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第一章 英雄の序曲
第39話「閑話休題:すれ違いお姫様」
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カルマは御守りを手に、鼻歌を歌いながら村を練り歩く。その姿に村人の多くは度肝を抜かれていた。
「お……おい、今日は結婚式の予定でもあったか?」
「いや……聞いていないけど」
純白のドレスに、ガーネットのティアラや指輪、ネックレスといった装飾品で身を飾っている。その美しさに目を奪われる者もいたが、その後ろを歩くアデルを見て危険と判断して身を引いていく。
「あぁ……もう取り返しの付かないところまで来ちゃった……」
村人を救って貰った手前、断ることができず、アデルは頭を抱えながら必死に言い訳を考えていた。
「何か打つ手……この場を逆転できる起死回生の一手……」
「何をぶつくさ言っておるのじゃ?」
「い、いいえ! べ、別に何も?」
やがてユウが滞在する家に着いたカルマは、取っ手に手をかけて止まる。その顔は真っ赤に染まり、手や膝が大きく震え出した。
「あ……あの、カルマさん?」
「ならぬ……開けられぬ……!」
自分も住んでいる家だというのに、いざユウに告白するとなると恐れ多く、一方で将来を想像して興奮し、ごちゃ混ぜになった感情を処理できずにいたのだ。
「えっと、カルマさん。こんな所で止まっていたら……は!」
アデルはこれを好機と見た。告白するためにはドアを開けなければならない。だが、カルマにはそれができない。このまま躊躇し身を引けば万事解決する。
「カルマさん、一度出直しましょう! このまま突撃しても大切な言葉を噛んでしまいますよ?」
「い……いや、今を逃せば二度目はあるまい! ここで決める……決めねばならぬ……!」
「でも、そのためにはドアを開けなければなりませんよ?」
「うぐ……それは……そうなのじゃが……体が震えて言う事を聞かぬ」
アデルは閃く。引いて駄目ならば押せばいい。北風と太陽の童話のように、退いて欲しいならばその逆。押して押して、それができないと強く思わせれば良いのだと確信した。
「カルマさん! 今こそ決断の時です! いつまでも愚痴愚痴言っていてはなりません!」
「う……うむ、じゃが……」
「何を迷うのです!? その扉は楽園へ通ずる関門です! ここで行かずして、いつ行くのですか!?」
「し……しかしのう……」
「行きましょう、カルマさん! その先にある未来を見たくないんですか!?」
「み……見たい……!」
「さぁ、行きましょう! 手をかけ、力を込めて、一気に押すんです!」
「そ、そうじゃのう! やってやるしかないのう!」
「その意気です!」
「行くぞ!」
「はい! ……って、あれ?」
完全に告白する流れになってしまったことに、アデルはようやく気が付いた。だが時すでに遅し。カルマは勢い良く扉を開け放ち粉々にした。
「ま……魔王様はお、おるかのう!?」
リンゴのように赤い顔で、直立不動となり、全身を震わせながらカルマは叫ぶ。出て来た長月はその光景にたじろいだ。
「す……好きじゃ!」
カルマは目を瞑り、顔を上げないままに大声でそう伝えた。長月に。
「か……カルマさん? えっと……また取り返しの付かないことになっていますよ?」
「よい! もう退路はいらぬ!」
「落ち着いて前を見ませんか?」
「見れぬ! 今その御顔を見たら心臓が止まるわ!」
長月は困り果て、アデルに説明を求めた。
「これは一体、何事ですか?」
「えーと……その」
「結婚を申し込みに来たのじゃ!」
「はぁ……左様ですか」
当然のように長月の隣には誰もいない。自分に言っているのだと思った長月は深い溜め息を吐いた。
「またそのようなお戯れを……」
「な……長月! この思いを否定するつもりかのう!?」
「い、いいえ……決して、そのようなことは」
その場に立つ誰もが困惑する中、アデルがそっとカルマに耳打ちする。
「お願いですから、前を見て下さい。カルマさんは興奮するといつも大切な言葉がひとつ抜けてしまいます。だからその……長月さん、困っていますよ?」
「長月が……?」
恐る恐るカルマが顔を上げ、目を開けるや否や、長月しかいないことを知る。そしてブーケを投げ付けると一目散に逃げ去って行った。
「わ……ワシは! ワシはもう駄目じゃぁ!!」
「か……カルマさん!? あの、長月さん! あの告白はユウさんに向けられたものです! カルマさんはとてもノーマルなので忘れてあげて下さい!」
「あぁ……なるほど、そうですか。安心しました」
長月の安堵する顔を見てから、アデルはカルマを追いかけて走って行ったのだった。
この後、カルマが立ち直るのに3日はかかったという。
「お……おい、今日は結婚式の予定でもあったか?」
「いや……聞いていないけど」
純白のドレスに、ガーネットのティアラや指輪、ネックレスといった装飾品で身を飾っている。その美しさに目を奪われる者もいたが、その後ろを歩くアデルを見て危険と判断して身を引いていく。
「あぁ……もう取り返しの付かないところまで来ちゃった……」
村人を救って貰った手前、断ることができず、アデルは頭を抱えながら必死に言い訳を考えていた。
「何か打つ手……この場を逆転できる起死回生の一手……」
「何をぶつくさ言っておるのじゃ?」
「い、いいえ! べ、別に何も?」
やがてユウが滞在する家に着いたカルマは、取っ手に手をかけて止まる。その顔は真っ赤に染まり、手や膝が大きく震え出した。
「あ……あの、カルマさん?」
「ならぬ……開けられぬ……!」
自分も住んでいる家だというのに、いざユウに告白するとなると恐れ多く、一方で将来を想像して興奮し、ごちゃ混ぜになった感情を処理できずにいたのだ。
「えっと、カルマさん。こんな所で止まっていたら……は!」
アデルはこれを好機と見た。告白するためにはドアを開けなければならない。だが、カルマにはそれができない。このまま躊躇し身を引けば万事解決する。
「カルマさん、一度出直しましょう! このまま突撃しても大切な言葉を噛んでしまいますよ?」
「い……いや、今を逃せば二度目はあるまい! ここで決める……決めねばならぬ……!」
「でも、そのためにはドアを開けなければなりませんよ?」
「うぐ……それは……そうなのじゃが……体が震えて言う事を聞かぬ」
アデルは閃く。引いて駄目ならば押せばいい。北風と太陽の童話のように、退いて欲しいならばその逆。押して押して、それができないと強く思わせれば良いのだと確信した。
「カルマさん! 今こそ決断の時です! いつまでも愚痴愚痴言っていてはなりません!」
「う……うむ、じゃが……」
「何を迷うのです!? その扉は楽園へ通ずる関門です! ここで行かずして、いつ行くのですか!?」
「し……しかしのう……」
「行きましょう、カルマさん! その先にある未来を見たくないんですか!?」
「み……見たい……!」
「さぁ、行きましょう! 手をかけ、力を込めて、一気に押すんです!」
「そ、そうじゃのう! やってやるしかないのう!」
「その意気です!」
「行くぞ!」
「はい! ……って、あれ?」
完全に告白する流れになってしまったことに、アデルはようやく気が付いた。だが時すでに遅し。カルマは勢い良く扉を開け放ち粉々にした。
「ま……魔王様はお、おるかのう!?」
リンゴのように赤い顔で、直立不動となり、全身を震わせながらカルマは叫ぶ。出て来た長月はその光景にたじろいだ。
「す……好きじゃ!」
カルマは目を瞑り、顔を上げないままに大声でそう伝えた。長月に。
「か……カルマさん? えっと……また取り返しの付かないことになっていますよ?」
「よい! もう退路はいらぬ!」
「落ち着いて前を見ませんか?」
「見れぬ! 今その御顔を見たら心臓が止まるわ!」
長月は困り果て、アデルに説明を求めた。
「これは一体、何事ですか?」
「えーと……その」
「結婚を申し込みに来たのじゃ!」
「はぁ……左様ですか」
当然のように長月の隣には誰もいない。自分に言っているのだと思った長月は深い溜め息を吐いた。
「またそのようなお戯れを……」
「な……長月! この思いを否定するつもりかのう!?」
「い、いいえ……決して、そのようなことは」
その場に立つ誰もが困惑する中、アデルがそっとカルマに耳打ちする。
「お願いですから、前を見て下さい。カルマさんは興奮するといつも大切な言葉がひとつ抜けてしまいます。だからその……長月さん、困っていますよ?」
「長月が……?」
恐る恐るカルマが顔を上げ、目を開けるや否や、長月しかいないことを知る。そしてブーケを投げ付けると一目散に逃げ去って行った。
「わ……ワシは! ワシはもう駄目じゃぁ!!」
「か……カルマさん!? あの、長月さん! あの告白はユウさんに向けられたものです! カルマさんはとてもノーマルなので忘れてあげて下さい!」
「あぁ……なるほど、そうですか。安心しました」
長月の安堵する顔を見てから、アデルはカルマを追いかけて走って行ったのだった。
この後、カルマが立ち直るのに3日はかかったという。
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