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5章 運ばれゆく罪人
10、ユズキエルは起きている
しおりを挟むユズキエルは起きている。
目はすっかり眠ってしまったように閉じられてはいたが、それはいかにも何が起きているのか見るまでもないと言った様子だった。
ユズキエルは口角を小さく上げ、達観したような笑みを浮かべていた。人間の愚かさに失笑しているような、そんな笑みだった。
ユーゴは戦慄した。ここには文字通り怪物しかいない。
人の味を占めたブタと、五度も討伐隊を組織されながら、そのたびにうまく逃げおおせてきた獣人と、人間が死のうと生きようと全く頓着しない竜。
自分はどうしてこんな奴らと同じ檻の中に入れられてるんだ。
ユーゴは自分をここに連れてきたあらゆる運命を呪った。
俺はどう考えてもトウセキを憎む側で、俺が銃を持ってあの酔っ払いが座っている場所に座っていたら、このよだれくりの兵士を殺させるような真似はしなかった。
どうして、あの酔っ払いがあそこで眠り、俺がこの檻の中でこの怪物たちと一緒に裁判を受けなければいけないんだ!
(起きろ、ジジイ!! お前は賞金稼ぎだろ!! ベルナードまでトウセキを送り届けて、鉄道会社からの報酬をギルドで清算するんだろうが!!)
ユーゴの叫びが届いたわけではなかった。
ユーゴは口を塞がれ、トウセキの手の中でのどを鳴らすことしかできなかったからだ。
だが、次の瞬間、ぐらぐら・ウィリーの手の中から酒瓶がずり落ちた。それは床にぶつかって転がり、ガチャガチャと慌ただしい音を立てた。
ぐらぐら・ウィリーは眠い目をこすりながら、ぼんやりと檻を見た。
そこで檻のドアが開き、中で熊の毛衣に包まれた大男が、ユーゴを羽交い絞めにし、口を塞いでいるのが見えた。
その足はよだれくりの兵士の喉を踏みつぶしていた。
「誰か来てくれ!! トウセキが看守を殺しておる!!」
ぐらぐら・ウィリーが叫び、後続の寝台車から討伐隊が飛び起きてきた。
真っ先に囚人用車両に飛び込んできたのはデュアメルだった。
デュアメルは術式小銃を構えたまま、檻の前に立った。
「足をどけろ! その少年を離して、手をあげるんだ」
「もう遅い。よだれくりは死んだ」
トウセキは言って足をどけた。
よだれくりの兵士は喉をつぶされて死んでいた。無様にへこんだ首には、よだれくりの兵士が自分でひっかいたあとがいくつも残っており、苦しそうにゆがめられた顔は鼻がもげており、アントンは顔の肉を食い漁っていた。
トウセキが手を離した。
ユーゴは床に落ちて、そこではじめて満足に息を吸うことができた。
「はあ……はあ……」
ユーゴは空気を求めてあえいだ。
兵士らが続々と囚人用車両に入っていく。
シノは檻の中を一瞥したが、ユーゴの方をちらりともみなかった。
シノは何の関心も示さなかったのだ。
ユーゴがトウセキに殺されかけようと、まったくどうでもいいようだった。
「降参だ。チッ、もう少しで逃げられたんだが……」
トウセキはトランプ遊びで負けたかのようなテンションだった。そこには真剣な様子も、逃げそびれたことへの後悔もなかった。
「降参だと言えば、囚人として正しく扱ってもらえると思ってるのか?」
「俺を生かしたまま届けるんだろう?」
「俺は殺してやってもいいんだぜ」
「そんなことしたらそっちの隊長が許さないだろう」
「指が痙攣したと言えば許してくれるさ」
「デュアメル! そんな奴と口を聞くことないに」
レナが口を挟んだ。
「全くその通りだな」
デュアメルはくるりと銃を持ちかえると、銃床をトウセキの顔面に打ちつけた。
デュアメルは攻撃の気配を全く感じさせず、世間話をするかのように感情を抑制していた。そのままノーモーションから、顎を的確に狙ったため、トウセキでもかわすことができなかった。
トウセキはぐらりと崩れ落ち、そのまま気絶した。
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