銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第21章 狂える土

遭遇 ~銃技&異能力vs回術

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 よく晴れた平日の午後。
 不正移民の根城と化した埼玉の一角で――

「――こりゃ重畳。探す手間がはぶけたぜ」
「それには同意でゴザル」
 舞奈とドルチェは投てきの姿勢のまま不敵に笑う。

「ああっ!? あいつら!」
 ザンは振り返った体勢のまま驚く。

 投てきによる迎撃を避けて少し離れた場所に降り立ったのは、2匹の怪異。
 片方は似合わない女物のドレスを着こんだ中年男。
 もう片方は人間としてのタガが外れた異常な目つき顔つきの中年女。
 どちらも見た目はアジア系。
 どちらも煙草をくわえている。
 そして、どちらも手にしているのは熱光の色に輝くレーザー光線の刃。
 舞奈たちが探していた殺人事件の犯人どもだ。

 首切り殺人鬼とおぼしき怪異の住処を下見していた舞奈たち。
 その前に、当の殺人鬼があらわれたのだ。

「件の怪異と遭遇したでゴザル! 交戦するでゴザル!」
『了解しました! 援護します!』
 ドルチェが胸元の通信機に叫びながら走る。

『今日は下見だって聞いてなかったの?』
「文句は先方に言ってくれよ」
 舞奈の胸元からは明日香の文句。
 対して舞奈も軽口を返しながら怪異めがけて走る。

 今の位置関係は、ザンを挟んで舞奈&ドルチェと、敵2匹。
 ザンを奇襲しようとした2匹を舞奈とドルチェで迎撃したからだ。

 だが敵も簡単にターゲットを変えたりはしない。
 再び手にしたレーザー剣を振りかざしてザンに襲いかかる。
 当のザンはビックリして反応が遅れている。
 このままでは迎撃した意味がない。
 兎にも角にも彼と合流しなければ始まらない。
 なので弾丸のような勢いで地を蹴りながら2匹の敵を見やり――

(――早ぇ!)
 口元を歪める。

 敵も【強い体ジスム・カウィー】で身体強化しているのだろう。
 そのスピードはザンの【狼牙気功ビーストブレード】に匹敵する。
 流石に舞奈の脚力とはいえ単純な短距離走の勝負では分が悪い。

「ドルチェさんはそっちを頼む!」
 拳銃ジェリコ941を抜きつつ叫ぶ舞奈の横を、

「承知したでゴザル!」
 ドルチェが駆ける。
 聞いていた通りに上体をそらせた独特のポーズ。
 その体勢で、敵や舞奈と同じペースで走っているのだ。ちょっと怖い。

「あとザンも頼む!」
「無論でゴザル!」
「何で俺だけ呼び捨て!?」
 あわてて両手の短刀を構えるザンの戯言は無視。
 視線は2匹の敵に向けたまま。

 狂った女も、ドレスの男も、手にした得物は熱光の刃。
 即ちレーザー掃射の回術【熱の刃サイフ・ハラーラ】。
 生身で当たって耐えられる術じゃない。
 しかも女の方は両刀だ。
 身体強化の【強い体ジスム・カウィー】も使っているし、回術士スーフィーなのは間違いない。
 間に合わなければ無事じゃ済まない。
 彼の技術では2匹の術者の攻撃を避けられない。
 なので舞奈は――

「――イカしたメイクしてるじゃないかババア! ピエロの仮装か?」
「何ですってぇぇぇ!?」
 ニヤリと笑って挑発。
 思わず振り返った女に向かって突き進む。

「ウナちゃんをいじめないで!」
「そなたの相手は某でゴザルよ!」
「きゃっ!? 何するの!?」
 ドルチェも再び何かを投げてドレスの男を牽制。
 その隙に、

「ザン殿! 危なかったでゴザルな」
 砲弾のようなダッシュで素早くザンの隣に並ぶ。

「あ、ああ、すまん! 2人であいつを片づけちまおうぜ!」
「承知でゴザル!」
 2人でドレスの男を待ち構える。

 これで向こうは二対一。
 片方がドルチェな事を考えれば勝算は十分。
 彼なら少しばかりザンがヘマしてもフォローしてくれるはずだ。
 つまり当面の危機は脱した。
 なので舞奈は、

「うへっ! 生で見ると動画より凄ぇ顔だ! おまけに匂いも酷い!」
 軽口を続けながら拳銃ジェリコ941を構えて走る。
 次は舞奈が自分の役目を果たす番だ。

 舞奈が女を引き受けたのは、こっちの方が男より手ごわそうだからだ。
 何せこちらは両刀使い。
 回術士スーフィーとしても、普通に考えれば体裁きも男の方より上のはずだ。
 目つき顔つきのせいか異様な迫力もあるし。

「うぉまえも! あの男とおんなじ事をぉぉぉ!」
「おおっと!」
 剣の先から放たれた【熱の拳カブダ・ハラーラ】を身を屈めて避ける。
 レーザー光線を放つ回術だ。

 変装用の帽子をかぶった舞奈の頭上を熱と光が通り過ぎる。
 直後に背後で爆音。
 流れ弾のレーザーが脇の建物に着弾したらしい。

「……そこ、自分の家じゃないのか?」
 走りながら苦笑しつつ、

「だから殺したのか? 首を持って逃げるなんて独創的じゃないか!」
「あいつが悪いのよぉぉぉ! あいつがアテクシを見ないからぁぁぁぁぁ!」
 狂ったような女の怒声に負けないように叫び返す。

 件の動画で、話が通じなさそうな事は承知済み。
 それでも挑発のついでに何か情報を引き出せないかと軽口を叩いてはみたが……

「動画で言ってたのと理由が違うんだが」
「アテクシのぉぉぉ! 心をレイプしたのよぉぉぉぉぉ!」
「……いや全然わからん」
 会話は無理そうだ。

 この家の付近に人気がなかったのは、家主がこんなだからかもしれない。
 狂った女に見染められるのを恐れて他の狂える土も近辺を避けているのだ。
 あるいは迂闊に付近をうろついた狂える土は、すべからく八つ裂きにされるか共食いされたのかもしれない。

「だからぁぁぁ! うぉまえもぉぉぉぉぉ!」
「えっ? いや意味わからんのだが」
 絶叫と共に放たれた次弾を跳んで避ける。
 そのまま女の前に躍り出る。

 女は狂ったように2本の【熱の刃サイフ・ハラーラ】を振るう。
 強力な【強い体ジスム・カウィー】に後押しされた、普通の人間には不可能な機動。
 だが舞奈が反応できないほど速くはない。
 縦一文字に振るわれた一の太刀を跳んで避ける。

 横薙ぎに振るわれた二の太刀は、舞奈がかぶった帽子を両断する。
 だが、それだけ。
 素早く身を屈めた舞奈の小さなツインテールの髪は帽子のはるか下。

「あーあ。その帽子、人から借りた奴なのに」
「避けるなぁぁぁぁぁ! 何なのよあんたぁぁぁ!?」
 狂った女は物事が自分の思い通りにならないのが嫌なのだろう。
 癇癪をおこした子供みたいに叫ぶ。

「さあ? 何だと思う?」
 舞奈は笑う。

 そもそも志門舞奈に近接攻撃は無意味。
 何故なら舞奈は卓越した感覚で周囲の空気の流れを読む。
 空気の流れを通して相手の肉体の動きを読む。
 だから身体を使った攻撃は完全に半自動的に回避する。
 実質的に、志門舞奈に近接攻撃は当たらないという物理法則みたいなものだ。
 故に舞奈は術はおろか異能力すら使えないのに【機関】最強のSランクだ。
 それは相手が妖術師ソーサラーだろうが変わらない。
 それに加えて――

