13 / 71
2章 二人の悪人
4、その言葉を言い終える前に、シノは動いた
しおりを挟むヴァスケイルで異常な密度の龍鉱石が採取されたことは、先週あたりから大きな噂になっていた。
龍鉱石はその名の通り、龍脈から採掘できる特殊な石で、言い伝えでは龍を封印することができるという。
その言い伝えを確かめた者はいないが、強いエネルギーを秘めているのは確かで、それゆえ魔導士たちにとっては巨大な動力源として高値で取引された。
その龍鉱石の中でも他に類を見ないほどの上物が採掘されたのだという。
龍鉱石は冒険者ギルドで厳格に保管され、数日のうちに列車でベルナードに運ばれることになっていた。
トウセキは列車を襲うに際して、最重要と思しき獲物は必ず自身が持ち歩くことにしている。
トウセキは龍鉱石を自分の目で確かめるために、必ずこの車両に乗り込んでくるはず。
そこをシノ率いる威力騎馬隊第十七隊が捕獲する算段だった。
「こ、降伏だ。降伏する!!」
外で誰かがそう叫び、ひときわ大きな馬に乗った巨漢に向かって銃を放った。
その瞬間、銃声は一斉に止み、不気味な静けさの中、降伏を宣言した者たちが緩慢な動きで列車から姿を現す。
「バカ野郎……」
デュアメルはココナッツヘルムをゴンッと殴りつけた。
デュアメルは背を低く保ちながら、トウセキの姿を確認した。
トウセキはたっぷり間を取り、降伏者が一人、また一人と続くのを待った。
そして、それ以上降伏するものがいないと確認すると、隣で二丁拳銃を構えるダンと呼ばれる若者に視線を送った。
「撃て」
ダンの冷酷な声とともに、群盗は無防備な男たちに一斉に引き金を引いた。
降伏を申し出た冒険者たちが無防備のままハチの巣にされていく。
銃弾が衣服を食い破る音とともに、血煙が舞う。
列車の中にまで血の匂いが立ち込める。
「シノ、今なら助けられるけど?」
ジョーが車両の中を這うように近づいてくると、ガントレットに覆われた手の甲を指さした。
そこには貴族の家系がそれぞれに持つ独自の呪印が施されている。ジョーが回復魔法の類を使用したがっているのだとわかった。
「いや、今俺たちがいることを知られるわけにはいかない」
「じゃあ、見殺しにするわけね?」
「彼らも覚悟していた」
「降伏するくらいなら、一目散に逃げればよかったんだ」
「にしても無駄死には虚しいに」
レナが暗い表情で囁いた。
「無駄死にとは言えんかもな」
シノは言って、運転室の屋根に視線をやった。
ぐらぐら・ウィリーがいつの間にか屋根の上にあがっており、這いつくばるようにして銃を構えている。
そして、ぶるぶると震える指を引き金の用心鉄の中に挿し入れ、狙いを定めて射撃した。
ドンッ。
列車全体に振動が伝わり、デュアメルは顔をあげて外の様子をうかがった。
ぐらぐら・ウィリーが撃った弾はトウセキの肩をかすめ、彼が愛用していた毛衣の熊毛をわずかに散らしただけだった。
「屋根の上だ!!」
ダンがウィリーを指さし、一斉に射撃が始まった。
「おっかねえ……」
ウィリーは悲鳴をあげながら、転げ落ち、射線を切るように連結部に身を縮めた。
盗賊の馬が姿を見せると、車両の影へと慌てて逃げ込んだ。
蹄の音がすぐそこまで迫る。
咄嗟にデュアメルは動いてしまった。
「ジジイ、こっちだ」
列車の窓を開けると、ウィリーに手を伸ばした。
ぐらぐら・ウィリーは突然背後から首根っこを掴まれ、奇妙な体勢のまま体を縮めた。
窓に肘や頭をぶつけながら、車両の床にたたきつけられた。
「すまねえな」
ぐらぐら・ウィリーはぶるぶる震える手で額の汗を拭った。
そして、ズボンの尻ポケットに入れた酒ビンの栓を震える手で抜き始めた。
「こんなときに飲むつもりか?」
「黙れ。身を潜めて、静かにしてるんだ」
シノは言い、座席の影に二人を押し込んだ。
VIP車両、側面のドアが開き、斥候に使わされた男が中に入ってきた。
その人物は車両の中に人影が見えないことを確認すると、目の前に大きく張り出したVIP専用の個室の扉を開け、中で木箱を抱く鉄道会社の社員を見下した。
「中に護衛はいないのか?」
「全員、逃げるか死ぬかしたよ。まったく使えんやつらだ」
鉄道会社の幹部は震える声で言い、斥候の男は頷いて車両の外に顔を出した。
「トウセキ様、殲滅完了です」
ひときわ大きい馬に乗った、ひときわ大きい男が頷いた。
トウセキは馬を降り、取り巻きの群盗に向かって言った。
「良いか? 龍鉱石は俺が預かる。それ以外は何をとっても構わんが、十五分で出発するぞ」
トウセキは列車のドアに視線をやり、窮屈そうにかがんで中に入った。
斥候にやった男がそうしたように、鉄道会社の社員に近づいた。
「今日は一段と賞金稼ぎが多かったようだな」
「賞金稼ぎじゃない。冒険者だ。正式にギルドに発注して、集まって貰ったんだが……」
「よくも雑魚ばかり集めたもんだ。その箱を寄こせ」
鉄道会社の社員は埃まみれの制服で汗をぬぐった。
「お前たちには無用の長物だ。魔法は使えんのだろう?」
「あんたが心配することじゃない」
「しかし、これは……」
「あんたはただの社員だろう? それを寄こして、毎月の給料を今まで通り貰えばいい。死んだらつまらないだろ?」
鉄道会社の社員は諦めたようにトウセキに木箱を渡した。
トウセキはそれを開けた。
中には藁が敷いてあり、そこに紫色に光る石が一つ。龍の目玉を思わせる丸い石で、よほど純度が高いのか下の藁が透き通って見える。
トウセキは手の中で龍鉱石を転がし、その物質が発する不思議なぬくもりを確かめた。
トウセキは列車の外に控えた群盗に向かって叫んだ。
「よし、次はお前たちの番だぞ」
その言葉を言い終える前に、シノは動いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる