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1章 哀れな牧人
8、それしかないかもな……
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部屋の外から、ドタバタと大勢の人間が階段を上がる音が聞こえてきた。
「アンナさん!! 入りますよ」
誰かがドアの前で叫んだ。
次の瞬間には、ドアが乱暴にノックされ、何者かがドアノブを握った。
そして、カギがかかっていると知ると、男どもは躊躇うことなくドアを蹴破った。
ベッドに二人の姿がないのを確認すると、慌ててシャワールームの中に飛び込んできた。
男どもはシャワールームの床に広がった大量の血に目をやり、バスタブで身を寄せ合う二人を見た。
「アンナさんが腕を切ってる」
「ほら見ろ宿屋! トウセキの女がただの浮気のために宿に泊まるわけねえんだよ」
職人風の男が宿屋の主人を怒鳴りつけた。
「だが、部屋に通さなきゃ、俺にレイプされたって言うって言うんだ」
宿屋の主人が泣きそうな顔になる。
「良いから傷口を抑えろ、ドクターのところに運ぶぞ」
男どもはアンナの身体を抱え上げた。
鎖がチャリンと音を立て、ユーゴは引っ張られるように、腕を伸ばした。
「この野郎、手錠で繋がれてやがる」
「男は無事か」
「男なんかどうでもいい。宿屋、男を立たせろ。男も死んでるなら、お前がかつげ。歩けるようなら、二三発、どやしつけて歩かせろ」
「あの……胸元に鍵が――」
ユーゴが話そうとすると、場を仕切っていた職人風の男から拳が飛んできた。
「黙ってろ。クソガキが」
ユーゴは首根っこを掴まれ、引きずるように立たされた。
振り返って、シャワールームを見ると、血は思っていたよりも勢いよく噴き出し、シャワールームの壁や、部屋の外にまで飛び散っていた。
男どもはアンナをシャワールームから担ぎ出すと、蹴り破ったドア板に乗せて医者のとこに運び込んだ。
ユーゴは鎖でつながれたまま、宿屋の主人に小突かれながら後を追った。
ユーゴはドア板からこぼれ落ちた血が、干からびた地面に点々と後を残すのを陰鬱な表情で見つめていた。
◇
男どもは町の中心部にある医者の家までアンナを運ぶと、断りもせずに乱暴にドアを開けて中へと雪崩こんだ。
町で唯一の医者は診察室も待合室もない狭苦しい一間にいて、怪しげなビンの並ぶ棚の前で背を丸めて座っていた。
テーブルの端には医術、魔術、錬金術にまつわる分厚い本が積まれ、鉗子やメスといった原始的な治療器具がブリキのバケツに剥き出しのまま放り込まれている。
「ドクター」
「何があった?」
医者が顔をあげた。
「トウセキの女が宿屋で腕を切りやがった」
「台の上に乗せろ」
医者は慌てて立ち上がると、職人風の男に傷口を抑えるように言って、亜麻縄でアンナの腕をきつく縛った。
「手をどけて」
医者は職人風の男に傷口から手をどけるように言った。
「これは酷いな」
医者は言って顔をしかめた。
「ちょっと座らせてもらいますぜ。さっきから足の感覚がないんだ」
職人風の男は傷口から手をどけると、青い顔をして薬品棚の前の椅子に腰を下ろした。それからテーブルの上にあったタオルで勝手に手を拭きはじめた。
「酒場のゴロツキでも血が見れないのか?」
「この町に住んでる奴、全員が人殺しなわけじゃない」
宿屋の主人が言った。
「宿屋の言う通りだ。ふつう、他人の腕でもここまで切れねえよ」
そういって男どもは憐れむような視線をアンナに向けた。
医者はそれには返事をせず、薬品棚の前に立ち、薄汚れたビンを持って診察台に戻った。赤茶色の軟膏を傷口に塗りつけ、鉗子を使って不器用に傷口を縫いはじめた。
「助かりそうですか?」
「分からん」
「助けてもらわなくちゃあんたもあの世行きだ。町は火の海になる」
「私は助けることを考える。君たちは助からなかったときのことを考えておけ」
「これはどこの男だ?」
職人風の男は診察台の脇で呆然と立ち尽くすユーゴを指さした。
「知らん」
「コンラッドのところの厩番じゃないか?」
部屋の入り口に立っていた男が口を出した。
「本当か?」
「分からんが、午前中にロックヒルの前にいた」
「ああ、ロックヒルのオヤジ、コンラッドに馬を買い叩かれたってぼやいてたな」
「こいつを吊るし首にして、町の入り口に吊るしておくのはどうだ? トウセキもそれで納得してくれるかもしれん」
突拍子もないセリフにユーゴは目を見開いた。
「それしかないかもな……」
