33 / 71
4章 最後の囚人
6、最後の囚人
しおりを挟む「そうはいったが……」
「規則だろ? この国の」
「とにかくあんたを助けるのが先だ。助かったら、自分で好きなようにすればいいんだから」
シノは結論を先延ばしにした。
銃弾を分解していくと、シリンダー一本分の量が集まった。尤も、濃度の点では比べ物にならないが、それでもかなりのエネルギーを得ることができた。
シノはそれをジョーの手の甲に流してやる。
「ありがと……」
ジョーは集中した様子で、意識は完全に冒険者の体内に潜っていた。
バラバラに粉砕された魂の器をなんとか修復しようとしていた。
◇
応急処置を終えたジョーは、冒険者とドラゴンを担いで馬に乗せると、そのままイーシャに向かった。
冒険者は魂の器を修復しただけで、未だに肉体の治癒には至っていない。
腹部の傷口はいまだに塞がっておらず、ぽっかりと貫通した穴はタオルケットを詰め物にして塞いでいた。
デュアメルは血まみれの怪我人と急に相乗りすることになり、「こんな間抜けなことはないぜ」とぼやいていた。
イーシャにつく頃には冒険者は息をしていなかった。わずかに脈があるが、それも心臓が痙攣をしているだけで、生きていると言えるのか定かではなかった。
ジョーは魔晶石を探すために奔走した。
といっても、イーシャはベルナードとヴァスケイルを繋ぐ中継地点で、鉄道会社の社員が逗留する宿屋があるほかは、民家がぽつぽつと見えるだけ。
商いをしている人はほとんどおらず、魔道具専門店はおろか、武器屋すら見つからなかった。
そのため駅に貯蔵されていた燃料用の魔晶石を使うことになった。
駅員に訳を話し、倉庫から大量の魔晶石を運ばせ、それをその都度粉砕しては紋章にすりこませた。
ジョーが治療を終えた頃には二時半になっていた。
「で、どうするわけ?」
冒険者を宿屋の二階に寝かせ、ジョーはシノに向かって言った。
シノは退屈そうに唇を尖らせるユズキエルを連れていた。
「あの男はどれくらいで回復するんです?」
「さあ、彼の生命力にもよるけど、二週間はベッドから出られないんじゃないかしら」
「そうか……」
シノは決まり悪そうに視線をさまよわせた。
「シノ、このドラゴンも一緒に連れていくつもりなんでしょう?」
ジョーはシノの考えを読んで言った。
「その方がいいと思いますか?」
「思うわけないじゃない。もう手いっぱいよ。ブタに、ユーゴくんに、そのうえドラゴンの世話までしながらトウセキを護送しろって言うの?」
「列車に乗せたら、あとはベルナードまで座っているだけです」
「どうかしらね」
ジョーは取り合わなかった。
ジョーは指揮官ではない。あくまで討伐隊の指揮権はシノにある。
イーシャで囚人用車両を手配したのはシノであり、その段階ではそれがもっとも成功率の高い作戦だと考えていたはずだ。
ただ、今となっては、ジョーは任務の達成を確信できないでいる。
魔晶石はすでに尽き、残弾数にも限りがある。そのうえ、十六人いた隊員は十人になっている。
シノだって、自分の言葉を信じられないでいるはずだ。
「命を懸けて戦った冒険者が俺に頼んできたことだ」
「任務が最優先よ。分かってるはずでしょう?」
「俺自身、なぜトウセキが裁判を受けられて、このドラゴンの少女がそれを許されないのかが分からない」
「それならトウセキもこの場で殺してしまえばいいわ」
「ダメだ。トウセキには裁判を受けさせる」
シノは感情を抑制していたが、彼が意固地になっているのは明らかだった。
「あなた、自分の言ってることが矛盾してるって分からないの?」
地方長官からの要請では、トウセキの生死は問わないことになっていた。生け捕りにしようと、死亡が確認されようと、任務は達成したことになる。
もちろん、生きて捕まえたのなら、そのまま王都まで連れて行くのがベストだろう。追跡の最中に殺してしまったのならともかく、手錠をされ、無力化された状態の人間を殺すとなれば話が変わってくる。
それでも任務を達成するためには、トウセキを殺し、彼の腹を裂き、龍鉱石を群盗に渡してしまうのが一番だった。
「トウセキは生きたまま連れていく。それは絶対です」
シノは返事を待たずに言った。
「そろそろ時間です。行きましょう、ジョー様」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる