136 / 593
第9章 そこに『奴』がいた頃
戦闘準備
しおりを挟む
立てつけの悪いドアが、ガラリと開いた。
「アイヤー! 楓ちゃん、紅葉ちゃん。待ってたアルよ」
「……相手が金持ちだからって、露骨に態度を変えやがって」
満面の笑みで迎える張に、むくれる舞奈。
そんな2人に明日香はやれやれと苦笑する。
「あら、舞奈さんと明日香さん、皆さんも来ていらしたんですね」
「閣下に紅葉さんも、いらっしゃ~い!」
「はは遠慮せずに座るでゴザル」
少年たちは酒もないのにすっかりできあがっている。
そんな彼らに笑みを返し、楓はキョロキョロと店内を見渡す。そして、
「ああ、用意してくださったんですね」
「よかった……」
カウンターの隅に置かれた紙袋を見やり、姉妹はほっとしたように微笑んだ。
張の話では、袋の中身は消臭剤とのことだ。
「あんたたちのだったのか」
餃子をつまみながら、何となく納得する。そして、
「けど、そんなもの何に使うんだ?」
何となく尋ねる。
「舞奈さんには話していませんでしたか……」
楓は少し疲れた様子で言った。
「楓ちゃん、その話は今はちょっと……」
「構わん。続けてくれ」
張の制止を押し止め、先をうながす。
「実は先日、バーストの治療が完了したんですよ」
「そいつはおめでとう。あれからそんなに経ったんだなあ……」
舞奈は遠い目をする。
楓たちがバーストを飼い始めたのは、姉妹が仕事人になったのと同時期だ。
復讐者だった楓は明日香と、紅葉は舞奈と死力を尽くして戦い、そして和解した。
楓は言葉を続ける。
「ですが治療の『副作用』を考慮せずに砂場の準備を怠っておりまして」
楓が使う【治癒の言葉】の魔術は損傷した肉体を式神で代用する。
式神による代替器官は代謝を利用して排出されるので、治療が終わるまではお通じがなくなる。厳密には出た瞬間に消える。そして、
「気がついた時には部屋中に――」
楓の口から怖ろしい事実が告げられた。
舞奈の瞳が驚愕に見開かれた。
明日香も思わず絶句した。
無害なはずの治療の魔術が、そんな惨事の引き金になるなんて思わなかった。
それよりも、
「……食事中に何て話しやがる」
舞奈は嫌そうに愚痴りつつ、手元の餃子を無理やりに咀嚼して飲みこむ。
さっきまであんなに美味しかった餃子なのに、味がよくわからない。
「っていうか、張も知ってたなら止めてくれ」
「止めようとしたアルよ」
張は頭とひとつながりになった肩を、やれやれとすくめた。
旧市街地は、今日も平和だった。
――――――――――――――――――――
そして舞奈と明日香は陽介をつれ、新開発区の通りを歩く。
「――というのが定説です。異能力を使う男性は異能力者と呼ばれています」
「それじゃ、僕もその、異能力を使えたりするのかな?」
「男にしか使えないってのは、男なら使えるってのとは意味が違うよ」
「そうだよね……」
廃墟の街を歩きながら、舞奈たちは彼に様々なことを説明していた。
異能力のこと、怪異のこと、そして【機関】のこと。
この街で生き残るのに必要な事柄のうち、彼が知らなくて、舞奈たちだけが知っている事が多すぎたからだ。
中学生の彼は幸いにも勤勉な生徒で、小学生2人の言葉を真面目に聞いてくれた。
「――で、あたしたちがその仕事人だ。チーム名ってことで【掃除屋】を名乗ってる。これでも、その界隈じゃ、ちょっとした有名人なんだよ……っと」
言葉を切り、舞奈と明日香は足を止める。
あわてて陽介も止まる。
「見てみな。あいつらが怪異だ」
指さしたのは、公園跡とおぼしき廃墟の広間だ。
そこに人型の怪異が群をなしていた。
それは腐った肉にただれた皮膚を張りつかせ、錆びた刀や鉄パイプを手にしている。
泥人間だ。
「さっき兄ちゃんを襲ったのも、あいつの仲間だ」
「あれが、怪異……」
「あたしたちの今回の仕事は、あの腐れ野郎どもの退治だ。……正確には、奴らを退治して、奴らが持ってるはずの隕石の欠片を回収することだ」
言いつつ舞奈は顔をしかめる。
あの不愉快な依頼人のことを思い出したからだ。
だが少年はそれどころではない。
無理もない。
先ほど自分を襲った化け物の同類|(しかもたくさん)を目の当たりにしているのだ。
対して明日香は涼しげに微笑む。
舞奈も気を取り直し、口元を笑みの形に歪めてみせる。
気乗りしない仕事だが、やる気を出さないと難航して余計に手間がかかる。
「聞いていたより少ないわね」
「さっきみたいに徘徊してるんじゃないのか? とっとと片づけて石を探すぞ」
「その前に」
言いつつ明日香は、地面に散らばる瓦礫をブーツで蹴り掃く。
空いた場所に金属製のドッグタグを並べ、中央に紙片を置いて真言を唱える。
そして一語の呪句で締める。
式神を召喚する【機兵召喚】の魔術だ。
タグと紙片がひとりでに燃えあがり、陽炎のように式神があらわれる。
短機関銃を携えた影法師だ。
「彼の護衛を」
明日香は式神に向かって命ずる。
『了解しました、閣下』
式神は脳内に直接響くような声で答える。
そして陽介を守るように立ち尽くす。
「これは……?」
「術で召喚した式神です。彼らに貴方を護衛させます」
「しょ、召喚!?」
陽介は目を丸くして、銃を携えた式神を見やる。
今まで普通の世界で暮らしていた彼にとって、施術を始めとする超常現象のすべてが物珍しいのだ。
「念のための護衛です。戦闘は私たちにまかせて、貴方は物陰に隠れててください」
「あ、うん」
明日香は気にせず念を押し、陽介は大人しくうなずく。
生真面目な明日香は民間人の身の安全だけが心配なのだ。
「まったく、用意周到なこった」
舞奈はやれやれと肩をすくめる。だが、
「異能力……? あ、あれ? 異能力は男にしか使えないって、さっき……?」
陽介が困っていた。
意外にも、彼は説明を細かい所まで聞いていたらしい。
「ああ、こいつのは、ちょっと違うんだ」
困惑する陽介に、舞奈は口元に笑みを浮かべて答える。
「あたしも明日香も、異能力なんて持っちゃいないさ。異能力を手に入れられるのは魔力から生まれた怪異か、魔力をその身に宿した若い男だけだ」
「うん」
陽介はうなずく。
明日香は不満げに舞奈を睨む。
自分でうんちく語りをしたかったのだろうが、別に気を使う理由もない。
なので舞奈は涼しい顔で見やり、
「だが大昔のヒマな天才が、そいつを知恵と技術で無理やりに真似た。つまり異能力の秘密を解き明かし、そいつを再現する手段を会得したんだ」
「そして、その技術は宗教や神秘思想と合体して体系化し、広まりました」
無理やりに割りこんできた。
「その技術は魔法と呼ばれて、魔法の使い手は魔道士と呼ばれています」
厳密には、魔道士は魔力を生み出す魔術師や周囲の魔力を操る呪術師、自身の魔力を駆使する妖術師に大別される。
だが一度に言っても困るだけだと察したか、そこら辺は省いて言葉を続ける。
明日香だってそのくらいの気は使うらしい。
「魔法には多々の流派があります。中でも、わたしの流派は戦闘魔術。大戦中に枢軸国軍と旧帝国陸海軍が共同開発した特殊な流派です」
明日香は気持ちよく説明を続ける。
「陰陽道をベースに真言密教の強大なパワーとルーン魔術の正確さを兼ね合わせた戦闘のための魔法で、熱や電気・冷気を操る【エネルギーの制御】、そして今しがた作りだした護衛をはじめとする【式神の召喚】を得意とします」
「ってことは……」
陽介はしばし黙考して説明を咀嚼する。そして、
「……明日香は魔法少女なんだ」
「いや魔道士だ、魔道士」
思わずツッコむ。
まあ、魔法の下に少女と書いて魔法少女と読む。
事情に疎い彼が、そういう風に解釈するのも責められない。
「魔法少女というのは、非常に高度な魔法で創られたドレスをまとうことで身体強化された存在を指します。魔法使いの意味じゃないですよ」
「ごめん、別の意味があったんだね」
陽介はバツが悪そうに頭を掻く。
「その性質上、魔法少女があらわれることは稀です」
明日香は苦笑しつつ、それでも嬉々として説明する。
「巣黒市近辺で直近に目撃された魔法少女は3年前のチーム・ピクシオン。巣黒支部の100人規模の異能力者をもってしても敵わなかった敵組織を3人で壊滅させました」
「そんな……!?」
陽介は驚く。
「別に大したことじゃあないだろう」
舞奈はぶっきらぼうに答える。
「ええっ!? いや、まあ、舞奈たちからすればそうなんだろうけど……」
度肝を抜かれる陽介を見やって苦笑する。
3年前、舞奈はピクシオンだった。
戦闘における絶対なる力を体現する一樹と、母性溢れる美佳に守られ、勘が良いだけの子供だった舞奈はエンペラーの手下どもと戦った。
ピクシオンは敵からも味方からも恐れられ、最強と呼ばれた。
3人は、あの新開発区のアパートで3人で暮らしていた。
舞奈は一樹から戦闘技術を学んだ。
美佳からは術へ対処する方法と、愛を学んだ。
だが舞奈が強者となった今、美佳と一樹はいない。
その話を明日香にしたことはない。
もちろん、陽介に話すつもりもない。
「ねえ、ひとつ聞いていいかい?」
舞奈の心中など知らず、陽介は問いかける。
「なんでしょう」
「俺も勉強すれば、異能力が使えたりするのかな?」
「だから魔法だ、魔法」
舞奈は思わず苦笑する。
明日香は一瞬、言葉を詰まらせる。その隙に、
「魔法を使えるのは天才だけだよ」
代わりに答える。
「魔法をその手につかめるのは、100点満点のテストで5000点取るくらい筋金入りのキチガ……天才だけだ。努力する異能力みたいなもんだ」
「つまり、普通の人には無理なのか……」
陽介はまじまじと明日香を見やる。
そして何かに気づいたように舞奈を見やる。
「それじゃ、舞奈ちゃんはどうやって奴らと戦うの?」
さすがの彼も気づいたのだろう。
今の舞奈がいかなる異能の力も使っていないことに。
「こいつだよ」
舞奈は笑みを浮かべてジャケットの内側に手を入れ、慣れた様子で得物を抜く。
「拳銃……? ええっと、IWIのジェリコ941、かな?」
「お。兄ちゃん、こういうの詳しいのか?」
「まあ、そういう映画とか好きだから」
陽介の言葉に、舞奈は思わず笑みを返す。
「そっか。それなら知ってるだろうけど、こいつは中口径弾が撃てる。脳天に何発かぶちこんでやらあ、異能力を使う怪異だろうとお陀仏だ」
そう言って自然に銃を構える様を見て、陽介はゴクリとつばを飲みこむ。
種々の異能の力について知って、銃を見て、ようやく舞奈たちが何を相手に何をしようとしているかを実感できたのだろう。
状況を飲みこんでもらえたようで、舞奈は笑う。
舞奈たちは彼を守りながら、石を手に入れるべく泥人間を殲滅しないといけないのだから。
