47 / 71
5章 運ばれゆく罪人
14、竜人ユズキエル
しおりを挟む◇
車室は再び静かになった。
デュアメルとジョーは黙ったまま檻の中を観察し、トウセキは一度目を覚ましたものの、すぐにまた眠りについてしまった。
アントンは腹が膨れたのか、敷き藁に鼻を突っ込んで眠っている。
「静かになったなあ……」
ユズキエルが呟いた。
「お前、どうして止めなかったんだ?」
ユーゴは怒りに任せてそう尋ねた。
「ちょっと待った。人間風情があたしに口を聞くなとは言わないがね、お前ってのはいい心地がしないな」
「なんて呼べばいいんだよ」
「ユズキエルで良い。そう呼ぶのなら、話をしてやる」
「ユズキエル、どうして止めなかったんだ? トウセキがあの兵士を殺したとき、あんた起きてたんだろう」
「ああ、起きてたさ。血の匂いがプンプンしてたからね。だけど、あたしもあのよだれくりの音が気に入らなかったんだよ。正直、あの男が殺してくれたときは、これで少しは落ち着けると思ったね」
ユーゴは小さく頷いた。
大方、そんなところだろう。それに関してはいくらでも理由を想像できた。しかし、もう一つの疑問がどうしても気になっていた。
「じゃあ、なぜ逃げ出さなかったんだ?」
「なに?」
「あのとき、あの兵士が檻を開けて中に入ってきた。ぐらぐら・ウィリーは完全に眠っていたし、俺はトウセキに羽交い絞めにされていた。ユズキエル、きみだけはあのとき逃げられたんじゃないか?」
「逃げ出したところでどうなるというんだ?」
「どういうことだ?」
ユズキエルは「察しが悪い坊やだな」とからかうように言った。
「考えてみろ。あたしが竜人としての力を発揮できるなら、今頃こんな檻、破壊してどこへでも行ってるさ。それができないのはなんでだと思う?」
「角を折られたからか?」
ユーゴはユズキエルの額に空いた痛々しい傷口を見た。
「そうだ。角を折られ、そのうえ角のあった場所に銃を撃ち込まれた」
「だから、力が出ないのか?」
ユズキエルと刺し違えた冒険者によると、ユズキエルは魔力や妖力の一切を封じられ、身体能力も人間とほとんど変わらないという。
「分かっただろう? 力もない状態でこんな夜の荒野に放り出されたら、オオカミに食い殺されるのは目に見えてる。だから、弾を抜いて角が生えてくるまでは、大人しくしておくしかないのさ」
「そうか……」
「あんたこそどうしてこんな檻の中にいるんだ? 見る限り、大それたことをできるようには見えないけどね……。カッとなって人を殺したか?」
「知り合いの女が自殺をするのを止めずに見てたんだ」
「人が死ぬのを見てみたかったのか?」
ユズキエルは人情の機微を分かりかねて首をひねっていた。
「そうじゃない。知り合いの女の子が、生きることに絶望して死ぬことにしたんだよ。でも、一人で死ぬのは心細いから、穏やかに死ねるよう俺に見守っていてほしいって言ってきたんだ」
「ひえええ、厄介なことを頼まれたんだな。それであんたは、ハイ分りましたって見てたのかい?」
「まさか、何度も止めようとしたけど、手錠で繋がれて、抱きしめられて、身動きができないまま彼女が死んでいくのを見ているしかなかったんだ。結果的には町の人たちが駆けつけてきて、彼女を医者の家まで運んだんだけど、息を吹き返したかどうかも分からない。俺はその前に町を出ることになった。あとは見ての通り。この場合の罪を問うためにベルナードに連れていかれているんだ」
「それは叶わぬ恋ってやつだ。その女はあんたのことが好きだったんだろう? でも、一緒になれないから、せめて死ぬのを見届けてほしいと」
ユズキエルは難しいパズルを解きあかしたように得意げになって言った。
「どうかな、その子の気持ちまではなんとも」
「なんだいそりゃ、じゃあ、誰でもよかったのか?」
「さあね。彼女は俺に見守ってほしいって言ってたけど……」
「あんた、呆れるほどのお人よしだね。人間は何をしてもバカだが、あんたみたいなバカは見たことねえな」
「そうかもね」
「それに比べて、その女はイヤな女だよ。死ぬ時まで他人を巻き込むなんてね」
ユーゴは小さく頷いた。
ユズキエルの評価は一面的なものでしかない。その彼女が二年間も辺境の集落の平和を守ってきたのだ。すべてを犠牲にして。
「なあ、頼みたいことがあるんだ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる