銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第17章 GAMING GIRL

花屋で転んで夢を見た

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「毎度ありがとうございますにょ」
 花屋のエプロンをつけた店員が営業スマイルを浮かべる。
 諜報部の執行人エージェントたちがそのまま大人になったような小太りなバイト店員は言動に少しばかり癖はあるものの、気心の知れた気のいいおっさんだ。

 新開発区で泥人間と道士を倒した後。
 周囲の安全を確認し、レインと殉職した執行人エージェントを県の支部の人間に預け、明日香と別れた舞奈は商店街のフラワーショップを訪れた。
 ポップな内装が可愛らしい小さな花屋は、モモカの家の1階でもある。

 急に花を買おうと思ったのは、もう一度、園香に会いたくなったからだ。
 無残に屠られた仲間にすがるレインの泣き顔が脳裏にこびりついて離れない。
 だから園香に花束を渡して、彼女の笑顔が見たかった。
 裏の世界のことなんて何も知らない彼女に、満面の笑みを浮かべてほしかった。

 加えて昼間の別れ際が少し慌ただしくなってしまったという理由もある。
 私事の最中に園香の親父さんに踏みこまれ、2階の窓から逃げる間際に園香にキスをしようと……キスを……して……親父さんの……親父さんがすごく怒ってた。
 うん、そうだ。
 だから、もう一度、彼女に会って、ちゃんと「また明日ね」と言って別れたい。

 そんなことを考えながら、舞奈は口元に笑みを浮かべる。
 手にしているのは百合やバラやカーネーションが艶やかに咲き乱れる花束だ。
 舞奈は金にだらしないせいで万年金欠だが、女の子に贈る花束に妥協はしない。

「お嬢ちゃん、今日も彼女にプレゼントかい?」
 バイトのおっさんが妙に馴れ馴れしい笑みを浮かべる。
 立っているだけでも大変なのかフウフウ言って汗を拭きながら。
 そんなおっさんの、

「菊1本おまけしておいたよ」
「……変なもん入れんでくれ」
「いやね、売り物の花束を作ってる時に余っちゃって」
「こいつだって売り物だろう、適当な仕事をせんでくれよ」
 余計なおまけに口元を歪める。
 だが問答するのも面倒なので大人しく勘定を済ませ、

「……ったく、仏花じゃないんだぞ」
 ぶつぶつ言いながら出口へ向かう。
 それなりに広い店舗の壁一面にはイミテーションの林檎の木が並んでいる。
 この店が入っている商店街が、りんご島商店街などと名乗っているせいだ。

「だいたい何で1本だけなんだよ。菊だけ浮いてるだろ」
 やれやれまったくと苦笑しつつ菊から目をそらす。
 する天井からぶら下がったプラスチック製の林檎が目に入る。

 妙にリアルな大ぶりなリンゴはバイトのおっさんがでっちあげた代物らしい。
 あまりに良くできているので、以前に食えそうだなとひとりごちたことがある。
 途端、珍しく一緒に来ていた明日香に白い目で見られた。
 そんな昔のことを思い出して苦笑する。

 そして花束に目を落とす。
 やはり中途半端に1本だけ刺さった菊の花が、すっごく気になる。
 売り物の花束に余計なことをしやがったバイト店員を横目で見やる。
 彼は暇そうに売り物のチューリップを眺めていた。

「……ったく、大人は平和そうで羨ましいよ」
 ぶつくさと再びひとりごちる。

 だが舞奈だって理解はしている。
 仕事人トラブルシューターなどしていなければ平和な子供でいられたと。

 つい先ほど逝ったばかりの【グングニル】の青年たちも同じだ。
 彼らも執行人エージェントなんてしていなければ馬鹿な大学生や高校生でいられた。
 そのまま月日が経てば平和ボケした馬鹿な大人になれたはずだ。
 そんなことを考えたからという訳でもないのだが、

「……あのおっちゃん、30歳くらいか?」
 適当に口に出してみる。
 もうちょっと上かもしれないが、小5の舞奈に大人の年なんかわからない。
 それでも、その数字から自分の年齢を引き算した20年という数字が脳裏に浮かぶ。
 舞奈は口元に軽薄な笑みを浮かべる。

 自分が20年後にどうなっているかなんて、想像もできない。
 それが今まで生きてきた時間からは想像もつかないほど長い時間だからだろう。

 なら明日香は、園香は、どんな大人になっているだろうかと考える。
 園香は母親にでもなっているのだろうか?
 優しく、家庭的で、そして今の調子でいけば美しい、理想の母親になるだろう。

 明日香は……。やはり思いつかない。
 たぶんそれも彼女と舞奈が仕事人トラブルシューターなんてしているからだ。
 口元が乾いた笑みの形に歪む。

 明確な敵がいて、そいつを排除するバイトが安全な訳がない。
 そんな生業を続ける限り、執行人エージェントたちに訪れた運命は決して他人事ではない。
 舞奈が最強のSランクでも変わらない。

 それでも……否、だからこそ愛する少女に花を贈りたかった。
 自分がそこにいたことを、彼女がそこにいることを確かめるために。
 そこに絆があったことを確かめるために。

 そんなことを考えつつ、ふとガラスの自動ドア越しに店の外を見やる。
 何かに『呼ばれた』気がしたからだ。

 だが店の外に知人はいない。
 それらしい気配もない。
 それどころか日曜の夕方なのに人がほとんどいない。
 だから気のせいかと思って再び物思いにふけろうとした途端……

「……?」
 甲高いクラクションの音が耳をつんざいた。

「うるさいな、どこの馬鹿だよ」
 顔をしかめつつ、今度はショーウィンドーを兼ねた窓越しに店外を見やる。
 あまりの状況に唖然とした。

 通りをタンクローリーが疾走していた。
 とんでもない音量のクラクションと共に、ブレーキ音をけたたましく鳴らしている。

 卓越した視力で運転席を見やる。
 タバコをくわえた中年男が驚愕の表情をうかべている。

 視線を追う。
 タンクローリーの進行方向に少女がいた。
 長髪の少女は異音と地響きをたてて迫る鋼鉄の怪物に驚き、身を強張らせる。

「女の子が!?」
 舞奈は花束を放り捨てて駆け出す。

 今から、この距離から走っても間に合わない。
 修羅離れした舞奈にはわかる。
 ヘタを打てば舞奈自身も巻き添えを食う。

 だからといって、彼女を見捨てて逃げられる訳はない。
 何故なら舞奈は美少女に目がない。
 それと同じくらい、舞奈は目の前の少女を失うことを恐れる。
 だから舞奈は走る。

 走って走って――

 ――衝撃。

 意識が途切れた。

 そして目覚めると、おぼろげな視界にやわらかなふくらみが飛びこんできた。
 舞奈は迷わず手をのばす。

「ハニエル……? それともチャムエルか……? サチさん……? 園香……?」
 あたたかく、少々たるんでいる点も含めて母親の抱擁のように懐かしいそれを、愛でるように貪るように揉みしだく。
 そうするうちに視界がクリアになる。そして、

「う、うわぁ!! な、なんだあんた!?」
 柄にもなくうろたえる舞奈を、花屋のエプロンをつけたおっさんが覗きこんでいた。
 ショックのあまり意識が完全に覚醒する。

「ああ……。止めてしまわれるんですか」
 おっぱいじゃなかった。
 どうやら舞奈はバイト店員のおっさんの太鼓腹をなでまわしていたらしい。
 舞奈は嫌そうに顔をしかめる。
 腹を揉んでいた掌がなんか湿っぽいし、ほんのりスイカの匂いがする。

「それよりここはどこだ? 今は何年何月だ?」
 舞奈は問う。
 おっさんはフウフウ言って汗を拭きながら答える。
 返ってきたのは当然ながら今日の日時。

 そんなことを尋ねのは、気絶している間に妙な夢を見た気がしたからだ。

 そう。夢だ。
 奇妙で不可思議な夢だった。
 目覚めた途端に霧散しようとしている微かな記憶を想いおこせば十年の如く長いようにも、あるいは一瞬のように短いようにも思える。
 だが確かな実感と整合性を持ったエピソード。
 荒唐無稽な夢物語と片付けるには、あまりにリアルすぎる体験。
 それが夢ではなく過去に起きた何かの記憶だと言われても信じられるほどに。
 時系列的には在り得ないことは明白なのに関わらず。

 そんな得体のしれぬ何かに理由をつけようと頭をひねっていると、

「覚えてるかい? お嬢ちゃんは急いで外に飛び出そうとして、そこの自動ドアに激突したんだ。店の中で走ると危ないよ」
 おっさんは夢よりはるかにリアリティのある状況説明をしてくれた。
 口元に浮かんだ苦笑がちょっと気に障る。
 目を覚ましたばかりの子供が状況がよくわかっていないと思ったのだろう。
 正直、他ならぬあんたに粗忽さを指摘されたくないなあと少し思う舞奈だが、

「いくらなんでも、開いてるドアにはぶつからないよ」
「いや、自動で開いたり閉まったりしてたんだよ。……お嬢ちゃんがぶるかるまでは」
 言われて入り口を見やる。
 景気よく全開になったドアの片隅に『故障中』と張り紙がしてあった。

「そ、そっか。……ごめんなさい」
 素直に詫びつつ、まじまじと張り紙を見やる。

 遠い昔の出来事を思い出すように、つい先ほど意識を失う前の状況に意識を向ける。
 たしかに轢かれそうだった女の子を救おうと走り出した記憶がある。
 あの辺りを全力で駆け抜けようとした覚えもある。

 その際に透明なドアが自動で開き切る前に突進、激突したのだ。
 何せ屈強な舞奈は脚力も人間離れしている。
 短距離走のスピードは自動ドアが開くよりはるかに早い。

 もちろん目前に妙な空気の流れを感じて咄嗟に避けようはしたはずだ。
 その程度は意識しなくてもできる。
 もっと小さいものだって普通に避けれる。
 何故なら舞奈は如何なる剣も打撃も回避する。

 だが切羽詰まった感情に突き動かされて冷静さを失っていたので対処が遅れた。
 透明な扉の向こうからあらわれた自分自身からの打撃は避けられなかった。
 しかも屈強な舞奈がドアに激突する勢いは自転車あたりの突撃に等しい。
 そりゃあひっくり返りもするだろう。
 命のかかった戦闘中に同じことをすまいと強く心に決める。

 ……否。
 先ほどだって命はかかっていた。
 暴走タンクローリーに、女の子が轢かれそうになっていたのだ。
 彼女はどうなった? と焦る舞奈に、

「いやいや、気にしないでいいよ」
 言いつつおっさんは店の外に目を配らせる。

「実はね、お嬢ちゃんがドアを壊したすぐ後に、表通りで爆発事故があったんだ。燃料を積んだタンクローリーが横転したって言ってたかな。景気よく爆発して破片とかけっこう飛んでたから、ドア開かなくてかえって良かったかもしれないよ」
「……そっか」
 そんな洒落にならない話を笑顔でしてくれた。
 舞奈は三度、ショーウィンドー越しに店の外を見やる。

 店外の他の建物は破損こそないものの、爆発のススのせいか真っ黒だ。
 透明なガラス1枚を隔てた先で、警官たちが慌ただしく走り回っている。
 かく言う店の窓ガラスもススで汚れ、手榴弾に似た破片がいくつも刺さっている。
 自動ドアが開いていたら、店の中も割と悲惨な状況になっていたのは明白だ。

(死んだり酷い怪我をした奴が、ひとりでも少ないと良いな)
 素直にそう思う。

 舞奈は普段の仕事で死を見すぎている。
 この店を訪れる前にも新開発区で5人ほど死んだ。
 だから、おかわりは必要ない。

 そして今しがたも……運転手は当然ながら、轢かれそうだった少女も同じだろう。
 その推論を否定できる材料は残念ながらここにはない。
 加えて何故か先ほど見た妙な夢のせいもあって、その事実を素直に受け入れられた。

 だが、そう言う視点で見てみると、警官の数に比べて救命士の数が少ない。
 普段から死と硝煙にまみれた舞奈の目から見ても、少なくとも広い窓越しに見える範囲では、黒焦げになった路地に彼ら以外の被害者はたぶんいない。

(……てことは日曜の夕方に人通りがなかったってことか)
 ふと思い当たり、

(モモカの店、本当に大丈夫なんだろうな)
 別の意味で不安になって肩をすくめる。次の瞬間、

「舞奈!!」
 開きっぱなしのドアから誰かが跳びこんできた。
 明日香だ。

 珍しく息を切らせ、額に玉の汗を浮かべている。
 何故だか今は、見知った顔を見るのが嬉しかった。

「どうしたよ? あたしに会うのが、明日まで待ちきれなかったか?」
「女の子が、轢かれたって、聞いたから……」
「そりゃ、あてがはずれて残念だったな」
 内心を覆い隠すように軽口を叩いた途端、明日香の顔が激情に歪む。