「アイヤー! 楓ちゃん、紅葉ちゃん。待ってたアルよ」
「……相手が金持ちだからって、露骨に態度を変えやがって」
満面の笑みで迎える張に、むくれる舞奈。
そんな2人に明日香はやれやれと苦笑する。
「あら、舞奈さんと明日香さん、皆さんも来ていらしたんですね」
「閣下に紅葉さんも、いらっしゃ~い!」
「はは遠慮せずに座るでゴザル」
少年たちは酒もないのにすっかりできあがっている。
そんな彼らに笑みを返し、楓はキョロキョロと店内を見渡す。そして、
「ああ、用意してくださったんですね」
「よかった……」
カウンターの隅に置かれた紙袋を見やり、姉妹はほっとしたように微笑んだ。
張の話では、袋の中身は消臭剤とのことだ。
「あんたたちのだったのか」
餃子をつまみながら、何となく納得する。そして、
「けど、そんなもの何に使うんだ?」
何となく尋ねる。
「舞奈さんには話していませんでしたか……」
楓は少し疲れた様子で言った。
「楓ちゃん、その話は今はちょっと……」
「構わん。続けてくれ」
張の制止を押し止め、先をうながす。
「実は先日、バーストの治療が完了したんですよ」
「そいつはおめでとう。あれからそんなに経ったんだなあ……」
舞奈は遠い目をする。
楓たちがバーストを飼い始めたのは、姉妹が仕事人になったのと同時期だ。
復讐者だった楓は明日香と、紅葉は舞奈と死力を尽くして戦い、そして和解した。
楓は言葉を続ける。
「ですが治療の『副作用』を考慮せずに砂場の準備を怠っておりまして」
楓が使う【治癒の言葉】の魔術は損傷した肉体を式神で代用する。
式神による代替器官は代謝を利用して排出されるので、治療が終わるまではお通じがなくなる。厳密には出た瞬間に消える。そして、
「気がついた時には部屋中に――」
楓の口から怖ろしい事実が告げられた。
舞奈の瞳が驚愕に見開かれた。
明日香も思わず絶句した。
無害なはずの治療の魔術が、そんな惨事の引き金になるなんて思わなかった。
それよりも、
「……食事中に何て話しやがる」
舞奈は嫌そうに愚痴りつつ、手元の餃子を無理やりに咀嚼して飲みこむ。
さっきまであんなに美味しかった餃子なのに、味がよくわからない。
「っていうか、張も知ってたなら止めてくれ」
「止めようとしたアルよ」
張は頭とひとつながりになった肩を、やれやれとすくめた。
旧市街地は、今日も平和だった。
――――――――――――――――――――
そして舞奈と明日香は陽介をつれ、新開発区の通りを歩く。
「――というのが定説です。異能力を使う男性は異能力者と呼ばれています」
「それじゃ、僕もその、異能力を使えたりするのかな?」
「男にしか使えないってのは、男なら使えるってのとは意味が違うよ」
「そうだよね……」
廃墟の街を歩きながら、舞奈たちは彼に様々なことを説明していた。
異能力のこと、怪異のこと、そして【機関】のこと。
この街で生き残るのに必要な事柄のうち、彼が知らなくて、舞奈たちだけが知っている事が多すぎたからだ。
中学生の彼は幸いにも勤勉な生徒で、小学生2人の言葉を真面目に聞いてくれた。
「――で、あたしたちがその仕事人だ。チーム名ってことで【掃除屋】を名乗ってる。これでも、その界隈じゃ、ちょっとした有名人なんだよ……っと」
言葉を切り、舞奈と明日香は足を止める。
あわてて陽介も止まる。
「見てみな。あいつらが怪異だ」
指さしたのは、公園跡とおぼしき廃墟の広間だ。
そこに人型の怪異が群をなしていた。
それは腐った肉にただれた皮膚を張りつかせ、錆びた刀や鉄パイプを手にしている。
