スノードロップ

春夏冬 秋

文字の大きさ
上 下
3 / 3

仲間のおかげで…

しおりを挟む
中学最後の試合
私はスタートメンバーではなくベンチメンバーだった。自分で言うのは変だがそれなりにレギュラーで、実力もあった。そんな私に欠如していたのは…

1週間前、いつも通りみんなが帰ったあと自主練習をしていた。
今日の試合はどうだったのかを想像して自分のプレーに納得のいかないところをとことん指摘していく。それが試合後の恒例行事となっていた。

あとはこれができたらもっともっと点数を稼ぐことができたはず

その日は熱が入り過ぎていたのかもしれない。最後の大会はもうすぐでカウンドダウンは刻々と迫っていたから。
だから気付くなかったのかもしれない。
いや、気づいていたけど気づいてない振りをしていた。
そんな時に大事故が起きた。

ピシッ…

ジャンプから着地した時に鋭い痛みが膝に響いた。
私はその場で倒れてしまった。
幸いチームメイトがいてくれたおかげで大事にはならなかったが病院で急遽診察してもらうと

「スポーツをしていらっしゃいますよね」

ドクターは明らかに確信をもって言ってきた。
私は何故そのことを聞くかわからなかった。

「率直に申し上げます。膝を酷使したため、膝がボロボロな状態です。これ以上激しい運動をすると歩けなくなりますよ」

え?今何を言ったの。

私は何も考えることができず、もう1度聞き直すことができなかった。

親はなんとかなりませんか?お願いします!あと1週間くらいで大会があるんです。

無理です。これ以上やれば歩けなくなると言ったでしょう。

家族とドクターのやり取りが聞こえているはずなのに内容を理解することはできなかった。

家に帰ると、母は父にそのことを話す。

「そうか。で、お前はこれからどうするんだ。落ち込んでる暇なんてないぞ。エース。」

「ちょっとあなた。この子は…」

「でも、私にこれからできることなんてないよ。エースでも試合に出れなかったらただの観客だよ。どうすればいいんだろ。私、部活に出ていいのかな。」

どうしてもエースとしてチームのためにできることはもうないのだろうと思ってしまう。

「おい、エースを間違えてるんじゃないか?
エースだからこそ出来ることがある。コートでもベンチでもだ。お前はその立場から逃げるのか」

逃げたくない。仲間と一緒にいたい!

「いや!この怪我と向き合う。私にできることは少ないかもしれないけど、できることをチームのためにやりたい。」

「よく言った。それでこそ俺の娘だ」

お父さんは私にチームのためにできることをしろと教えてくれた。

次の日チームメイトとコーチに事情を話した。
みんな納得いかないという顔をしていたり、あるものは泣いていたりした。

ああ、私のために涙を流してくれるチームメイトなんだ。大切にしなきゃ。

それから1週間コーチとともに練習を指導していった。もっともっと勝ち進めるように、このチームともっと長い時間プレーしていられるように。

そして、勝ち進み準決勝を迎えた。
大きい体育館の中でお願いします!っと大きい声で挨拶をした。
私の胸にはコーチのマークがついており、ベンチで構えていた。

戦況は危ういといったところだった。前回優勝したところとの対戦だった。
点数を引き離されたら終わる。
そのことを全員が感じていたのか、1点差で追いかけるようにして点数を稼いでいた。
タイムにはコーチのもとで作戦会議。
私はコーチとして、エースとして、みんなの心が折れないように言葉を残す。
接戦と呼ばれるにはとてもしっくりくる試合だった。

ありがとうございました!

その言葉を最後にコートを出る。
結果、準決勝敗退。
コーチが生徒に声をかける。

「じゃあエース、最後に」

「はい、」

私は前にでる。まだ言うこともまとまっていない。でも、言いたいことはある。

「お疲れ様でした。コーチとしてはこの短い間で指摘したところを活かして戦うことができてました。とても成長速度が高いチームです。だからこそ、この場で試合ができたと思います。」

コーチとしての言葉は言い終えた。
あとは…

「チームメイトとしては、見ることしかできなくてごめん。エースなんて呼ばれるには程遠い存在なのに今までありがとう。」

私はやっぱり謝ることしかできなかった。
怪我と向き合うことはできてもチームのためにできたことは何一つなかった。
頭をさげるとチームメイトは

「エース、頭あげてよ。見ることしかできなかったんじゃない。あんたはみんなの精神支柱となってくれた。ここまでこれたのはみんなあんたのおかげ。怪我で嘆くこともなく指導してくれた。」

「そうそう、私たちはエースの意思を継いだの。だからこそここまできて、そして最後まで誇らしい戦いができた。」

「そうゆうこと、私たちは自力でここまできたわけじゃないの。あなたの意思と力でここまでこれた。」

と次々に言葉を放つ。

私はその言葉を聞いた瞬間泣き出してしまった。
今までチームメイトの前でどんなに辛くても泣いたことはなかった。

「ありがとう。本当にありがとう。私このチームでよかった。最高のチームだよ。こんなこと言うのもあれだけど…このチームで最後まで戦いたかったよ。」

涙声で本音を漏らす。

「「「それは私たちも同じだよ!」」」

最後の大会、最後のチーム、最後のチームメイトと抱きしめ合う。

今でもその最高のチームと飲みにいく。
会うたびにあの頃を思い出し、話すことが楽しみだから。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...