異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

文字の大きさ
56 / 71
6章 湧き出る盗人

8、殺戮の摂理

しおりを挟む

     ◇

 寝台車の中ではさらに苛烈な戦闘が行われていた。
 群盗らはいまやバリケードの二メートル手前まで接近し、六発の銃弾を続けざまに撃ち込んでくる。

 それに対して、シノらは弾不足に悩まされていた。

 すでにシノの銃弾箱は空になり、デュアメルとのっぽの兵士が残した銃弾箱も底が露出し始めている。

「おら、さっさと弾を込めろ!! お前も生き残りたいだろ!!」
「やってるさ!!」

「やってる? それでやってるって言うのかよ。クソ、手錠なんかされてなけりゃ、坊主にそんな仕事はさせねえのにな……」

 トウセキは当てこすりを言うような男ではなかったから、それは言葉以上の意味を持たない単なるボヤキでしかなかった。
 しかし、ユーゴにしてみれば、何十もの侮辱を受けた気分だった。

 トウセキに協力して銃弾を込めること自体、ユーゴにとっては屈辱的な仕打ち以外の何物でもなかった。

 しかし、寝台車の後方からは絶えず弾が飛んでくる。それが空気を切り裂きながら、鼻先をかすめていくのが分かった。

 ユーゴは溺れたものが、無我夢中でもがくように、生き残るために手を動かした。

「変わるんだ、兵隊さんよ!」
 トウセキは皮肉っぽい口調でバリケードの前を開ける。

「ほら、お前もどくんだ、坊主!!」
「分かってるさ!!」

 ユーゴはトウセキに怒鳴られながら遮二無二弾を装填し、シノはその間にバリケードから銃口を覗かせる。
 すでに狙いすまして撃てる距離になく、銃だけを外に覗かせて発砲する。顔を出した瞬間、弾を浴びるのは目に見えていた。

 銃弾を撃ち尽くしてしまうと、ジョーとトウセキに変わって、装填に取り掛かった。

 シノは銃弾箱をひっくり返し、十発の弾を手のひらに広げた。

「クソっ」

 残された弾はそれだけだった。

 しかし、デタラメに射撃をしては弾を消費するだけだ。

 弾が少ない以上、確実に的中させなければいけない。

「ジョー様!!」

 シノは弾を込めながら、ジョーの名前を呼んだ。

「どうしたの!」

「俺が倒れたら、その時点で任務は失敗だと思ってください」

 シノは淡々と言った。

「そんなの分からないじゃない!」

「ええ、確かに残った連中だけでもうまくやるでしょう。レナもデュアメルも経験豊富だ。俺がいなくても、それぞれが正しい選択を心得ているはずです」

「じゃあ、何が言いたいの?」

「ジョー様は身を守る行動をするべきだ。逃げ遅れるようなことがあってはいけないし、我々と一緒にここで死ぬわけにもいかない。囚人用車両に馬を避難させてありますので、それを使って逃げてください」

「あなた、何をする気?」

 ジョーの声には悲壮な色を帯びていた。

「これまでと変わったことはしませんよ。ただ決着をつけるときが来ただけです」

「シノ、あなた――」

 シノはジョーの言葉を遮った。
 湿っぽい別れの挨拶などは必要なかった。
 多くのものはそんなことをする暇もなく散っていく。
 殺戮の摂理というものがあるとすれば、それは無慈悲で、待ったなしだということだ。
 シノはその摂理に従おうと思った。
 家族に言葉を残したり、自分の人生を総括することはシノ自身が許さなかった。

 多くの部下がそれを許されなかったのだから。

「トウセキ、変わるんだ!!」
「あいよ!! ほら、さっさと下がれ、坊主!!」
 トウセキはユーゴを引きずって、バリケードの前を開けた。

 シノは銃床を肩で支え、胸の前で銃を構えた。そして、バリケードから上半身を出し、重たく胸が悪くなるような煙の中に身を晒した。

 いまや群盗らは影となり、水面から浮き上がるように不意に姿を現す。

 カーテンが、風ではためいて、内側に立つ人の輪郭を浮き上がらせるように。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 ふいに群盗の雄叫びが鮮明になったかと思うと、硝煙の中から姿を現した。
 シノは引き金を引いた。

「ひぶぇっ……」

 それが群盗の口から洩れたものなのか、破けた額の銃痕が立てた音なのかさえ分からなかった。
 シノは一瞬、白黒の世界に包まれ、極度の集中力の中で、人間の醜悪な姿をとらえる。
 先頭の群盗から目を離し、煙の中に視線を彷徨わせる。

 左の影が一層濃くなり、シノは銃口を向けた。

 ヒュッ――

 間抜けなほど甲高い音を聞いたかと思った次の瞬間、脇腹に熱を感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...