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第17章 GAMING GIRL
転進 ~銃技&戦闘魔術&異能力vs大屍虫
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銃を持った脂虫、巨大屍虫との戦いで、7人だった仲間は半分になった。
舞奈、明日香、バーン、ピアース。
4人が地元民でもあるピアースの案内でたどり着いたのは、昨日のホームセンターよりひと回り小さな平屋の建物。スーパーマーケットだ。
先のホームセンター襲撃の際に、トルソと急場で決めた作戦。
スーパーマーケットの駐車場から車を拝借して先に進むという作戦を、一行は決行しようとしていた。幸い、運転免許を持つバーンが生き残っている。
一行は手近な民家の陰に隠れて様子を窺う。
「今度は店の中にも敵がいるね」
ピアースの言葉に皆も頷く。
スーパーマーケットにバーチャルギアは入荷しない。
返し損ねてストックになることもないので、結界も形成されない。
「まああいいさ、今度は立てこもる必要はないからな」
言って舞奈は苦笑する。
だが逆に言えば、必要以上に屍虫どもの注意を引きつけることもないらしい。
ホームセンターのように屍虫の群れに包囲されていることはない。
店内を、迷いこんだように数匹の脂虫が徘徊しているだけだ。
少人数で駐車場の車を拝借するだけなら、むしろ好都合ともいえる。
「にしても、あいつら居ねぇとこには本当に居ねぇな」
「奴らの大半ないし全部が、何者かの意図で組織的に動いているからだと思います」
首をかしげるバーンに明日香が答える。
舞奈と同じ違和感を彼女も感じ、同じ推論に達していたらしい。
何者かがWウィルスを使ってこの街を支配している。
そいつが脂虫を徴用して屍虫や大屍虫に進行させ、あるいは銃を与えて集団的に侵入者を襲わせている。ゾンビのチーマーや軍隊といったところか。
その何者かは侵入者を排除するため効率的に戦力を割り振ろうとしている。
だから目立つ場所には大量にいるし、何もない場所にはいない。
そもそも舞奈たち以外にも多数のチームが結界内に侵入した。
しかも各々が別の場所から侵入し、歩調を合わせることもなく進行している。
同人数のまとまった集団を相手する場合に比べると、監視や対応に要するリソースも桁違いだ。守る側からしてみれば、これほどやりにくいことはないだろう。
……そうするとスプラの犠牲は舞奈たち4人のみならず、少しばかり他のチームの安全にも寄与したことになる。そう考えて、無理やりに納得しようとする。
トルソと切丸もきっと無事だ。
あのトルソが簡単にくたばる訳がない。
どちらにせよ舞奈たちは仲間の半分近くを失った。
奴らを力まかせにぶちのめしつつ進むやり方には無理があると認めざるを得ない。
今後は奴らを率いる何者かの注意を引かないよう行動するに越したことはない。
舞奈や明日香の推論が正しければ、追撃がないということは先ほどの激戦と巨大屍虫の爆発で一行が全滅したと敵の指揮官が判断したとも考えられる。
トルソに代わって実質的なリーダーとなったバーンも同じ考えのようだ。
それでも、ここから禍川支部のある保健所まで歩くには無理がある。
まあ単純に歩いて向かうには厳しい距離だという理由もある。
それ以上に万が一にも見つかって大量の脂虫に追われた場合、あるいは実は追撃隊の再編成に手間取っているだけだった場合にお手上げだ。
だから車は手に入れるという方針は生かすべきだろう。
なので4人は脂虫が徘徊する店舗を迂回し、駐車場へとたどり着く。
広さはホームセンターの駐車場と同じか、やや広い程度。
そこに所狭しと、相応の台数の車が停まっている。
幸い、付近に薄汚い喫煙者の姿は見えない。
不快なヤニの悪臭はスーパーの店舗の方から漂ってくるだけだ。
「鍵が開いているくるまを探せばいいんだな?」
それでも周囲を警戒しながら舞奈は問う。
ピアースの話が本当なら、周囲に並ぶ車のうち1台以上が鍵がかけっぱなしである可能性は高い。
正直、この台数の中から目当ての車を探すのは苦労しそうだ。
だが逆に言えば条件を満たす車がある可能性も高い。
それでも確実ではないが。
「そういやあ明日香、【物品と機械装置の操作と魔力付与】に鍵を開けられるような手札はないのか?」
「技術担当官ならできるかもしれないけど……」
舞奈は思いついて言ってみる。
良い案だと思ったのだが、明日香は首を横に振り、
「術でイカサマできるのか? 悪くはないが、明日香ちゃんの魔法は本調子じゃないんだろ? なら普通に動く奴を探したほうがマシだ」
バーンも苦笑する。
途中で術が切れて立ち往生するのを危惧しているのだろう。
まあ確かにそれなら、いつ消えるかわからぬ式神で進むのと変わらない。なので、
「できれば鍵の有無と……ガソリンの残りも見てくれ。道中でガス欠しちゃたまらんからな。キーシリンダーとメーターの見方はわかるか?」
「わからん」
「ごめんなさい俺も……」
「……ドアが開いたら呼んでくれ」
舞奈とピアースの情けない返事にバーンが嘆息しつつ、4人は手分けして車を漁る。
だが十数分も捜索を続けぬうちに……
「……バーン、皆、どうやら不味いことになってるみたいだ」
『そうみたいね』
舞奈は胸元の通信機に語りかける。
最初に反応したのは明日香だ。
いつの間にやら周囲に満ちる、焦げた糞尿のような煙草の臭い。
明日香は例によって魔力感知で察したか。
『どうしたの?』
『見つけたのか!?』
「良い知らせじゃねぇよ。奴らがこっちに近づいてる」
『なんだって!?』
「たぶん、このままじゃあ囲まれる」
ピアースとバーンの答えも胸元の通信機から。
皆はそれなりに離れた場所にいるらしい。
店の中にいる脂虫の注意を引き寄せるなんらかのトリガーを引いてしまったか?
