ハートキラーズ

十月の兎

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1.零永軍基地

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訓練場で、二人の男が模擬戦をしている



「今日こそはぶっ殺してやる!」



こいつは、ロス・タル・カルロッタ、我が国「ファル」の軍隊零永軍れいえいぐんの突撃隊[一刀]、曲がったことと引き分けが大嫌いな、真面目なやつだ



「安心しろ、おれはお前になんか殺されねぇよ」



これは俺、零永軍指揮官、ラ・トラフ、この軍の年寄りだ、みんなにはクソジジイと呼ばれている


2人は素手だ、だが戦闘なれしている2人にとってはそれは殺傷能力のある武器のようなものだった


片方は手刀で、もう片方は拳で、既に喧嘩の域は越えている、


模擬戦と言ってもこれは殺し合いに近い



「動くんじゃねぇ!逃げやがってクソが!」



「これはあくまでもだ、殺し合いの練習だぞ」



「だったらなんだ!俺は今日こそ!」



男が感情に任せた拳を入れる前に、腹に一撃受ける



「うぐ、う、」



「これで今日も俺の勝ちだな」



戦闘不能、勝負あり、倒れ込む男に周りにいた人達が群がり、運び出す



「ちょっと、また喧嘩したの?」



こいつは零永軍の紅一点、メトアリナ・レトア、救護隊長兼魔導隊長で、誰にでも気を利かせ明るい性格である



「喧嘩じゃない、模擬戦だ、」



「だからってやりすぎだよ、ほんとにダウンしちゃってるじゃん」



「あいつが引き分け嫌いなのはお前も知ってるはずなんだがな」



「うん知ってる、仕方なかったんだよね、でもやりすぎ、治してあげてくるね」



彼女は優秀だ、魔術での治療、戦線での応急処置、兵士のメンタルケアなど内面も見てくれる、まさに戦場の天使と言ったところか



「誰にでも、か」



彼女は誰にでも優しいのだ、それは敵対兵士だとしても、



「それがいい所でもあるのだがな、」



「くそ、おい!クソジジイ!」



カルラが叫びずかずかとこちらに近づいてくる、



「だめだよ!医療魔術は傷は治せても精神疲労までは解消できないんだから、今日は休んで、ね?」



レッタが静止する、するとカルラは人が変わったように大人しくなる、年齢が近いため仲がいいのだろう、変わって俺には冷たい、



「まぁ、そういうことならしゃあねぇ、また明日にしてやる」



膝ついたくせに口だけはでかいヤツめ



「そういう事だからさ、今度は私とやろうよトラフさん」



あたりがザワつく、そりゃそうだろう、天使がクソジジイと模擬戦をやると言っているのだ、みんなの天使が攻撃されることなんて見たくないだろう、



「悪いが、それは出来ない」



「どうして?」



「君は仮にも女性だ、魔導隊と救護隊の隊長だろう、」



「だからなに?あなた戦場で女性にあったら殺されるの?私が弱かったら隊長なんて務まるんですかね、」



「・・・わかった、じゃあ、ハンデを」



「ハンデはいらないわ、有効打1発を先に相手に当てた方が勝ちにしましょう」



「わかった、いいだろう」



2人は対峙する、

直径20mの簡易結界内での勝負だ、

有効打1発、もしくは相手の場外で試合終了だ



「準備はよろしいか」



「いつでも大丈夫です、トラフさんも手加減禁止ですよ」



「善処しよう」



握手を交わし、互いに距離をとる



一瞬の沈黙、先に動いたのはレッタだった、



彼女は魔銃を使った戦闘が得意だ、この世界には魔道具と呼ばれるものがある、だがそれを扱えるものは魔術に長けていて、なおかつ自身の魔力にあった道具をことが条件だ



レッタの魔銃はもちろん本人が作っており、魔力の量により弾の種類属性などが変えられる、レッタが先に動いた時に使用したのは風のようなものだろう、それで自身の身体能力の低さをカバーしている



「なかなかいい動きだが、それでも遅いな」



「まだまだこれからですよ」



トラフはレッタの蹴りを腕で守り正面から受ける、そして振り払いレッタのバランスを崩す、

レッタは上に払われた勢いを利用して身体を半回転させ、銃のグリップで頭部に下からの一撃を入れる

が、トラフは頭を引きそれをかわす

トラフが手刀で脇腹に一撃

それをレッタは抱えるようにして衝撃を流す、

地面に着地すると同時に再びトラフに向かう

上から振り込まれる手刀を股下近くでかわす、そして

ドンッと衝撃音が響く

それと同時に2人はその場から勢いよく弾かれ

そして2発目の衝撃音でレッタは地面に叩きつけられる

勝負あり、

結果はトラフの場外負けだ



「レッタ!」



カルラが駆け寄る、もちろん俺もだ、



「えへへ、やりました」



「お前、神経が鈍いからってやりすぎだ、もっと自分を大切にしろ」



「いやぁ、どうしても勝ちたかったんですよ、」



レッタが最後に使用したのは衝撃弾のようなものだった、彼女は痛覚が鈍く多少の怪我や傷などは気にせず動けるのだ、



「ジジイてめぇ!やりすぎだろ!」



「カルラやめて、私は大丈夫だから」



「まさか衝撃弾特攻とはな、素直に負けを認める」



「でも、トラフさん手を抜いてましたよね、はは、私もまだまだですね」



「そうだな、今日は休め、おい救護班!治療してくれ」



しかし、多少油断していたとはいえ、まさか負けると思ってはいなかった、さすが戦場の天使様だな
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