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5章 運ばれゆく罪人
8、ぐらぐらウィリーの失態
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ユーゴは檻の中で、ブタの匂いにまみれながら眠りにつこうと頑張っていた。
疲れを感じてはいたが、最悪の囚人たちと一緒では、うまく寝付くことができなかった。
トウセキはもちろん、アントンだって油断はならない。このブタは新興都市で、下男を一人食い殺したのだ。
自分が寝ているうちに食いつかれないとも限らないし、そうなったとしてトウセキやユズキエルがユーゴを助けてくれるとは思えなかった。
トウセキも静かに天井を眺めている。
ブタはときおり鼻を鳴らすほかは大人しくうずくまっていた。ユズキエルは檻の真ん中で、手を頭に敷いて寝転がっている。
しかし、寝ているのか起きているのかははっきりしない。
目は閉じているようだが、人間どもと同じ檻に入れられているという不快な光景を遮断しているだけかもしれない。
ユーゴには竜がどんな周期で眠り、どんな周期で覚醒しているのか想像もできなかった。
何も起きないまま三時間が過ぎ、シノはウィリーチームと交替した。
看守がウィリーとよだれくりの二人になった。
ぐらぐら・ウィリーはシノらが後方の寝台車に下がると、コートの中から酒瓶を取り出した。
蒸留酒だろうか。
暗がりの中、色までは分からないが、透明なガラス瓶から中の液体が透き通っているのは分かった。
あの酒を二三口ぐいっとやれば、うまく眠れるのにとユーゴは思った。
ぐらぐら・ウィリーは一口飲んでは、まるで酒が蒸発してはたまらないというようにその都度栓を閉めていた。
けち臭い仕草だった。
浮浪者以下の汚らしい老人がするからか、とても卑しい仕草に見えた。
やがてぐらぐら・ウィリーは任務を忘れて眠り始めた。
よだれくりの兵士はぐらぐら・ウィリーを見下したように笑って、小銃を抱えながら天井を見ていた。
癖か退屈しのぎか、よだれくりの兵士は、彼がそう呼ばれる所以をやり始めた。
顎の筋肉がゆるいのか、つねに口は半開きになって、「シィーッ」「シィーッ」とよだれをすする音が響き渡る。
シィーッ……、シィーッ……、シィーッ……、シィーッ……シィーッ……。
ユーゴは静かにため息を漏らした。
眠れる状態ではなかった。
トウセキはもぞもぞと体を起こした。
よだれくりは退屈そうにあくびをしては、シィーッ……、シィーッ……、とよだれを啜っている。
「静かにしてくれないか?」
トウセキがふいに声をあげた。
「なに?」
「あんたのよだれをすする音がうるさくて眠れないんだ」
「生まれつき舌がでかくてな、歯の内側に収まってくれないんだ」
よだれくりはおどけた調子で笑うと、「にぃ」と口を開けて舌を出した。
「あんたの口の構造なんか聞いてないんだよ」
「そうはいっても口を閉じてると落ち着かないんだ」
「あんたがよだれを啜る音を聞いてる方がイライラしてくるんだよ。とにかくその口を閉じて、よだれを飲み込んでくれないか? 人助けだと思って」
「口を閉じるのはあんたの方だ。俺は看守で、お前は囚人。わがままが通るとは思うなよ」
トウセキはふんと鼻を鳴らして寝転がった。
よだれくりの兵士は、満足したようにうなずくと、また天井を眺めながら「シィーッ……、シィーッ」と例の音を立て始めた。
一見大人しく引き下がったトウセキだが、ユーゴには彼が納得したとは思えなかった。
トウセキは口で言っても伝わらないと判断しただけで、そうなると彼が次にしそうなことは容易に想像がついた。
とはいえ、檻の中にいて、手錠に繋がれた状態だ。
さて、どうなるか。
ユーゴは何かが起こるような気がした。
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