「何よ! 人の気も知らないで!」
 しまった、と思った途端に平手が飛んだ。

 まあ確かに無神経な軽口だったと自分でも思う。
 なにせ先ほど5人の死を看取ったばかりだ。
 現に舞奈も彼女の姿を見やって安堵した。
 だから明日香の細い手首をつかみ、口元に笑みを浮かべ、

「ほら、徒競走の景品だ」
 ちょうど手元にあった花束を差し出す。
 起き抜けのせいか少し手元が狂った気がしたが気にしない。
 花束は百合やバラやカーネーションが艶やかに咲き乱れ……おっさんの余計なひと手間で菊が1本だけ入っている。まあそれでもいいやと思った。

 何故なら舞奈は少女に花束を贈りたかった。
 買った当初は園香に渡すつもりだった。
 だが今は、それが明日香でも良いだろうと思う。

「なんでわたしが、あなたに花をもらわなきゃいけないのよ?」
 明日香はまた奇行かとジト目で見やり、

「……だいたい、なんで菊が1本だけ入ってるのよ?」
「あたしじゃなくて、ここの店員に言ってくれよ」
 軽口を叩きあいながら、ふとショーウィンドーを兼ねた窓から店外を見やる。
 口元に乾いた笑みが浮かぶ。

「それに、おまえが仕入れた情報だって間違ってるぞ」
「何が違ってたって言うのよ?」
 答える代りに、開きっぱなしの自動ドアに向かって歩き出す。

「バイトくーん、手伝ってー」
「取りこみ中でーす」
(いや、油売ってたろ)
 店の奥から聞こえるモモカとおっさんの声を聞き流す。
 ツッコみたい気持ちを抑えながら店を出る。

 モモカに挨拶くらいしていっても良かった気もした。
 だが今は両親も店を開けていて、モモカが切り盛りしている様子。
 それに店の目と鼻の先で、あんなことがあったばかりだ。
 油打ってるバイト氏と違って忙しいし、舞奈の相手をする暇はないだろう。

 なのでバイト氏に介抱してもらった礼は明日にでも学校ですればいい。
 舞奈にはそれができるのだから。

 警官たちが焦って何か探してる様子を尻目にショーウィンドーを一瞥する。
 続く明日香も釣られて見やる。
 内側に並べられた季節の花を守るように、鋭い破片が刺さった広いガラス窓。
 その下に何かが転がっていた。

 それは人の頭部だった。
 どんな轢かれ方をしたのか、千切れ飛んだ頭が転がっていた。
 長髪のヅラウィッグがずれて、刈りあげた銀髪が覗いている。

 口元に乾いた笑みを浮かべる。
 術者でも全知全能でもない舞奈に、出会う人々すべてを守ることなどできやしない。
 そもそも舞奈は救おうとした相手の性別すら読み違えていたのだ。
 先ほどタンクローリーに轢かれそうになっていた彼女……もとい彼は……

「……轢かれたのは女の子じゃない、男の娘だ」
 言いつつ明日香の手の中の花束から菊を抜き取る。
 犠牲者の側に放り落とす。
 そうやって2人して今日通算6人目の犠牲者を悼んでいると、

「あーごめんねお嬢さんたち、今ここ立ち入り禁止でね」
「へいへいスマン、すぐ行くよ」
「って君、さっきの!」
「……ほら行くぞ」
 明日香を連れて警官から逃れるように立ち去る。

 ふと彼らは先ほどの頭を探していたやもと思ったりする。
 だが探し物を他人に教えてもらって見つけても面白くないだろうと思いなおす。
 なので側の明日香と、

「来るときに何かしたのか?」
「別に。普通に突破しただけよ」
「普通の小学生は、警官の仕事場を突破しないよ……」
 何気なく軽口を叩き合いながら、慌ただしい事故の通りを後にした。
 その間、明日香は花束を何度も見やっていた。
 まあ他者から銃弾や攻撃魔法エヴォケーションではなく花を贈られるのが珍しいのかもしれない。

 でもって結局、舞奈も大人しくアパートに帰った。

 園香とも明日には学校で会える。
 それに買った花束を、その場のノリで明日香にあげてしまった。

 何より、先ほど見た夢の内容が妙に頭に残っていた。

 だから2階にある部屋に戻るとすぐに、ぬいぐるみの乗ったソファーに寝ころぶ。
 そして夢の中身を反芻する――

 ――それは今思うと、あまりに荒唐無稽な夢だった。
 いっそテックがしているようなゲームの世界の出来事だと言われても納得できる。
 だが何故か、他愛ない夢として片付けるには生々しすぎる気がした。

 夢の舞台は文明が崩壊した20年後の世界。
 そこでは2つの勢力が飽くなき闘争を繰り広げていた。

 だが戦争の主役は人でも戦車でもなかった。
 船でもヘリでも飛行機でもない。
 戦車に鋼鉄の手足を取り付けた形をした鋼鉄の巨人だ。
 車輪の代りは車体の下に生えた無骨な2本の脚。
 車体の上の砲塔に砲はなく、代わりに両サイドに2本の腕が付いている。
 砲塔のさらに上には、簡易レーダー付きのカメラが乗っている。

 しかも巨人は異能力者や泥人間と同じように異能力を使う。
 サイズ差的にも能力的にも以前に戦った魔獣ミノタウロスと似ているか。

 もちろん巨人は人間が持てるような銃器では傷もつかない。
 装甲の分厚さも戦車と同じだ。
 辛うじて舞奈の技量だったら装甲の隙間にグレネードをぶちこんで倒せた。
 その脅威は正に人型の魔獣だ。

 だが、機械仕掛けの鋼鉄の魔獣と、本物の魔獣の違いがひとつある。
 鋼鉄の獣は人が乗って動かすことのできる代物だ。
 だから舞奈は過酷な訓練によって巨人の操り方を会得した。

 20年後の世界に国はなく、存在する勢力はシンプルに2つだけ。
 ひとつは圧倒的な軍事力で世界を滅ぼした支配者たち。
 もうひとつは、それに対抗するレジスタンス。
 舞奈は後者に属し、彼らの指導者を兼ねた女博士から指導を受けた。

 鋼鉄の巨人の開発にも携わったという彼女の指導は苛烈を極めた。

 同機の操作は基本的には用意されたモーションパターンを組み合わせて行う。
 跳んだり走ったりという基本の動作はOSが勝手にやってくれる。
 操縦者に必要なのは移動先の選択、射撃の照準等の判断や微調整が必要な行動だ。
 それだけ聞くと簡単に思えるかもしれない。

 だが移動するには操縦桿やレバーを駆使して走り方や歩き方、速度や機体の体勢を逐一決定する必要がある。OSが自動で対処できない問題には手動での操作が必要だ。
 戦況や周囲の状況を判断するには無数の計器やレーダーを見る必要がある。

 動かすだけなら比較的に容易だが、使いこなすのは至難の業。
 鬼教官が舞奈に要求したのは後者だ。
 何故なら、それが完璧にできなければ死ぬからだ。

 現に何体もの僚機が、【断罪発破ボンバーマン】やタンクローリーの事故が可愛く思えるような凄まじいやりかたで破壊された。生身の仲間も容赦なく……やられた。

 もちろん舞奈も敵機を同じようなやりかたで何機も撃墜した。
 なにせ舞奈はSランクの仕事人トラブルシューター
 敵を倒して生き残る才能だけはお手の物だ。

 そんな中、革新的な新型機の登場をきっかけに両者の闘争は激化し――

「――おおい志門! でかいピザが焼けたぞ!」
 管理人の大声で舞奈は追憶から醒めた。

「どうせ晩飯はまだだろう!? 食いたかったら食いに来い!」
 1階から2階の部屋の中まで普通に聞こえる常識を超えた叫び声。
 だが追憶を妨げられた舞奈の口元には笑み。

 何故なら舞奈は耳も良いが、鼻も良い。
 爆音より雄弁に香る濃厚なチーズに、自分が空腹だということを思い出した。
 なにせ舞奈は最強のSランクだが、所詮は食べ盛りの小学生だ。
 それに先ほど見たリアルすぎる夢の中の世界では、本格的なイタリアンどころかまともな飯すら貴重だった。
 だから夢のことを思い出すのはひとまず中断し、

「ヒュー! さんきゅ! 最高だ!!」
 舞奈はスニーカーを履いて1階へと繰り出した。
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