一同がその意見に賛同し、ユーゴはアヴィリオンが死の町であることを思い出した。
「アンナさん!! 入りますよ」
誰かがドアの前で叫んだ。
次の瞬間には、ドアが乱暴にノックされ、何者かがドアノブを握った。
そして、カギがかかっていると知ると、男どもは躊躇うことなくドアを蹴破った。
ベッドに二人の姿がないのを確認すると、慌ててシャワールームの中に飛び込んできた。
男どもはシャワールームの床に広がった大量の血に目をやり、バスタブで身を寄せ合う二人を見た。
「アンナさんが腕を切ってる」
「ほら見ろ宿屋! トウセキの女がただの浮気のために宿に泊まるわけねえんだよ」
職人風の男が宿屋の主人を怒鳴りつけた。
「だが、部屋に通さなきゃ、俺にレイプされたって言うって言うんだ」
宿屋の主人が泣きそうな顔になる。
「良いから傷口を抑えろ、ドクターのところに運ぶぞ」
男どもはアンナの身体を抱え上げた。
鎖がチャリンと音を立て、ユーゴは引っ張られるように、腕を伸ばした。
「この野郎、手錠で繋がれてやがる」
「男は無事か」
「男なんかどうでもいい。宿屋、男を立たせろ。男も死んでるなら、お前がかつげ。歩けるようなら、二三発、どやしつけて歩かせろ」
「あの……胸元に鍵が――」
ユーゴが話そうとすると、場を仕切っていた職人風の男から拳が飛んできた。
「黙ってろ。クソガキが」
ユーゴは首根っこを掴まれ、引きずるように立たされた。
振り返って、シャワールームを見ると、血は思っていたよりも勢いよく噴き出し、シャワールームの壁や、部屋の外にまで飛び散っていた。
男どもはアンナをシャワールームから担ぎ出すと、蹴り破ったドア板に乗せて医者のとこに運び込んだ。
ユーゴは鎖でつながれたまま、宿屋の主人に小突かれながら後を追った。
ユーゴはドア板からこぼれ落ちた血が、干からびた地面に点々と後を残すのを陰鬱な表情で見つめていた。
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男どもは町の中心部にある医者の家までアンナを運ぶと、断りもせずに乱暴にドアを開けて中へと雪崩こんだ。
町で唯一の医者は診察室も待合室もない狭苦しい一間にいて、怪しげなビンの並ぶ棚の前で背を丸めて座っていた。
テーブルの端には医術、魔術、錬金術にまつわる分厚い本が積まれ、鉗子やメスといった原始的な治療器具がブリキのバケツに剥き出しのまま放り込まれている。
「ドクター」
「何があった?」
医者が顔をあげた。
「トウセキの女が宿屋で腕を切りやがった」
「台の上に乗せろ」
医者は慌てて立ち上がると、職人風の男に傷口を抑えるように言って、亜麻縄でアンナの腕をきつく縛った。
「手をどけて」
医者は職人風の男に傷口から手をどけるように言った。
「これは酷いな」
医者は言って顔をしかめた。
「ちょっと座らせてもらいますぜ。さっきから足の感覚がないんだ」
職人風の男は傷口から手をどけると、青い顔をして薬品棚の前の椅子に腰を下ろした。それからテーブルの上にあったタオルで勝手に手を拭きはじめた。
「酒場のゴロツキでも血が見れないのか?」
「この町に住んでる奴、全員が人殺しなわけじゃない」
宿屋の主人が言った。
「宿屋の言う通りだ。ふつう、他人の腕でもここまで切れねえよ」
そういって男どもは憐れむような視線をアンナに向けた。
医者はそれには返事をせず、薬品棚の前に立ち、薄汚れたビンを持って診察台に戻った。赤茶色の軟膏を傷口に塗りつけ、鉗子を使って不器用に傷口を縫いはじめた。
「助かりそうですか?」
「分からん」
「助けてもらわなくちゃあんたもあの世行きだ。町は火の海になる」
「私は助けることを考える。君たちは助からなかったときのことを考えておけ」
「これはどこの男だ?」
職人風の男は診察台の脇で呆然と立ち尽くすユーゴを指さした。
「知らん」
「コンラッドのところの厩番じゃないか?」
部屋の入り口に立っていた男が口を出した。
「本当か?」
「分からんが、午前中にロックヒルの前にいた」
「ああ、ロックヒルのオヤジ、コンラッドに馬を買い叩かれたってぼやいてたな」
「こいつを吊るし首にして、町の入り口に吊るしておくのはどうだ? トウセキもそれで納得してくれるかもしれん」
突拍子もないセリフにユーゴは目を見開いた。
「それしかないかもな……」
一同がその意見に賛同し、ユーゴはアヴィリオンが死の町であることを思い出した。
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