きざみちゃん

よん

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無理矢理食べて、口から出すか?下から出るか?

空腹侍と満腹幼女

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 お台所に入ると、そこには既に先客がいたの。
 喪服姿の妙齢の女が食事の真っ最中。言うまでもなく、猫目の仮の姿。
 何だかこのねこ、しょっちゅう食べてる印象……。
 あたしは反射的にそのお胸へ手を伸ばそうとしたけれども、敵もさる者引っ掻くもの。
 毎回毎回ゴールドフィンガーの餌食になって堪るかとばかり、サっと身を翻して距離をとる。
 さすがは中身が猫、動きが俊敏だこと。
 ニヤリと笑んで、挑発の眼差しを投げる猫目。

「ようやく起きてきたね。かまってちゃんごっこはおしまいかい?」
「お黙りなさい。あなた、ほっぺに飯粒が沢山ついててよ。何てお行儀の悪い」
「いいんだよ。あたい、猫だもん」
「猫なのに、よくもそんな湯気ホカホカのごはんが食べられるわね。猫舌ではないのかしら?」
「当たり前さ。今は猫じゃないんでね」

 何なの、この(二重の意味での)二枚舌は?
 そう言いつつも、彼女が手にするお茶碗の中身は白米に鰹節の猫まんまだし。

畢竟ひっきょうするにあなた、猫を脱却できてないじゃないの」
「あたいのことはほっといて。それよりあんた、空腹丸に用があるんじゃないのかい?」

 女の勘、発動……筒抜けね。

「わかっているのなら、ちょいと席を外してくださる? あたし、彼にいろいろ相談したいことがあるものだから」
「どうしてさ? あたいがいると邪魔なのかい?」
「正確には、あなたのお胸がね。気になってしょうがないの」

 ならば……

 そう独りちた彼女は勢いよくホカホカ猫まんまを平らげるや否や、黒猫の姿へと早変わり。
 傍観者に徹するべく、椅子の上にちょこんと座るその様が何とも腹立たしい。

「ちょっと! いつまで炊飯器でを決め込んでいるのです? 早く姿を現して頂戴!」

 あたしはの側面をバンバンはたき、家電のまま"我関せず焉"を貫いている空腹丸に八つ当たりをする。

 すると、ようやく出て来た。
 ひょろ長い着流し姿の草食系。
 イケメンとブサイクを足して2で割ったようなどこにでもいる平凡な顔立ちの空腹丸が。
 消去法とはいえ、ほんの一時でもこんな彼をロマンスの対象として捉えていた自分自身を情けなく思う。

「腹減ったー、ひもじいー」
「久々の登場だというのに相変わらず冴えない殿方だこと。あなたってば、まるで餓鬼道の住人――無財餓鬼みたいね。けれども、それよ、それ! あたしが今まさに求めているのは」
「……?」
「首を傾げるのは余計です。ますます風邪をこじらせた蟷螂とうろうに見えてきたわ」
「腹減ったー、ひもじいー」
「それももうよろしい。空腹丸、あなたを超一流の炊飯器妖怪と見込んでお願い申し上げます。あなたの能力で、食べても食べてもおなかいっぱいにならないよう米齢時まいれいじを炊飯できないかしら?」
「はて……」

 懐手ルビの状態で沈思黙考に入る。
 邪魔してはいけないと、あたしも黙って彼の開口を待つ。

 暫しの静寂。
 伸びをして「くわー」っと大きなアクビをする呑気な猫目が羨ましい。
 本能だけで生きてるもの。
 生まれ変わったら、あたしも猫になりたい。
 瑣末なことで悩んでしまう人間よりさぞ幸せでしょうね。
 時々でいいから大きなお胸の女になって、大通りを我が物顔で闊歩できたら言うことなし……って、いやだ!
 あたしの憧れってまんま猫目じゃないの!
 冗談じゃないわとブンブンかぶりを振っていたら、ぽんと手を打つ空腹丸……何やら閃いたようね!

「何なの? 早く仰いな!」
「きざみ殿には覚悟がおありか?」
「勿論ですとも。お母様みたいなお胸になれるのならば何だって!」
「よい心掛けでござるな。拙者、餓鬼道の住人ではござらんが、空腹繋がりで餓鬼の友人がいるでござるよ」
「ふんふん、それで?」
「拙者が頼めば、きざみ殿も立派な餓鬼にしてもらえるでござる」
「は?」

 まさか、ここまで論点がズレているとは想定してなかったわ。

「……ちゃんと人の話を聞いてらした? 『食べても食べてもおなかいっぱいにならないよう米齢時まいれいじを炊飯できないか』ってお願いはどこにいったのよ?」
「きざみ殿は餓鬼化を望んでおったのでは?」
「あなた、馬鹿じゃなくて! あたしが膨らませたいのはお胸であって餓鬼みたく腹部ではないことよ!」
「なれど、晴れて餓鬼になった暁には、食べても食べても腹いっぱいにならん体が手に入るでござるよ?」
「餓鬼になった時点で地獄に堕ちて人生終わってるのよ! いいから餓鬼は除外なさい!」
あいかった。ならば、カロリーの低いお粥炊きは如何いかがか?」

 はううっ!?

「空腹丸! それって名案だわ……何て、このきざみが食いつくと思って?」
「何か不備でも?」
「不備だらけよ。同じ量の米齢時まいれいじをお粥にするのだから、それだけ水分も多めに摂らなければならないじゃないの。それを24杯だなんて、トイレへ行く前にまずお粥のシャワーが口から出てしまうわ」
「なるほど。水が余計でござったな。ならば、いっそ生米の状態で食うとか?」
「目でも悪いのかしら? あなた、このあたしを穀象虫こくぞうむしか何かに見えて?」
「とんでもござらん。ならば、今まで寝かせておいたとっておきの妙案をここで進言致そう」

 今度こそ期待していいのかしら……。
 何か壮大なネタ振りの気がしないでもないけれど、ここは思い切ってシモベを信用してみよう。

「では、聞かせてくださる? その妙案とやらを」
「うむ。きざみ殿、逆転の発想でござるよ。出したくないのならば、出口から入れるまで」

 で、出口?

 それってまさか……

「まずお粥をスポイトで吸い上げ、それを尻の穴に注入し」「今すぐ死んで遊ばせっ!」



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