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最終章 最高の逆転劇
91話 最高の逆転劇とは
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俺たちは暗闇の中、山道を進んだ。ミーノにとっては歩きなれた道だが、それでも夜、明かりも焚かずに歩くのは初めてだと言っていた。
振り返ると、俺たちが一時間ほど前に歩いてきた道にポツポツと松明の列ができている。それが山道の形にうねり、ヘビのうろこのように輝いている。
「もっと早く歩かなきゃ……すぐに追いつかれちゃう」
ミーノは悲壮感をみなぎらせ、露出した山肌を手で探った。それが道を知る唯一の手掛かりだった。足場が悪く、足を滑らせれば、斜面を滑り落ちることになる。俺はミーノの手を掴み、後ろからいつでも引っ張りあげられるよう準備していた。
「まったく、俺は山狩りに追われるためにここに来たってのか? これがゲームや漫画なら、今頃一発逆転ができるってのに」
俺が愚痴ったのを聞いて、ミーノは呟くように言った。
「逆転って?」
ゲームも漫画もこの世界には存在しない。だから、ミーノは俺の独り言がほとんど理解できなかったのだろう。逆転の意味から、俺が言いたかったことを推測しようとしているみたいだった。
「逆転は逆転だよ」
「どうなれば逆転なんですか?」
「さあな。イケてる生活はいくつも思い浮かぶけど、俺にも手に入る生活があるのかな。ハーレムは無理。うまいものも満足に食えない。多分逆転劇ってのはきっと無限にあるんだよ。でも、今の俺に叶えられるものはひとつもない」
「ヤグラくんはどうしたいんですか?」
「それも分からないんだ。こんな体でも逆転できると思えるものがあるのかな」
「確かに、いくらお金持ちになったって、泥棒癖が治らない限り、お金も置いて逃げる羽目になりますもんね」
俺が言った「こんな体」をミーノは窃盗癖のことと理解したらしい。
「ミーノだけなら許してもらえるんじゃないか? 俺が逃げるのを手伝ったとはいえ、ミーノが梅干しを盗ったわけじゃない。ミーノ一人なら捜索隊も手荒な真似をしないだろう」
俺はふと思いついたことを言ってみた。確かに、こんな逃走劇にミーノを巻き込むことはない。
「言ったじゃないですか。私は何があってもヤグラ君の味方ですよ」
「ミーノは変なところで頑固なんだな……」
俺はそう言って前を向いた。
しばらく歩いたところで、道は二手に分かれた。左は細く入り組んだような獣道で、右は気休め程度に舗装された砂利道だ。ミーノはY字路の真ん中に立つと、一瞬目を泳がせ、すぐに左の道を選択した。
「おい、こっちの方が良いんじゃないか?」
俺は舗装された道を指さした。
「そっちは山をぐるっと回って、隣の村に行きつきます。そのまま、畑に沿ってあぜ道を行けば、街道と合流するんですよね。だから、村の皆も私たちがそっちに行ったと考えるでしょう。何人かはこっちの道にも来ると思いますけど、追手の数は減ってくれるはずです」
「そうか」
しばらく歩くと、先ほど俺たちが通り過ぎた分岐路で、松明の群れが止まった。男たちはどちらに行ったかを話しあっているようで、二つの道を指し示すように松明が振れる。
俺はミーノの後に続きながら、松明が右の道に入っていくのを期待した。松明は分岐路で二手に別れた。それは想定通りだった。たとえ地面に足跡が残っていたとしても、偽装やミスリードの可能性が否定できない以上、どちらか一つに絞るべきではない。
しかし、右の道に入って行ったのは二つの光で、残り八個の松明は左の道を選び、俺たちに真っ直ぐ向かってきた。
「なあ、ミーノ。向こうの道が街道に出るんじゃなかったのかよ」
「そのはずです」
「でも、ほとんどが俺たちの方に向かって来てるぞ?」
「そんなこと言われましても……」
ミーノの声が上擦った。
「本当にその道で合ってるんだよな?」
「分かりませんよ。こんな暗闇で、せめてもの明かりがあんな細いお月さんなんですよ? 私だって確信があるわけじゃありません……」
俺はぎゅっと拳を握りしめた。まったく山狩りなんて最悪だ!
俺たちは今、自分が歩いているのが道ですらない可能性を否定しきれないのだ。ミーノと、後ろの村人も含め、ここにいる全員が道と勘違いしながら、山の斜面をデタラメに彷徨い歩いている可能性もあった。
「あれ……」
ミーノが頼りない声を発したのは、そんなときだった。
振り返ると、俺たちが一時間ほど前に歩いてきた道にポツポツと松明の列ができている。それが山道の形にうねり、ヘビのうろこのように輝いている。
「もっと早く歩かなきゃ……すぐに追いつかれちゃう」
ミーノは悲壮感をみなぎらせ、露出した山肌を手で探った。それが道を知る唯一の手掛かりだった。足場が悪く、足を滑らせれば、斜面を滑り落ちることになる。俺はミーノの手を掴み、後ろからいつでも引っ張りあげられるよう準備していた。
「まったく、俺は山狩りに追われるためにここに来たってのか? これがゲームや漫画なら、今頃一発逆転ができるってのに」
俺が愚痴ったのを聞いて、ミーノは呟くように言った。
「逆転って?」
ゲームも漫画もこの世界には存在しない。だから、ミーノは俺の独り言がほとんど理解できなかったのだろう。逆転の意味から、俺が言いたかったことを推測しようとしているみたいだった。
「逆転は逆転だよ」
「どうなれば逆転なんですか?」
「さあな。イケてる生活はいくつも思い浮かぶけど、俺にも手に入る生活があるのかな。ハーレムは無理。うまいものも満足に食えない。多分逆転劇ってのはきっと無限にあるんだよ。でも、今の俺に叶えられるものはひとつもない」
「ヤグラくんはどうしたいんですか?」
「それも分からないんだ。こんな体でも逆転できると思えるものがあるのかな」
「確かに、いくらお金持ちになったって、泥棒癖が治らない限り、お金も置いて逃げる羽目になりますもんね」
俺が言った「こんな体」をミーノは窃盗癖のことと理解したらしい。
「ミーノだけなら許してもらえるんじゃないか? 俺が逃げるのを手伝ったとはいえ、ミーノが梅干しを盗ったわけじゃない。ミーノ一人なら捜索隊も手荒な真似をしないだろう」
俺はふと思いついたことを言ってみた。確かに、こんな逃走劇にミーノを巻き込むことはない。
「言ったじゃないですか。私は何があってもヤグラ君の味方ですよ」
「ミーノは変なところで頑固なんだな……」
俺はそう言って前を向いた。
しばらく歩いたところで、道は二手に分かれた。左は細く入り組んだような獣道で、右は気休め程度に舗装された砂利道だ。ミーノはY字路の真ん中に立つと、一瞬目を泳がせ、すぐに左の道を選択した。
「おい、こっちの方が良いんじゃないか?」
俺は舗装された道を指さした。
「そっちは山をぐるっと回って、隣の村に行きつきます。そのまま、畑に沿ってあぜ道を行けば、街道と合流するんですよね。だから、村の皆も私たちがそっちに行ったと考えるでしょう。何人かはこっちの道にも来ると思いますけど、追手の数は減ってくれるはずです」
「そうか」
しばらく歩くと、先ほど俺たちが通り過ぎた分岐路で、松明の群れが止まった。男たちはどちらに行ったかを話しあっているようで、二つの道を指し示すように松明が振れる。
俺はミーノの後に続きながら、松明が右の道に入っていくのを期待した。松明は分岐路で二手に別れた。それは想定通りだった。たとえ地面に足跡が残っていたとしても、偽装やミスリードの可能性が否定できない以上、どちらか一つに絞るべきではない。
しかし、右の道に入って行ったのは二つの光で、残り八個の松明は左の道を選び、俺たちに真っ直ぐ向かってきた。
「なあ、ミーノ。向こうの道が街道に出るんじゃなかったのかよ」
「そのはずです」
「でも、ほとんどが俺たちの方に向かって来てるぞ?」
「そんなこと言われましても……」
ミーノの声が上擦った。
「本当にその道で合ってるんだよな?」
「分かりませんよ。こんな暗闇で、せめてもの明かりがあんな細いお月さんなんですよ? 私だって確信があるわけじゃありません……」
俺はぎゅっと拳を握りしめた。まったく山狩りなんて最悪だ!
俺たちは今、自分が歩いているのが道ですらない可能性を否定しきれないのだ。ミーノと、後ろの村人も含め、ここにいる全員が道と勘違いしながら、山の斜面をデタラメに彷徨い歩いている可能性もあった。
「あれ……」
ミーノが頼りない声を発したのは、そんなときだった。
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