「だいたい、そっちこそ何者だ? たしかにあいつは馬鹿だが、いきなり斬りかかってくるほどアレじゃないだろう? どういう了見してやがる」
「あんたたちがぁぁ! わたしのお家を覗こうとしたからぁぁぁぁぁ!」
「……ま、そりゃそうなんだが」
 続く問答に苦笑しながら舞奈は跳び退る。
 レーザーの刃が前髪を焦がしながら目前を通り過ぎる。
 続けざまに跳んで避けた舞奈の残像を、二の太刀が両断する。

 女の斬撃は怒りにまかせた出鱈目だ。
 一見するとランダムで、動きの予測も対処も難しく思える。
 だが腕と脚が2本ずつある生き物が特に技術を身に着けぬまま激情にまかせて手足をバタバタ動かすと、だいたい似たような挙動になる。
 位置関係から動きはほぼ予想できる。
 予測が完全に不可能なランダムなんて存在しない。
 乱数にも法則性があるとテックも言っていた。

 つまり目前の女は感情的な愚者というパターン通りに動いている。
 素早いだけで知恵のない動物と同じだ。
 否、ブラボーちゃんやみゃー子と違って相手の意表をつこうとすらしない。
 奴が害そうとしている相手すら見ていないからだ。
 自分の怒りしか眼中にない。
 そんな相手の思惑と動きが何となく舞奈にはわかる。
 おそらく似たような相手と過去に何度か戦った事があるからだ。

 避け方も同じ。
 隙も同じ。

 だから舞奈は身体の一部のように拳銃ジェリコ941を操り、撃つ。
 もちろん敵は避けられない。
 舞奈にとって刀剣の間合いで銃を当てるくらいは些事。
 対して敵は至近距離から音速の槍の如く放たれる大口径弾45ACPを避けられない。
 それでも――

「――何するのよぉぉぉ!」
「ま、そうだろうな」
 敵の急所を狙った大口径弾45ACPは、その目前に出現したヴェールに阻まれて溶ける。
 手にした光剣と同じ技術で創造された熱光の盾。
 即ち【光の盾ヌーラ・デルゥ】。

 正直なところ今の状況で女と男の2匹ともを捕獲するのは現実的じゃない。
 下見の途中で奇襲されたから準備を何もしていないのだ。
 なので女の方は片づけて、捕えるなら3人で男の方をと考えた。
 だが始末するのも簡単ではないらしい。

 舌打ちしつつ、反撃とばかりに振るわれた2本の光剣を跳んで避け――

「――うわあっ!」
 悲鳴に思わず振り返る。

 見やると中年男が放ったレーザーが、ザンの胴を捉えたところだった。
 跳び退ったところを【熱の拳カブダ・ハラーラ】で狙い撃たれたらしい。
 だが――

「び、ビックリした……」
 ――無傷。

 レーザー光は拡散しながらザンの周囲を回りこんで後ろへと消える。
 青年は不可視の障壁に守られていた。
 ひるがえったパーカーの下の、腹に巻かれた注連縄がゆれる。

 何の事はない。
 念のためにザンだけ【身固・改みがため・かい】の媒体を身に着けさせていたのだ。
 国家神術さまさま、冴子さまさまである。

「スッゲェ! 噂に聞く【重力武器ダークサムライ】って奴か!?」
「……まあ、そんな感じでゴザル」
「呑気にしてるな! 何度も持たんぞ!」
 被害がなかったからか緊張感のない側の戦場に思わずツッコんだ途端――

『――そちら一帯を戦術結界で封鎖するわ!』
「頼む」
 胸元から声。
 冴子の声色には少しばかり焦りが滲む。
 瞬く間の攻防で、念のためにかけた防御魔法アブジュレーションが使われたのに気づいたからか。

 だが良い判断だ。
 人通りがないとはいえ街中で魔術による支援を大っぴらにする訳にはいかない。
 だが戦場がまるごと結界の中なら別だ。

「そいつが済んだらザンとドルチェを援護してくれ」
『わかったわ』
「あと、そっちもフランちゃんを頼む。もう1匹いない保証はない」
『合流した方が良くはない?』
「いや、こっちはこっちで強敵だ。外から援護しててくれたほうがたすかる」
『了解でやんす』
 いや、やんすが何の援護するんだよ。
 いきなり返事したやんす氏に思わず苦笑する。
 だが今はツッコんでいる場合じゃない。

