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最終章 最高の逆転劇
92話 ミーノの声は絶望していた
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「どうしたんだ?」
「道がない……」
「道がない?」
思わず彼女の言葉を繰り返した。
「触ってください。ほら。右手の山肌が道を塞ぐように前に崩れ落ちています」
彼女の手に誘導され、俺は山肌に手を這わせた。確かに、先ほどまで、緩やかにカーブしていた山肌が突然、なくなり、それと同時に足元に段差ができている。段差を足で探ってみると、崩れた土砂が完璧に山道を塞いでいる。
「あのときの大雨だ……」
ミーノは言った。
「え?」
「ほら、ミタカさんを見つけろっていう緊急クエストがあったとき、物凄い大雨が降った日があったでしょう?」
「ああ」
「少しくらいの雨じゃ、土砂崩れなんて起きません。だから、きっとあの日に崩れたんだ」
「それで、どうするんだ? 崩れた土砂の上を歩いていくか?」
「それは危険すぎます。この先の地形が分からないんですよ? 崩れた土砂に滑って道を踏み外す危険もありますし、そんな単純に土砂をまたいで、従来の道に合流できる保証もありません。今までだって、私が地形を覚えていたから、歩けてきたんです」
「じゃあ、どうする?」
「そっか。村のみんなはこっちの道が土砂崩れがあることを知ってたんだ」
ミーノは俺の言葉を無視して言った。
「なに?」
「さっきほとんどの人が、わたしたちが来た道に入ってきたことですよ。右の道を選んだのは、二人か三人で、残りが全員左の道を選んだ理由です」
「どういうことだ?」
「土砂崩れがあったことを知っていたなら、私たちがこれ以上先へ進めないことも分かっていたでしょう。村のみんなだって、これより先へは追跡はしないはずです。だから、こっちの道がここで途絶えてて、私たちがいないことを確かめたあとは、どっちにしても右の道へ戻らなくてはいけないんです。それなら、ここで追い詰めた私たちを掴まえるときのことを考えて、大勢をこっちに向かわせた方が良い」
ミーノの声は絶望していた。
「もう駄目だ……」
顔を覆ったのか、彼女の声が突然くぐもった。
「駄目だなんて……」
「駄目じゃないですか!! もうどこにも逃げられない。あと、十分もすれば村のみんながやってくる。この状態でどう逃げればいいんです?」
「一か八か、土砂をまたいで先に進もう。そんなに遠くまで行かなくても、土砂をまたいだ先で隠れて行けば、村人が引き返すかもしれない」
「どっちにしても同じことですよ!!」
ミーノが叫んだ。その声は獣の咆哮のような怒鳴り声だったのに、一晩中泣き続けたときのようにかすれていた。
「同じじゃないですか!! ここで追手をかわしたところで何になるって言うんです?」
俺はそのとき彼女が本気で怒ったところを初めて見た。
今まではたとえ、俺が泥棒を繰り返したとしても、俺を諭すような穏やかな口調だった。怒りや失望はあっただろうが、こんな風に感情をむき出しにすることはなかった。
思えばミーノはほとんど感情を出さないのだ。よほど追い詰められない限りいつもにこにこ笑っているし、酷い事態に陥ったとしても気丈に振る舞う。弟や妹が多いからだろう。彼女は長女として振る舞うことになれていた。
そんなミーノがどうしようもないくらい怒っていたのだ。
「だってそうでしょう? ここで村のみんなを巻いたところで、ヤグラ君がまた泥棒をしたら同じじゃないですか。ヤグラ君が盗みを働くたびに、真っ暗闇の中逃げて、隠れて、引っ越しをするんですか? やっていけるわけないじゃありませんか!」
「いや、それは……その……」
「少なくとも私にはやっていける自信がありません」
「じゃあ、ミーノは俺を置いて村のみんなの元に戻ってくれよ」
「嫌です!! ヤグラ君がボコボコにされて、二年前のあの人みたいになぶり殺しにされるのは見たくありません」
「それはそうかもしれないけど……」
「私が治してあげますよ」
ミーノは冷たい声で言った。
「道がない……」
「道がない?」
思わず彼女の言葉を繰り返した。
「触ってください。ほら。右手の山肌が道を塞ぐように前に崩れ落ちています」
彼女の手に誘導され、俺は山肌に手を這わせた。確かに、先ほどまで、緩やかにカーブしていた山肌が突然、なくなり、それと同時に足元に段差ができている。段差を足で探ってみると、崩れた土砂が完璧に山道を塞いでいる。
「あのときの大雨だ……」
ミーノは言った。
「え?」
「ほら、ミタカさんを見つけろっていう緊急クエストがあったとき、物凄い大雨が降った日があったでしょう?」
「ああ」
「少しくらいの雨じゃ、土砂崩れなんて起きません。だから、きっとあの日に崩れたんだ」
「それで、どうするんだ? 崩れた土砂の上を歩いていくか?」
「それは危険すぎます。この先の地形が分からないんですよ? 崩れた土砂に滑って道を踏み外す危険もありますし、そんな単純に土砂をまたいで、従来の道に合流できる保証もありません。今までだって、私が地形を覚えていたから、歩けてきたんです」
「じゃあ、どうする?」
「そっか。村のみんなはこっちの道が土砂崩れがあることを知ってたんだ」
ミーノは俺の言葉を無視して言った。
「なに?」
「さっきほとんどの人が、わたしたちが来た道に入ってきたことですよ。右の道を選んだのは、二人か三人で、残りが全員左の道を選んだ理由です」
「どういうことだ?」
「土砂崩れがあったことを知っていたなら、私たちがこれ以上先へ進めないことも分かっていたでしょう。村のみんなだって、これより先へは追跡はしないはずです。だから、こっちの道がここで途絶えてて、私たちがいないことを確かめたあとは、どっちにしても右の道へ戻らなくてはいけないんです。それなら、ここで追い詰めた私たちを掴まえるときのことを考えて、大勢をこっちに向かわせた方が良い」
ミーノの声は絶望していた。
「もう駄目だ……」
顔を覆ったのか、彼女の声が突然くぐもった。
「駄目だなんて……」
「駄目じゃないですか!! もうどこにも逃げられない。あと、十分もすれば村のみんながやってくる。この状態でどう逃げればいいんです?」
「一か八か、土砂をまたいで先に進もう。そんなに遠くまで行かなくても、土砂をまたいだ先で隠れて行けば、村人が引き返すかもしれない」
「どっちにしても同じことですよ!!」
ミーノが叫んだ。その声は獣の咆哮のような怒鳴り声だったのに、一晩中泣き続けたときのようにかすれていた。
「同じじゃないですか!! ここで追手をかわしたところで何になるって言うんです?」
俺はそのとき彼女が本気で怒ったところを初めて見た。
今まではたとえ、俺が泥棒を繰り返したとしても、俺を諭すような穏やかな口調だった。怒りや失望はあっただろうが、こんな風に感情をむき出しにすることはなかった。
思えばミーノはほとんど感情を出さないのだ。よほど追い詰められない限りいつもにこにこ笑っているし、酷い事態に陥ったとしても気丈に振る舞う。弟や妹が多いからだろう。彼女は長女として振る舞うことになれていた。
そんなミーノがどうしようもないくらい怒っていたのだ。
「だってそうでしょう? ここで村のみんなを巻いたところで、ヤグラ君がまた泥棒をしたら同じじゃないですか。ヤグラ君が盗みを働くたびに、真っ暗闇の中逃げて、隠れて、引っ越しをするんですか? やっていけるわけないじゃありませんか!」
「いや、それは……その……」
「少なくとも私にはやっていける自信がありません」
「じゃあ、ミーノは俺を置いて村のみんなの元に戻ってくれよ」
「嫌です!! ヤグラ君がボコボコにされて、二年前のあの人みたいになぶり殺しにされるのは見たくありません」
「それはそうかもしれないけど……」
「私が治してあげますよ」
ミーノは冷たい声で言った。
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