隣町は魔物ひしめく廃墟。俺は彼女のヒーローになる

立川ありす

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第1章 WITCHES AND GUNS ~夜闇に踊る少女たち

俺と妹と幼馴染の日常1

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「お兄ちゃん、おはようー」
「おはよう、千佳。朝ごはんできてるよ」
 2階から聞こえてきた舌足らずな声に、エプロンをはずしながら笑顔で答える。

 キッチンのテーブルの上に並んでいるのは、サラダと厚切りトースト。
 そして焼きあがったばかりのベーコンエッグ。

 スリッパがパタパタなる音。
 思わず階段を見やる。

 大きめのスリッパを履いた白くてやわらかそうな足が階段を降りてくる。
 ハート柄のネグリジェに包まれた身体は華奢で小柄で、長髪はクセッけが強くてウェーブしている。
 そんな愛らしい妹が、服のそでで眠い目をこする。

 日比野千佳。
 背丈のせいで低学年に見られることの多々ある妹だが、立派な初等部4年生だ。

 そんな妹がベーコンの匂いにつられてこちらを見やる。
 妹のクリクリとした愛らしい瞳を見やると、思わず笑みがこぼれる。

「今日は千佳の大好きなベーコンエッグだよ」
「やったね!」
「あっ! あぶないっ」
 タタタッと階段を駆け下りる千佳に声をあげる。
 だが当の千佳はそのままの勢いでテーブルに着く。

「お兄ちゃん、はやくはやく!」
 急かす妹の前にミルクを注いだカップを置き、テーブルの向かいに座る。

 俺の家は両親が共働きで家を留守にしがちだ。
 だから朝食は俺と千佳の2人で済ますことが多い。

「体の調子はどう?」
「うん、今日は苦しくないから、学校にも行けそう」
 問いかけに、無邪気に笑う。

「そっか、よかった」
 ほっと微笑みを返しながら、ネグリジェのまっ平らな胸を見やる。

 断じて他意はない。
 千佳は心臓の病を患っているのだ。
 そのせいか病弱で、学校も休みがちである。

 そんな妹を残して仕事にかまけている親に不満がないではない。
 だが妹の病を治すには巨額の治療費が必要だとも知っているので、不平をこぼすこともできない。
 だから、せめて両親の代りに、妹の心の支えになってやりたい。

 そう。千佳のヒーローに、俺はなりたい。

「ごちそうさま。今日も美味しかったよ!」
「どういたしまして。……学校の準備ができたら、髪、結ってあげるよ」
「それじゃ、急いで着替えてくるね!」
 そう言って、千佳は騒々しく2階へと戻って行った。

 そして学ランに着替えた俺と、クセ毛をお気に入りのツインドリルに結った千佳は普段通りに家を出た。

 並んで通学路を歩く。
 俺たちが通う蔵乃巣くらのす学園は、近年でも珍しい公立の小中高一貫校だ。
 だから学校に着くまでは千佳と一緒にいられる。そして、

「千佳ちゃん、今日は体調良いんだね。よかった」
 千佳と俺と並んで、高等部指定のセーラー服をまとった華奢な少女が歩く。

 如月小夜子。
 俺の幼馴染で、クラスメートでもある。

「えへへ、ありがとう。小夜子さんに心配ばっかりかけられないもんね!」
「ごめんね、わたし、なんにも力になれなくて……」
 天真爛漫な千佳の笑顔に、だが小夜子は申しわけなさそうにうつむく。
 セミロングの髪が気弱げにゆれる。

 小夜子はやさしくて面倒見もいい上に学校の成績も上々だ。
 だが昔から気が弱く、そのせいか考え方もネガティブだ。
 ある意味、病弱だがどこか能天気な千佳とは正反対である。だから、

「そういえば」
 そんな小夜子のフォローをしようと話題を変える。

「昨日、この近くに隕石が落ちたんだってね」
「あ、うん。ニュースで見たよ。たしか、新開発区のほうに落ちたんだっけ……」
「うんうん! 赤いのがヒューンって飛んできて、すごくキレイだった!」
 千佳のほうが楽しげにはしゃぐ。

「隕石に乗って、ピューッと空を飛べたら楽しいよね! それで、お兄ちゃんと小夜子さんといっしょに宇宙まで行くの!」
 小4にしては割と子供っぽい妄想を語るが、千佳が笑っているから俺も笑う。
 それを見やって小夜子も微笑む。

「でも、なんか不気味な感じがしたよね。それに、新開発区に落ちたなんて、あんまり関わりたくないな……」
 そう言って表情を曇らせる。
 小夜子のネガティブ思考はけっこう筋金入りだ。

「そっかー」
 千佳は残念そうにつぶやく。
 すると小夜子も申しわけなさそうにうつむいてしまう。

 ネガティブの連鎖だ。
 しょうがないなあ……。

「だいたい、おまえは隕石の免許なんか持ってないだろ?」
 そう言って千佳の手を取る。
「えへへ、お兄ちゃんと恋人ごっこだ」
 そう言って千佳は笑う。
 千佳が反対の手を小夜子に向かって伸ばす。
 なので仕方なくといった感じで、小夜子も手を取る。

「お兄ちゃんと小夜子さんが、パパとママみたい!」
 千佳はニコニコ笑顔になって、2人の手を支えにして釣り下がったりして遊ぶ。
「おいおい、重たいだろう」
 千佳の笑顔を見やって俺も笑う。
 そして見やると、小夜子は照れるように顔を赤らめていた。

 ……それはそれで反応に困る。
 だが、俺もなんだかちょっとドキドキして、それほど悪い気分ではない。

 そうやって歩くうちに学校に着いた。
 警備員に挨拶しつつ校門をくぐる。

「おはよう、親子連れさん」
 白黒コンビの警備員のショートアフロの方が軽口をたたいてきた。
 小夜子は顔をまっ赤にしてうつむいてしまう。
 俺もつられて赤面する。

 いや、まあ、機嫌が直ったのは嬉しいんだけど。
 そこまで反応されるとこちらも困るというか……。

 千佳はそんな俺と小夜子の様子には気づかず、

「あ、ゾマ! おはようー」
 大きな声で叫ぶ。
 すると初等部の敷地に向かう長身の少女が振り返った。

 真神園香。
 千佳のクラスメートなので、千佳と同じ小4だ。
 だが四肢はスラリとしていて、スタイルもモデルのようにバツグンだ。

 ゾマというのはあだ名らしい。『ま』がみ『そ』のか、だから『ゾマ』だそうな。

 千佳は、そんな園香ちゃんのところに走っていく。
 残された俺と小夜子は見つめあい、そして照れたように視線をそらす。
 なんか、なんか微妙に気まずい。
 別の話題を探さないと……。

「チャビーちゃん、おはよう! あ、陽介さんも小夜子さんも、おはようございます」
 園香ちゃんが礼儀正しく挨拶する。
 俺たちも挨拶を返す。

 千佳は『ひ』びの『ち』か、だから『チャビー』。
 最近の小学生はけっこう凝ったあだ名を考えるんだなあと、微妙に感心したりする。

「よかった。今日は体の調子、だいじょうなんだね」
「うん、お兄ちゃんの朝ごはんをいっぱい食べてきたから、元気もいっぱい!」
 楽しげに話す2人を見て俺も思わず嬉しくなる。

「あのね、昨日、テックちゃんのウサギ当番を手伝ったんだよ」
「いいなー。みんな元気だった?」
「うん、みんな仲良しで、お野菜いっぱい食べてたよ」
 真神家は隣ではないものの近所なので、園香ちゃんは千佳と仲良くしてくれている。
 学校を休みがちな千佳にとって心の支えになってるんだろうなと思うと、長身でスタイルの良い彼女の存在が有難く感じられる。

 ふと、先日にバケモノに襲われたこと、そして2人の少女に救われたこと思い出す。

 彼女たちも、この学校の初等部のはずだ。
 ツインテールの方が名札をつけてた。

 だから偶然に見かけたりとかしないかなあと千佳と園香の周囲を見渡す。
 会えたからどうだという訳でもないのだが、やはりこの前のお礼を言いたい。
 あの時は気が動転してて、ちゃんとできていなかった気がするからだ。

 それに、彼女たちが落としたハンカチを返さないと。
 あの時に見つけた布きれは、意外にも(いや年齢相応か?)可愛らしいキャラクターの絵柄のハンカチだった。
 それを洗濯して、いつか会えたときに返そうと持ち歩いているのだ。

 千佳に頼めば早いのかもしれない。
 けど彼女らの学年もクラスもわからないし、登校日数の少ない千佳と親しいかどうかもわからない。
 それに夜道でバケモノに襲われた話をして、心配させてしまうのも気が引けた。
 ……まあ、笑われるだけだろうけど。

 そんなことを考えていると、小夜子がジトッとした目つきで睨んでいた。

「うわっ、その……小学生のネーミングセンスって、おもしろいね」
 俺は笑って誤魔化しながら話題をふる。
 だが小夜子はプイッとそっぽを向いてしまった。

 その視線は、千佳と楽しげに話す園香ちゃんに向けられていた。
 正確にはその豊満な胸だ。
 小4とは思えないほどグラマーな彼女は、胸のサイズも相応だ。

 対して小夜子の胸は、中3にしてはかなり小ぶりな部類だ。
 ネガティブな彼女が気にしないわけがない。

 というか、気づくとまた睨んでいた。
 俺が園香ちゃんの胸を見ていると思っているらしい!

 お、俺はそんなに巨乳好きじゃないし、そもそも小学生の胸を凝視したりしないよ!
 思わず叫びそうになったが、ぐっと堪えて理性的に話しかける。

「そのさ、小夜子。女の子の胸って、大きければいいわけじゃないと思うんだ」
「陽介君、千佳ちゃんみたいなのが好みなんだ。ロ、ロリコ……」
「ご、誤解だぁ!」
 っていうか、僕は今、どう言えばよかったんだ!?

 ……そんなわけで、俺は千佳と園香ちゃんを見送って、普段通りに自分のクラスに向かった。


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