 次々に繰り出されるレーザー剣を避ける舞奈の視界の端で、

「うおっ!? なんだ!?」
「味方のサポートでゴザル!」
 ザンとドルチェを守るように、虚空にいきなり氷の盾が出現する。
 明日香の【氷盾アイゼス・シュルツェン】だ。
 少しばかり気が早い気もするが、冴子の結界が形成されるまでに通行人があらわれる可能性は極めて低いとの判断だろう。

 それにしても遠距離から大きな盾を4枚。
 こちらの状況に気づいてすぐに施術を始めたにしても発動も速い。
 位置も比較的に正確だ。
 彼女も舞奈が知らない間に腕を上げていたらしい。

「かたじけない! 活用させてもらうでゴザル!」
 ドルチェは体形に似合わず俊敏さで盾の陰に滑りこむ。
 機敏なデブめがけて男が振るったレーザー剣は、氷の盾にはじかれる。
 氷盾を遮蔽代わりに敵の刃を防ぐ算段だ。

「邪魔な障害物ね!」
 ドレス姿の中年男は舌打ちしつつ、再びドルチェに斬りかかる。
 対してドルチェは素早い動きで氷盾に隠れて斬撃をしのぐ。
 直後に盾の反対側から飛び出し敵の背後に滑りこみ、

「そうでゴザろう?」
 左手をかざす。

 一瞬だけキラリと光る。
 脂肪も多いが鍛え抜かれた大きな手から何かが飛ぶ。
 投てきだ。
 刃物を投げたのは確かだが、具体的に何なのかは小さすぎて見えない。
 あるいは早すぎて。

「きゃっ!?」
 不意をつかれた男の頬に、ヤニで濁った体液の色の筋が引かれる。
 仕草も容姿も何もかもが気持ち悪い。

 だがドルチェは動揺しない。
 敵が怯んだ隙に右手で新たな得物を抜く。
 舞奈ですら自身も戦闘しながらのついででは見逃しそうな素早い動作。
 取り出されたのは掌に収まりそうなサイズの小型拳銃ベレッタM1934

 太っちょはすかさず撃つ。
 だが、こちらは敵が展開した【光の盾ヌーラ・デルゥ】に阻まれる。
 先ほどの舞奈と同じだ。

 我に返った敵が反撃とばかりに斬撃を繰り出す。
 だがドルチェは素早く氷盾の陰に逃げこんでレーザー剣を回避する。

 それにしてもドルチェ。
 まさかの暗器使いの小型拳銃使いだったらしい。
 容姿から最も予想しづらい戦闘スタイルも意識しての事だろうか?
 彼のふくよかな腹を見て素早くはないだろうと侮った敵は、見た目に反した機敏な動きと手元すら見せない中距離射撃に対処できない。

 いわばザンや切丸の戦い方をもっとトリッキーにした感じだ。
 加えてドルチェは奇襲が通じない相手との戦い方も知っている。
 自身の異能力である【装甲硬化ナイトガード】を過信していない。
 何とも心強い同僚だ。

 そう思った次の瞬間、世界が変容する。
 薄汚れた周囲の景色が変わる。
 歪な汚い建築物は、大正ロマンあふれるハイカラな建物に。
 ゴミや吸い殻が散乱していた路地は、真新しいアスファルトに。

 即ち【天岩戸・改あまのいわと・かい】。
 冴子の国家神術による戦術結界が形成されたのだ。

 戦術結界とは、特定範囲の空間を周囲から隔離する大魔法インヴォケーションだ。
 隔離された空間に出入りする手段は限られている。
 ひとつは強い魔力で結界を破壊する。
 あるいは高度な魔法で結界に穴を開けるか、術者を倒して結界を解除するか。
 ほぼすべての流派に同様の術が存在し、対象を孤立させる、あるいは周囲に気取られぬよう魔法戦闘をする目的で多くの術者によって用いられる。
 今回の用途も敵を逃がさず、魔術師ウィザード2人による援護を容易にするためだ。
 そのように周囲が変化する一方で――

「――くっ速ぇ!」
「まあ怖い!」
 ザンの突撃をドレスの男が避ける。
 反撃とばかりに振り下ろされた斬撃を、飛来した氷盾が受け止める。

 ザンは【狼牙気功ビーストブレード】のスピードで敵を圧倒したいらしい。
 今までに……おそらく切丸と共に戦った敵にはそれで倒せていたのだろう。
 だが今回は相手が悪い。

「ザン殿も盾に隠れながら戦うでゴザル!」
 言いつつドルチェが実践してみせる。

 太ましい体躯がギリギリ収まるサイズの氷盾の陰に身を隠す。
 そうかと思うと予想外のタイミングで盾から飛び出し、敵の背後から撃つ。
 惜しくも光の盾に阻まれるが、ドルチェは再び盾の後へ。
 なるほど効果的な戦法だ。

「ええっ!? そんな卑怯者みたいな真似――」
「――んなこと言ってられる腕前かおまえ!」
 そもそもドルチェよりおまえに適した使い方じゃねぇか。
 思わずツッコむ舞奈の……

「……お?」
 手の中の拳銃ジェリコ941からも熱。
 明日香からの援護だろう。
 遠隔で氷の盾を操りながら随分と上達したものだ。
 2本のレーザー剣を避けながら少しだけ訝しむ。

 そうしながら付与魔法エンチャントメントを受け入れる。
 熱を感じた時点で抵抗すれば無条件に効果を無にする事もできる。
 本人だけでなく所有している物品に対してもそうだ。
 だが今はそうする意味はない。

 だから銃の所有者である舞奈だけが感じられる熱を帯びた拳銃ジェリコ941を構え――

「――っ?」
 少し驚く。
 銃口から放たれたものが、敵のそれと同じレーザーの光だったからだ。
 例えるなら以前に魔道具アーティファクトで使った【硫黄の火ゴフリート・ヴァ・エーシュ】。

「きゃぁぁぁぁぁ!」
 熱光の砲弾が【光の盾ヌーラ・デルゥ】のベールを貫き、狂った女の髪を焦がす。
 舞奈は笑う。

 驚いたせいで少し手元が狂ったが、敵の光の盾を貫通できるのは有り難い。
 次こそ外さない。
 悪夢に出て来そうな女の顔面を捉えて撃つ。
 そう算段をたてながら、

「うぉまえも回術士スーフィーだったのかぁぁぁぁぁ!?」
「違うよ」
 焦る女のレーザー剣を避ける。

「何で気づかなかったのぉぉぉ!? ママの役立たずぅぅぅぅぅ!」
「ママ!? ……いやママが男じゃ駄目な理由はないが」
 あと魔法感知なら自分でもできるだろう?
 敵の妄言に苦笑しながら、だが明日香にそんな手札があったかと再び訝しむ。
 だが、まあ四国の一件でも大魔法インヴォケーションでレーザーを放射して街を焼き払っていたので、それを得物にこめる術も編み出したのかもしれないが。

 何より今は余計な事を考えている場合じゃない。
 使えるものは使うだけだ。

 そんな舞奈の視界の端で――

「――これで仕舞いよ!」
「うわっ!?」
「ザン殿!」
 男のレーザー剣がザンを捉えた。
 青年の身体が吹き飛ばされる。

 もちろん光の刃は【身固・改みがため・かい】による不可視の障壁に阻まれて止まる。
 ザンに直接のダメージはない。
 だが今度は――

「――!?」
 何かが割れる細い音。
 同時に青年の腹に巻かれた注連縄が千切れる。

「なっなんだ?」
「グレイシャル殿の術が破られたでゴザル!」
 障壁が破られたのだ。
 千切れた注連縄が吹き飛ぶ様に、思わず何かを思い出して口元を歪める。

 短い戦闘の中で、舞奈は気づいていた。
 目前の敵は前回の狙撃手に匹敵する強敵だ。
 十中八九、奥の手を隠し持っている。
 今までの戦闘の経験から察した。

 勝つ気、ないし逃げのびる気で手札を温存しているうちはいい。
 だが奴が自棄になって、たとえばレーザーを乱射とかされた場合、自分はともかくザンやドルチェを守り切れない。
 そう思って焦る舞奈の視界の端で――

「!?」
 風景の一角が何かに侵食されるように黒ずむ。
 外部から結界に穴を開けられたらしい。
 さらに――

「――うわっ!?」
「なんだっ?」
 視界が一瞬だけ白く染まる。
 レーザーの乱反射による目くらましか。

 小癪な真似を!
 舞奈は焦る。

 ザンとドルチェは目をくらまされて動けない。
 今の状態で何かされても避けられない。
 舞奈は視覚の代わりに気配で敵の動きを探る。

 牽制代わりに先ほどの【硫黄の火ゴフリート・ヴァ・エーシュ】を撃ちこむ。
 もちろん敵に当たったりはしない。
 絶対に2人を誤射しない場所を狙ったからだ。
 だが、その甲斐あったか幸運にも――

――ウナちゃん早く!
――今いいところだったのにぃぃぃぃぃ!
――いいから今は帰りましょう!

 2匹の怪異は舞奈たちに構わず穴に跳びこんだ。

 そして数分後。
 舞奈が視界を取り戻した頃……

「……敵はどこだ!?」
「無駄だ。もう逃げた」
 同じように視覚を取り戻したザンが敵の姿を求めていきり立つ。
 舞奈はやれやれと答える。

 そんな様子にバックアップ組も気づいたらしい。
 世界が再び変容する。
 気づくと舞奈たちの周囲は元の薄汚れた狂える土の街に戻っていた。
 結界が解除されたのだ。

「みんな大丈夫!?」
「無事ですか!?」
 冴子とフランが駆け寄ってくる。
 皆は意外にも結界のすぐ近くから援護していてくれたらしい。

「外に誰かいたのか?」
「いきなり女の回術士スーフィーがあらわれて、結界に穴を開けていったでやんす」
「一撃でか?」
「ええ。結界内部に気を取られて完全に不意をつかれたわ」
 やんすに続き、冴子が口惜しそうに外の状況を語る。

 どうやら敵の回術士スーフィーは3匹いたらしい。
 なるほど、女の方がママと呼んでいたのはドレスの男の事ではなかった。
 本物のママが別にいたのだ。

 加えて、こちらと同じように人員を2組にわけて片方を援護する周到さ。
 状況が不利になったと見たら迷わず撤退する状況判断。
 あの状況で仮にザンが倒れていても、舞奈は女を撃ち抜いていたと思う。
 敵が自分たち3匹の命を重要視するなら撤退するのが正解。

 つまり、そう判断できる相手だ。
 狂った女の方とは真逆に、ママとやらは切れ者だ。

「そちらも無事でよかったでゴザル」
「はい。ハカセさんが手を出さないほうがいいとおっしゃられて……」
「それが賢明でゴザろうな」
「そうでやんす」
 フランとドルチェ、ハカセことやんす氏が安堵したように状況を確認する側で、

「……珍しいじゃない。仕損じるなんて」
「そういう事もあるさ」
 明日香の軽口に、口をへの字に曲げて答える。

 だが内心で胸をなでおろしたのは事実だ。
 相手が予想以上の強敵だったのは事実だ。
 あのまま戦闘をしていれば……あるいは敵が結界の外にいたママと協力して舞奈たちを殲滅しようとしてたなら、何人かは無事じゃすまなかっただろう。

 舞奈は思う。

 一行は近いうちに奴らと再戦しなければならない。
 3匹のうち誰かを捕獲、ないし最悪でも3匹ともを排除するのが一行の仕事だ。
 だが、今のこの面子のままでは再戦しても結果は同じだ。
 来るべき時までに何らかの手段を講じる必要があるだろう。
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