64 / 97
最終章 最高の逆転劇
64話 ミーノとの待ち合わせ
しおりを挟む1
ミーノの住むシリンキ村は王都へと続く街道に接している。その街道には馬が水を飲むための水飲み場があり、井戸から汲み上げた水を貯めておく石造りの水槽が設けられている。おれはその水槽に腰掛けてミーノを待っていた。
物流の要所でもあり、俺のような土地勘のない人間には貴重な待ち合わせ場所でもある。
なんせ街道の周辺は似たような集落が続き、他に目印になるものは一つもないのだ。
いや、一つだけある。
その一つというのは村の境界線を定めた標石で、村と村の間、特に山や池の利用をめぐって度々争いが起きているようなところには、腰の高さほどの石塔を見かけることが多い。
しかし、この標石は待ち合わせ場所には適さない。
一度、この標石の前で待ち合わせをしていたら「隣村の野郎が標石を動かそうとしている!!」と威勢のいい若い連中に追いかけまわされた。
俺は必死で逃げたが、奴らの足が馬鹿みたいに早くて一瞬で捕まってしまった。後はもう袋叩きにされるしかない。
幸い隣村とは言え、誰も俺の顔を知らなかったのと、あまりにも俺が弱いため、「こんな男が標石を動かせるはずもない」と判断され、たんこぶと青あざ二十二個で許してもらった。それ以来、標石を待ち合わせ場所にするのはやめて、馬の水飲み場で待ち合わせしている。
街道は王都に近い分、人の往来は激しく、何人もの商人が立ち寄り、馬に水を飲ませて去っていく。そろそろミーノが来てもおかしくない頃で、俺はシリンキ村の方を向いて、彼女の姿を探していた。
商人の一人が声をかけてきたのはそのときだった。
「お兄ちゃん、それ、大丈夫かい?」
気の良さそうなおじさんで、砂埃にまみれた顔をタオルで拭っている。
「え、ええ、大丈夫です」
彼が何を心配しているのか分からなかったが、話を合わせておくことにした。
この世界に来てから、大半の会話はうまく話が通じない。価値観も違えば、生きてきた背景も違うから、言葉が通じれば何でも理解し合えるというものでもない。そのたびに一々聞き返していれば、頭がおかしいと思われるから、俺はよく分かったふりをしていた。
「そうかなあ、どう考えても気になると思うけどなあ」
俺がいかにも大丈夫そうに微笑み返したというのに、おじさんは俺の様子をやたらと気にしている。
「え……ま、まあ大丈夫っすよ」
「いいや、絶対気持ち悪いよ」
「大丈夫って言ってるじゃないですか」
俺は頑なに平気なフリをした。
「気づいてないのかなあ。いや、気づいてないはずないと思うけどなあ……。お兄ちゃん、尻が水槽に浸かってるよ?」
「あ、ああ」
商人のおじさんは俺の、濡れて色の濃くなったズボンを指さした。よほど人が良いのだろう。布で口元を覆った不審な男でも、尻が濡れているのが心配なのだから。
「大丈夫です! お気遣いなく!!」
俺は爽やかな笑みを浮かべて手を振る。
実は先ほど馬の水飲み場に尻を突っ込んで水を飲んでいたところだった。
俺は消化管が上下逆についているため、水分補給はケツから行うしかない。しかし、人間の作りだした道具はどれもケツから水を飲むようには設計されていないから、コップも水筒も使い物にならない。
それに喫茶店や酒場に入って、ズボンを下ろして、尻の割れ目の間にコップをあてがうなんて真似は余程の目立ちたがり屋か、世間を心底憎んでいる人間じゃなきゃできない。
断っておくが、尻の割れ目には口がついているから汚くはない。おれはさっきから汚い話はしていないのだ。口から水を飲むという最も涼やかで清々しい行為について話をしているのだ。もし俺の話を汚いとか気持ち悪いとか思う人がいたら、口が尻の割れ目についていることに理解が追いついていないだけだ。
「そう? 誰でもお尻が濡れてるのは気持ち悪いと思うけどなあ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる