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第20章 恐怖する騎士団
それらの情報をふまえて1
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朝から不審者。
昼には陽キャ。
そのように舞奈的に面倒くさいプチ事件が続いた平日。
その中で先日の襲撃事件に関与する『Kobold』『Bone』の名に、『デスカフェ』という単語が加わった。バスらしい。
だが、そんな事情はお構いなしに、日中の授業は平和に滞りなく進む。
クラスの皆もあれ以上のトラブルを起こすことはなかった。
外部からもあれ以上の来訪者はなかった。
幸いにも今日は音楽の授業もなかった。
なので意外なほどあっさりと訪れた放課後。
下校時刻を少し過ぎた校門前で、
「モールさん、おつかれさまです」
「はい。御疲れ様です」
壁のように巨大な警備員に会釈しつつ、音々はひとり校外へ向かう。
警備員室の窓から「なぁ~」と挨拶する子猫のルージュに軽く手を振り返し、
「音々さんは今日も児童会ですか?」
「あ、はい。そうなんです」
モールに問われて答える。
問われたのは帰りのバスの時間が過ぎているからだろう。
今日も児童会の用事で帰りが遅くなってしまったのだ。
他の委員の子たちは親御さんが車で迎えに来てくれたらしい。
だが音々の家はそうじゃない。
親ひとり子ひとりの余裕のない家庭なのだ。
しかも例の条例のせいで仕事にあぶれた母親は、今日は営業に勤しんでいる。
なので音々は普通に徒歩で帰宅だ。
今朝の事もあるし、ひとりでの帰宅は少しばかり不安ではある。
だが他に選択肢もないので仕方がない。
せめて可能な限り人通りの多い場所を通って帰ろうと考えながら、そのまま警備員室の前を通り過ぎようとしたところで――
「――ああ待ってください」
「えっ?」
呼び止められた。
何か変な受け答えでもしたのだろうかと訝しみつつ振り返る音々に、
「今朝の事、明日香様から聞きましたよ。大変でしたね。必要があれば御自宅まで御送りするよう言づかっておりますが、如何いたしましょうか?」
「えっ?」
そんな事を言われた。
「もちろんわたしは仕事中ですので、代わりの者に車を出させる事になりますが」
「あ、いえ、そんなの悪いですよ」
覆面姿の大柄な警備員は冗談めかしてそう言った。
だが音々はビックリしてしどろもどろになる。
まず最初に、安倍さんは凄いな、と改めて思った。
会社の人がビックリさせたと謝ってくれたり。
音々が危ない目に遭ったから車を用意するなんて言ってくれたり。
彼女は凄くしっかりしている。
加えて他人を思いやれる立派な子だ。
そう思う。
……2年の頃に酷い喧嘩をしたと男子がビビリ散らかしているが、何かの誤解だ。
それでも、気持ちは有り難いが申し訳ない。
日頃から音々は目立たずにいたいと思っている。
だから特別扱いされると気後れしてしまう。
他所様に手間をかけさせるのも嫌だ。
でも安倍さんたちの気遣いを無下にするのも、それはそれで申し訳ない。
そうやって悩んでいる間にも、大きな大きな親切な警備員さんは小学生の音々に合わせて身を屈めて返事を待っている。
覆面なので表情はわからないが、たぶん音々が煮え切らないので困っている。
そんな様子を身ながら子猫も不思議そうに首を傾げている。
どうしたらいいんだろう……?
そのように無難で常識的であろうとするあまり音々が軽くパニクっていると――
「――でしたら、わたしが御一緒いたしましょう」
警備員室の陰から、おしゃれ眼鏡の女子高生があらわれた。
ゆるやかに編まれたウェーブのかかった髪が、そよ風に上品に揺れる、
高等部の桂木楓先輩だ。
その隣には、
「君が槙村音々ちゃんだね。初めまして。先日は姉さんにつき合ってくれて有難う」
中等部の桂木紅葉先輩までいる。
ポニーテールを爽やかになびかせたセーラー服姿がスマートで凛々しい。
(……楓先輩、タイミングを見計らっていたのかな)
ふと、そんな少し失礼な思いが脳裏をよぎる。
先日にあらわれた時も、今みたいに無駄にタイミングが良かったし。
だからといって楓に対する尊敬の念が減じるわけではない。
むしろ逆だ。
才色兼備な桂木楓が、茶目っ気のあるユニークな芸術家なのは噂で知っている。
前日に話した時にも思ったが、親しみやすくて素敵だと思う。
それに彼女たちは初等部の自分にも威張ったりせず普通に接してくれる。
相手を年齢や立場で判断しない高潔な人物だ。
……表向きばかり真面目で良識的なふりをしている癖に、母親を職業だけで差別するいやらしい人たちとは真逆だ。
「わたしたちが送っていくのなら、会社に御面倒をかけることもないですよね?」
「そりゃまあ、天下のメ……桂木姉妹が御一緒なのでしたら安心ですが」
楓先輩の言葉にモールさんも身を屈めたまま納得する。
「ふふ、そこまで言われるほど大したことはしていませんよ」
「そんな御謙遜を。わたしが相手の立場なら、お二方を相手取るくらいなら明日香様の装甲リムジンと正面から勝負する方を選びますね」
ええっ? それは何を目的としたトーク??
装甲リムジンって何?
男子が好きな少年漫画みたいなトークに音々は少し困惑する。
警備員さんも覆面の上からわかるくらい楽しそうだし。
何故なら音々は怪異の……脂虫の殺戮者【メメント・モリ】の事など知らない。
その桂木姉妹の二つ名が、今では【機関】の外でも畏怖と共に語られる事を。
ついでに『正常性バイアス』なんて言葉も知らない。
だから単に、楓がしっかりしているから信頼されているという事だろうと思った。
そして信頼されているから冗談(?)を言い合う事ができるとも。
大人の、こんな大きな警備員さんと対等に話せるなんて凄いと思った。
それに今日は妹の紅葉さんもいる。
爽やかな彼女は運動部をいくつも掛け持ちしているスポーツマンだ。
何か有事があった時も、楓や音々を上手に逃がしてくれるはずだ。
その隙に大人に救援を求める事ができる。
先日に児童会の子たちにも話したが、街中にいる厳つい男たちのうち煙草を吸っていないのは安倍さんの会社のガードマン(?)らしい。
と、まあ、そんな訳で音々は今日も楓と帰る事になった。
何のかんの言っても両隣は才色兼備の桂木楓に、女生徒の憧れ桂木紅葉。
学校中で有名な美人姉妹と一緒に下校だ。
夢見心地な音々である。
そんな3人は……
「……そうですか。そんなことがあったのですか」
「大変だったね。音々ちゃんに怪我がなくて何よりだよ」
「あの、ありがとうございます」
歩きながら、音々が今朝の出来事を2人に話していた。
先ほどの警備員さんとの会話から、今朝方に何かあったのかと心配されたからだ。
音々は今朝、くわえ煙草の不審者に襲われた。
だが間一髪を、腰みの一丁に仮面をつけた片言の女性に救われた。
ついでに学校まで送ってもらった。
彼女はヘルビーストさんと言うらしい。
後にヘルビーストさんは安部さんの会社の人だと聞いた。
そんな話を、話してる当人すら少し困惑しながら話していた。
もちろん空を飛んだとか無茶な部分は省いた。
音々自身も、何かの思い違いか勘違いだったのかもしれないと少し思う。
何かのトリックだったのかもしれないとも。
でもヘルビーストさんとの不思議な会話や不思議な現象を、自分の心の中に大切な記憶として仕舞っておけるのが嬉しかった。
自分と彼女だけの非常識、あるいは非現実に心躍らないと言えば嘘になる。
音々は2人だけの秘密にわくわくした。
だから先輩方には申し訳ないがナイショだ。
……何より、見たものを全部そのまま話したら変な子扱いされそうだと思うし。
さりとて何もかも内緒ばかりというのも先輩方に失礼なので、容姿の話はした。
正直、そちらも言葉にすると大概だ。
なにせ仮面に腰みのである。
片言である。
おっぱいだって丸出しだ。
だが楓も紅葉もヘルビーストさんの事を笑ったり馬鹿にしたりしなかった。
逆に品のない話だと眉をひそめたりもしなかった。
笑顔で音々の話を聞いてくれた。
そして恐縮する音々に――
「――おっぱい丸出しは、はずかしい事ではありませんよ」
そう言ってくれた。
「その彼女は裸体よりさらに内側にある、弱きを守り悪しきをくじく善なる心を開け広げにしたのです。それに敬愛する我が師も普段は全裸だそうですし」
「はい。……えっ?」
続く言葉に内心で強くうなずき、締めの文句に(?)となる。
芸術家肌の先輩も、AVとか見るのだろうか? と内心で首を傾げる。
複雑な家庭環境ながらも音々は普通の女子小学生だ。
ディフェンダーズの映画くらいは見ているが、中の人の事は知らない。
ヒーローのひとりシャドウ・ザ・シャークの中の人ことKAGEの人となりも。
同じ志と豊富な魔術の知識を持った彼女を楓が師と呼んでいる事も。
だから音々は楓の妄言を無意識に聞き流す。
だが、そんな楓は……
「……ですが先日に御一緒したばかりだというのに口惜しい限りですよ。どうして今朝のわたしは音々さんと一緒に登校しようと思わなかったのでしょう」
「いえ、そんな! わたしは大丈夫ですし!」
「姉さん、音々ちゃんが困ってるから……」
調子に乗ってさらなる妄言を口走る。
音々はあわてて恐縮する。
隣の紅葉は苦笑する。
だが音々的には、単に話の中心が自分が襲われた事になってしまった感じだ。
天上の人だと思っていた桂木姉妹に心配してもらって光栄だという気持ち。
心配させてしまって申し訳ない気持ち。
2つの気持ちがせめぎ合う。
まあ、楓が悔しがっている理由のひとつが音々を救うのに他者の力を借りざるを得なかったからだというのも事実ではある。
