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6章 湧き出る盗人
4、誰を殺すべきか
しおりを挟むレナの頬を銃弾がかすめ、彼女はとっさに身を隠した。
ジョーが代わりに頭を出し、最前列の男を無力化する。
群盗らは次々と倒れていく味方に、正面突破は不可能と悟り、慌てて一度寝台に身を隠した。彼らの動きは始終場当たり的ではあったが、生への嗅覚というべきか、その判断は悪くなかった。
「やつら、仲間を集められるだけ集めてきたみたいですね」
デュアメルが言った。
ふいに何かの拍子で一斉に銃声がやむと、後方からはなおも馬の蹄の音が聞こえてくる。
「逆に考えるに。ここでやつらを倒せば、悪い奴を掃討できるに」
「それは楽観的な見方だぜ、レナ。悪人は次から次へと沸いてくる」
「でも、これだけ倒せれば、しばらくは平和になるんじゃないかしら」
ジョーがレナを庇って気休めを言ったときだった。
連結部の扉が開き、中から痩せた男が姿を現した。
病的なまでに白い肌。
気取ったアンクルブーツに乗馬ズボン、しわ一つないシャツに紺のベストといった形は、トウセキとも他の群盗とも違う冷酷さを感じさせた。
トウセキの後釜に座ることができたのが、なぜダンであって、他のゴロツキではなかったのか、それはこの登場をもって一目瞭然だった。
「この列車の中はうるさすぎないか? まるで地獄の鍛冶屋だぞ」
ひりつく戦場に不釣り合いな声だったが、男はその一言で場を支配した。
群盗らは寝台の陰にじっと息を潜め、兵士らは次の展開を把握しようと努めた。
「まずは今しがたの無礼をお詫びする。列車の乗り方といえばこれしか知らないもんでね」
男は一同の反応を確かめるかのようにもったいぶった間を作った。
「何の用だ?」
シノはダンのペースに合わせるように落ち着いた口調で言った。
ダンはただ彼特有の回りくどい話し方をしているわけではなかった。
時間稼ぎの意味合いがかなりあるのだろう。時間をかければ、かけるほど後方の群盗らが列車に追いつくことができたし、死の渓谷を抜ければ、列車の左右を馬で取り囲むこともできた。
しかし、シノにとっても時間が欲しかった。
今しがた、火夫に列車の速度をあげるよう指示を出したところだ。火室の温度があがれば、直に、速度が出始めるだろう。
それに、ベルナードに近づくほど彼らは不慣れな土地で戦わなくてはいけない。
仮に、列車を放棄することになったとしても、ベルナードに近ければ、それだけこちらが有利になる。
「トウセキを渡してほしい。いや、より正確に言うならトウセキが飲んでしまった龍鉱石を寄こしてほしい。トウセキの腹を裂いて、龍鉱石さえ渡してもらえれば、僕たちは君たちを追い回すのはよそう」
「それはできない相談だ。彼には生きたまま裁判を受けさせる」
「君たちの任務に、トウセキの生死は問われないのだろう?」
「捕まえたからには生きて連れて行くさ。それにお前たちに脅されて、被告人の腹を裂いて、宝石を渡すなんてできると思うか?」
「選択肢は二つだ。無理やり奪われるか、龍鉱石を渡して事なきを得るか」
「話にならんな」
「意地を張ると痛い目を見るぞ」
シノはデュアメルに目配せをして、交渉が決裂したことを伝えた。
デュアメルは一つ頷くと、バリケードから身を出し、ダンに向かって射撃をくわえた。
ダンはそれを予測していたかのように、慌てるでもなく身を隠した。
「なぜ戦う!? トウセキを殺して、龍鉱石を渡せば、互いに自分の仕事を成し遂げられるはずだろう?」
ダンは演説めいた口調で言った。
「この龍鉱石はギルドのものだ。お前たちのものじゃない」
「じゃあ、まあ全員を殺して奪い取るとしようか?」
「俺たちも同じ考えだ。全員を殺せば、このあたりもちょっとは過ごしやすくなるだろう」
「それはどうかな?」
ダンは得意げになって言った。
「なに?」
「こいつらは全員が群盗ってわけじゃない。まあ、古くからの友人も何人かはいるけどね。つい、さっきそこの寒村で集めてきたのもかなりいる。貧すれば鈍する。金さえ出せば、こんな連中は沸いて出てくる。ここで皆殺しにしたところで、世直しにはならんよ」
「誰を殺すべきかはっきりしたようだな」
「殺されるのはお前たちのほうだ!!」
ダンは号令をかけるかのように輪胴式魔銃をぶっ放した。
「一人でも殺したやつには二千スー出そう!! その代わり、ここまで来て逃げる奴は俺が殺してやる。走れ!!」
ダンは手近にいた盗賊を通路に押し出すと、その男の背中に蹴りを入れた。
「続け! 続け!」
だれかれとなくそんな声があがり、通路に群盗がなだれ込んでくる。
群盗から狂おしい嬌声があがった、
誰もが無駄死にするのは自分ではない他のだれかで、自分こそが賞金を手に入れられると信じているようだった。
そのくせ目を異様に血走らせ、生への執着を生臭く漂わせている。
群盗らは先ほどより慎重に突撃を開始した。
寝台の陰から弾幕を浴びせ、車内には煙が立ち込めた。
それによって視界が遮られ、群盗らは煙の中を泳ぐ影となった。
連携は全くと言っていいほどとれていなかったが、物量に任せた威嚇射撃に討伐隊はかなり手こずった。
最初に冷静さを失ったのはのっぽの兵士だった。
「クソ!! 死ね!! 死ね!! 死ね!!」
のっぽの兵士はうなされるように喉を鳴らし、煙に向かって狂ったように発砲した。
もはや身を潜めることもせず、仁王立ちになって射撃を繰り返した。
「伏せろ!! 伏せろおおおお!!」
デュアメルは銃弾を装填しながら、のっぽの兵士を落ち着かせようとした。
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