12 / 71
2章 二人の悪人
3、ほうら、ヘルメットがいっただろう
しおりを挟む
「いたいにっ!」
立ち上がっていたレナが車両の前まで吹っ飛んでいき、壁にぶつかって悲鳴をあげた。
デュアメルはレナに近づいていく。
頭を押さえてうずくまる彼女を心配するのかと思いきや、「ほうら、ヘルメットがいっただろう」と勝ち誇ったように言ってのけた。
車掌室から鉄道会社の社員が飛び出してきて、扉を開けて中を覗いてきた。
「大丈夫かね?」
「ああ、何があった?」
デュアメルが応じた。
シノはデュアメルに対応を任せ、事の成り行きを見守っていた。
「線路上に障害物が置かれていてな」
「障害物? 爆弾か?」
「分からん。今、ぐらぐら・ウィリーが様子を見に行っている」
「例の賞金稼ぎのジイさんか。大丈夫なのか?」
「大丈夫なもんか。一晩中飲んでたんだ」
鉄道会社の社員が顔をしかめたと同時に、前方でぐらぐら・ウィリーの耳につくだみ声が聞こえてきた。
「おーい、誰か、来てくれえ。子どもが杭に縛りつけられてるんじゃがな、手が震えてようほどけん」
深刻な状況とは裏腹にぐらぐら・ウィリーの声は間延びして、呂律がまわっていなかった。
「今行く」
鉄道会社の社員がそれに応じ、列車から飛び降りてぐらぐら・ウィリーのもとに向かった。
「のんきな爺さんだぜ」
デュアメルはため息をつき、
シノは舌打ちを堪えて立ち上がった。車両前方まで進みのデュアメルとレナに合流した。
「分かってるな?」
「ええ」
デュアメルが深刻な表情で頷いた。
ドドドドドドドドッ――
北方の丘から地鳴りが聞こえてきたのはそのときだった。デュアメルは窓を斜めに覗き込み、北方から群盗が馬を駆って突進してくるのを確認した。
「襲撃じゃ、襲撃じゃぞ!」
ぐらぐら・ウィリーはそう叫ぶと、子どもを杭から外すのを諦めて列車の中に飛び込んでいった。
「持ち場につけ」
シノの命令で威力騎馬隊の面々は背を低くして、座席の陰に息を潜ませた。デュアメルは窓から外の様子をうかがい続けた。
鉄道会社が雇った賞金稼ぎの連中が、乗員用車両から飛び出してきて、列車を陰に左右に展開するのが見えた。
ぐらぐら・ウィリーは有蓋車の上から迎撃するつもりだろう。
連結部の柵に足をかけ屋根の上にあがろうとしている。
ぐらぐら・ウィリーの酔い方は並大抵ではないらしく、柵から足を滑らせては、乗員用車両にしがみついている。
シノは誰かが手を貸してやるべきかとも思ったが、今、騎馬隊の面々を外に出すわけにはいかなかった。
ぐらぐら・ウィリーが天井に登らないうちに銃撃戦は始まった。
世界は音に包まれ、地獄のような時間が始まった。
「うおおおおおおおおおおおおお」
群盗は異常な高揚感をみなぎらせて、場違いな歓声をあげている。
銃声が飛び交う。
銃弾が車体にあたっては金属同士のぶつかる乾いた高音が響き渡る。
銃声は次第に近くなり、どちらの陣営かは分からないが、被弾した人間の痛ましいうめき声が混じり始める。
やがて群盗の騎馬が列車の周りを駆けまわるようになり、包囲された賞金稼ぎが一人、また一人と撃ち殺されていく。
デュアメルは目を血走らせてその光景を見ていた。
「隊長、俺たちもうってでましょう」
賞金稼ぎたちは予想以上に弱く、群盗は恐れ知らずの強さを見せた。
「いや、作戦通りに行動する」
シノは淡々と言った。
「しかし、それじゃあ、彼らは全滅ですよ」
「そういう取り決めだったはずだ」
「やつらは分かってなかったんだ。トウセキの恐ろしさを」
「いいや、分かっていた。少なくともぐらぐら・ウィリーはな」
「酔っ払いのじいさんが何ができるって言うんです?」
「さあな。どっちにしてもそういう取り決めだったはずだ」
シノはこの地に派遣され、手始めにもっとも被害を受けていたベルナード・ヴァスケイル間を走る列車の護送を申し出た。
列車の中で待機し、襲撃にきた群盗を返り討ちにし、そのままトウセキを捕獲する作戦だった。
しかし、鉄道会社が自前で雇った賞金稼ぎの連中、主に冒険者や、この地の血気盛んな若者がこの作戦に不平を漏らし始めた。
自分たちはこの列車を護送し、トウセキを打ち負かすことで報酬を得ることになっている。それを横取りされては困ると。
シノは連中を仕切っていた冒険者の一人と協議し、トウセキが現れれば彼らがはじめに対処すると取り決めをかわした。
群盗を退却させることができれば、そこからシノたちがトウセキを追跡する。
彼らを打ち負かすことができなければ、座席に身を潜めていた討伐隊が、トウセキを捕獲する。
この車両にはVIP専用の個室があり、その中で鉄道会社の社員が高密度の龍鉱石を抱えて座っている。
トウセキもそれを知らないはずはなく、この列車が襲われることは明らかだった。
立ち上がっていたレナが車両の前まで吹っ飛んでいき、壁にぶつかって悲鳴をあげた。
デュアメルはレナに近づいていく。
頭を押さえてうずくまる彼女を心配するのかと思いきや、「ほうら、ヘルメットがいっただろう」と勝ち誇ったように言ってのけた。
車掌室から鉄道会社の社員が飛び出してきて、扉を開けて中を覗いてきた。
「大丈夫かね?」
「ああ、何があった?」
デュアメルが応じた。
シノはデュアメルに対応を任せ、事の成り行きを見守っていた。
「線路上に障害物が置かれていてな」
「障害物? 爆弾か?」
「分からん。今、ぐらぐら・ウィリーが様子を見に行っている」
「例の賞金稼ぎのジイさんか。大丈夫なのか?」
「大丈夫なもんか。一晩中飲んでたんだ」
鉄道会社の社員が顔をしかめたと同時に、前方でぐらぐら・ウィリーの耳につくだみ声が聞こえてきた。
「おーい、誰か、来てくれえ。子どもが杭に縛りつけられてるんじゃがな、手が震えてようほどけん」
深刻な状況とは裏腹にぐらぐら・ウィリーの声は間延びして、呂律がまわっていなかった。
「今行く」
鉄道会社の社員がそれに応じ、列車から飛び降りてぐらぐら・ウィリーのもとに向かった。
「のんきな爺さんだぜ」
デュアメルはため息をつき、
シノは舌打ちを堪えて立ち上がった。車両前方まで進みのデュアメルとレナに合流した。
「分かってるな?」
「ええ」
デュアメルが深刻な表情で頷いた。
ドドドドドドドドッ――
北方の丘から地鳴りが聞こえてきたのはそのときだった。デュアメルは窓を斜めに覗き込み、北方から群盗が馬を駆って突進してくるのを確認した。
「襲撃じゃ、襲撃じゃぞ!」
ぐらぐら・ウィリーはそう叫ぶと、子どもを杭から外すのを諦めて列車の中に飛び込んでいった。
「持ち場につけ」
シノの命令で威力騎馬隊の面々は背を低くして、座席の陰に息を潜ませた。デュアメルは窓から外の様子をうかがい続けた。
鉄道会社が雇った賞金稼ぎの連中が、乗員用車両から飛び出してきて、列車を陰に左右に展開するのが見えた。
ぐらぐら・ウィリーは有蓋車の上から迎撃するつもりだろう。
連結部の柵に足をかけ屋根の上にあがろうとしている。
ぐらぐら・ウィリーの酔い方は並大抵ではないらしく、柵から足を滑らせては、乗員用車両にしがみついている。
シノは誰かが手を貸してやるべきかとも思ったが、今、騎馬隊の面々を外に出すわけにはいかなかった。
ぐらぐら・ウィリーが天井に登らないうちに銃撃戦は始まった。
世界は音に包まれ、地獄のような時間が始まった。
「うおおおおおおおおおおおおお」
群盗は異常な高揚感をみなぎらせて、場違いな歓声をあげている。
銃声が飛び交う。
銃弾が車体にあたっては金属同士のぶつかる乾いた高音が響き渡る。
銃声は次第に近くなり、どちらの陣営かは分からないが、被弾した人間の痛ましいうめき声が混じり始める。
やがて群盗の騎馬が列車の周りを駆けまわるようになり、包囲された賞金稼ぎが一人、また一人と撃ち殺されていく。
デュアメルは目を血走らせてその光景を見ていた。
「隊長、俺たちもうってでましょう」
賞金稼ぎたちは予想以上に弱く、群盗は恐れ知らずの強さを見せた。
「いや、作戦通りに行動する」
シノは淡々と言った。
「しかし、それじゃあ、彼らは全滅ですよ」
「そういう取り決めだったはずだ」
「やつらは分かってなかったんだ。トウセキの恐ろしさを」
「いいや、分かっていた。少なくともぐらぐら・ウィリーはな」
「酔っ払いのじいさんが何ができるって言うんです?」
「さあな。どっちにしてもそういう取り決めだったはずだ」
シノはこの地に派遣され、手始めにもっとも被害を受けていたベルナード・ヴァスケイル間を走る列車の護送を申し出た。
列車の中で待機し、襲撃にきた群盗を返り討ちにし、そのままトウセキを捕獲する作戦だった。
しかし、鉄道会社が自前で雇った賞金稼ぎの連中、主に冒険者や、この地の血気盛んな若者がこの作戦に不平を漏らし始めた。
自分たちはこの列車を護送し、トウセキを打ち負かすことで報酬を得ることになっている。それを横取りされては困ると。
シノは連中を仕切っていた冒険者の一人と協議し、トウセキが現れれば彼らがはじめに対処すると取り決めをかわした。
群盗を退却させることができれば、そこからシノたちがトウセキを追跡する。
彼らを打ち負かすことができなければ、座席に身を潜めていた討伐隊が、トウセキを捕獲する。
この車両にはVIP専用の個室があり、その中で鉄道会社の社員が高密度の龍鉱石を抱えて座っている。
トウセキもそれを知らないはずはなく、この列車が襲われることは明らかだった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる