34 / 40
11-3.妖精卿と翅の黒化編3【R-18:逆レ、両片思い】
しおりを挟む黒い翅を携えて屋敷に戻ると、混乱しきったヴァルネラが俺を迎えた。
身嗜みも整えていないのか、彼の髪も服装も乱れきっている。
「どこに行ってたんですか、グレイシス! 起きたらいなくて、探しに行こうと」
「ごめん。でももういなくなるから許して、……《動かないで、ヴァルネラ》」
ヴァルネラの手が届く前に命令魔法を行使し、俺は無理やり彼の自由を奪う。
本来なら適うはずのない相手だが、黒い翅は膨大な魔力を供給してくれた。
「どうして貴方が、私を上回る魔法を!? それにその翅は」
ようやく変質した翅に気づいたヴァルネラだが、もう彼にできることはない。
長い時間は保たないだろうが、一時間もあれば目的は果たせる。
「言うこと聞けなくて、翅は使い物にならなくなった。だから出ていく、……今までありがとうヴァルネラ」
「待ってください! ちゃんと話しましょう、私、まだなにも理解できてない!」
俺が淀みなく別れを告げると、彼は意味が分からないと狼狽えている。
けれど戸惑うことはない、もう続きもないのだから。
「色々してくれたのに、なにも返せなくてごめん。でもヴァルネラなら大丈夫だよ」
「グレイシス、「《それ以上は喋っちゃだめ》」」
俺は動きどころか会話も封じて、ヴァルネラに聞くことだけを強いる。
返事なんかいらない、全てここで終わらせる。
(もう最後だから、好きなこと話しちゃおう。答えを聞く必要もないんだから)
俺に負担を与えない為にか、ヴァルネラが本気で抵抗する気配はない。
代わりに音の出ない口を動かして、必死に言葉を紡ごうとしている。
呪文なんかなくても、彼が全力を出したら俺の魔法なんて簡単に解けるのに。
「確かにヴァルネラは暴走しがちだけどさ、最近は他人に合わせる優しさも持ち始めてる。もう一人ぼっちになることはないよ」
「グ――シス、待っ――く――! 一人で――に――――いで!」
俺の魔法じゃヴァルネラを完全には止められないけど、無力化できれば上等だ。
だから今だけは俺が優位で、彼を好きなようにできる。
「俺以外にも相手はいるし、もっといい子が見つかるよ。妖精化の適性があって、ヴァルネラの良いところを見てくれる子がさ」
「お願――から、私の――聞――くだ――! 同――全て――ない――!」
俺の言葉を一方的に聞かされているヴァルネラの顔色は、蒼白になっていく。
なにか決定的な思い違いに気づいたような、愕然とした表情を浮かべていた。
(ヴァルネラ、泣いてる。一緒にいる時間が長かったから、情が湧いたのかな)
感情的に潤んだ瞳が俺に向けられて、心が良くない満たされ方をしている。
けど今だけだから許して欲しい、もう二度と姿を現さないと約束するから。
「少しの間は寂しいかもしれないけど、すぐに俺のことなんか忘れるよ。……俺は、忘れられない気がするけど」
「私だ――忘れ――ない! お願――から、話――いて!」
彼にしては珍しく過ごした相手だから、他の人より記憶を引きずるかもしれない。
でも違いなどその程度で、俺は今から有象無象に溶けていく。
(自分がしたことの結果なんだから、泣くな俺。ちゃんとヴァルネラを手放すんだ)
結局全て台無しにしたのは俺で、この結末に導いたのは自業自得だ。
けれど唯一良かったのは、まだ彼を手放す覚悟ができたこと。
「あぁでも、最後にしようか。俺との行為、好きだって言ってくれ、……いたっ」
彼に残る記憶を少しでも良いものにしたくて、俺は服を脱ぎ捨てる。
しかし強めの抵抗をしてきたヴァルネラに阻まれ、無様に床に倒れ込んだ。
(伸ばした手が、魔法で弾かれた。でも今なら、少し無理すれば押し返せる)
多少の無茶は強いられるが、黒い翅があれば規格外の魔力を操ることができる。
体の痛みを無視してヴァルネラに抗えば、彼は怯えた表情で力を霧散させた。
「拒まないで、ヴァルネラ。もう俺、これくらいしか渡せるものがないんだよ」
「グレ――ス、お願い――ら、話――いて……!」
再び俺は立ち上がって、動けないヴァルネラを押し倒して服を剥ぎ取っていく。
そして下を刺激すれば、生理反応で否応なく勃ち上がった。
「いいから気持ちよくなって。……んん、っふ、良かった、ちゃんと入りそうだ」
散々ヴァルネラを受け入れてきた場所は、もう慣らさなくても挿入できる。
俺が先端を宛てがって腰を下ろすと、水音を立てて深く入り込んできた。
(最近してなかったけど、ちゃんと入った。ヴァルネラも、余裕がなくなってる)
彼は快感を噛み殺しているが、良い所に押し当てれば肩を揺らして反応する。
その隙に俺は一気に奥まで迎え入れ、ヴァルネラのものを強く締め上げた。
「ん、あ゛ぁあ! はぁ、全部入った……。ヴァルネラ、動くから俺のこと見てて」
「いやです、――っ! やめ――ださいグレイ――!」
一度動き出した腰はもう止まることなく、俺はヴァルネラのものを刺激し続ける。
腰を逸らして雌猫のように喘ぎながら、一方通行の行為に没頭する。
「首を横に振ってても、中で大きくしてるじゃん。でも俺、それが嬉しい……」
彼にもっと気持ちよくなって欲しくて、俺は自分の快楽を後回しにして奉仕する。
これで終わりなのだから、ヴァルネラには少しでも気持ちよくなって欲しい。
「だ――話を、嫌だ、まだ――も貴方に伝え――てない――! ……っ」
「あは、やっと中に出してくれた。でも今日は、一滴も出なくなるまでしようね」
押し倒したヴァルネラの肩を掴んで狂ったように腰を振り、俺は熱で満たされる。
好き勝手された彼の表情は悲痛に染まっているけど、幸い彼は萎えていない。
(体は疲れてるけど、限界まで奉仕しよう。悔いは残したくない)
快楽で濁った頭でもそこだけは譲れなくて、俺は倦怠感の残る体を揺らし続けた。
――そして本当に動けなくなるまで、俺はヴァルネラを搾り取る。
「俺、本当はヴァルネラのことが好きだったんだ。だからこそ幸せになってほしい」
これは紛れもない本心で、俺がいては叶う事のない願いだ。
だからここで解放するから、全てなかったことにしてほしい。
(あと俺にできるのは、軽いキスだけだ)
疲れ果てた体を這いずらせて、俺はヴァルネラの唇に自分のものを押しつけた。
もう色気もなにもないが、これが彼に贈れる精一杯の愛情表現だ。
「ヴァルネラ、元気でね。愛してた」
「グレイシス、私は「《眠って、ヴァルネラ》」」
犯し尽くされて涙に濡れた顔も、いずれ笑顔に変わって他の人に向けられる。
それを自分で想像した癖に、耐えられなくなって魔法で昏睡させた。
「じゃあね、ヴァルネラ。……もう今からは、他人同士だね」
一方的な別れの言葉は彼には届かないだろうけど、言わずにはいられなかった。
全てを終わらせた俺は汚れた体を拭き、振り返らずに屋敷を出ていく。
「満足したの、グレイシス」
「うん、おまたせディーロ。……じゃあ行こうか」
屋敷の外で待ってくれていたディーロと合流し、今度は彼の後ろを歩き出す。
呼び止める声は聞こえず、俺たちの同棲は呆気なく終わりを告げた。
47
あなたにおすすめの小説
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる