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5章 運ばれゆく罪人
1、囚人用車両の四人
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ユーゴ、トウセキ、駄ブタのアントンは一足早く、ベルナード行きの列車に乗り込み、囚人用車両の檻の中に押し込まれていた。
囚人用車両は中央の鉄格子で仕切られた檻と、進行方向を向いて左側に作られた看守用の部屋からなる特殊な車両だった。
扱いとしては客車というよりは有蓋貨物車に近く、列車のドアは重厚な引き戸になっており、車窓はなく、内装は極めて質素だった。
そこに新たな囚人、周囲の修道院を焼き尽くしたドラゴンが合流したとき、檻の中はちょっとした騒ぎになった。
「なんだこいつ」
トウセキは顔をしかめて、スンスンと鼻を鳴らした。
ユズキエルにいっせいに好奇の眼差しが向けられた。
彼女はそれに気づいていないように無表情のまま囚人用車両に入り、檻に設えられた粗末な椅子に腰を下ろした。
「囚人に教えを説く慰問神父に見えるか?」
「そんな当てこすりを言ったって俺はなんとも思わねえぞ」
トウセキは鋭い視線をシノに向けた。
「じゃあ、何だと思う?」
「まあ、俺たちと同じゴロツキだろう」
「分かってるなら文句は言うな。お前が好む好まざるにかかわらず、ベルナードまで一緒に連れて行く。問題を起こすなよ」
「しかし、兵隊さん。竜人族かなんか知らねえが、鱗臭いのは勘弁してもらいたいぜ。俺はあんたらより鼻が敏感なんだよ」
鱗臭いと言われた瞬間、ユズキエルの目つきが鋭くなった。
「なんだい、あんた。あたしが臭いって言いたいのかい?」
「大いに言いたいね。お前たちドラゴンは生臭いんだよ。粘膜か鱗の匂いか知らねえが、大迷惑だぜ」
「なあ、少年、あたしがそんなに臭いか?」
ユズキエルは不機嫌な表情をユーゴに向けた。
突然、話を振られたユーゴは大いに戸惑った。
トウセキが言ったことは謂れのない中傷ではなかった。
ユズキエルが檻の中に入ってきた途端、湿った土のにおいをわずかに感じた。
とはいえ、自分だって昨日から風呂に入っておらず、人のことを言えたものではない。
それに、匂いはすぐに慣れてしまって、今では全く気にならなくなっている。
「べつに、そんなに臭くはないけど……」
「本当のことを言えよ、坊主! 誰にでも良い顔する奴は気に入らねえ」
トウセキがすごんだ。
「本当に気にならないんだよ」
「そうか、そうか。どうやらあっちの悪党が神経質になっているだけみたいだな。あんた、知ってるぜ、トウセキだろ?」
トウセキは答えなかったが、ユズキエルはそれを肯定と受け取った。
「あんたの格好は獣人族の伝統的な服装だ。それに、その長い獣毛に、クマの頭骨の服飾品。このあたりのものなら嫌でも噂を耳にする。そうだろ?」
「だったらどうしたんだ?」
「荒野の大悪党が、縛り首が怖くて神経質になってるわけだ。イライラしてるところに、ちょっと匂いがしたから気になってたまらないんだろう」
「ふん、好きに言ってろよ、このワキガ女が」
「チッ……癪に障る奴だぜ」
ユズキエルは不愉快そうに舌打ちをすると、ころりと表情を変えてユーゴを見た。
好奇心を隠さない、犬がオモチャを見つけたような顔をする。
「ところで、こっちの少年はなんだい? どうみても悪党には見えないけどな。まさか、万引きして、刑事法院送りになることもないだろうに。少年、あんたは何をやったんだい?」
「なにも……」
ユーゴは目を伏せた。
「何もせずにこんなところに入れられる奴はいないだろう。まさか、他人の奥さんに筆おろしされたのかい? それで、姦通罪になったとか。それならまだ納得だ」
ユズキエルの露骨な下ネタにユーゴは顔をしかめた。
「へ、変なこと言わないでくれよ」
「うお……これはまた初心な反応だな! あんた本当に何して捕まったって言うんだい?」
ユズキエルは言って、ユーゴに近づいた。
そして、背後からユーゴを抱くようにして覗き込む。
ユズキエルはユーゴの胸に埋没した石ころを見て目を丸くした。
「少年、これどうしたんだ? 石がめり込んでるぞ」
「か、勝手に見ないでくれ!!」
ユーゴは襟首を抑えて、ユズキエルから逃れた。
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