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3章 荒野の麗人
10、お姉ちゃんレナ
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シノらが一頭のブタと、新たな囚人を連れて帰ったことに、レナとデュアメルは適応できないでいた。
威力騎馬隊はその性質上、柔軟な対応力が求められる。偵察、奇襲、敵地での破壊工作と不確定要素の多い任務をこなす必要があるからだ。
そんな彼らでさえブタの登場は意外すぎだようだ。
「隊長、この間抜けな生き物をどうするんですか?」
デュアメルはアントンの頭を指で突いた。
「言っただろう。ベルナードまで一緒に連れていく」
「こっちの男の子はなんだに? こんないたいけな少年に手錠をして、最初に隊長がその子を連れて現れたとき、レナはてっきり隊長のあっちの奴隷かと思ったに」
「こいつも囚人だ。甘やかすんじゃないぞ」
シノの言葉にレナはぶんぶんと首を振った。
「えー!! あり得ないに。レナは分かるに、こんなかわいい少年が悪いことをするわけないに。少年、なにがあったか言ってみな。お姉ちゃんがちゃんとおうちまで帰してあげるに」
レナは庇護欲を掻き立てられるようで、ユーゴの後ろから抱き寄せ、しきりに頭を撫でている。
「また始まったぜ」
「む? デュアメル、またってなんだに?」
「お前は、すぐガキをかわいがろうとするもんな。お姉ちゃん気取りで」
「お姉ちゃん気取りなんかじゃないに!! レナは年上の女性として、困ってる子どもがいたら助けたいだけだに」
「チビなくせに」
「んが!! 身長は関係ないに!! 身体は小さくても心はお姉ちゃんだに!」
レナはチビと聞くなり、ネコのように目を怒らせた。体が小さいことは戦闘には有利だが、お姉ちゃんとして、威厳がないことが気になるらしい。
「それをお姉ちゃん気取りって言うんだよ」
「だって、かわいそうだに!! こんな少年がわざわざベルナードまで連れて行かれるほどの悪事を働くわけないに。きっと冤罪に。だから、レナがよく話をきいて、周りの大人たちを説得してあげるに」
「シノの言ってることは本当よ。この子は一応、裁判を受けることになってるの」
「む、ジョー様が言うならそうなんでしょうけど、レナはやっぱりこの子にそんな扱いはできない。少年、何歳だに?」
「十三です」
「十三……これはヤバいに……犯罪だに……十三の少年を手錠でつないで縄で引きまわすなんて……レナ、なんか今ときめきを感じてるに」
レナは物憂げな表情で下を向くユーゴにごくりとつばを飲み込んだ。
「犯罪なのはお前だ。レナ」
「少年、今夜はお姉ちゃんと一緒に寝るに」
「ふざけるのもいい加減にしろよ」
シノは厳しい口調で言った。
アンナのことが気にかかり、冗談口をきく気分ではなかった。
この町を出る前に看病に行けるか?
シノは今後の予定を立て、医者の家に立ち寄る時間があるか考えた。
夜になると医者も眠っているだろう。となると、今から行くか、夕食後慌てて医者の家に向かうしかない。
そんなことを考えていると、一刻も早くこのくだらない言い争いを終わらせるべきだと思った。
「レナ、子どもに優しいのは悪いことじゃないが、ふざけてる場合かどうかよく考えろ。それともお前は、本気でこの男と一緒に寝るつもりなのか?」
「べ、べつに変な意味で言ったわけじゃないに!! だって、きっと心細いに! こんな目に合って、今だってめちゃくちゃ戸惑ってるに!」
レナは顔を赤くして、ぶんぶんと手を振った。
「心細いくらいなんだ。自業自得だろう」
「いいか?」
シノは全員に言い含めるように言った。
「騎士団として、囚人に対しては適切な対応を求める。裁判が必要なら全員、ベルナードに連れて行くし、囚人は誰であっても、同じように扱う。ブタもそいつもトウセキと一緒の部屋で眠ってもらう。交代は見張りで行う。分かったな?」
「うう……分かったに。シノは冷たいに」
「そうよ。この子はきっと悪いことはしないわ。もう少しましな扱いをしてあげてもいいんじゃないかしら」
ジョーがレナの肩を持つ。
「これは規律の問題であり、手続きの問題だ。正義は、公正な手続きに宿る。そうは思わないか?」
シノは反論を期待するように仲間を見渡した。
「隊長の言うことは分かるに……でも、かわいそうだに! トウセキやアントンはともかく、その子の言い分はちゃんと聞いてあげたほうがいいに」
「ダメだ。こいつの言い分は裁判でゆっくり聞く。それまでは特別扱いは許さん」
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