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19話
ここまでヤバい媚薬が使われてるなんて、思ってもみなかったこのバレンタインイベントだけど。
レーディングの関係もあるからか、ちょっと濃いめのイチャイチャ描写が入るくらいで服もはだける程度だし、本番なんか勿論あるわけがない。
…………そりゃぁ、ほんのちょっと期待しちゃったけどね??
そこは期待するでしょ!続き!!続きは……っ!?ってなるでしょ!!なる、……よね??
それはともかく。
所謂『二人は濃密な時間を過ごしました~』的なテロップが出て、思わせぶりな暗転を挟んだあと。
キッチリ服を着た二人が再び映し出される感じで話が進んでく。
今思えば、強すぎる薬の効果もあったのかもしれないけど、画面からは見えないところで色々あったらしく、カスミンは意識を失いクッタリとしていて。
その上、完全事後の空気を漂わせ、壮絶な色気を放ちながら寝入っている。
そんなカスミンを、その他大勢のモブどもが雑魚寝してるような寮の部屋なんかに帰すわけにはいかないってことで。
寮の門限すら過ぎた時刻だったけど、養護教諭の日高先生をひそかに呼び出し、今は使われてない方の宿直室にカスミンを運び入れて。そこで、体内にまだ残ってるであろう薬の効果を流すための点滴をしてもらってー……みたいな展開だったはず。
……うん。寮の部屋、雑魚寝はいいすぎかも。ごめんね。寝相と寝言はともかく、二段ベッドにちゃんと一人ずつそれぞれ収まって大人しく寝てる人たちばかりです。はい。少なくとも、僕と同室の人たちはそう。
あれ??そういえばゲームの流れで普通に日高先生を呼びに行ってたけど、受けキャラとはいえあの人もまた攻略対象ではあるんだから、まさに据え膳状態のカスミンの姿をその目に晒しちゃうとか、だいぶ危険な感じがしない??
ただ、日高先生ルートの時に限ってはこの媚薬イベント自体発生しなかったから、イベントが起こるルート時の日高先生はカスミンに片思いしてたってわけでもないの、かな??
散々ゲームをやりこんだ僕でも、ちょっとわかんない。そこまで気にして見てなかった。残念なことに。
そもそも、僕。オタクでゲームもそこそこ好きだけど、因果律を解きほぐせ!みたいな頭を使う系のゲームはむしろ苦手意識があるだけに、今の状況を一言で表すなら『ぎぃぃぃィ~~ッ!!』って感じで……どうしたらいいのかわかんない。
でも、…………それが僕にしかできない、僕の行動次第でまだどうにかなる。っていうのなら、できるところで精一杯がんばるよ!推しカプの幸せハッピーエンドを見るために!!
…………できるのかなぁ~、理性よりも目の前の欲で突っ走りがちな僕なんかが。めちゃくちゃ不安しかない……
ただただ憂鬱なため息しか出てこないような状態で、しんと静まりかえった薄暗い空間から外に出た。
あ。……あの部屋。
とにかく人気がないところに。ってことだけを考えて飛び込んだ、校舎の端の端に位置するトイレから出て、廊下の先に目を向けた瞬間ふと気づく。
あの部屋、媚薬イベントの時に僕がカスミンを誘い出した場所だ。
今は使われてないらしい資料室。
ほったらかされてるし鍵すらかかってないから、サボるのにちょうどいいとかいう話をたまに耳にする恰好のサボりスポット。
すぐそこに寮の裏口があるから、窓の鍵さえ開けておけば簡単に出入りできて遅刻しそうな時にも便利とか。そうはいっても、間に一応フェンスみたいなものもあるんだけどね。
運動神経のいい人なら、乗り越えられないほどの高さじゃない。
そんな、外から誰でも出入りできるような危ない部屋にわざわざ呼び付けて、仲直りのシルシにって……カスミンに例のチョコを渡した、『僕』。
仔猫みたいな可愛い顔面を存分に活かして申し訳なさそうに小首を傾げ、『手作りなんだ。よかったら、ちょっと食べてみてほしいな』とか。
一見殊勝なようでいて怪しさ100%でしかないことを言い出した『僕』の言葉を鵜呑みにして……っていうか。
……人の好意を無碍にできない天使だったからこそ、ハッキリ嫌だって言えなかっただけだよねっ!?あれ!!
それとも、やることなすこと全部が全部サイテーでしかなかった僕なんかのことを、許して信じて受け入れてくれちゃってたりしたのかなぁーーーー……。
あぁぁぁぁ……それだとさすがにお人好しがすぎるよカスミンっ!!生まれながらにしての護られるべき天使なのかなっ!?天使だったっ!!