怪異の被害を未然に防ぐ。
その誓いは楓の終わらない復讐の一環だ。
だが、それにも増して、脂虫を自分の手で殺したかったというのが本音だ。
楓は復讐者であると同じくらい芸術家でもある。
何か有事があった時には楓が率先して脂虫をへし折り、斬り刻み、腹に風穴を開けるくらいではなく身の毛もよだつような形状に変えたいと思っている。
楓は脂虫をより芸術的に、残忍になぶり殺す手管に自信がある。
この業界の大先輩でもあるヘルビーストにも負けるはずはないと自負するほどだ。
そちらも、まあ真実ではある。そんな事を先方は気にしていないから。
だが、もちろん音々は、そんな楓のアレな思惑には気づかない。
自分を気遣うあまりにそんなことを言ってくれているのだと本気で思った。
嬉しかった。
だから楓に落ち度はないと、心配しなくても大丈夫だと伝えたくて、
「安倍さんの会社の方、ちょっと変わってるけど凄く頼りになる人で……」
言い募る。
槍を構えた腰みのの彼女を、それでも頼もしい大人だと思ったのは事実だ。
何故なら彼女は、音々を襲ったくわえ煙草の変質者を……あれ?
言いかけて少し困る。
あの喫煙者、あの後はどうなったんだろう?
たしか腹から槍が突き出ていたはずだ。
あの時は撮影だと思ったんだけど、そうでもなさそうだし……?
いやでも、あんな「失礼、肩にゴミが」くらいの軽い感じで人を○せるだろうか?
ヘルビーストさんは不器用でやさしい人だ。そういう人とは思えない。
もちろん隣でニコニコしている楓もそういう人とは思えないが。
そのように困惑する音々は、
「明日香さんの会社の方が対応されたのでしたら、後始末もされたのでしょう」
「あっ、そうですよね」
心を読んだような楓のフォローに、思わず納得。
流石は桂木楓だと思った。
「楓先輩は安倍さんたちと親しいんですか?」
「それはもう、いつも懇意にさせていただいておりますよ」
「そうだね。明日香ちゃんも舞奈ちゃんも、わたしたちの目標みたいなものさ」
(そっか、安倍さんも、志門さんも凄い子なんだ)
問いかけた言葉に当然のように答えられ、思わず明日香への評価も上がる。
その後も楓がくわえ煙草を見つけようと、かなりガチ目に目を凝らす。
傍目にかなりみっともない姉の様子に紅葉がツッコむ。
そのようなパフォーマンス(だと音々は思った)をしたり、共通の知人の話に花を咲かせながら、3人は音々の家へ着いた。
帰り際に例の路地を3人で覗いてみた。
裏通りに大の字に倒れていたはずの男の姿は当然ながらなかった。
アスファルトを汚していたヤニ色の液体も綺麗さっぱりなくなっていた。
家に帰ると母親がのんびりしていた。
先輩たちが娘を送ってくれたと聞いて、凄くお礼を言ってくれた。
お母さん、本当に外に営業になんて行って来たのかな?
音々は訝しみつつも、なんだか嬉しかった。
常識的でありたい音々は母親の職業に思うところはある。
だが、やさしくてチャーミングな母親のことが心の底から大好きだ。
時に相反する2つの気持ち。
どちらの気持ちも音々の偽らざる本心だ。
そんな一方。
ネオンの『画廊・ケリー』の『ケ』の字の横線が消えかけた看板の下。
正確には、そんな看板が掲げられた店の裏。
崩れかけた無人のビルの合間に位置するコンクリート色の裏通りで……
「……舞奈ちゃんったら、そこら中に張り紙なんかして何事なの?」
スーツ姿のハゲマッチョが首を傾げながら問いかける。
店主のスミスだ。
「その張り紙が見えなかったのか?」
対して舞奈は小さなツインテールを揺らせて振り返る。
地面に向けられた拳銃の銃口からは硝煙。
額では汗が玉になっている。
スミスは『危険 立ち入り禁止』と書かれたチラシの裏を見やる。
「いいけど『危険』の『危』の字、間違ってるわよ」
「習ってない漢字なんだよ! ヤバイのがわかれば用は足りる」
「そりゃまあ、アレな雰囲気は伝わってくるけど」
「うっせぇ」
もっともなスミスの指摘にむくれつつ、
「それは良いけど、何してるの?」
「んー……」
訝しむ禿頭を見上げ、舞奈は周囲を見渡してみる。
積み上がった瓦礫の上、ドラム缶の上、無人のビルの窓枠等、いたるところに空き缶が置かれている。
実際には、いくつかの空き缶は撃ち抜かれて吹っ飛んでいるのだが。
空き缶の近くのコンクリートには真新しい弾痕。
一見すると関係ない場所にも弾痕。
視線を追って見やったスミスは訝しむ。
舞奈にしては命中率が悪すぎる。
小さいとはいえこの距離で動かない目標なんか、舞奈なら文字通り目をつむったまま百発百中で当てられるはずだ。
そんな舞奈は……
「……跳弾の練習?」
「跳弾!?」
「いや実はな……」
ビックリするスミスを見やりながら釈明する。
舞奈は意図的に跳弾させ、狙った標的に当てる練習をしていたのだ。
つまり的とは関係ない場所を撃ち、跳ね返った弾丸で空き缶を撃ち抜く。
それは張り紙で周囲に注意をうながした理由でもある。
流石の舞奈も弾が跳ね返る方向を完全に把握できる訳じゃない。
人がいて当たったら危ないからだ。
ちなみに舞奈がそんな事をしようと思い立ったのは、先日の梢がヒントだ。
彼女は巨大蜘蛛のブラボーちゃんとの戦闘中に舞奈の銃弾が跳弾する事を預言し、意図的に利用する事で戦況を有利にした。
トリッキーな一撃は、素早い蜘蛛に思わぬ衝撃をあたえたようだ。
そいつを意図的に引き起こすことができれば、銃撃を予測する相手への対策になる。
そう思った。
先日の襲撃事件に関与する『Kobold』『Bone』。
陽子が語った『デスカフェ』。
それらの後ろにいる今回の悪党どもは、預言を使って捜査を逃れているらしい。
そいつを戦闘に応用された場合の対抗策に丁度いいと思ったのだ。
そもそも舞奈はかつて、預言を応用した未来予知を戦闘で使う相手と戦った。
ヘルバッハだ。
それに加えて読心の魔術をも使いこなす彼に対して、直接戦闘で終始有利に立ち回れたのは単に奴が戦闘に不慣れで、舞奈たちが手練れだったからだ。
今後に敵対する予知の使い手も、奴と同じくらい弱いと断ずるのは危険だ。
だから跳弾だ。
撃った銃弾が跳ね返って当たるとか予知しても真面目に反応しない算段は高い。
初見ではかなり有効だし、勢いも削げる。
逆に舞奈の一挙動ごとに跳弾を警戒すると、敵に余計な思考リソースの消費を強いることができる。舞奈らしい戦い方だ。
そんな舞奈の考えを聞いて、スミスは是とも非とも言わず、
「で、調子はどうなの?」
問いかけてきた。
まあスミスはスミスで銃のプロではあっても射撃のプロじゃない。
怪異や術者が相手なら尚更だ。
だから舞奈の考える対策が一見して奇行に見えても、否定はしない心意気はある。
だが逆に言うと、一見すると頭おかしい考えだとは思っているようだ。
付き合いが長い舞奈だから、彼の内心の困惑がわかる……。
「流石に百発百中とはいかないな。練習して6割方は当たるようになったんだが」
「跳弾が、狙って6割も当たれば立派なものよ」
「そりゃそうなんだが……」
見栄を張っても仕方がないので正直に答える舞奈。
対してスミスは当然のように答える。
むしろ思ったより当たっていると驚いた様子だ。
まあ舞奈だって小一時間も練習したら跳弾が完全に当てられるとは思ってない。
そうでなければ張り紙なんかしない。
もちろん舞奈は空気の流れを通じて周囲にいる人の筋肉の動きを察知できる。
故に格闘による攻撃を確実に回避できる。
だが周囲の地形を構成する各々の要素はもっと複雑だ。
跳ね返る銃弾の挙動を決める壁や地面の角度、硬さ、表面のざらつき。
ひとつでも読み違えれば、銃弾は思わぬ方向に飛んでいく。
それらを瞬時に正確に把握するには、もっと鍛錬が必要だと舞奈は思う。
中々に極め甲斐のあるスキルだとも。
そんな事を考えて舞奈は口元に笑みを浮かべ、
「それより久々にストロガノフを作ってみたんだけど、どうかしら? そろそろリコも帰ってくる頃だし」
「そりゃいい! ちょうど腹も減ってきたところだ」
スミスの絶品料理のお誘いに、満面の笑みで答えた。
同じ頃。
商店街の大通りで、
「……?」
スーパーの買い物袋を提げた園香は訝しむ。
キナ臭い事件の後で、学校の送り迎えに臨時のバスが出ている状況でも腹は減る。
真神家の夕食は園香が作っているのだ。
なので普段通りに食材の買い出しにやってきた。
その帰りに、見かけないバスが停まっているのを見かけたのだ。
もちろん明日香の会社のバスじゃない。
ちょっと品のないピンク色のバスだ。
そんなバスの周囲には人だかりができている。
園香はビニール袋を提げたまま、バスをもっとよく見ようと目を凝らし……
昼には陽キャ。
そのように舞奈的に面倒くさいプチ事件が続いた平日。
その中で先日の襲撃事件に関与する『Kobold』『Bone』の名に、『デスカフェ』という単語が加わった。バスらしい。
だが、そんな事情はお構いなしに、日中の授業は平和に滞りなく進む。
クラスの皆もあれ以上のトラブルを起こすことはなかった。
外部からもあれ以上の来訪者はなかった。
幸いにも今日は音楽の授業もなかった。
なので意外なほどあっさりと訪れた放課後。
下校時刻を少し過ぎた校門前で、
「モールさん、おつかれさまです」
「はい。御疲れ様です」
壁のように巨大な警備員に会釈しつつ、音々はひとり校外へ向かう。
警備員室の窓から「なぁ~」と挨拶する子猫のルージュに軽く手を振り返し、
「音々さんは今日も児童会ですか?」
「あ、はい。そうなんです」
モールに問われて答える。
問われたのは帰りのバスの時間が過ぎているからだろう。
今日も児童会の用事で帰りが遅くなってしまったのだ。
他の委員の子たちは親御さんが車で迎えに来てくれたらしい。
だが音々の家はそうじゃない。
親ひとり子ひとりの余裕のない家庭なのだ。
しかも例の条例のせいで仕事にあぶれた母親は、今日は営業に勤しんでいる。
なので音々は普通に徒歩で帰宅だ。
今朝の事もあるし、ひとりでの帰宅は少しばかり不安ではある。
だが他に選択肢もないので仕方がない。
せめて可能な限り人通りの多い場所を通って帰ろうと考えながら、そのまま警備員室の前を通り過ぎようとしたところで――
「――ああ待ってください」
「えっ?」
呼び止められた。
何か変な受け答えでもしたのだろうかと訝しみつつ振り返る音々に、
「今朝の事、明日香様から聞きましたよ。大変でしたね。必要があれば御自宅まで御送りするよう言づかっておりますが、如何いたしましょうか?」
「えっ?」
そんな事を言われた。
「もちろんわたしは仕事中ですので、代わりの者に車を出させる事になりますが」
「あ、いえ、そんなの悪いですよ」
覆面姿の大柄な警備員は冗談めかしてそう言った。
だが音々はビックリしてしどろもどろになる。
まず最初に、安倍さんは凄いな、と改めて思った。
会社の人がビックリさせたと謝ってくれたり。
音々が危ない目に遭ったから車を用意するなんて言ってくれたり。
彼女は凄くしっかりしている。
加えて他人を思いやれる立派な子だ。
そう思う。
……2年の頃に酷い喧嘩をしたと男子がビビリ散らかしているが、何かの誤解だ。
それでも、気持ちは有り難いが申し訳ない。
日頃から音々は目立たずにいたいと思っている。
だから特別扱いされると気後れしてしまう。
他所様に手間をかけさせるのも嫌だ。
でも安倍さんたちの気遣いを無下にするのも、それはそれで申し訳ない。
そうやって悩んでいる間にも、大きな大きな親切な警備員さんは小学生の音々に合わせて身を屈めて返事を待っている。
覆面なので表情はわからないが、たぶん音々が煮え切らないので困っている。
そんな様子を身ながら子猫も不思議そうに首を傾げている。
どうしたらいいんだろう……?
そのように無難で常識的であろうとするあまり音々が軽くパニクっていると――
「――でしたら、わたしが御一緒いたしましょう」
警備員室の陰から、おしゃれ眼鏡の女子高生があらわれた。
ゆるやかに編まれたウェーブのかかった髪が、そよ風に上品に揺れる、
高等部の桂木楓先輩だ。
その隣には、
「君が槙村音々ちゃんだね。初めまして。先日は姉さんにつき合ってくれて有難う」
中等部の桂木紅葉先輩までいる。
ポニーテールを爽やかになびかせたセーラー服姿がスマートで凛々しい。
(……楓先輩、タイミングを見計らっていたのかな)
ふと、そんな少し失礼な思いが脳裏をよぎる。
先日にあらわれた時も、今みたいに無駄にタイミングが良かったし。
だからといって楓に対する尊敬の念が減じるわけではない。
むしろ逆だ。
才色兼備な桂木楓が、茶目っ気のあるユニークな芸術家なのは噂で知っている。
前日に話した時にも思ったが、親しみやすくて素敵だと思う。
それに彼女たちは初等部の自分にも威張ったりせず普通に接してくれる。
相手を年齢や立場で判断しない高潔な人物だ。
……表向きばかり真面目で良識的なふりをしている癖に、母親を職業だけで差別するいやらしい人たちとは真逆だ。
「わたしたちが送っていくのなら、会社に御面倒をかけることもないですよね?」
「そりゃまあ、天下のメ……桂木姉妹が御一緒なのでしたら安心ですが」
楓先輩の言葉にモールさんも身を屈めたまま納得する。
「ふふ、そこまで言われるほど大したことはしていませんよ」
「そんな御謙遜を。わたしが相手の立場なら、お二方を相手取るくらいなら明日香様の装甲リムジンと正面から勝負する方を選びますね」
ええっ? それは何を目的としたトーク??
装甲リムジンって何?
男子が好きな少年漫画みたいなトークに音々は少し困惑する。
警備員さんも覆面の上からわかるくらい楽しそうだし。
何故なら音々は怪異の……脂虫の殺戮者【メメント・モリ】の事など知らない。
その桂木姉妹の二つ名が、今では【機関】の外でも畏怖と共に語られる事を。
ついでに『正常性バイアス』なんて言葉も知らない。
だから単に、楓がしっかりしているから信頼されているという事だろうと思った。
そして信頼されているから冗談(?)を言い合う事ができるとも。
大人の、こんな大きな警備員さんと対等に話せるなんて凄いと思った。
それに今日は妹の紅葉さんもいる。
爽やかな彼女は運動部をいくつも掛け持ちしているスポーツマンだ。
何か有事があった時も、楓や音々を上手に逃がしてくれるはずだ。
その隙に大人に救援を求める事ができる。
先日に児童会の子たちにも話したが、街中にいる厳つい男たちのうち煙草を吸っていないのは安倍さんの会社のガードマン(?)らしい。
と、まあ、そんな訳で音々は今日も楓と帰る事になった。
何のかんの言っても両隣は才色兼備の桂木楓に、女生徒の憧れ桂木紅葉。
学校中で有名な美人姉妹と一緒に下校だ。
夢見心地な音々である。
そんな3人は……
「……そうですか。そんなことがあったのですか」
「大変だったね。音々ちゃんに怪我がなくて何よりだよ」
「あの、ありがとうございます」
歩きながら、音々が今朝の出来事を2人に話していた。
先ほどの警備員さんとの会話から、今朝方に何かあったのかと心配されたからだ。
音々は今朝、くわえ煙草の不審者に襲われた。
だが間一髪を、腰みの一丁に仮面をつけた片言の女性に救われた。
ついでに学校まで送ってもらった。
彼女はヘルビーストさんと言うらしい。
後にヘルビーストさんは安部さんの会社の人だと聞いた。
そんな話を、話してる当人すら少し困惑しながら話していた。
もちろん空を飛んだとか無茶な部分は省いた。
音々自身も、何かの思い違いか勘違いだったのかもしれないと少し思う。
何かのトリックだったのかもしれないとも。
でもヘルビーストさんとの不思議な会話や不思議な現象を、自分の心の中に大切な記憶として仕舞っておけるのが嬉しかった。
自分と彼女だけの非常識、あるいは非現実に心躍らないと言えば嘘になる。
音々は2人だけの秘密にわくわくした。
だから先輩方には申し訳ないがナイショだ。
……何より、見たものを全部そのまま話したら変な子扱いされそうだと思うし。
さりとて何もかも内緒ばかりというのも先輩方に失礼なので、容姿の話はした。
正直、そちらも言葉にすると大概だ。
なにせ仮面に腰みのである。
片言である。
おっぱいだって丸出しだ。
だが楓も紅葉もヘルビーストさんの事を笑ったり馬鹿にしたりしなかった。
逆に品のない話だと眉をひそめたりもしなかった。
笑顔で音々の話を聞いてくれた。
そして恐縮する音々に――
「――おっぱい丸出しは、はずかしい事ではありませんよ」
そう言ってくれた。
「その彼女は裸体よりさらに内側にある、弱きを守り悪しきをくじく善なる心を開け広げにしたのです。それに敬愛する我が師も普段は全裸だそうですし」
「はい。……えっ?」
続く言葉に内心で強くうなずき、締めの文句に(?)となる。
芸術家肌の先輩も、AVとか見るのだろうか? と内心で首を傾げる。
複雑な家庭環境ながらも音々は普通の女子小学生だ。
ディフェンダーズの映画くらいは見ているが、中の人の事は知らない。
ヒーローのひとりシャドウ・ザ・シャークの中の人ことKAGEの人となりも。
同じ志と豊富な魔術の知識を持った彼女を楓が師と呼んでいる事も。
だから音々は楓の妄言を無意識に聞き流す。
だが、そんな楓は……
「……ですが先日に御一緒したばかりだというのに口惜しい限りですよ。どうして今朝のわたしは音々さんと一緒に登校しようと思わなかったのでしょう」
「いえ、そんな! わたしは大丈夫ですし!」
「姉さん、音々ちゃんが困ってるから……」
調子に乗ってさらなる妄言を口走る。
音々はあわてて恐縮する。
隣の紅葉は苦笑する。
だが音々的には、単に話の中心が自分が襲われた事になってしまった感じだ。
天上の人だと思っていた桂木姉妹に心配してもらって光栄だという気持ち。
心配させてしまって申し訳ない気持ち。
2つの気持ちがせめぎ合う。
まあ、楓が悔しがっている理由のひとつが音々を救うのに他者の力を借りざるを得なかったからだというのも事実ではある。
怪異の被害を未然に防ぐ。
その誓いは楓の終わらない復讐の一環だ。
だが、それにも増して、脂虫を自分の手で殺したかったというのが本音だ。
楓は復讐者であると同じくらい芸術家でもある。
何か有事があった時には楓が率先して脂虫をへし折り、斬り刻み、腹に風穴を開けるくらいではなく身の毛もよだつような形状に変えたいと思っている。
楓は脂虫をより芸術的に、残忍になぶり殺す手管に自信がある。
この業界の大先輩でもあるヘルビーストにも負けるはずはないと自負するほどだ。
そちらも、まあ真実ではある。そんな事を先方は気にしていないから。
だが、もちろん音々は、そんな楓のアレな思惑には気づかない。
自分を気遣うあまりにそんなことを言ってくれているのだと本気で思った。
嬉しかった。
だから楓に落ち度はないと、心配しなくても大丈夫だと伝えたくて、
「安倍さんの会社の方、ちょっと変わってるけど凄く頼りになる人で……」
言い募る。
槍を構えた腰みのの彼女を、それでも頼もしい大人だと思ったのは事実だ。
何故なら彼女は、音々を襲ったくわえ煙草の変質者を……あれ?
言いかけて少し困る。
あの喫煙者、あの後はどうなったんだろう?
たしか腹から槍が突き出ていたはずだ。
あの時は撮影だと思ったんだけど、そうでもなさそうだし……?
いやでも、あんな「失礼、肩にゴミが」くらいの軽い感じで人を○せるだろうか?
ヘルビーストさんは不器用でやさしい人だ。そういう人とは思えない。
もちろん隣でニコニコしている楓もそういう人とは思えないが。
そのように困惑する音々は、
「明日香さんの会社の方が対応されたのでしたら、後始末もされたのでしょう」
「あっ、そうですよね」
心を読んだような楓のフォローに、思わず納得。
流石は桂木楓だと思った。
「楓先輩は安倍さんたちと親しいんですか?」
「それはもう、いつも懇意にさせていただいておりますよ」
「そうだね。明日香ちゃんも舞奈ちゃんも、わたしたちの目標みたいなものさ」
(そっか、安倍さんも、志門さんも凄い子なんだ)
問いかけた言葉に当然のように答えられ、思わず明日香への評価も上がる。
その後も楓がくわえ煙草を見つけようと、かなりガチ目に目を凝らす。
傍目にかなりみっともない姉の様子に紅葉がツッコむ。
そのようなパフォーマンス(だと音々は思った)をしたり、共通の知人の話に花を咲かせながら、3人は音々の家へ着いた。
帰り際に例の路地を3人で覗いてみた。
裏通りに大の字に倒れていたはずの男の姿は当然ながらなかった。
アスファルトを汚していたヤニ色の液体も綺麗さっぱりなくなっていた。
家に帰ると母親がのんびりしていた。
先輩たちが娘を送ってくれたと聞いて、凄くお礼を言ってくれた。
お母さん、本当に外に営業になんて行って来たのかな?
音々は訝しみつつも、なんだか嬉しかった。
常識的でありたい音々は母親の職業に思うところはある。
だが、やさしくてチャーミングな母親のことが心の底から大好きだ。
時に相反する2つの気持ち。
どちらの気持ちも音々の偽らざる本心だ。
そんな一方。
ネオンの『画廊・ケリー』の『ケ』の字の横線が消えかけた看板の下。
正確には、そんな看板が掲げられた店の裏。
崩れかけた無人のビルの合間に位置するコンクリート色の裏通りで……
「……舞奈ちゃんったら、そこら中に張り紙なんかして何事なの?」
スーツ姿のハゲマッチョが首を傾げながら問いかける。
店主のスミスだ。
「その張り紙が見えなかったのか?」
対して舞奈は小さなツインテールを揺らせて振り返る。
地面に向けられた拳銃の銃口からは硝煙。
額では汗が玉になっている。
スミスは『危険 立ち入り禁止』と書かれたチラシの裏を見やる。
「いいけど『危険』の『危』の字、間違ってるわよ」
「習ってない漢字なんだよ! ヤバイのがわかれば用は足りる」
「そりゃまあ、アレな雰囲気は伝わってくるけど」
「うっせぇ」
もっともなスミスの指摘にむくれつつ、
「それは良いけど、何してるの?」
「んー……」
訝しむ禿頭を見上げ、舞奈は周囲を見渡してみる。
積み上がった瓦礫の上、ドラム缶の上、無人のビルの窓枠等、いたるところに空き缶が置かれている。
実際には、いくつかの空き缶は撃ち抜かれて吹っ飛んでいるのだが。
空き缶の近くのコンクリートには真新しい弾痕。
