51 / 71
6章 湧き出る盗人
3、悪夢の始まり
しおりを挟む「ベッドを倒してバリケードを作ろう。ここで群盗を迎え撃つんだ」
「了解」
デュアメルはベッドを横倒しにしながら、車両前方に移動していく。
「家畜車を取られましたね」
「あそこは四方八方から射線が通る。どのみち守り切ることは不可能だ」
家畜車は木の柵で覆われているため、その構造上、外から容易に射撃することができた。
あそこの防衛にこだわっていれば、外から突っ込まれた銃にハチの巣にされていたのは確かだろう。
シノのセリフは客観的な事実ではありながら、負け惜しみに聞こえるのは否定できなかった。
馬の退避は終わっておらず、敵の手に落ちるのがあまりにも早すぎたのだ。
「済んだことは仕方がないさ」
これすら、負け惜しみに聞こえるか?
シノは部下を鼓舞するために感情に訴えることが苦手だった。無根拠に力強い言葉を吐くには冷徹すぎた。
しかし、劣勢の場面においては合理的な言葉が、これほど慰めにしか響かないものかと愕然した。
「隊長、次はどうします?」
デュアメルは反撃の態勢を整えながら、何らかの作戦をシノに求めた。単にここで敵を迎え撃つだけでは後手後手に回ってしまう。
敵に勢いを削ぐために、大胆な作戦をシノに求めていた。
実際、これまでの戦闘で、シノはいくつもの当意即妙な作戦で戦況を切り開いてきた。
撤退ができないからか……。
しかし、デュアメルの言葉はシノには届かなかった。
シノは今までの戦闘と今回の戦闘の決定的な違いに気づき、その違いが何をもたらすのかについて頭を巡らせていた。
威力騎馬隊の任務は、偵察、奇襲、破壊工作、機動力を生かして敵部隊側面に回り込んでからの強襲と、攻撃と離脱といった柔軟な選択が可能だった。
しかし、列車の中では離脱は不可能。
馬に乗り換えて列車を放棄することはできるが、人数分の馬はおらず、また防衛側が有利なこの状況を手放すことは、すなわち敗北を意味していた。
撤退不可能。
つまりは、全滅もあり得るということだった。
作戦続行が困難になった時点で離脱することができた威力騎馬隊にいれば、全滅や壊滅と隣り合わせの戦闘に慣れることはない。
歩兵連隊の経験を持つデュアメルは別にしても、暗殺部隊にいたシノは、部下全員と一緒に玉砕するという救いがたい結末が目に浮かぶようなことはなかった。
「隊長、次の作戦は!?」
デュアメルは再び叫んだ。
しかし、シノは今まさに列車の中で玉砕する光景を思い描いていた。
「隊長、次の指示を!!」
デュアメルが三度叫び、シノはようやくその声に気が付いた。
「とりあえずここの防衛だ。相手の出方を見て、次の行動を決める」
シノは一見もっともらしいことを言ったにすぎなかった。
「そうね、とにかくここを防がないと。囚人用車両では食い止めきれないわよ」
ジョーが同意してくれる。
ジョーはドレスのスリットをまくり上げて、ふともものベルトに手を這わせたが、そこでポーションを切らしていることを思い出した。
「ああ、もう!! どうしてこううまくいかないのかしら」
「大丈夫だに! 姉御なら魔法なんかなくても余裕だに」
レナは二丁拳銃をホルスターから抜き取る。
「そうですよ! 領土防衛代官の剣捌きをみせてやるんです!」
「デュアメル? こんな狭いところで剣なんか振り回せないわよ」
ジョーは口の減らない隊員たちに呆れつつ、術式小銃に弾を込め、撃鉄を起こした。
群盗は早くも寝台車の中に侵入してくる。
敵の姿を見て、シノはひとまず考えをシンプルにすることができた。
シノはバリケードの隙間から銃を覗かせると、落ち着いて狙いを定めた。
全身を無防備にさらす群盗に対して無慈悲な一撃を加える。
ぶぱっ――
群盗の顔はパルプ状に裂けて飛び散った。
後続の敵がそれを受け止めると、それを盾にするかのように突き進んでくる。
その脇を追い越して、次の男が突撃してきた。
ダンに脅されているのか、あるいは一種の集団催眠か、それとも蛮勇をみせるだけですぐに逃げ惑う者たちを相手にしてきたからか、群盗はしゃにむに突撃してきた。
命を無駄に捨てるような行動だったが、それは術式小銃の弱点をついてもいた。
一発ごとに装填が必要な小銃において、死に物狂いの特攻は兵士を慌てさせた。
そのうえ群盗の持つ輪胴式魔銃は、狭い場所で苛烈な銃撃戦をするには向いていた。
「レナに任せるに!」
レナは二丁拳銃をバリケードの上から覗かせると群盗よりも早く正確に射撃をくわえた。
「ぼおおおおおおおおおっ!!」
銃弾を受けた群盗の一人が、自らの雄叫びに突き動かされるようにして突進してくる。
身体は穴だらけのはずだが、痛がるそぶりも見せず、血をまき散らしながら突進してくる姿は悪夢のようだった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる