異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

文字の大きさ
41 / 71
5章 運ばれゆく罪人

8、ぐらぐらウィリーの失態

しおりを挟む

     ◇

 ユーゴは檻の中で、ブタの匂いにまみれながら眠りにつこうと頑張っていた。
 疲れを感じてはいたが、最悪の囚人たちと一緒では、うまく寝付くことができなかった。
 トウセキはもちろん、アントンだって油断はならない。このブタは新興都市で、下男を一人食い殺したのだ。
 自分が寝ているうちに食いつかれないとも限らないし、そうなったとしてトウセキやユズキエルがユーゴを助けてくれるとは思えなかった。

 トウセキも静かに天井を眺めている。

 ブタはときおり鼻を鳴らすほかは大人しくうずくまっていた。ユズキエルは檻の真ん中で、手を頭に敷いて寝転がっている。

 しかし、寝ているのか起きているのかははっきりしない。
 目は閉じているようだが、人間どもと同じ檻に入れられているという不快な光景を遮断しているだけかもしれない。
 ユーゴには竜がどんな周期で眠り、どんな周期で覚醒しているのか想像もできなかった。

 何も起きないまま三時間が過ぎ、シノはウィリーチームと交替した。

 看守がウィリーとよだれくりの二人になった。
 ぐらぐら・ウィリーはシノらが後方の寝台車に下がると、コートの中から酒瓶を取り出した。

 蒸留酒だろうか。

 暗がりの中、色までは分からないが、透明なガラス瓶から中の液体が透き通っているのは分かった。

 あの酒を二三口ぐいっとやれば、うまく眠れるのにとユーゴは思った。

 ぐらぐら・ウィリーは一口飲んでは、まるで酒が蒸発してはたまらないというようにその都度栓を閉めていた。
けち臭い仕草だった。

 浮浪者以下の汚らしい老人がするからか、とても卑しい仕草に見えた。

 やがてぐらぐら・ウィリーは任務を忘れて眠り始めた。

 よだれくりの兵士はぐらぐら・ウィリーを見下したように笑って、小銃を抱えながら天井を見ていた。

 癖か退屈しのぎか、よだれくりの兵士は、彼がそう呼ばれる所以をやり始めた。

 顎の筋肉がゆるいのか、つねに口は半開きになって、「シィーッ」「シィーッ」とよだれをすする音が響き渡る。

 シィーッ……、シィーッ……、シィーッ……、シィーッ……シィーッ……。

 ユーゴは静かにため息を漏らした。

 眠れる状態ではなかった。

 トウセキはもぞもぞと体を起こした。

 よだれくりは退屈そうにあくびをしては、シィーッ……、シィーッ……、とよだれを啜っている。

「静かにしてくれないか?」
 トウセキがふいに声をあげた。

「なに?」
「あんたのよだれをすする音がうるさくて眠れないんだ」
「生まれつき舌がでかくてな、歯の内側に収まってくれないんだ」
 よだれくりはおどけた調子で笑うと、「にぃ」と口を開けて舌を出した。
「あんたの口の構造なんか聞いてないんだよ」
「そうはいっても口を閉じてると落ち着かないんだ」
「あんたがよだれを啜る音を聞いてる方がイライラしてくるんだよ。とにかくその口を閉じて、よだれを飲み込んでくれないか? 人助けだと思って」
「口を閉じるのはあんたの方だ。俺は看守で、お前は囚人。わがままが通るとは思うなよ」

 トウセキはふんと鼻を鳴らして寝転がった。
 よだれくりの兵士は、満足したようにうなずくと、また天井を眺めながら「シィーッ……、シィーッ」と例の音を立て始めた。
 一見大人しく引き下がったトウセキだが、ユーゴには彼が納得したとは思えなかった。
 トウセキは口で言っても伝わらないと判断しただけで、そうなると彼が次にしそうなことは容易に想像がついた。
 とはいえ、檻の中にいて、手錠に繋がれた状態だ。

 さて、どうなるか。

 ユーゴは何かが起こるような気がした。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...