異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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最終章 やめられない旅人

6、胸のメノウ

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     ◇

「ユーゴ……こっちに来てくれ……」
 トウセキはすでに二人に背を向け、元来た道を歩き出していた。

 ユーゴはユズキエルのうめき声を聞いて、なんとか顔をあげた。

 彼女はまだ生きている。

 ユーゴは這うようにして彼女のもとに近寄った。

「ユズキエル、大丈夫か?」
 ユズキエルは首を振った。
「潮時ってやつさ。まさか、こんな最期とはね……どっちにしてもろくな死に方じゃないとは思ってたが……」
 ユズキエルは「ぐぶっ」とのどを鳴らして吐血した。深紅の木にカンナをかけたように勢いよく血が吐き出された。
「らしくないぞっ……ドラゴンだろう?」
 ユーゴは懸命にユズキエルを励ました。

「あんたは無事か?」

「無事なわけないよ。あちこち骨が折れてる……もう、一歩も歩けないくらいだ」
 ユーゴは自虐的な笑みをむけた。
 散々、運命に振り回され、ほとんど選択の余地もないままここまで来てしまった。

 最後の最後で自分が選択した道。その行きつく先がこれかと思った。

 結局、トウセキには誰一人勝てなかった。銃一つでユーゴがどうにかできる存在ではなかったのだ。

「泣いてるのかい、ユーゴ……」
 ユズキエルがユーゴの頬に触れた。

「結局全部無駄だったんだ……。シノの努力も、俺の覚悟も、金も、弾薬も、大勢の犠牲も……、全部無駄だったんだ……。クソ……、クソ……」
 ユーゴはあえいだ。
 自分の惨めさが身に染みた。
 情けなさが許せなかった。
 無力を痛いほど思い知った。
 それでも泣くことしかできないことが苦しかった。

「無駄じゃないさ」
 ユズキエルはユーゴの頭を撫でた。
「気休めはいらない! やつの一人勝ちだ……」
「まあ、そうかもな」
「もう終わったんだ……何もかも……もう手はないんだ……」

「まだ終わってないさ」

 ユズキエルはユーゴに手を伸ばすと、シャツの中に手をすべらせ、胸元に癒着したメノウに触れた。

「良かった……これはまだ残ってるみたいだな」
「か、勝手に触れるなよ……」
 ユーゴは思わずユズキエルの手を払いのけようとした。

 そのメノウは、戦闘で負った勲章のような傷でもなかったし、死の淵から生還した不死身の証でもなかった。
 群盗に怯えた村の男に抑えつけられ、皮膚を食い破った石だ。
 ユズキエルに触れられたことがひどい侮辱のように感じられた。

「じっとしてろ」
 射すくめるようににらまれ、ユーゴは身動きが取れなくなった。

「やめてくれ、触らないでくれ……。俺をこれ以上辱めないでくれ……」
 ユズキエルは優しくそれを撫でつけ、手触りを確かめた。

「恥ずかしがるなよ。良い物持ってるんだからよ……」

「ユズ、本当にもうそれには構わないでくれ……」

「ユーゴ、あんた龍鉱石がなぜあれほど高価なのか知ってるか?」

 ユズキエルはメノウを撫でながら言った。
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