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6章 湧き出る盗人
8、殺戮の摂理
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寝台車の中ではさらに苛烈な戦闘が行われていた。
群盗らはいまやバリケードの二メートル手前まで接近し、六発の銃弾を続けざまに撃ち込んでくる。
それに対して、シノらは弾不足に悩まされていた。
すでにシノの銃弾箱は空になり、デュアメルとのっぽの兵士が残した銃弾箱も底が露出し始めている。
「おら、さっさと弾を込めろ!! お前も生き残りたいだろ!!」
「やってるさ!!」
「やってる? それでやってるって言うのかよ。クソ、手錠なんかされてなけりゃ、坊主にそんな仕事はさせねえのにな……」
トウセキは当てこすりを言うような男ではなかったから、それは言葉以上の意味を持たない単なるボヤキでしかなかった。
しかし、ユーゴにしてみれば、何十もの侮辱を受けた気分だった。
トウセキに協力して銃弾を込めること自体、ユーゴにとっては屈辱的な仕打ち以外の何物でもなかった。
しかし、寝台車の後方からは絶えず弾が飛んでくる。それが空気を切り裂きながら、鼻先をかすめていくのが分かった。
ユーゴは溺れたものが、無我夢中でもがくように、生き残るために手を動かした。
「変わるんだ、兵隊さんよ!」
トウセキは皮肉っぽい口調でバリケードの前を開ける。
「ほら、お前もどくんだ、坊主!!」
「分かってるさ!!」
ユーゴはトウセキに怒鳴られながら遮二無二弾を装填し、シノはその間にバリケードから銃口を覗かせる。
すでに狙いすまして撃てる距離になく、銃だけを外に覗かせて発砲する。顔を出した瞬間、弾を浴びるのは目に見えていた。
銃弾を撃ち尽くしてしまうと、ジョーとトウセキに変わって、装填に取り掛かった。
シノは銃弾箱をひっくり返し、十発の弾を手のひらに広げた。
「クソっ」
残された弾はそれだけだった。
しかし、デタラメに射撃をしては弾を消費するだけだ。
弾が少ない以上、確実に的中させなければいけない。
「ジョー様!!」
シノは弾を込めながら、ジョーの名前を呼んだ。
「どうしたの!」
「俺が倒れたら、その時点で任務は失敗だと思ってください」
シノは淡々と言った。
「そんなの分からないじゃない!」
「ええ、確かに残った連中だけでもうまくやるでしょう。レナもデュアメルも経験豊富だ。俺がいなくても、それぞれが正しい選択を心得ているはずです」
「じゃあ、何が言いたいの?」
「ジョー様は身を守る行動をするべきだ。逃げ遅れるようなことがあってはいけないし、我々と一緒にここで死ぬわけにもいかない。囚人用車両に馬を避難させてありますので、それを使って逃げてください」
「あなた、何をする気?」
ジョーの声には悲壮な色を帯びていた。
「これまでと変わったことはしませんよ。ただ決着をつけるときが来ただけです」
「シノ、あなた――」
シノはジョーの言葉を遮った。
湿っぽい別れの挨拶などは必要なかった。
多くのものはそんなことをする暇もなく散っていく。
殺戮の摂理というものがあるとすれば、それは無慈悲で、待ったなしだということだ。
シノはその摂理に従おうと思った。
家族に言葉を残したり、自分の人生を総括することはシノ自身が許さなかった。
多くの部下がそれを許されなかったのだから。
「トウセキ、変わるんだ!!」
「あいよ!! ほら、さっさと下がれ、坊主!!」
トウセキはユーゴを引きずって、バリケードの前を開けた。
シノは銃床を肩で支え、胸の前で銃を構えた。そして、バリケードから上半身を出し、重たく胸が悪くなるような煙の中に身を晒した。
いまや群盗らは影となり、水面から浮き上がるように不意に姿を現す。
カーテンが、風ではためいて、内側に立つ人の輪郭を浮き上がらせるように。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ふいに群盗の雄叫びが鮮明になったかと思うと、硝煙の中から姿を現した。
シノは引き金を引いた。
「ひぶぇっ……」
それが群盗の口から洩れたものなのか、破けた額の銃痕が立てた音なのかさえ分からなかった。
シノは一瞬、白黒の世界に包まれ、極度の集中力の中で、人間の醜悪な姿をとらえる。
先頭の群盗から目を離し、煙の中に視線を彷徨わせる。
左の影が一層濃くなり、シノは銃口を向けた。
ヒュッ――
間抜けなほど甲高い音を聞いたかと思った次の瞬間、脇腹に熱を感じた。
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