実は追いつかれていなかっただけで追撃はされていたか?
あるいは……罠か?
だが今は考えている時間はない。
「一旦、引くか?」
『何処にだよ! このまま意地でも車を探して突破するんだ!』
「……了解した」
バーンの答えに一行の命運を託す。
短期的には無謀な考えだとは思う。
何せ目当ての鍵をかけっぱなしの車は、敵の妨害なしですら見つかっていないのだ。
それが敵を凌ぎながら探し出せると思うのは、あまりに楽観的すぎる。
そもそも、そんなものがあるかどうかすら賭けなのだ。
だが、まともな足もない状況で逃げ出しても、この後がジリ貧なのも事実。
敵が今の今まで舞奈たちが生きのびていることを知らなかったのなら、これが他の市へ移動する最後のチャンスだ。
敵は舞奈たちがまだ生きていることを知った。
戦果のないまま逃げ出しても、何処か別の場所で網を張られて打尽にされる。
車がなければ突破するのは困難だろう。
なによりトルソと皆とした作戦を、違えるよりはそうでないほうが良い。
理屈でなしにそう思う。
今ここにはトルソも切丸もいないが。
エンジンを直結でかけれるなんて言ったお調子者も、もういないが。
それでも……否、だからこそ。
『奴らが見える場所まで来たみたいよ』
通信機から明日香の声。
見やるとフェンスの向こうに蠢く数多の影。
カギ爪を振り上げ、唸り声をあげるくわえ煙草の団塊男たち。
見慣れたゾンビみたいな屍虫の群れが迫っていた。
『うわあっ!? こっちからも!』
ピアースの悲鳴。
「糞ったれ!」
吐き捨てる。
次の瞬間、側にあった乗用車のボンネットの上、次いで天井に跳び上がる。
もちろん鍵のかかっていた車だ。
屍虫どもの集まり方から仲間の位置を把握する。
四方に別れた仲間のうち、比較的に近くにいたのは明日香だ。
ピアースはやはりフェンスの近くで右往左往している。
一番遠くにいるのはバーンだ。
だが幸いにも彼がいる方向にはまだ屍虫が攻めて行っていない。
「ピアース! バリアを張りながら鍵を探せるか!?」
『や、やっては見るけど……』
「おおっと! 射手がいる! 気をつけろ!」
とっさに伏せた舞奈の小さなツインテールの端を小口径弾がかすめる。
屍虫の中に脂虫が紛れているらしい。
そいつが密造拳銃で撃ってきたのだ。
『舞奈ちゃん大丈夫!?』
「こっちは問題ない!」
ピアースの悲鳴に答えつつ一挙動で立ち上がる。
間髪入れず短機関銃《マイクロガリル》を撃つ。
撃つ、撃つ、撃つ。
小口径ライフル弾が何匹かの屍虫と、屍虫に紛れた脂虫の頭を違わず砕く。
その程度、舞奈にとっては造作ない。
位置は先ほど撃ってきた銃声で把握済み。
敵が密造ライフルでこちらの射程外から撃ってこなくてラッキーだ。
そう思ってほくそ笑む舞奈の――
『――うわあっ! うわあああぁ!!』
胸元の通信機から悲鳴。
「……すぐ行くが、少しは反撃してくれ」
『し、してるけど! うわぁ!』
どうやら掛け声だったらしい。
苦笑しながら見やる先で、車と車の合間に【重力武器】の斥力場障壁。
その周囲に屍虫が集まって来ている。
中のピアースも頼りないなりに槍で応戦している。
だが多勢に無勢。戦いながら鍵の開いている車を探すどころじゃないだろう。
「そっちに援護に行く!」
『舞奈ちゃんのほうは!?』
「……たぶん、こっちにはない」
答えつつ、周囲の車のドアを確認する。
他の車の天井の上に立つと、割と広い範囲の車が確認できる。
もっと早く気づけばよかった。
だが、残念ながら鍵がぶら下がっていたりするドアは見当たらない。
スマートキーなのでカギは見えないが実は開いているドアは流石にわからないが、それを確認する手段はない。
何せ、こちらの車と車の間も屍虫でいっぱいだ。
舞奈なら倒しながら確かめることはできるが、調べ終わる前に日が暮れる。
受け持ち分はあきらめて、他の誰かの捜索を援護したほうがマシだ。
『糞っ! ねぇじゃねぇか鍵の開いてる車!』
「あんたの持ち場が頼りなんだ! 頼むぜ!」
罵声に軽く返しつつ、バーンの方にはまだ敵が向かっていないのを確認する。
ついでに明日香の姿を探し、
(……あんの野郎、【迷彩】を使ってやがるな)
姿が見えないのに苦笑する。
光学迷彩で身を隠しているらしい。
あるいは認識阻害の【隠形】も併用しているか。
自身もバーンと同じ条件で捜索を続けるつもりか。
先ほどから舞奈が乗った車の周りにばかり屍虫が集まってくると思ったら、明日香を見失った奴がこちらに合流したらしい。
(ま、好都合か)
よじ登ろうとしてきた数匹に発砲。
小口径ライフル弾が、くわえ煙草の頭を無慈悲に粉砕する。
ついでに遠くにも数発撃って注意を引く。
そうして、
「……動かなくても、役には立ってもらうぜ!」
自身の足元めがけて三点射撃。同時に跳ぶ。
驚異的な跳躍力で隣の車の屋根までジャンプ。
間髪入れずにさらに隣のトラックの荷台に着地。
1発撃って身を伏せた瞬間、爆発。
舞奈が最初に立っていた車が爆発したのだ。
先ほどの銃撃がガソリンタンクを射抜き、ガソリンが漏れた。
そこにとどめの1発で引火させたのだ。
屋根の上の舞奈を狙って車の周りに集まっていた屍虫どもは爆発に巻きこまれて炎上あるいは木端微塵。
近くにいた奴らも相当数が吹き飛ばされたはずだ。
『おおい爆発したぞ!? 無事か!?』
「奴らをまとめて始末しただけだ! それより見つかったか!?」
焦った声色の通信に軽口を返し、
『すまんまだだ! 向こうに停まってる分も調べてみる!』
『こっちも収獲なし』
さらに返ってきたバーンの返事と、いけしゃあしゃと答える明日香に口元を歪める。
並ぶ車の屋根伝いにジャンプしながら、返事をする余裕もないピアースのいる場所へ向かう。その間、ドアにつけっぱなしの鍵は見当たらず。
流石に鍵がかけっぱなしの車がなかったときのことを考える頃間だ。
後でじり貧になるとはいえ、この場で全滅するよりはマシだろう。
だが、その引き際の判断をバーンにまかせて大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えつつも、ピアースの斥力場障壁を囲んでいた屍虫どもに発砲。
胴を穿たれ頭を砕かれた元喫煙者が車に叩きつけられ、アスファルトを転がる。
「無事かピアース!?」
「舞奈ちゃん!」
ピアースの無事を確認しつつ、素早く弾倉を交換。
次の瞬間、少し離れた場所で爆発。
「気をつけて!」
車の陰から跳び出した明日香がピアースの斥力場に滑りむ。
2枚の氷盾が追従する。
「さっきの爆発はおまえか? せめて集めてから爆発――」
文句を言おうとして中断。
弾倉を交換したばかりの短機関銃《マイクロガリル》を新手に向ける。フルオート。
跳び出してきた2匹の屍虫の頭が吹き飛び、胴にいくつも大穴が開く。
次の瞬間、塵と化して消える。
「糞ったれ! 大屍虫だ!」
再び弾倉を交換しつつ、悪態が口をつく。
今のが単発や、あるいは拳銃弾だったら倒し損ねていた。
明日香の氷盾が2枚なのと、普通の屍虫は【氷盾】を破壊できないことに気づいていなければ危なかった。
明日香は自力で1匹を仕留めてきたのだろう。
爆発はその余波だ。
明日香が走ってきた反対側からも大屍虫が1匹。
くわえ煙草の口から煙と唸り声をあげながら、カギ爪を振り上げて襲いかかる。
カギ爪は氷盾を砕き、斥力場障壁に阻まれる。
次の瞬間、プラズマの砲弾が大屍虫を飲みこむ。
明日香が左の掌から放った【雷弾・弐式】だ。
稲妻は勢い余って向かいの車を爆破する。
『糞ったれ!』
「無事か!? バーン! すぐ行く!」
通信機から漏れる罵り声。
燃え盛る炎と剣戟の音。
舞奈は手近な車に跳び上がる。
バーンがいる場所を探そうとして、
『来るな! 大屍虫が4匹いる! ……ぐあっ!』
「バーン!?」
『畜生! 俺としたことが……しくじったみたいだ』
「何とか持たせろ! あんたならできるだろ!?」
胸元に叫びながら、見やるより先にバーンの受け持ちの方向に跳ぶ。
手近な敵に気を取られて、彼のいる方向に向かっていた敵に気づかなかった。
あるいは刺客のように密かに4匹の大屍虫だけが送りこまれたのだろうか?
彼が思ったより遠くまで行っていたのも計算外だ。
「待ってろよ!」
車の屋根伝いに次々に跳んで、少しでも戦域に近づこうとする。
迂闊だった。
ピアースは【重力武器】で斥力場障壁を展開できる。
明日香も【力盾】【氷盾】で同等以上の防御が可能。
加えて自力で大屍虫を倒せる。
屍虫に囲まれても、よしんばピアースが大屍虫に襲われても少しなら耐えれる。
その間に明日香と合流すれば、大屍虫4匹なら倒せたはずだ。
だがバーンは違う。
Aランクとはいえ一介の【火霊武器】には大屍虫2匹でも荷が重い。
それが4匹など!
Sランクの舞奈なら大屍虫がダースで相手だろうが生き残るくらいはしてみせる。
だが彼には無理だ。
舞奈はピアースではなくバーンの援護に向かうべきだった。
――否定はせんがガキに興味はねぇ
勝気な彼の表情が、声が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
だが、まだ速い。
舞奈が首尾よく彼を救えれば、声なんていつでも聞ける。
だから跳んで、跳んで、ひときわ激しい戦闘の音を聞きわける。
さらに跳んで、跳んで、
――そうそう! セレスティアルパニッシャーって!
――おおっ!? 本当にあるのか! なあ、あんたも使えるのか?
見つけた。
乗用車の陰で4匹のカギ爪と相対する赤いジャケット。
幸いギリギリ射程内だ。
舞奈は素早く短機関銃を構え、バーンに背後から迫る2匹のうち手前を撃つ。
あせって少し手元が狂う。
それでも小口径ライフル弾は、手前の大屍虫の頭の後ろを削る。
撃たれた1匹はバーンを目標から外し、撃った舞奈に向き直り――
『――っは!』
「――!?」
その奥にいた1匹のカギ爪がバーンの胴を貫いた。
「バーン!?」
『舞奈……か……』
通信機ごしにくぐもった声。
短機関銃の射程よりやや遠い距離で、人形のように小さなバーンがこちらを向く。
『おまえ……たちだけでも……』
言葉の後に、口のあたりが赤く染まる。
「糞ったれ!」
舞奈は撃つ。
ありったけの小口径ライフル弾が狙い違わず何匹かの大屍虫を穿つ。
だが致命傷には至らない。距離が遠すぎる。
せめて、持ってきたのが普通のアサルトライフルだったなら。
対するバーンの表情は見えないのに、何故か彼の口元が笑ったような気がして――
『――フルバァァァスト!』
「バァァァァン!」
叫びとともに、バーンと大屍虫どもがいた場所で爆発。
先ほどから何度もやらかした爆発がちゃちに思えるくらいの大爆発だ。
おそらくスカイフォールの魔剣とやらに焼きつけられた【魔法増強】――魔力強化の魔法によって高めた異能力を一気に解放したのだろう。
これが彼の奥の手だったか。
――おおい! こっちも誰か加勢してくれよ!
――まぐれ当たりだって聞いたぜ?
大爆発は周囲の車を巻きこみ爆発し、大屍虫どもをまとめて吹き飛ばす。
耳をつんざく爆音。
ガソリンが燃える臭い。
とっさに車から跳び下り陰に隠れた舞奈の頬を熱風があぶる。
『バーンさん!?』
『あの爆発、まさか……』
通信機ごしにピアースと明日香の声。
離れた場所にいる彼らも状況に気づいたようだ。
自分たちが、また仲間を失ったと。
「……明日香、【隠形】を3人にかけられるか?」
『数分と持たないわよ?』
「それで十分だ」
一瞬だけ、車に背を預けながら確認する。
「……あたしが奴らを引き付けて爆発させる。その隙に2人で逃げろ」
『逃げるって、あの、車は!?』
「状況を考えてくれ。誰が運転するんだよ?」
動揺したピアースの声に苦笑する。
爆発の余波でか側のドアが開いていたが、どうでもいい。
舞奈じゃ鍵がつけっ放しだったのか、あるいは壊れただけなのか判別がつかない。
ガソリンの残量もわからない。
「……すぐ合流する。あたしが見えたら3人に術をかけなおしてくれればなおいい」
『了解よ。15秒待てる?』
「どういうことだ……?」
明日香の問いに訝しむ間に懐の改造拳銃から熱。
おそらく【燃弾】。……否、それだけじゃない。
「この距離に付与魔法か」
短機関銃の弾倉を交換しながら苦笑する。
先ほど【力弾】あたりをかけてもらったら、バーンに迫った大屍虫を確実に仕留めることができただろうか?
考えかけて、無駄なIFを脳裏から追いやる。
先ほどは15秒も余裕はなかった。
バーンのために今、できることは舞奈たちが生きのびることだけだ。だから、
「作戦開始だ!」
叫びとともに車の上に跳び上がり、
「ヤニカスども! あたしはここだぞ!」
宙に向かって1発、撃つ。
銃声と怒声に気づいた屍虫どもが舞奈めがけて集まってくる。
もう大屍虫もいないらしい。
手近な数匹めがけて短機関銃を撃ちまくる。
他の場所に留まることなく周囲の屍虫どもが集まって来ている。
明日香は首尾よくピアースと自分に【隠形】をかけたらしい。
2人が認識阻害で見えなくなったから、残る1人に全員でかかろうというのだろう。
屍虫どもが集まってきたのを見計らって左手で改造拳銃を抜く。
片手で構えて撃ちまくる。
標的は周囲の車。
小口径弾で撃ち抜けるかは心配だったが、銃弾は乗用車を紙きれのように射抜く。
どうやら【燃弾】と一緒に【力弾】もかけたらしい。
1発で2倍お得な銃弾だ。
「……銃が壊れんだろうな」
無理やりに軽口を叩き、口元を苦笑の形に歪めてみせる。
次の瞬間、撃ち抜かれた周囲の車が一斉に爆発する。
間近で唸る轟音。熱風。
最後の1人を屠ろうと殺到していた脂虫どもも一網打尽だ。
勇敢な【火霊武器】を悼むように、黒ずんだ炎がすべてを飲みこみ、燃える。
舞奈はコートの裾で顔を覆いつつ炎の壁を突破する。
爆炎を免れた1匹の屍虫に跳びかかって首をへし折りつつアスファルトの地面を転がり、コートに燃え移った火を叩き消す。
勢いのまま一挙動で立ち上がって、そのまま走る。
次の瞬間、世界が自分を拒絶するような嫌な感触。
認識阻害がかかったのだ。
周囲の認識を狂わせる効果で身を隠している本人はそういう風に感じるらしい。
だから、そのまま走って、明日香とピアースと合流する。
そして背後に屍虫の集団がいないことを確認してから、3人はさらに歩を進めた。
舞奈、明日香、バーン、ピアース。
4人が地元民でもあるピアースの案内でたどり着いたのは、昨日のホームセンターよりひと回り小さな平屋の建物。スーパーマーケットだ。
先のホームセンター襲撃の際に、トルソと急場で決めた作戦。
スーパーマーケットの駐車場から車を拝借して先に進むという作戦を、一行は決行しようとしていた。幸い、運転免許を持つバーンが生き残っている。
一行は手近な民家の陰に隠れて様子を窺う。
「今度は店の中にも敵がいるね」
ピアースの言葉に皆も頷く。
スーパーマーケットにバーチャルギアは入荷しない。
返し損ねてストックになることもないので、結界も形成されない。
「まああいいさ、今度は立てこもる必要はないからな」
言って舞奈は苦笑する。
だが逆に言えば、必要以上に屍虫どもの注意を引きつけることもないらしい。
ホームセンターのように屍虫の群れに包囲されていることはない。
店内を、迷いこんだように数匹の脂虫が徘徊しているだけだ。
少人数で駐車場の車を拝借するだけなら、むしろ好都合ともいえる。
「にしても、あいつら居ねぇとこには本当に居ねぇな」
「奴らの大半ないし全部が、何者かの意図で組織的に動いているからだと思います」
首をかしげるバーンに明日香が答える。
舞奈と同じ違和感を彼女も感じ、同じ推論に達していたらしい。
何者かがWウィルスを使ってこの街を支配している。
そいつが脂虫を徴用して屍虫や大屍虫に進行させ、あるいは銃を与えて集団的に侵入者を襲わせている。ゾンビのチーマーや軍隊といったところか。
その何者かは侵入者を排除するため効率的に戦力を割り振ろうとしている。
だから目立つ場所には大量にいるし、何もない場所にはいない。
そもそも舞奈たち以外にも多数のチームが結界内に侵入した。
しかも各々が別の場所から侵入し、歩調を合わせることもなく進行している。
同人数のまとまった集団を相手する場合に比べると、監視や対応に要するリソースも桁違いだ。守る側からしてみれば、これほどやりにくいことはないだろう。
……そうするとスプラの犠牲は舞奈たち4人のみならず、少しばかり他のチームの安全にも寄与したことになる。そう考えて、無理やりに納得しようとする。
トルソと切丸もきっと無事だ。
あのトルソが簡単にくたばる訳がない。
どちらにせよ舞奈たちは仲間の半分近くを失った。
奴らを力まかせにぶちのめしつつ進むやり方には無理があると認めざるを得ない。
今後は奴らを率いる何者かの注意を引かないよう行動するに越したことはない。
舞奈や明日香の推論が正しければ、追撃がないということは先ほどの激戦と巨大屍虫の爆発で一行が全滅したと敵の指揮官が判断したとも考えられる。
トルソに代わって実質的なリーダーとなったバーンも同じ考えのようだ。
それでも、ここから禍川支部のある保健所まで歩くには無理がある。
まあ単純に歩いて向かうには厳しい距離だという理由もある。
それ以上に万が一にも見つかって大量の脂虫に追われた場合、あるいは実は追撃隊の再編成に手間取っているだけだった場合にお手上げだ。
だから車は手に入れるという方針は生かすべきだろう。
なので4人は脂虫が徘徊する店舗を迂回し、駐車場へとたどり着く。
広さはホームセンターの駐車場と同じか、やや広い程度。
そこに所狭しと、相応の台数の車が停まっている。
幸い、付近に薄汚い喫煙者の姿は見えない。
不快なヤニの悪臭はスーパーの店舗の方から漂ってくるだけだ。
「鍵が開いているくるまを探せばいいんだな?」
それでも周囲を警戒しながら舞奈は問う。
ピアースの話が本当なら、周囲に並ぶ車のうち1台以上が鍵がかけっぱなしである可能性は高い。
正直、この台数の中から目当ての車を探すのは苦労しそうだ。
だが逆に言えば条件を満たす車がある可能性も高い。
それでも確実ではないが。
「そういやあ明日香、【物品と機械装置の操作と魔力付与】に鍵を開けられるような手札はないのか?」
「技術担当官ならできるかもしれないけど……」
舞奈は思いついて言ってみる。
良い案だと思ったのだが、明日香は首を横に振り、
「術でイカサマできるのか? 悪くはないが、明日香ちゃんの魔法は本調子じゃないんだろ? なら普通に動く奴を探したほうがマシだ」
バーンも苦笑する。
途中で術が切れて立ち往生するのを危惧しているのだろう。
まあ確かにそれなら、いつ消えるかわからぬ式神で進むのと変わらない。なので、
「できれば鍵の有無と……ガソリンの残りも見てくれ。道中でガス欠しちゃたまらんからな。キーシリンダーとメーターの見方はわかるか?」
「わからん」
「ごめんなさい俺も……」
「……ドアが開いたら呼んでくれ」
舞奈とピアースの情けない返事にバーンが嘆息しつつ、4人は手分けして車を漁る。
だが十数分も捜索を続けぬうちに……
「……バーン、皆、どうやら不味いことになってるみたいだ」
『そうみたいね』
舞奈は胸元の通信機に語りかける。
最初に反応したのは明日香だ。
いつの間にやら周囲に満ちる、焦げた糞尿のような煙草の臭い。
明日香は例によって魔力感知で察したか。
『どうしたの?』
『見つけたのか!?』
「良い知らせじゃねぇよ。奴らがこっちに近づいてる」
『なんだって!?』
「たぶん、このままじゃあ囲まれる」
ピアースとバーンの答えも胸元の通信機から。
皆はそれなりに離れた場所にいるらしい。
店の中にいる脂虫の注意を引き寄せるなんらかのトリガーを引いてしまったか?
実は追いつかれていなかっただけで追撃はされていたか?
あるいは……罠か?
だが今は考えている時間はない。
「一旦、引くか?」
『何処にだよ! このまま意地でも車を探して突破するんだ!』
「……了解した」
バーンの答えに一行の命運を託す。
短期的には無謀な考えだとは思う。
何せ目当ての鍵をかけっぱなしの車は、敵の妨害なしですら見つかっていないのだ。
それが敵を凌ぎながら探し出せると思うのは、あまりに楽観的すぎる。
そもそも、そんなものがあるかどうかすら賭けなのだ。
だが、まともな足もない状況で逃げ出しても、この後がジリ貧なのも事実。
敵が今の今まで舞奈たちが生きのびていることを知らなかったのなら、これが他の市へ移動する最後のチャンスだ。
敵は舞奈たちがまだ生きていることを知った。
戦果のないまま逃げ出しても、何処か別の場所で網を張られて打尽にされる。
車がなければ突破するのは困難だろう。
なによりトルソと皆とした作戦を、違えるよりはそうでないほうが良い。
理屈でなしにそう思う。
今ここにはトルソも切丸もいないが。
エンジンを直結でかけれるなんて言ったお調子者も、もういないが。
それでも……否、だからこそ。
『奴らが見える場所まで来たみたいよ』
通信機から明日香の声。
見やるとフェンスの向こうに蠢く数多の影。
カギ爪を振り上げ、唸り声をあげるくわえ煙草の団塊男たち。
見慣れたゾンビみたいな屍虫の群れが迫っていた。
『うわあっ!? こっちからも!』
ピアースの悲鳴。
「糞ったれ!」
吐き捨てる。
次の瞬間、側にあった乗用車のボンネットの上、次いで天井に跳び上がる。
もちろん鍵のかかっていた車だ。
屍虫どもの集まり方から仲間の位置を把握する。
四方に別れた仲間のうち、比較的に近くにいたのは明日香だ。
ピアースはやはりフェンスの近くで右往左往している。
一番遠くにいるのはバーンだ。
だが幸いにも彼がいる方向にはまだ屍虫が攻めて行っていない。
「ピアース! バリアを張りながら鍵を探せるか!?」
『や、やっては見るけど……』
「おおっと! 射手がいる! 気をつけろ!」
とっさに伏せた舞奈の小さなツインテールの端を小口径弾がかすめる。
屍虫の中に脂虫が紛れているらしい。
そいつが密造拳銃で撃ってきたのだ。
『舞奈ちゃん大丈夫!?』
「こっちは問題ない!」
ピアースの悲鳴に答えつつ一挙動で立ち上がる。
間髪入れず短機関銃《マイクロガリル》を撃つ。
撃つ、撃つ、撃つ。
小口径ライフル弾が何匹かの屍虫と、屍虫に紛れた脂虫の頭を違わず砕く。
その程度、舞奈にとっては造作ない。
位置は先ほど撃ってきた銃声で把握済み。
敵が密造ライフルでこちらの射程外から撃ってこなくてラッキーだ。
そう思ってほくそ笑む舞奈の――
『――うわあっ! うわあああぁ!!』
胸元の通信機から悲鳴。
「……すぐ行くが、少しは反撃してくれ」
『し、してるけど! うわぁ!』
どうやら掛け声だったらしい。
苦笑しながら見やる先で、車と車の合間に【重力武器】の斥力場障壁。
その周囲に屍虫が集まって来ている。
中のピアースも頼りないなりに槍で応戦している。
だが多勢に無勢。戦いながら鍵の開いている車を探すどころじゃないだろう。
「そっちに援護に行く!」
『舞奈ちゃんのほうは!?』
「……たぶん、こっちにはない」
答えつつ、周囲の車のドアを確認する。
他の車の天井の上に立つと、割と広い範囲の車が確認できる。
もっと早く気づけばよかった。
だが、残念ながら鍵がぶら下がっていたりするドアは見当たらない。
スマートキーなのでカギは見えないが実は開いているドアは流石にわからないが、それを確認する手段はない。
何せ、こちらの車と車の間も屍虫でいっぱいだ。
舞奈なら倒しながら確かめることはできるが、調べ終わる前に日が暮れる。
受け持ち分はあきらめて、他の誰かの捜索を援護したほうがマシだ。
『糞っ! ねぇじゃねぇか鍵の開いてる車!』
「あんたの持ち場が頼りなんだ! 頼むぜ!」
罵声に軽く返しつつ、バーンの方にはまだ敵が向かっていないのを確認する。
ついでに明日香の姿を探し、
(……あんの野郎、【迷彩】を使ってやがるな)
姿が見えないのに苦笑する。
光学迷彩で身を隠しているらしい。
あるいは認識阻害の【隠形】も併用しているか。
自身もバーンと同じ条件で捜索を続けるつもりか。
先ほどから舞奈が乗った車の周りにばかり屍虫が集まってくると思ったら、明日香を見失った奴がこちらに合流したらしい。
(ま、好都合か)
よじ登ろうとしてきた数匹に発砲。
小口径ライフル弾が、くわえ煙草の頭を無慈悲に粉砕する。
ついでに遠くにも数発撃って注意を引く。
そうして、
「……動かなくても、役には立ってもらうぜ!」
自身の足元めがけて三点射撃。同時に跳ぶ。
驚異的な跳躍力で隣の車の屋根までジャンプ。
間髪入れずにさらに隣のトラックの荷台に着地。
1発撃って身を伏せた瞬間、爆発。
舞奈が最初に立っていた車が爆発したのだ。
先ほどの銃撃がガソリンタンクを射抜き、ガソリンが漏れた。
そこにとどめの1発で引火させたのだ。
屋根の上の舞奈を狙って車の周りに集まっていた屍虫どもは爆発に巻きこまれて炎上あるいは木端微塵。
近くにいた奴らも相当数が吹き飛ばされたはずだ。
『おおい爆発したぞ!? 無事か!?』
「奴らをまとめて始末しただけだ! それより見つかったか!?」
焦った声色の通信に軽口を返し、
『すまんまだだ! 向こうに停まってる分も調べてみる!』
『こっちも収獲なし』
さらに返ってきたバーンの返事と、いけしゃあしゃと答える明日香に口元を歪める。
並ぶ車の屋根伝いにジャンプしながら、返事をする余裕もないピアースのいる場所へ向かう。その間、ドアにつけっぱなしの鍵は見当たらず。
流石に鍵がかけっぱなしの車がなかったときのことを考える頃間だ。
後でじり貧になるとはいえ、この場で全滅するよりはマシだろう。
だが、その引き際の判断をバーンにまかせて大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えつつも、ピアースの斥力場障壁を囲んでいた屍虫どもに発砲。
胴を穿たれ頭を砕かれた元喫煙者が車に叩きつけられ、アスファルトを転がる。
「無事かピアース!?」
「舞奈ちゃん!」
ピアースの無事を確認しつつ、素早く弾倉を交換。
次の瞬間、少し離れた場所で爆発。
「気をつけて!」
車の陰から跳び出した明日香がピアースの斥力場に滑りむ。
2枚の氷盾が追従する。
「さっきの爆発はおまえか? せめて集めてから爆発――」
文句を言おうとして中断。
弾倉を交換したばかりの短機関銃《マイクロガリル》を新手に向ける。フルオート。
跳び出してきた2匹の屍虫の頭が吹き飛び、胴にいくつも大穴が開く。
次の瞬間、塵と化して消える。
「糞ったれ! 大屍虫だ!」
再び弾倉を交換しつつ、悪態が口をつく。
今のが単発や、あるいは拳銃弾だったら倒し損ねていた。
明日香の氷盾が2枚なのと、普通の屍虫は【氷盾】を破壊できないことに気づいていなければ危なかった。
明日香は自力で1匹を仕留めてきたのだろう。
爆発はその余波だ。
明日香が走ってきた反対側からも大屍虫が1匹。
くわえ煙草の口から煙と唸り声をあげながら、カギ爪を振り上げて襲いかかる。
カギ爪は氷盾を砕き、斥力場障壁に阻まれる。
次の瞬間、プラズマの砲弾が大屍虫を飲みこむ。
明日香が左の掌から放った【雷弾・弐式】だ。
稲妻は勢い余って向かいの車を爆破する。
『糞ったれ!』
「無事か!? バーン! すぐ行く!」
通信機から漏れる罵り声。
燃え盛る炎と剣戟の音。
舞奈は手近な車に跳び上がる。
バーンがいる場所を探そうとして、
『来るな! 大屍虫が4匹いる! ……ぐあっ!』
「バーン!?」
『畜生! 俺としたことが……しくじったみたいだ』
「何とか持たせろ! あんたならできるだろ!?」
胸元に叫びながら、見やるより先にバーンの受け持ちの方向に跳ぶ。
手近な敵に気を取られて、彼のいる方向に向かっていた敵に気づかなかった。
あるいは刺客のように密かに4匹の大屍虫だけが送りこまれたのだろうか?
彼が思ったより遠くまで行っていたのも計算外だ。
「待ってろよ!」
車の屋根伝いに次々に跳んで、少しでも戦域に近づこうとする。
迂闊だった。
ピアースは【重力武器】で斥力場障壁を展開できる。
明日香も【力盾】【氷盾】で同等以上の防御が可能。
加えて自力で大屍虫を倒せる。
屍虫に囲まれても、よしんばピアースが大屍虫に襲われても少しなら耐えれる。
その間に明日香と合流すれば、大屍虫4匹なら倒せたはずだ。
だがバーンは違う。
Aランクとはいえ一介の【火霊武器】には大屍虫2匹でも荷が重い。
それが4匹など!
Sランクの舞奈なら大屍虫がダースで相手だろうが生き残るくらいはしてみせる。
だが彼には無理だ。
舞奈はピアースではなくバーンの援護に向かうべきだった。
――否定はせんがガキに興味はねぇ
勝気な彼の表情が、声が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
だが、まだ速い。
舞奈が首尾よく彼を救えれば、声なんていつでも聞ける。
だから跳んで、跳んで、ひときわ激しい戦闘の音を聞きわける。
さらに跳んで、跳んで、
――そうそう! セレスティアルパニッシャーって!
――おおっ!? 本当にあるのか! なあ、あんたも使えるのか?
見つけた。
乗用車の陰で4匹のカギ爪と相対する赤いジャケット。
幸いギリギリ射程内だ。
舞奈は素早く短機関銃を構え、バーンに背後から迫る2匹のうち手前を撃つ。
あせって少し手元が狂う。
それでも小口径ライフル弾は、手前の大屍虫の頭の後ろを削る。
撃たれた1匹はバーンを目標から外し、撃った舞奈に向き直り――
『――っは!』
「――!?」
その奥にいた1匹のカギ爪がバーンの胴を貫いた。
「バーン!?」
『舞奈……か……』
通信機ごしにくぐもった声。
短機関銃の射程よりやや遠い距離で、人形のように小さなバーンがこちらを向く。
『おまえ……たちだけでも……』
言葉の後に、口のあたりが赤く染まる。
「糞ったれ!」
舞奈は撃つ。
ありったけの小口径ライフル弾が狙い違わず何匹かの大屍虫を穿つ。
だが致命傷には至らない。距離が遠すぎる。
せめて、持ってきたのが普通のアサルトライフルだったなら。
対するバーンの表情は見えないのに、何故か彼の口元が笑ったような気がして――
『――フルバァァァスト!』
「バァァァァン!」
叫びとともに、バーンと大屍虫どもがいた場所で爆発。
先ほどから何度もやらかした爆発がちゃちに思えるくらいの大爆発だ。
おそらくスカイフォールの魔剣とやらに焼きつけられた【魔法増強】――魔力強化の魔法によって高めた異能力を一気に解放したのだろう。
これが彼の奥の手だったか。
――おおい! こっちも誰か加勢してくれよ!
――まぐれ当たりだって聞いたぜ?
大爆発は周囲の車を巻きこみ爆発し、大屍虫どもをまとめて吹き飛ばす。
耳をつんざく爆音。
ガソリンが燃える臭い。
とっさに車から跳び下り陰に隠れた舞奈の頬を熱風があぶる。
『バーンさん!?』
『あの爆発、まさか……』
通信機ごしにピアースと明日香の声。
離れた場所にいる彼らも状況に気づいたようだ。
自分たちが、また仲間を失ったと。
「……明日香、【隠形】を3人にかけられるか?」
『数分と持たないわよ?』
「それで十分だ」
一瞬だけ、車に背を預けながら確認する。
「……あたしが奴らを引き付けて爆発させる。その隙に2人で逃げろ」
『逃げるって、あの、車は!?』
「状況を考えてくれ。誰が運転するんだよ?」
動揺したピアースの声に苦笑する。
爆発の余波でか側のドアが開いていたが、どうでもいい。
舞奈じゃ鍵がつけっ放しだったのか、あるいは壊れただけなのか判別がつかない。
ガソリンの残量もわからない。
「……すぐ合流する。あたしが見えたら3人に術をかけなおしてくれればなおいい」
『了解よ。15秒待てる?』
「どういうことだ……?」
明日香の問いに訝しむ間に懐の改造拳銃から熱。
おそらく【燃弾】。……否、それだけじゃない。
「この距離に付与魔法か」
短機関銃の弾倉を交換しながら苦笑する。
先ほど【力弾】あたりをかけてもらったら、バーンに迫った大屍虫を確実に仕留めることができただろうか?
考えかけて、無駄なIFを脳裏から追いやる。
先ほどは15秒も余裕はなかった。
バーンのために今、できることは舞奈たちが生きのびることだけだ。だから、
「作戦開始だ!」
叫びとともに車の上に跳び上がり、
「ヤニカスども! あたしはここだぞ!」
宙に向かって1発、撃つ。
銃声と怒声に気づいた屍虫どもが舞奈めがけて集まってくる。
もう大屍虫もいないらしい。
手近な数匹めがけて短機関銃を撃ちまくる。
他の場所に留まることなく周囲の屍虫どもが集まって来ている。
明日香は首尾よくピアースと自分に【隠形】をかけたらしい。
2人が認識阻害で見えなくなったから、残る1人に全員でかかろうというのだろう。
屍虫どもが集まってきたのを見計らって左手で改造拳銃を抜く。
片手で構えて撃ちまくる。
標的は周囲の車。
小口径弾で撃ち抜けるかは心配だったが、銃弾は乗用車を紙きれのように射抜く。
どうやら【燃弾】と一緒に【力弾】もかけたらしい。
1発で2倍お得な銃弾だ。
「……銃が壊れんだろうな」
無理やりに軽口を叩き、口元を苦笑の形に歪めてみせる。
次の瞬間、撃ち抜かれた周囲の車が一斉に爆発する。
間近で唸る轟音。熱風。
最後の1人を屠ろうと殺到していた脂虫どもも一網打尽だ。
勇敢な【火霊武器】を悼むように、黒ずんだ炎がすべてを飲みこみ、燃える。
舞奈はコートの裾で顔を覆いつつ炎の壁を突破する。
爆炎を免れた1匹の屍虫に跳びかかって首をへし折りつつアスファルトの地面を転がり、コートに燃え移った火を叩き消す。
勢いのまま一挙動で立ち上がって、そのまま走る。
次の瞬間、世界が自分を拒絶するような嫌な感触。
認識阻害がかかったのだ。
周囲の認識を狂わせる効果で身を隠している本人はそういう風に感じるらしい。
だから、そのまま走って、明日香とピアースと合流する。
そして背後に屍虫の集団がいないことを確認してから、3人はさらに歩を進めた。
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