……まあ、ね?悪意を持った害悪モブたちに危害を加えられる前に、その時々のルートごとの主要攻めキャラたちが颯爽と、それはもう語彙が消失するレベルのカッコ良さで駆け付けてきてくれるんだけどね。
そうだとしても、アレはない。今回実物を手にして改めて思った。手段がほんと。サイテーサイアクすぎるよ、僕。
ほんと、自分じゃないんだけどある意味自分がやらかしたことだけに。
若干遠い目になりながら、良いのか悪いのか今回は未遂に終わったその部屋の前を通り過ぎようとした……
瞬間。
ガタッ、って中で何かが動いた音が聞こえて思わず足を止めた。
……え。待って。なに??
僕、自分の知らないうちにカスミン呼び出しちゃってたり、してる??
ゲームの強制力。みたいな話も一回二回どころじゃなくネット小説とかで読んだことがあるだけに、途端にバクバク騒ぎ始めた心臓を隠すようにして身を縮め、ただの気のせいだったっていう可能性にかけて部屋のドアに近づき、耳を澄ませた。
ザッ、と。
今度は床を蹴るような音に混じって、苦しげな呻き声まで聞こえてきたためビックリしすぎて後ろに仰け反る。
咄嗟にドアとの間に距離を置いて、震える指先を握り合わせた。
…………怖い。
正直に言えば、めっちゃくちゃ……怖いっ!!
だってこれもうホラーだよっ!!
夕闇の中、誰もいないはずの空き教室の中から男の呻き声が聞こえる。って。……学校の怪談じゃん!!
けど。でも、もし。……もしも、この中にいるのが本当にカスミンだったとしたら??
人を呼びにいくにしても、僕がここを離れている間に取り返しのつかないことになってるかもしれない。……なんてことを考えると、どうしても迷いが生じてまたドアの近くへと歩み寄る。
ルート的には、今までの感じだとおそらくハルカ先輩ルートを攻略している真っ最中だと思うけど。
さっきのあのショウ先輩とユキくんの直接バトルとか、その他にも細々紛れてたバグみたいな。本当なら起こりえないようなことが頻発しまくってる中で、果たしてゲームどおりにハルカ先輩が助けに来てくれるのか??……って不安が。一抹どころか、ものすご~~く、ある。
万が一、間に合わなかったら??それ以前に、ハルカ先輩が来てくれなかったら??
今もまだ、断続的に聞こえてくる呻き声と人が身動ぐ物音に、ジリジリとした焦燥が募り募ってまるで僕が追い詰められてるような心地になる。
仄暗い廊下に突っ立ったまま、考えに考えた結果。
「……そっと、覗いてみて。もし危なそうなら即逃る。で、もしなにかあれば先生を、呼んでくる」
中にいる人が体調不良とか、怪我して動けないとかなら。竹田先輩か、先生を。
……もし。お楽しみ中でしたか……みたいな、お互い気まずいような感じのことなら見なかったことにして、その場合もダッシュで逃げよう。巻き込まれると面倒だし。
とりあえず、これからの対処法を決め、それでも怖いものは怖いので。
何度も何度も深呼吸を繰り返したあと、震える指先をドアの把手へとあてがった。
なるべく音を立てないようにそろそろとドアをスライドさせ、そこから覗ける範囲に視線を配る。
窓の真ん前に聳える背の高い棚で遮られた奥の方はともかくとして、付近に人影はないように……見えた。
それはそれで怖いんだけどね~……じゃあ、さっきの物音はなんだったの的な……
ゾワッと背筋を撫でた生温い悪寒に身を強張らせながら、ゲーム内でのバレンタインイベントの際。カスミンが蹲ってた、部屋の真ん中辺りにあるソファーの周囲にもう一度視線を走らせた。
念の為で確認したその場所に、やっぱり誰の姿もなかったことにちょっとホッとして。放置されているわりにはキレイな床の上をなぞるようにして目を戻す。
その途中。
視界の端に引っかかったなにかに興味を引かれ、ほんの少し身を乗り出した。
室内をしっかりと覗くまでは見えないような壁際にいた、誰かの姿に気づいてビクッと肩を跳ね上げる。
どうも、視界の端に映り込んだのは手前の壁に凭れかかっていたその誰かの靴の先だった、らしい。
長い脚を片方投げ出すようにして蹲ってるその人は、やっぱり時折小さな呻きを洩らしながら苛立たしそうに力無い舌打ちを落とし靴底で床を掻いた。
さっき聞こえた音と同じそれらを聞いて、お化けじゃなかったことに一先ずは安堵する。
見た瞬間。髪色的にも体格的にも、カスミンじゃなさそうなことだけは一目でわかったし。
ただちょっと、ほんとに……冗談抜きで具合悪そうじゃない??……この人。
なんなら、今すぐ保健室に担ぎ込まれても不思議じゃないただならぬ様子に、今度は別の意味で心臓が騒いで焦り出す。
暗いからそう見えるだけかもしれないけど顔色が悪いし、演技してるようにも見えない。そもそも誰も見てないところで演技する意味も必要もなさそうなだけに、怪しさよりも心配の方が先に立った。
……急に声かけられたら驚かせちゃうんじゃないかとか迷いつつ、先生を呼んだ方がいいかどうかだけでも一応聞いてみようか……って、室内へとほんの一歩程度足を踏み入れる。
だって、こんなところで死なれたらまたストーリーにないはずの余計な事件が増えちゃうし。それはそれで、さらにまたなんか起こりそうでとっても困る。
「あの、……大丈夫、ですか?」
とりあえず、助けが必要か聞いてみるだけでも。なんて軽い気持ちで声をかけたら。
日が傾きかけた薄暗がりの中。
蹲るようにして伏せられていた顔がゆっくりと持ち上がり、ダルそうに向けられた二つの目が入り口に立つ僕の存在を認め。
驚愕したように、大きく見開かれた。
「……陽加先輩?」
―――――――――――――――
蝸牛以下の更新速度の話にお付き合いいただき、本当に心より感謝申し上げます。
このあと2話分くらいまでの投稿を目指していたのですが、諸事情あって本文の直しすらできずにいる状態なため、そちらはのちほどまた。
そして、すみません。またしばらく更新止まります。
レーディングの関係もあるからか、ちょっと濃いめのイチャイチャ描写が入るくらいで服もはだける程度だし、本番なんか勿論あるわけがない。
…………そりゃぁ、ほんのちょっと期待しちゃったけどね??
そこは期待するでしょ!続き!!続きは……っ!?ってなるでしょ!!なる、……よね??
それはともかく。
所謂『二人は濃密な時間を過ごしました~』的なテロップが出て、思わせぶりな暗転を挟んだあと。
キッチリ服を着た二人が再び映し出される感じで話が進んでく。
今思えば、強すぎる薬の効果もあったのかもしれないけど、画面からは見えないところで色々あったらしく、カスミンは意識を失いクッタリとしていて。
その上、完全事後の空気を漂わせ、壮絶な色気を放ちながら寝入っている。
そんなカスミンを、その他大勢のモブどもが雑魚寝してるような寮の部屋なんかに帰すわけにはいかないってことで。
寮の門限すら過ぎた時刻だったけど、養護教諭の日高先生をひそかに呼び出し、今は使われてない方の宿直室にカスミンを運び入れて。そこで、体内にまだ残ってるであろう薬の効果を流すための点滴をしてもらってー……みたいな展開だったはず。
……うん。寮の部屋、雑魚寝はいいすぎかも。ごめんね。寝相と寝言はともかく、二段ベッドにちゃんと一人ずつそれぞれ収まって大人しく寝てる人たちばかりです。はい。少なくとも、僕と同室の人たちはそう。
あれ??そういえばゲームの流れで普通に日高先生を呼びに行ってたけど、受けキャラとはいえあの人もまた攻略対象ではあるんだから、まさに据え膳状態のカスミンの姿をその目に晒しちゃうとか、だいぶ危険な感じがしない??
ただ、日高先生ルートの時に限ってはこの媚薬イベント自体発生しなかったから、イベントが起こるルート時の日高先生はカスミンに片思いしてたってわけでもないの、かな??
散々ゲームをやりこんだ僕でも、ちょっとわかんない。そこまで気にして見てなかった。残念なことに。
そもそも、僕。オタクでゲームもそこそこ好きだけど、因果律を解きほぐせ!みたいな頭を使う系のゲームはむしろ苦手意識があるだけに、今の状況を一言で表すなら『ぎぃぃぃィ~~ッ!!』って感じで……どうしたらいいのかわかんない。
でも、…………それが僕にしかできない、僕の行動次第でまだどうにかなる。っていうのなら、できるところで精一杯がんばるよ!推しカプの幸せハッピーエンドを見るために!!
…………できるのかなぁ~、理性よりも目の前の欲で突っ走りがちな僕なんかが。めちゃくちゃ不安しかない……
ただただ憂鬱なため息しか出てこないような状態で、しんと静まりかえった薄暗い空間から外に出た。
あ。……あの部屋。
とにかく人気がないところに。ってことだけを考えて飛び込んだ、校舎の端の端に位置するトイレから出て、廊下の先に目を向けた瞬間ふと気づく。
あの部屋、媚薬イベントの時に僕がカスミンを誘い出した場所だ。
今は使われてないらしい資料室。
ほったらかされてるし鍵すらかかってないから、サボるのにちょうどいいとかいう話をたまに耳にする恰好のサボりスポット。
すぐそこに寮の裏口があるから、窓の鍵さえ開けておけば簡単に出入りできて遅刻しそうな時にも便利とか。そうはいっても、間に一応フェンスみたいなものもあるんだけどね。
運動神経のいい人なら、乗り越えられないほどの高さじゃない。
そんな、外から誰でも出入りできるような危ない部屋にわざわざ呼び付けて、仲直りのシルシにって……カスミンに例のチョコを渡した、『僕』。
仔猫みたいな可愛い顔面を存分に活かして申し訳なさそうに小首を傾げ、『手作りなんだ。よかったら、ちょっと食べてみてほしいな』とか。
一見殊勝なようでいて怪しさ100%でしかないことを言い出した『僕』の言葉を鵜呑みにして……っていうか。
……人の好意を無碍にできない天使だったからこそ、ハッキリ嫌だって言えなかっただけだよねっ!?あれ!!
それとも、やることなすこと全部が全部サイテーでしかなかった僕なんかのことを、許して信じて受け入れてくれちゃってたりしたのかなぁーーーー……。
あぁぁぁぁ……それだとさすがにお人好しがすぎるよカスミンっ!!生まれながらにしての護られるべき天使なのかなっ!?天使だったっ!!
……まあ、ね?悪意を持った害悪モブたちに危害を加えられる前に、その時々のルートごとの主要攻めキャラたちが颯爽と、それはもう語彙が消失するレベルのカッコ良さで駆け付けてきてくれるんだけどね。
そうだとしても、アレはない。今回実物を手にして改めて思った。手段がほんと。サイテーサイアクすぎるよ、僕。
ほんと、自分じゃないんだけどある意味自分がやらかしたことだけに。
若干遠い目になりながら、良いのか悪いのか今回は未遂に終わったその部屋の前を通り過ぎようとした……
瞬間。
ガタッ、って中で何かが動いた音が聞こえて思わず足を止めた。
……え。待って。なに??
僕、自分の知らないうちにカスミン呼び出しちゃってたり、してる??
ゲームの強制力。みたいな話も一回二回どころじゃなくネット小説とかで読んだことがあるだけに、途端にバクバク騒ぎ始めた心臓を隠すようにして身を縮め、ただの気のせいだったっていう可能性にかけて部屋のドアに近づき、耳を澄ませた。
ザッ、と。
今度は床を蹴るような音に混じって、苦しげな呻き声まで聞こえてきたためビックリしすぎて後ろに仰け反る。
咄嗟にドアとの間に距離を置いて、震える指先を握り合わせた。
…………怖い。
正直に言えば、めっちゃくちゃ……怖いっ!!
だってこれもうホラーだよっ!!
夕闇の中、誰もいないはずの空き教室の中から男の呻き声が聞こえる。って。……学校の怪談じゃん!!
けど。でも、もし。……もしも、この中にいるのが本当にカスミンだったとしたら??
人を呼びにいくにしても、僕がここを離れている間に取り返しのつかないことになってるかもしれない。……なんてことを考えると、どうしても迷いが生じてまたドアの近くへと歩み寄る。
ルート的には、今までの感じだとおそらくハルカ先輩ルートを攻略している真っ最中だと思うけど。
さっきのあのショウ先輩とユキくんの直接バトルとか、その他にも細々紛れてたバグみたいな。本当なら起こりえないようなことが頻発しまくってる中で、果たしてゲームどおりにハルカ先輩が助けに来てくれるのか??……って不安が。一抹どころか、ものすご~~く、ある。
万が一、間に合わなかったら??それ以前に、ハルカ先輩が来てくれなかったら??
今もまだ、断続的に聞こえてくる呻き声と人が身動ぐ物音に、ジリジリとした焦燥が募り募ってまるで僕が追い詰められてるような心地になる。
仄暗い廊下に突っ立ったまま、考えに考えた結果。
「……そっと、覗いてみて。もし危なそうなら即逃る。で、もしなにかあれば先生を、呼んでくる」
中にいる人が体調不良とか、怪我して動けないとかなら。竹田先輩か、先生を。
……もし。お楽しみ中でしたか……みたいな、お互い気まずいような感じのことなら見なかったことにして、その場合もダッシュで逃げよう。巻き込まれると面倒だし。
とりあえず、これからの対処法を決め、それでも怖いものは怖いので。
何度も何度も深呼吸を繰り返したあと、震える指先をドアの把手へとあてがった。
なるべく音を立てないようにそろそろとドアをスライドさせ、そこから覗ける範囲に視線を配る。
窓の真ん前に聳える背の高い棚で遮られた奥の方はともかくとして、付近に人影はないように……見えた。
それはそれで怖いんだけどね~……じゃあ、さっきの物音はなんだったの的な……
ゾワッと背筋を撫でた生温い悪寒に身を強張らせながら、ゲーム内でのバレンタインイベントの際。カスミンが蹲ってた、部屋の真ん中辺りにあるソファーの周囲にもう一度視線を走らせた。
念の為で確認したその場所に、やっぱり誰の姿もなかったことにちょっとホッとして。放置されているわりにはキレイな床の上をなぞるようにして目を戻す。
その途中。
視界の端に引っかかったなにかに興味を引かれ、ほんの少し身を乗り出した。
室内をしっかりと覗くまでは見えないような壁際にいた、誰かの姿に気づいてビクッと肩を跳ね上げる。
どうも、視界の端に映り込んだのは手前の壁に凭れかかっていたその誰かの靴の先だった、らしい。
長い脚を片方投げ出すようにして蹲ってるその人は、やっぱり時折小さな呻きを洩らしながら苛立たしそうに力無い舌打ちを落とし靴底で床を掻いた。
さっき聞こえた音と同じそれらを聞いて、お化けじゃなかったことに一先ずは安堵する。
見た瞬間。髪色的にも体格的にも、カスミンじゃなさそうなことだけは一目でわかったし。
ただちょっと、ほんとに……冗談抜きで具合悪そうじゃない??……この人。
なんなら、今すぐ保健室に担ぎ込まれても不思議じゃないただならぬ様子に、今度は別の意味で心臓が騒いで焦り出す。
暗いからそう見えるだけかもしれないけど顔色が悪いし、演技してるようにも見えない。そもそも誰も見てないところで演技する意味も必要もなさそうなだけに、怪しさよりも心配の方が先に立った。
……急に声かけられたら驚かせちゃうんじゃないかとか迷いつつ、先生を呼んだ方がいいかどうかだけでも一応聞いてみようか……って、室内へとほんの一歩程度足を踏み入れる。
だって、こんなところで死なれたらまたストーリーにないはずの余計な事件が増えちゃうし。それはそれで、さらにまたなんか起こりそうでとっても困る。
「あの、……大丈夫、ですか?」
とりあえず、助けが必要か聞いてみるだけでも。なんて軽い気持ちで声をかけたら。
日が傾きかけた薄暗がりの中。
蹲るようにして伏せられていた顔がゆっくりと持ち上がり、ダルそうに向けられた二つの目が入り口に立つ僕の存在を認め。
驚愕したように、大きく見開かれた。
「……陽加先輩?」
―――――――――――――――
蝸牛以下の更新速度の話にお付き合いいただき、本当に心より感謝申し上げます。
このあと2話分くらいまでの投稿を目指していたのですが、諸事情あって本文の直しすらできずにいる状態なため、そちらはのちほどまた。
そして、すみません。またしばらく更新止まります。
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こちらこそ、読んでくださって本当にありがとうございます!!そういっていただけて、とってもとってもありがたいばかりです🥰✨
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本当にありがとうございます!!
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お返事が、遅くなりましたレベルで収まらないほどに遅くなってしまって大変申し訳ありません!!
読んでくださって本当にありがとうございます😭✨そして、とっても嬉しいお言葉をいただき心より感謝申し上げます!!
更新速度がカタツムリの歩み以下でほんとに申し訳ない限りなのですが、遅くとも来月半ばまでには上げられると思いますので、無事更新できましたらその際にまた読んでいただけますととても嬉しく思います!!
お返事が遅くなってしまったこと、重ねてお詫びいたします!申し訳ありませんでした🙇♀️💦
ありがたすぎる感想をいただけて、とってもとっても嬉しかったです!!