泥人間だ。
「さっき兄ちゃんを襲ったのも、あいつの仲間だ」
「あれが、怪異……」
「あたしたちの今回の仕事は、あの腐れ野郎どもの退治だ。……正確には、奴らを退治して、奴らが持ってるはずの隕石の欠片を回収することだ」
言いつつ舞奈は顔をしかめる。
あの不愉快な依頼人のことを思い出したからだ。
だが少年はそれどころではない。
無理もない。
先ほど自分を襲った化け物の同類|(しかもたくさん)を目の当たりにしているのだ。
対して明日香は涼しげに微笑む。
舞奈も気を取り直し、口元を笑みの形に歪めてみせる。
気乗りしない仕事だが、やる気を出さないと難航して余計に手間がかかる。
「聞いていたより少ないわね」
「さっきみたいに徘徊してるんじゃないのか? とっとと片づけて石を探すぞ」
「その前に」
言いつつ明日香は、地面に散らばる瓦礫をブーツで蹴り掃く。
空いた場所に金属製のドッグタグを並べ、中央に紙片を置いて真言を唱える。
そして一語の呪句で締める。
式神を召喚する【機兵召喚】の魔術だ。
タグと紙片がひとりでに燃えあがり、陽炎のように式神があらわれる。
短機関銃を携えた影法師だ。
「彼の護衛を」
明日香は式神に向かって命ずる。
『了解しました、閣下』
式神は脳内に直接響くような声で答える。
そして陽介を守るように立ち尽くす。
「これは……?」
「術で召喚した式神です。彼らに貴方を護衛させます」
「しょ、召喚!?」
陽介は目を丸くして、銃を携えた式神を見やる。
今まで普通の世界で暮らしていた彼にとって、施術を始めとする超常現象のすべてが物珍しいのだ。
「念のための護衛です。戦闘は私たちにまかせて、貴方は物陰に隠れててください」
「あ、うん」
明日香は気にせず念を押し、陽介は大人しくうなずく。
生真面目な明日香は民間人の身の安全だけが心配なのだ。
「まったく、用意周到なこった」
舞奈はやれやれと肩をすくめる。だが、
「異能力……? あ、あれ? 異能力は男にしか使えないって、さっき……?」
陽介が困っていた。
意外にも、彼は説明を細かい所まで聞いていたらしい。
「ああ、こいつのは、ちょっと違うんだ」
困惑する陽介に、舞奈は口元に笑みを浮かべて答える。
「あたしも明日香も、異能力なんて持っちゃいないさ。異能力を手に入れられるのは魔力から生まれた怪異か、魔力をその身に宿した若い男だけだ」
「うん」
陽介はうなずく。
明日香は不満げに舞奈を睨む。
自分でうんちく語りをしたかったのだろうが、別に気を使う理由もない。
なので舞奈は涼しい顔で見やり、
「だが大昔のヒマな天才が、そいつを知恵と技術で無理やりに真似た。つまり異能力の秘密を解き明かし、そいつを再現する手段を会得したんだ」
「そして、その技術は宗教や神秘思想と合体して体系化し、広まりました」
無理やりに割りこんできた。
「その技術は魔法と呼ばれて、魔法の使い手は魔道士と呼ばれています」
厳密には、魔道士は魔力を生み出す魔術師や周囲の魔力を操る呪術師、自身の魔力を駆使する妖術師に大別される。
だが一度に言っても困るだけだと察したか、そこら辺は省いて言葉を続ける。
明日香だってそのくらいの気は使うらしい。
「魔法には多々の流派があります。中でも、わたしの流派は戦闘魔術。大戦中に枢軸国軍と旧帝国陸海軍が共同開発した特殊な流派です」
明日香は気持ちよく説明を続ける。
「陰陽道をベースに真言密教の強大なパワーとルーン魔術の正確さを兼ね合わせた戦闘のための魔法で、熱や電気・冷気を操る【エネルギーの制御】、そして今しがた作りだした護衛をはじめとする【式神の召喚】を得意とします」
「ってことは……」
陽介はしばし黙考して説明を咀嚼する。そして、
「……明日香は魔法少女なんだ」
「いや魔道士だ、魔道士」
思わずツッコむ。
まあ、魔法の下に少女と書いて魔法少女と読む。
事情に疎い彼が、そういう風に解釈するのも責められない。
「魔法少女というのは、非常に高度な魔法で創られたドレスをまとうことで身体強化された存在を指します。魔法使いの意味じゃないですよ」
「ごめん、別の意味があったんだね」
陽介はバツが悪そうに頭を掻く。
「その性質上、魔法少女があらわれることは稀です」
明日香は苦笑しつつ、それでも嬉々として説明する。
「巣黒市近辺で直近に目撃された魔法少女は3年前のチーム・ピクシオン。巣黒支部の100人規模の異能力者をもってしても敵わなかった敵組織を3人で壊滅させました」
「そんな……!?」
陽介は驚く。
「別に大したことじゃあないだろう」
舞奈はぶっきらぼうに答える。
「ええっ!? いや、まあ、舞奈たちからすればそうなんだろうけど……」
度肝を抜かれる陽介を見やって苦笑する。
3年前、舞奈はピクシオンだった。
戦闘における絶対なる力を体現する一樹と、母性溢れる美佳に守られ、勘が良いだけの子供だった舞奈はエンペラーの手下どもと戦った。
ピクシオンは敵からも味方からも恐れられ、最強と呼ばれた。
3人は、あの新開発区のアパートで3人で暮らしていた。
舞奈は一樹から戦闘技術を学んだ。
美佳からは術へ対処する方法と、愛を学んだ。
だが舞奈が強者となった今、美佳と一樹はいない。
その話を明日香にしたことはない。
もちろん、陽介に話すつもりもない。
「ねえ、ひとつ聞いていいかい?」
舞奈の心中など知らず、陽介は問いかける。
「なんでしょう」
「俺も勉強すれば、異能力が使えたりするのかな?」
「だから魔法だ、魔法」
舞奈は思わず苦笑する。
明日香は一瞬、言葉を詰まらせる。その隙に、
「魔法を使えるのは天才だけだよ」
代わりに答える。
「魔法をその手につかめるのは、100点満点のテストで5000点取るくらい筋金入りのキチガ……天才だけだ。努力する異能力みたいなもんだ」
「つまり、普通の人には無理なのか……」
陽介はまじまじと明日香を見やる。
そして何かに気づいたように舞奈を見やる。
「それじゃ、舞奈ちゃんはどうやって奴らと戦うの?」
さすがの彼も気づいたのだろう。
今の舞奈がいかなる異能の力も使っていないことに。
「こいつだよ」
舞奈は笑みを浮かべてジャケットの内側に手を入れ、慣れた様子で得物を抜く。
「拳銃……? ええっと、IWIのジェリコ941、かな?」
「お。兄ちゃん、こういうの詳しいのか?」
「まあ、そういう映画とか好きだから」
陽介の言葉に、舞奈は思わず笑みを返す。
「そっか。それなら知ってるだろうけど、こいつは中口径弾が撃てる。脳天に何発かぶちこんでやらあ、異能力を使う怪異だろうとお陀仏だ」
そう言って自然に銃を構える様を見て、陽介はゴクリとつばを飲みこむ。
種々の異能の力について知って、銃を見て、ようやく舞奈たちが何を相手に何をしようとしているかを実感できたのだろう。
状況を飲みこんでもらえたようで、舞奈は笑う。
舞奈たちは彼を守りながら、石を手に入れるべく泥人間を殲滅しないといけないのだから。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる