魔王と配下の英雄譚(修正版)

るちぇ。

文字の大きさ
39 / 44
第一章 英雄の序曲

第39話「閑話休題:すれ違いお姫様」

しおりを挟む
 カルマは御守りを手に、鼻歌を歌いながら村を練り歩く。その姿に村人の多くは度肝を抜かれていた。

「お……おい、今日は結婚式の予定でもあったか?」
「いや……聞いていないけど」

 純白のドレスに、ガーネットのティアラや指輪、ネックレスといった装飾品で身を飾っている。その美しさに目を奪われる者もいたが、その後ろを歩くアデルを見て危険と判断して身を引いていく。

「あぁ……もう取り返しの付かないところまで来ちゃった……」

 村人を救って貰った手前、断ることができず、アデルは頭を抱えながら必死に言い訳を考えていた。

「何か打つ手……この場を逆転できる起死回生の一手……」
「何をぶつくさ言っておるのじゃ?」
「い、いいえ! べ、別に何も?」

 やがてユウが滞在する家に着いたカルマは、取っ手に手をかけて止まる。その顔は真っ赤に染まり、手や膝が大きく震え出した。

「あ……あの、カルマさん?」
「ならぬ……開けられぬ……!」

 自分も住んでいる家だというのに、いざユウに告白するとなると恐れ多く、一方で将来を想像して興奮し、ごちゃ混ぜになった感情を処理できずにいたのだ。

「えっと、カルマさん。こんな所で止まっていたら……は!」

 アデルはこれを好機と見た。告白するためにはドアを開けなければならない。だが、カルマにはそれができない。このまま躊躇し身を引けば万事解決する。

「カルマさん、一度出直しましょう! このまま突撃しても大切な言葉を噛んでしまいますよ?」
「い……いや、今を逃せば二度目はあるまい! ここで決める……決めねばならぬ……!」
「でも、そのためにはドアを開けなければなりませんよ?」
「うぐ……それは……そうなのじゃが……体が震えて言う事を聞かぬ」

 アデルは閃く。引いて駄目ならば押せばいい。北風と太陽の童話のように、退いて欲しいならばその逆。押して押して、それができないと強く思わせれば良いのだと確信した。

「カルマさん! 今こそ決断の時です! いつまでも愚痴愚痴言っていてはなりません!」
「う……うむ、じゃが……」
「何を迷うのです!? その扉は楽園へ通ずる関門です! ここで行かずして、いつ行くのですか!?」
「し……しかしのう……」
「行きましょう、カルマさん! その先にある未来を見たくないんですか!?」
「み……見たい……!」
「さぁ、行きましょう! 手をかけ、力を込めて、一気に押すんです!」
「そ、そうじゃのう! やってやるしかないのう!」
「その意気です!」
「行くぞ!」
「はい! ……って、あれ?」

 完全に告白する流れになってしまったことに、アデルはようやく気が付いた。だが時すでに遅し。カルマは勢い良く扉を開け放ち粉々にした。

「ま……魔王様はお、おるかのう!?」

 リンゴのように赤い顔で、直立不動となり、全身を震わせながらカルマは叫ぶ。出て来た長月はその光景にたじろいだ。

「す……好きじゃ!」

 カルマは目を瞑り、顔を上げないままに大声でそう伝えた。長月に。

「か……カルマさん? えっと……また取り返しの付かないことになっていますよ?」
「よい! もう退路はいらぬ!」
「落ち着いて前を見ませんか?」
「見れぬ! 今その御顔を見たら心臓が止まるわ!」

 長月は困り果て、アデルに説明を求めた。

「これは一体、何事ですか?」
「えーと……その」
「結婚を申し込みに来たのじゃ!」
「はぁ……左様ですか」

 当然のように長月の隣には誰もいない。自分に言っているのだと思った長月は深い溜め息を吐いた。

「またそのようなお戯れを……」
「な……長月! この思いを否定するつもりかのう!?」
「い、いいえ……決して、そのようなことは」

 その場に立つ誰もが困惑する中、アデルがそっとカルマに耳打ちする。

「お願いですから、前を見て下さい。カルマさんは興奮するといつも大切な言葉がひとつ抜けてしまいます。だからその……長月さん、困っていますよ?」
「長月が……?」

 恐る恐るカルマが顔を上げ、目を開けるや否や、長月しかいないことを知る。そしてブーケを投げ付けると一目散に逃げ去って行った。

「わ……ワシは! ワシはもう駄目じゃぁ!!」
「か……カルマさん!? あの、長月さん! あの告白はユウさんに向けられたものです! カルマさんはとてもノーマルなので忘れてあげて下さい!」
「あぁ……なるほど、そうですか。安心しました」

 長月の安堵する顔を見てから、アデルはカルマを追いかけて走って行ったのだった。
 この後、カルマが立ち直るのに3日はかかったという。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...