一見すると関係ない場所にも弾痕。
視線を追って見やったスミスは訝しむ。
舞奈にしては命中率が悪すぎる。
小さいとはいえこの距離で動かない目標なんか、舞奈なら文字通り目をつむったまま百発百中で当てられるはずだ。
そんな舞奈は……
「……跳弾の練習?」
「跳弾!?」
「いや実はな……」
ビックリするスミスを見やりながら釈明する。
舞奈は意図的に跳弾させ、狙った標的に当てる練習をしていたのだ。
つまり的とは関係ない場所を撃ち、跳ね返った弾丸で空き缶を撃ち抜く。
それは張り紙で周囲に注意をうながした理由でもある。
流石の舞奈も弾が跳ね返る方向を完全に把握できる訳じゃない。
人がいて当たったら危ないからだ。
ちなみに舞奈がそんな事をしようと思い立ったのは、先日の梢がヒントだ。
彼女は巨大蜘蛛のブラボーちゃんとの戦闘中に舞奈の銃弾が跳弾する事を預言し、意図的に利用する事で戦況を有利にした。
トリッキーな一撃は、素早い蜘蛛に思わぬ衝撃をあたえたようだ。
そいつを意図的に引き起こすことができれば、銃撃を予測する相手への対策になる。
そう思った。
先日の襲撃事件に関与する『Kobold』『Bone』。
陽子が語った『デスカフェ』。
それらの後ろにいる今回の悪党どもは、預言を使って捜査を逃れているらしい。
そいつを戦闘に応用された場合の対抗策に丁度いいと思ったのだ。
そもそも舞奈はかつて、預言を応用した未来予知を戦闘で使う相手と戦った。
ヘルバッハだ。
それに加えて読心の魔術をも使いこなす彼に対して、直接戦闘で終始有利に立ち回れたのは単に奴が戦闘に不慣れで、舞奈たちが手練れだったからだ。
今後に敵対する予知の使い手も、奴と同じくらい弱いと断ずるのは危険だ。
だから跳弾だ。
撃った銃弾が跳ね返って当たるとか予知しても真面目に反応しない算段は高い。
初見ではかなり有効だし、勢いも削げる。
逆に舞奈の一挙動ごとに跳弾を警戒すると、敵に余計な思考リソースの消費を強いることができる。舞奈らしい戦い方だ。
そんな舞奈の考えを聞いて、スミスは是とも非とも言わず、
「で、調子はどうなの?」
問いかけてきた。
まあスミスはスミスで銃のプロではあっても射撃のプロじゃない。
怪異や術者が相手なら尚更だ。
だから舞奈の考える対策が一見して奇行に見えても、否定はしない心意気はある。
だが逆に言うと、一見すると頭おかしい考えだとは思っているようだ。
付き合いが長い舞奈だから、彼の内心の困惑がわかる……。
「流石に百発百中とはいかないな。練習して6割方は当たるようになったんだが」
「跳弾が、狙って6割も当たれば立派なものよ」
「そりゃそうなんだが……」
見栄を張っても仕方がないので正直に答える舞奈。
対してスミスは当然のように答える。
むしろ思ったより当たっていると驚いた様子だ。
まあ舞奈だって小一時間も練習したら跳弾が完全に当てられるとは思ってない。
そうでなければ張り紙なんかしない。
もちろん舞奈は空気の流れを通じて周囲にいる人の筋肉の動きを察知できる。
故に格闘による攻撃を確実に回避できる。
だが周囲の地形を構成する各々の要素はもっと複雑だ。
跳ね返る銃弾の挙動を決める壁や地面の角度、硬さ、表面のざらつき。
ひとつでも読み違えれば、銃弾は思わぬ方向に飛んでいく。
それらを瞬時に正確に把握するには、もっと鍛錬が必要だと舞奈は思う。
中々に極め甲斐のあるスキルだとも。
そんな事を考えて舞奈は口元に笑みを浮かべ、
「それより久々にストロガノフを作ってみたんだけど、どうかしら? そろそろリコも帰ってくる頃だし」
「そりゃいい! ちょうど腹も減ってきたところだ」
スミスの絶品料理のお誘いに、満面の笑みで答えた。
同じ頃。
商店街の大通りで、
「……?」
スーパーの買い物袋を提げた園香は訝しむ。
キナ臭い事件の後で、学校の送り迎えに臨時のバスが出ている状況でも腹は減る。
真神家の夕食は園香が作っているのだ。
なので普段通りに食材の買い出しにやってきた。
その帰りに、見かけないバスが停まっているのを見かけたのだ。
もちろん明日香の会社のバスじゃない。
ちょっと品のないピンク色のバスだ。
そんなバスの周囲には人だかりができている。
園香はビニール袋を提げたまま、バスをもっとよく見ようと目を凝らし……
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