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第2章 おつぱいと粗品
園香
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そして下校後。
舞奈は着替えを持って、旧市街地に戻ってきた。
「この界隈はいつ見ても小奇麗だなあ。新開発区や統零と同じ国とは思えん」
舞奈は着替えのバックを揺らして、だらだら歩く。
旧市街地には、いわゆる山の手が2つある。
そのうちひとつが、園香の家のある讃原町だ。
明日香が住む統零町と違って物々しい施設もない。
フェンスの庭に花が咲き乱れていたり、カラフルなレンガ造りだったりと目に楽しい家々が立ち並ぶ高級住宅街である。
小洒落たブロック塀の上を歩く猫すら、ツンとすましたシャム猫だ。
ちなみに、悟や刀也の屋敷もこの近所である。
そんな讃原の小奇麗な街並みを見ていると、なんとなくそわそわする。
新開発区での暮らしが長いせいか、路上に瓦礫や鉄骨が転がっていない街は落ち着かないのだ。
「ガラス張りの家の隣の、白いレンガに赤い屋根……と。あれか?」
教わった目印を頼りに、自分のアパートと同じ大きさの植物園の角を曲がる。
すると、小さな庭のついた2階建ての白い家が見えた。
ここが真神邸であろう。
そこはかとなく気品溢れるレンガの家のガレージは空っぽだ。
両親が出払っているというのは本当らしい。
慣れない高級住宅の玄関を探して、視線をめぐらせる。
そして眉をひそめる。
不審者がいた。
薄汚い紺色の背広を着た中年男だ。
向かいの家のフェンスの陰から、白いレンガの家をじっと見つめている。
そのまましばらく見張ってみたが、真神邸の様子を窺っているのは間違いない。
男は足元に落とした煙草を革靴で踏みにじる。
神経質そうに新たな煙草に火をつける。
「……爆発しちまえ」
舞奈は不審者を睨みつける。
鼻のいい舞奈は煙草の臭いが嫌いだ。
もっとも、煙を吐く生物を人非人として忌み嫌う明日香よりは寛容だと思う。
それはともかく、ここは自分が呼ばれた責務を果たすべきだろう。
「よう、おっさん。この家に何か用か?」
男に何食わぬ顔で歩み寄る。
煙にイラついたせいか、必要以上に険のある声になってしまった。
それが原因かは分からないが、
「!?」
男はいきなり逃げ出した。
「あ? おいっ!?」
舞奈は追おうとしたが、よく考えれば現時点で彼を捕まえる理由はない。
仕方ないので玄関探しを再開しようとしたら、木目のドアがカチャリと開いた。
「マイ! いらっしゃーい!」
先に来ていたらしいチャビーと明日香が顔をのぞかせた。
元気なチャビーに「よっ」と手を振り、向かいの家の隅を指さす。
「そこにいたよ、不審者」
「知ってたわ」
「マイちゃん、追い払ってくれたの? 大丈夫だった……?」
明日香の頭の上から、おっかなびっくりといった様子で園香が顔を出す。
そんな彼女を安心させるように笑みを浮かべ、
「大丈夫もなにも、声かけたら逃げちゃったよ。それより……」
舞奈は男が立っていた場所を嫌そうに見やる。
「後で片づけたほうがいいな。ったく、人ん家の前を灰皿代わりにしやがって」
すると、明日香がニッコリ笑って小首を傾げ、指鉄砲を形作る。
「……いや。片づけるって、そういう意味じゃなくてな」
舞奈はやれやれと肩をすくめた。
そして、その日の夕方。
夕飯は、園香が手によりをかけて用意したご馳走だった。
湯気をあげ肉汁を香らせる焼きたてハンバーグ。
濃厚に香るコーンポタージュ。
自家製ハム入が入った野菜サラダ。
それらが可愛らしいチェック模様のテーブルクロスの上に並ぶ。
「いっただっきまーっす」
舞奈はアツアツのハンバーグに舌をとろけさせ、2口、3口と口に運ぶ。
サラダをつついてハムとレタスとドレッシングのハーモニーを愉しむ。
そしてポタージュの皿に手をのばす。
――と見せかけて、明日香のハンバーグめがけてフォークを走らせる。だが、
カキン。
明日香のナイフが舞奈の得物を阻む。
奇襲を見切られたか。
明日香は刃物の扱いもちょっとしたものだ。
手術の如き正確な太刀筋には舞奈も息を飲むほどだ。
だが単純なパワーでは舞奈に分がある。
「おまえは毎日、家で霜降り肉食ってるだろうが。ちょっとくらい譲れ」
「本当にそんな食生活してるなら、たまに食べる家庭料は貴重だと思わない?」
明日香はナイフを持つ手にぎりぎりと力をこめる。
舞奈も負けじと力をこめる。押し負けたら仕返しに何か取られそうだし。
だが2人が遊んでいる隙に、舞奈の皿にチャビーのフォークが迫っていた。
「おい、待てよチャビー。や、やめろ、やめてくれ~」
「マイのタコさん、いっただきー」
ハンバーグではなく付け合せのタコさんウィンナーを持ち去ったのは、せめてもの情けか、あるいは単にチャビーが幼女だからか。それでも、
「ああ……。タコも貴重なタンパク質なんだぞ……」
舞奈は涙目になって凹む。自業自得なのだが。
「マイちゃんも、チャビーちゃんも、おかわりはたくさんあるから」
そういってなぐさめたのは園香だ。
エプロンをつけたまま、聖母のように微笑む。
感極まった舞奈は長身巨乳のクラスメートに身体ごと向き直り、
「結婚してくれ」
キリッとした表情で言った。
その後、食後のデザートとばかりに、みんなでメロンをいただいた。
ここで言うメロンとは、大ぶりで甘く柔らかいウリ科の果物のことだ。
舞奈は着替えを持って、旧市街地に戻ってきた。
「この界隈はいつ見ても小奇麗だなあ。新開発区や統零と同じ国とは思えん」
舞奈は着替えのバックを揺らして、だらだら歩く。
旧市街地には、いわゆる山の手が2つある。
そのうちひとつが、園香の家のある讃原町だ。
明日香が住む統零町と違って物々しい施設もない。
フェンスの庭に花が咲き乱れていたり、カラフルなレンガ造りだったりと目に楽しい家々が立ち並ぶ高級住宅街である。
小洒落たブロック塀の上を歩く猫すら、ツンとすましたシャム猫だ。
ちなみに、悟や刀也の屋敷もこの近所である。
そんな讃原の小奇麗な街並みを見ていると、なんとなくそわそわする。
新開発区での暮らしが長いせいか、路上に瓦礫や鉄骨が転がっていない街は落ち着かないのだ。
「ガラス張りの家の隣の、白いレンガに赤い屋根……と。あれか?」
教わった目印を頼りに、自分のアパートと同じ大きさの植物園の角を曲がる。
すると、小さな庭のついた2階建ての白い家が見えた。
ここが真神邸であろう。
そこはかとなく気品溢れるレンガの家のガレージは空っぽだ。
両親が出払っているというのは本当らしい。
慣れない高級住宅の玄関を探して、視線をめぐらせる。
そして眉をひそめる。
不審者がいた。
薄汚い紺色の背広を着た中年男だ。
向かいの家のフェンスの陰から、白いレンガの家をじっと見つめている。
そのまましばらく見張ってみたが、真神邸の様子を窺っているのは間違いない。
男は足元に落とした煙草を革靴で踏みにじる。
神経質そうに新たな煙草に火をつける。
「……爆発しちまえ」
舞奈は不審者を睨みつける。
鼻のいい舞奈は煙草の臭いが嫌いだ。
もっとも、煙を吐く生物を人非人として忌み嫌う明日香よりは寛容だと思う。
それはともかく、ここは自分が呼ばれた責務を果たすべきだろう。
「よう、おっさん。この家に何か用か?」
男に何食わぬ顔で歩み寄る。
煙にイラついたせいか、必要以上に険のある声になってしまった。
それが原因かは分からないが、
「!?」
男はいきなり逃げ出した。
「あ? おいっ!?」
舞奈は追おうとしたが、よく考えれば現時点で彼を捕まえる理由はない。
仕方ないので玄関探しを再開しようとしたら、木目のドアがカチャリと開いた。
「マイ! いらっしゃーい!」
先に来ていたらしいチャビーと明日香が顔をのぞかせた。
元気なチャビーに「よっ」と手を振り、向かいの家の隅を指さす。
「そこにいたよ、不審者」
「知ってたわ」
「マイちゃん、追い払ってくれたの? 大丈夫だった……?」
明日香の頭の上から、おっかなびっくりといった様子で園香が顔を出す。
そんな彼女を安心させるように笑みを浮かべ、
「大丈夫もなにも、声かけたら逃げちゃったよ。それより……」
舞奈は男が立っていた場所を嫌そうに見やる。
「後で片づけたほうがいいな。ったく、人ん家の前を灰皿代わりにしやがって」
すると、明日香がニッコリ笑って小首を傾げ、指鉄砲を形作る。
「……いや。片づけるって、そういう意味じゃなくてな」
舞奈はやれやれと肩をすくめた。
そして、その日の夕方。
夕飯は、園香が手によりをかけて用意したご馳走だった。
湯気をあげ肉汁を香らせる焼きたてハンバーグ。
濃厚に香るコーンポタージュ。
自家製ハム入が入った野菜サラダ。
それらが可愛らしいチェック模様のテーブルクロスの上に並ぶ。
「いっただっきまーっす」
舞奈はアツアツのハンバーグに舌をとろけさせ、2口、3口と口に運ぶ。
サラダをつついてハムとレタスとドレッシングのハーモニーを愉しむ。
そしてポタージュの皿に手をのばす。
――と見せかけて、明日香のハンバーグめがけてフォークを走らせる。だが、
カキン。
明日香のナイフが舞奈の得物を阻む。
奇襲を見切られたか。
明日香は刃物の扱いもちょっとしたものだ。
手術の如き正確な太刀筋には舞奈も息を飲むほどだ。
だが単純なパワーでは舞奈に分がある。
「おまえは毎日、家で霜降り肉食ってるだろうが。ちょっとくらい譲れ」
「本当にそんな食生活してるなら、たまに食べる家庭料は貴重だと思わない?」
明日香はナイフを持つ手にぎりぎりと力をこめる。
舞奈も負けじと力をこめる。押し負けたら仕返しに何か取られそうだし。
だが2人が遊んでいる隙に、舞奈の皿にチャビーのフォークが迫っていた。
「おい、待てよチャビー。や、やめろ、やめてくれ~」
「マイのタコさん、いっただきー」
ハンバーグではなく付け合せのタコさんウィンナーを持ち去ったのは、せめてもの情けか、あるいは単にチャビーが幼女だからか。それでも、
「ああ……。タコも貴重なタンパク質なんだぞ……」
舞奈は涙目になって凹む。自業自得なのだが。
「マイちゃんも、チャビーちゃんも、おかわりはたくさんあるから」
そういってなぐさめたのは園香だ。
エプロンをつけたまま、聖母のように微笑む。
感極まった舞奈は長身巨乳のクラスメートに身体ごと向き直り、
「結婚してくれ」
キリッとした表情で言った。
その後、食後のデザートとばかりに、みんなでメロンをいただいた。
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