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三章 クジ引き国王とツンデレメイドゾンビの幽霊
46話 ミタカさんの脱出
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「想像してみるといい。陛下が国王になった経緯を。陛下は王族の末っ子として生まれ、政争に巻き込まれることを拒み、空想の世界に身を沈めた。どうあっても自分に国王の地位が巡ってくることはない。それならば、いっそのこと与えられた環境に甘えて遊んで暮らそうと、考えたわけだ」
「それは俺にも分かりますけど……」
「そんな陛下が、先代の遺言によって王となった。クジ引きとはいえ、ただの運試しではない。神殿にて神の意向を問う形で行われたのだ。陛下は神の前でくじを引き、神に選ばれて国王になった。陛下は神を信頼しておられる。そして、先代の隠し子はこの国を脅かす存在になりうる。国難を前に神に真実を問うのは当たり前だろう」
「でも、いくらなんでも熱湯裁判は……」
俺の言葉を察して、コフネさんが後を継いだ。
「現実的ではないか?」
「現実的じゃありませんね」
「だが、皆が納得する」
「納得なんて……」
コフネさんは悲しい目をしていた。まるで自分の身体の一部が本当に傷んでいるようだった。
「クジ引き国王と国民から揶揄されている男が、この国のカジを取るのだ。陛下だって、自分の政治能力くらいは理解している。国民が自分の判断では納得しないことも分かっている。であれば、神の判断だと言えばいい。神の判断だと言えば、誰も文句は言わぬ」
「コフネさんは優しいですね」
王都ではフリアーナ六世のことをそんな風に言う人はいなかった。遊び人が気まぐれに天下を手に入れた。誰もがそれに憧れ混じりの軽蔑を口にする。
「私も日陰者だからな。子どものころはよく物語を書いていた。空想の世界に生きる楽しさは分かっているつもりだ。現実がどうしようもないほどな。それが突然、現実世界に引き戻され、国王と言う大きな責任を背負わされたのだ。私だったら国を滅ぼして、再び空想の世界に戻るな」
コフネさんは自虐っぽく唇を歪ませて笑った。
「やっぱりコフネさんは熱湯裁判の準備を進めるんですか?」
「陛下の命令だからな。選択肢など最初からない。ヤグラはどうするんだ? 貴様は命令に背くこともできるだろう」
「そうですね。見つかりませんでしたって言うこともできますし」
俺の中での答えは最初から決まっていた。フリアーナ六世がどんな思惑から熱湯裁判を実施しようと、そんなことはどうだっていい。
俺はミタカさんを王都に連れて行くつもりなどなかった。火傷を負わせるために生き返らせるなんて間違っている。そう思っていた。
俺はミタカさんをなるべく遠いところに逃がそうと思った。幸いにしてシリンキ山を越えた先には、未開の地が広がっている。そこに彼女を連れて行けば、このバカげた裁判は永遠に行われないはずだ。
俺はミーノの家に行き、霊験あらたかな彼女のトイレの前で、ミタカさんが現れるのを待った。
俺とミーノはトイレの前で眠い目をこすった。
深夜、月の光が霜のように廊下を白く染めたとき、トイレからミタカさんがでてきた。
「あら、あんたたち……フリアーナ六世には言っておいてくれたかしら」
「言ったことは言ったんですけど、怒られちゃいました。話を聞きに行けと頼んだ覚えはない。連れてこいと頼んだんだって」
「ふーん、それで今度は引きずっていこうってわけね」
俺は首を振った。
「いえ、その逆です。フリアーナ六世はあなたに神判を行うつもりです。神の前にあなたの子どもが国王の血を継いでいないことを誓わせ、あなたはそれを証明するために熱湯の中に手を突っ込まなければいけない」
「ふーん、それで?」
「もし火傷をすれば、あなたが嘘を言ったとみなされます」
「私幽霊なんだけど。幽霊は火傷しないでしょう」
俺はフリアーナ六世が術師の力を借り、ミタカさんに肉体を与えようとしていることを伝えた。
その先は言わなかったが、それが何を意味するのか、ミタカさんも理解しただろう。彼女は殺されるためにもう一度生き返ることになる。熱湯に手を入れれば、奇跡でもない限り、必ず火傷をする。その奇跡こそが神の加護だ? とんでもない理屈だ。
「それを伝えるためにここに来たの?」
「ただ伝えに来ただけじゃありません。逃げましょう!! このシリンキ山を越えた先なら、冒険者もほとんど近寄りません」
俺はミタカさんに手を差し出した。
俺は彼女をこの国から脱出させることにした。
「それは俺にも分かりますけど……」
「そんな陛下が、先代の遺言によって王となった。クジ引きとはいえ、ただの運試しではない。神殿にて神の意向を問う形で行われたのだ。陛下は神の前でくじを引き、神に選ばれて国王になった。陛下は神を信頼しておられる。そして、先代の隠し子はこの国を脅かす存在になりうる。国難を前に神に真実を問うのは当たり前だろう」
「でも、いくらなんでも熱湯裁判は……」
俺の言葉を察して、コフネさんが後を継いだ。
「現実的ではないか?」
「現実的じゃありませんね」
「だが、皆が納得する」
「納得なんて……」
コフネさんは悲しい目をしていた。まるで自分の身体の一部が本当に傷んでいるようだった。
「クジ引き国王と国民から揶揄されている男が、この国のカジを取るのだ。陛下だって、自分の政治能力くらいは理解している。国民が自分の判断では納得しないことも分かっている。であれば、神の判断だと言えばいい。神の判断だと言えば、誰も文句は言わぬ」
「コフネさんは優しいですね」
王都ではフリアーナ六世のことをそんな風に言う人はいなかった。遊び人が気まぐれに天下を手に入れた。誰もがそれに憧れ混じりの軽蔑を口にする。
「私も日陰者だからな。子どものころはよく物語を書いていた。空想の世界に生きる楽しさは分かっているつもりだ。現実がどうしようもないほどな。それが突然、現実世界に引き戻され、国王と言う大きな責任を背負わされたのだ。私だったら国を滅ぼして、再び空想の世界に戻るな」
コフネさんは自虐っぽく唇を歪ませて笑った。
「やっぱりコフネさんは熱湯裁判の準備を進めるんですか?」
「陛下の命令だからな。選択肢など最初からない。ヤグラはどうするんだ? 貴様は命令に背くこともできるだろう」
「そうですね。見つかりませんでしたって言うこともできますし」
俺の中での答えは最初から決まっていた。フリアーナ六世がどんな思惑から熱湯裁判を実施しようと、そんなことはどうだっていい。
俺はミタカさんを王都に連れて行くつもりなどなかった。火傷を負わせるために生き返らせるなんて間違っている。そう思っていた。
俺はミタカさんをなるべく遠いところに逃がそうと思った。幸いにしてシリンキ山を越えた先には、未開の地が広がっている。そこに彼女を連れて行けば、このバカげた裁判は永遠に行われないはずだ。
俺はミーノの家に行き、霊験あらたかな彼女のトイレの前で、ミタカさんが現れるのを待った。
俺とミーノはトイレの前で眠い目をこすった。
深夜、月の光が霜のように廊下を白く染めたとき、トイレからミタカさんがでてきた。
「あら、あんたたち……フリアーナ六世には言っておいてくれたかしら」
「言ったことは言ったんですけど、怒られちゃいました。話を聞きに行けと頼んだ覚えはない。連れてこいと頼んだんだって」
「ふーん、それで今度は引きずっていこうってわけね」
俺は首を振った。
「いえ、その逆です。フリアーナ六世はあなたに神判を行うつもりです。神の前にあなたの子どもが国王の血を継いでいないことを誓わせ、あなたはそれを証明するために熱湯の中に手を突っ込まなければいけない」
「ふーん、それで?」
「もし火傷をすれば、あなたが嘘を言ったとみなされます」
「私幽霊なんだけど。幽霊は火傷しないでしょう」
俺はフリアーナ六世が術師の力を借り、ミタカさんに肉体を与えようとしていることを伝えた。
その先は言わなかったが、それが何を意味するのか、ミタカさんも理解しただろう。彼女は殺されるためにもう一度生き返ることになる。熱湯に手を入れれば、奇跡でもない限り、必ず火傷をする。その奇跡こそが神の加護だ? とんでもない理屈だ。
「それを伝えるためにここに来たの?」
「ただ伝えに来ただけじゃありません。逃げましょう!! このシリンキ山を越えた先なら、冒険者もほとんど近寄りません」
俺はミタカさんに手を差し出した。
俺は彼女をこの国から脱出させることにした。
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