あんな夢を見させられたのだわ。
あたしが描いていた青写真、たった1杯の米齢時を貯めただけで水洗と共に去りぬ。
子天狗以上に中途半端極まりないと、我ながら思う。
"大人の事情"は理解できても、きざみの体は相も変わらず5歳児のままだもの。
屈辱のあの日以来、あたしは塞ぎ込みがちで何も食べてない。
お店なんて開ける気にもなれないわ。
あたしはお布団の中で、寝ても覚めてもよよと泣き伏す日々を繰り返している。……虚しい。
ええ、わかってるわよ。
こんな廃人みたいな生活を送っていては無意味だと。
それこそ、あたしが唯一米齢時を奪った(そして返却した)男と何ら変わらない引き籠りそのものじゃない。
それにね。
こうして愚図愚図していれば、それだけ皺寄せが自分に跳ね返ってくるのよ。
お布団からゴソゴソと取り出した懐中時計の蓋を開けて見てみれば、一番最初よりもその数字は着実に増えているし、今後も非情に時は刻んでいくのだから……。
それ即ち、あたしが食べなければならない米齢時だってことを深く肝に銘じなければならない。
今すぐ立ち上がれ! 布団から出よ!
根性論ではそれが正解。
ただ、あたしが今お布団から出たところで、一体何ができるというの?
夜の街に繰り出し標的から米齢時を奪ったところで、それは時間泥棒にはならない。
だって、あたしが排泄したらそれは全く無に帰するもの。
時間泥棒ではなく、差し詰めそれは"時間一時預かり"といったところかしら?
土台無理な話なのよ。
お茶碗24杯もの米齢時を、5歳児サイズの胃袋しか持たないあたしが体内に貯めておくだなんて。
それに。
今更だけれど、砂翁ったら「茶碗1膳分の米は約6500粒」だとさも当然のように言っていたけれども、それってあたしが愛用しているウサちゃん――子供茶碗での換算じゃなくってよ。
ウサちゃんお茶碗に6500粒は丼飯。それこそ『アニメ日本昔ばなし』に出て来る"白いおまんま食いてぇ盛り"なのよ?
カロリーにして実に235kcal。
ちなみに、1日あたり5歳児(女児)のエネルギー必要量は1250kcalなんですって。
それを一挙に丼飯24杯よ? 馬鹿じゃなくて?
235×24=5640
あらま。
計算してみると、強ち不可能とも言えなくないかしら?
いえ、そりゃ無謀だとは思うわよ。
無謀だとは思うけれども、桁外れでもないじゃない。
もっと天文学的数字が出てくると考えていたから、拍子抜けしちゃったわ。
これはこれで特訓次第ではどうにかなるんじゃなくって?
そうよ、諦めるのはまだ早くてよ!
肉体的ハンデはどうしようもない。
あたしは成長を止められているわけだから、胃袋だってどれだけ鍛えてもこのまんま。
その上で、5640kcalを摂取しなくてはならないのだから、正攻法でうまくいかないことをわかりきっている。
だからこそ知恵を絞らなくては……いいえ、それだけじゃない。
知恵は絞るだけじゃなく、"借りる"こともできるのよ。
さりとて、砂翁に頼るのは御免だわ。
あの砂タイマーが一番の知恵者なのは認めるとして、あたしはもはやあの爺さんを到底信用できないもの。
猫目?
ないわね、これも。
彼女の役目はあくまで標的の調達と、その無駄に大きいお胸に限られているし。
餅は餅屋
そうよ。お米のことは炊飯器に訊けばいいのだわ。
こうしちゃいられない!
何日かぶりにお布団から飛び出すと、あたしは勢いよく階段を下りてお台所へと向かうのだった。
「あらあら、藪から棒にどうしたの?」
「ずっと気になっていたことがあったのです。"大人の事情"ってどういう意味なのか……差し支えなければ教えてくださいませんでしょうか?」
「それは漠然として難しいわね。そうだ、例え話で説明してあげるわ。昔ね、母がまだうーんと若かった頃、大好きなテレビアニメがあったのだけれど」
「当時、元号は昭和でございますわね?」
「当たり前です。そのアニメはイタズラをした子供の天狗が、人間界に逃れた108匹の妖怪を退治するという内容だったのだけれど」
「面白そう!」
「ええ、母も夢中になって観ていたわ。ところが、倒した妖怪はたったの30匹、全19話でアニメは矢庭に終了してしまったのよ。俗に言う"打ち切り"というやつね」
「まあ、どうして?」
「どうもこうもありません。きざみ、いいこと? これ以上の詮索は野暮なのです。これら全てをひっくるめた物が、あなたの知りたがっていた"大人の事情"というものなの」
そう言って、お母様はたわわなIカップをゆさゆさ揺らし笑っておられた。
あたしはその説明に釈然とせず、ただただお母様の豊満なお胸に釘付け…………
という夢を見た。
お懐かしいお母様のお胸……ではなく、お母様の教え。
今やきざみは分別ある立派なアラサー。
"大人の事情"がどんな意味なのかちゃんとわかっててよ。
でも、このタイミングであの夢を見たのには、ちゃんとした別の理由があることを悟るの。
アニメに於ける子天狗の妖怪討伐率
30÷108×100≒27.8%
次いで、あたしに課せられた米齢時のセーブ率
1÷24×100=4.17%
何よ、この差……比較にならない。
当時、"大人の事情"の意味がわからないあたしは、子天狗のことをただただ嘲笑っていた。
中途半端だって。
その報いね。
今にして、あたしはその子天狗にドヤ顔で嗤われているの。
だから、あんな夢を見させられたのだわ。
あたしが描いていた青写真、たった1杯の米齢時を貯めただけで水洗と共に去りぬ。
子天狗以上に中途半端極まりないと、我ながら思う。
"大人の事情"は理解できても、きざみの体は相も変わらず5歳児のままだもの。
屈辱のあの日以来、あたしは塞ぎ込みがちで何も食べてない。
お店なんて開ける気にもなれないわ。
あたしはお布団の中で、寝ても覚めてもよよと泣き伏す日々を繰り返している。……虚しい。
ええ、わかってるわよ。
こんな廃人みたいな生活を送っていては無意味だと。
それこそ、あたしが唯一米齢時を奪った(そして返却した)男と何ら変わらない引き籠りそのものじゃない。
それにね。
こうして愚図愚図していれば、それだけ皺寄せが自分に跳ね返ってくるのよ。
お布団からゴソゴソと取り出した懐中時計の蓋を開けて見てみれば、一番最初よりもその数字は着実に増えているし、今後も非情に時は刻んでいくのだから……。
それ即ち、あたしが食べなければならない米齢時だってことを深く肝に銘じなければならない。
今すぐ立ち上がれ! 布団から出よ!
根性論ではそれが正解。
ただ、あたしが今お布団から出たところで、一体何ができるというの?
夜の街に繰り出し標的から米齢時を奪ったところで、それは時間泥棒にはならない。
だって、あたしが排泄したらそれは全く無に帰するもの。
時間泥棒ではなく、差し詰めそれは"時間一時預かり"といったところかしら?
土台無理な話なのよ。
お茶碗24杯もの米齢時を、5歳児サイズの胃袋しか持たないあたしが体内に貯めておくだなんて。
それに。
今更だけれど、砂翁ったら「茶碗1膳分の米は約6500粒」だとさも当然のように言っていたけれども、それってあたしが愛用しているウサちゃん――子供茶碗での換算じゃなくってよ。
ウサちゃんお茶碗に6500粒は丼飯。それこそ『アニメ日本昔ばなし』に出て来る"白いおまんま食いてぇ盛り"なのよ?
カロリーにして実に235kcal。
ちなみに、1日あたり5歳児(女児)のエネルギー必要量は1250kcalなんですって。
それを一挙に丼飯24杯よ? 馬鹿じゃなくて?
235×24=5640
あらま。
計算してみると、強ち不可能とも言えなくないかしら?
いえ、そりゃ無謀だとは思うわよ。
無謀だとは思うけれども、桁外れでもないじゃない。
もっと天文学的数字が出てくると考えていたから、拍子抜けしちゃったわ。
これはこれで特訓次第ではどうにかなるんじゃなくって?
そうよ、諦めるのはまだ早くてよ!
肉体的ハンデはどうしようもない。
あたしは成長を止められているわけだから、胃袋だってどれだけ鍛えてもこのまんま。
その上で、5640kcalを摂取しなくてはならないのだから、正攻法でうまくいかないことをわかりきっている。
だからこそ知恵を絞らなくては……いいえ、それだけじゃない。
知恵は絞るだけじゃなく、"借りる"こともできるのよ。
さりとて、砂翁に頼るのは御免だわ。
あの砂タイマーが一番の知恵者なのは認めるとして、あたしはもはやあの爺さんを到底信用できないもの。
猫目?
ないわね、これも。
彼女の役目はあくまで標的の調達と、その無駄に大きいお胸に限られているし。
餅は餅屋
そうよ。お米のことは炊飯器に訊けばいいのだわ。
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