異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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2章 二人の悪人

1、ココナッツのデュアメル

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「少しお眠りになった方がよろしいかと」

 時速六十キロで走る列車のVIP車両の中で、シノは一人だけ警戒を解かないジョーを気にかけていた。
 他の隊員はみな、術式歩兵銃を抱くようにして眠っており、また特別に輪胴式魔銃を好むものはガラス窓にもたれるようにして眠りこけている。
 いつ戦闘が開始されるか分からない状況で、無理にでも眠りにつく彼らの姿は頼もしかった。

「平気よ」
 ジョーは二人掛けの椅子に座り、まっすぐと前を見つめていた。
「しかし、ジョー様はあまりにも……気を張りすぎていらっしゃる」
「こまめに休んでいるわ」
「長丁場になります」
「はじまってしまえば一瞬よ」
 ジョーはまったく聞く耳を持とうとせず、シノは困ったように首をさすった。

「隊長の言う通りですよ。眠るべきときに眠れるのも能力のうちだ。うちの隊では狙撃の腕が上手いとか、馬の扱いが上手いなんてのはほとんど評価されない。うちは一流が揃ってますからね。結局差がつくのはそういうところなんだ。寝ろと言われれば、一瞬で眠りにつき、起きろと言われれば、すぐさま目を覚ます」
 ズレかかった鉄兜の中で眠っていたデュアメルが、鉄兜をなおしながら言った。
「そういうことです、ジョー様。我々はしかるべきにきちんと睡眠をとっておかなくてはいけません」

 思わぬ助け舟にシノは力強く頷いた。

「他の人だって眠ってなかったわよ。誰だったか、ずっと修道院の被害について噂してたじゃない」
 ジョーはいたずらっぽい少女のような口調で言った。
 昨夜、近くの修道院がドラゴンによって焼き尽くされたといううわさがあり、そのことについて話題は持ちきりだった。
 なんでもこの辺境の土地に一つしかないという修道院がドラゴンの襲撃に遭い、建物は焼き尽くされ、多くの修道士が犠牲になった。

「ほら、やっぱりジョー様は一度も寝ていらっしゃらない」
「まあ、イノシシ猟に行って三日間戻らなかったハンバーグ・ジョーのことだ。一日二日寝なくてもなんともございませんでしょうがね、ヘルメットは被った方がよろしいですよ。こんなのに出張ってきて死にゃつまらんでしょう」
 デュアメルは言って、アイアン・ヘルムを指さした。

 真っ赤なドレスといったジョーの服装は、デュアメルの信条にはそぐわないようだ。

 胸部にはチェストプレート、手甲、レンジャーブーツと最低限の装備は整えているが、頭部はむき出しのままで、かえって的になりそうな金色のリボンで髪をまとめている。

 一方、デュアメルはつま先から頭のてっぺんまでギラギラに輝く甲冑を身に着けており、それは威力騎馬隊においてはいささか過剰装備と考えられていた。

「厚さ五ミリの鉄板で弾が弾けやしないわ」

 ジョーが言った。

「それが間違いなんですよ。垂直に着弾すれば、五ミリには違いありませんがね、斜めに着弾すれば、厚さは一センチにも二センチにもなる。着弾の瞬間にこう首をひねって、角度をつけて跳ね返すのがプロの技だ」

 デュアメルは軽く握った拳を弾丸に見立て自分のヘルムにぶつけた。その瞬間に首をひねって、拳を右側に反発させる。

「本当かしら。シノはどう思う?」

 ジョーは半笑いになってシノに話を向けた。
「デュアメルはやりますよ」
「嘘!? シノまで……」
「ジョー様、俺のあだ名をご存じでしょう」

 一つ後ろの座席に座っていたデュアメルがついに立ち上がって、ジョーの座席を掴んだ。それはジョーの身分を考えれば畏れ多い振る舞いだったが、シノは注意しなかった。
 ジョーも無礼を咎めるでもなく話を続ける。

「ココ・デュアメルでしょ?」

 ジョーが言うと、隣で聞いていたシノは思わず笑みをこぼした。
 この怪力無双の騎馬兵がココナッツのデュアメルなどと、異国の果実を二つ名に持つのがおかしく、何度聞いてもシノは失笑してしまう。

「そうだ。俺がココ・デュアメルなんてマヌケなあだ名に甘んじてるのはですね、こいつの防御力を信用してるからだ。こいつは絶対に弾を通さない」

 デュアメルのアイアンヘルムは王都の職人に特別に作らせたものだ。
 現在主流の角張ったモデルではなく、全体的にゆるい丸みを帯びて、ココナッツの実をすっぽりと被ったようなデザインになっている。

 デュアメルはこの微妙な曲線が弾を垂直に着弾するのを防ぎ、貫通までに必要な距離稼いでくれると信じていた。

「ふーん、そんなもんかしら」
「ただし、見えるところから一発だけ飛んでくるのなら。敵味方入り乱れて戦えば、そうはいかないでしょう」
 シノはそう付け加えた。
 シノはどちらかと言えばジョーの装備に近かった。プレートをしているのは胸部だけで、通気性を重視した綿のズボンと運動性にすぐれたブーツを履いている。
 シノの思想は弾をあてさせないことにあり、ツバの広いハットと風をはらんで大きく広がるマントが体のラインを隠している。
 マントやハットに弾の貫通した後がいくつかあることを考えれば、実際の体より何倍も大きく見えることはかえって、狙撃手の腕を鈍らせるようだ。

「シノちゃんの言う通りだにぃ。わたしは前の戦争に参加したけど、一発食らえば、それがどこでも死にかねないに。的の小さい頭だけ守ってもしょうがない。視界と動きが鈍るだけだから、そんな小さい的にこだわるのは非効率だに」

 デュアメルの隣で眠っていたレナが目を覚ました。
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