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レイドクエスト

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 俺はキーラ渓谷から最寄りにある都市、コンバダスの冒険者ギルドへと向かった。
 コンバダスはこの地域では有名な商業都市だ。俺は正門から都市に足を踏み入れると、冒険者ギルドがある建物に入った。大勢の冒険者たちが長机を囲んで雑談していたが、そこには目もくれずに受付の女性に話しかけた。

「冒険者としての登録、それから魔石と素材の換金をお願いします」
「かしこまりました。それでは登録のためにお名前と現在のレベル、そして冒険者ランクをお願いします」
「名はレオ・グリフォン、Lv70でBランクです」

《冒険者ランクは攻略したダンジョンの等級と同一》

「Lv70とBランクですか!?……あの、失礼ですがステータス画面を拝見させてもらってもよろしいでしょうか?」
「いいですよ、どうぞ」

 俺はステータス画面を空中に投影して受付の女性に見せた。

「大変失礼致しました!Lv70とBランクで登録致します」

 冒険者ギルドが俺のレベルとランクの高さにざわついた。それもそのはず、この地域ではLv20やDランク以上の冒険者ですら稀なのだ。

「レオさん、ちなみにどちらのB等級ダンジョンを攻略されたのですか?」
「キーラ渓谷です」
「それは大感謝です。この街はキーラ渓谷から出没する魔獣の襲撃に苦しめられてきましたから」
「そうでしたか、お役に立てたみたいで光栄です」

俺は袋から魔石と素材を取り出した。
孤高のスライムとデビルスネークの魔石が一個づつ、そしてレアな素材が四個である。

「こんなにも美しい魔石は今まで見たことがありません。一体何を狩られたのですか?」

 受付の女性は無色透明に輝く魔石を見て驚嘆した。

「そっちは孤高のスライムです」
「あ、あの伝説のスライムを討伐されたのですか!」
「そうです、ステータスの討伐履歴を見せましょうか?」
「いえ、結構です。換金額をお調べ致しますので少々お待ち下さい」

 冒険者ギルドにいる全員の視線が俺に集まっているのを感じる。

「魔石の換金額は孤高のスライムが8000万でデビルスネークが400万です。また、素材は四個合わせて90万なので合計8490万でございます」

 所持金:8490万G

 想像を遥かに上回る収益だ。これだけあれば強力な装備を揃えられるだろう。

「さて、このギルドにきているダンジョン攻略の依頼で一番難易度が高いものを紹介してください」
「かしこまりました――【Lv20】以上の冒険者のみ参加できるA等級の洞窟ダンジョン攻略のレイドクエストがあります。ですが、危険なダンジョンですので当ギルドではソロでの参加は推奨しておりません」
「ご忠告には感謝します。でも僕はその依頼を受注します」
「かしこまりました。レオさんのご健闘をお祈りいたします」

 こうして俺はA等級ダンジョン攻略の依頼を受注できた。
 これから冒険者をしていく上で仲間がほしいが優秀な人材をパーティに加えるには、まずは俺自身が優れていることを証明する必要がある。その為にはレベルが高いだけでなく数多くのダンジョン攻略の実績が不可欠となるが自信はある。たとえ格上の魔獣でも〈無断欠席エスケープ〉の効果と土魔法を上手く使いこなせば勝てるはずだ。

 さて、この都市の商店街に出向いて旅支度をするか。
 
 俺が冒険者ギルドを出て都市の中心地にある広場へ出向くと多くの民衆から英雄扱いされた。どうやら俺がキーラ渓谷を攻略したという噂が広まっているみたいだ。
 広場から大通りの商店街に出ると武器や防具などを取り扱っている店を訪れた。

 魔獣との戦闘は魔法とクラスで戦うことが多いとはいえ接近戦では剣で戦うこともあるから安物で妥協はできない。防具も重要であり、できれば敵の物理攻撃を半減できるような頑丈な物がほしいところだ。

「お忙しいところ恐縮ですが、軽くて切れ味抜群な剣と動きやすくて頑丈な防具を紹介してください」

 俺は単刀直入に店主のおじさんへと伝えた。

「構わないけど、兄ちゃん予算はいくらだい?」
「ざっと8000万です」
「兄ちゃん見かけによらず稼いでるね!それだけあれば店ごと買えちまうよ」
「それは遠慮しときます」

 店主の冗談めいた発言に愛想笑いをしながら返答した。

 俺はこの店で最高額の剣と防具と靴を合計金額290万で購入した。
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【鋼鉄の剣】 攻撃力:430+30
【鋼の防具】 守備力:350+20
【軽量な靴】 回避力:390+10

 所持金:8200万G
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 旅支度が整うと、都市の宿に一泊してA等級ダンジョン攻略への英気を養った。

 レイドクエスト当日、俺は風光明媚な草原を時折地図で現在地を確認しながら進んでいた。
 背丈ほどもある草原を歩くこと約2時間、ようやくダンジョンの入り口らしき洞窟が遠くに見えてきたが、その前で数人の冒険者が雑談していた。

「誰だよお前、まさかレイドクエストの参加者か?」

 20歳くらいの茶髪の男から声をかけられた。

「俺はレオという者です。レイドクエストに参加しますが君もそうですか?」
「レオ?聞かねぇ名だ。お前のような無名冒険者が参加していいようなクエストじゃねーぞ、さっさとお家に帰りな!」

 俺が下手に出ていたら挑発してきたから言い返すことにした。

「俺は冒険者ギルドで正式に依頼を受注しているのだが、これ以上の資格が必要ならば聞かせてもらおうか」
「テメェ、舐めた口を利きやがって!」
「おいルシド、そこまでだっ!」

 50歳くらいの白髪のおじさんが俺をぶん殴ろうとした茶髪の男に忠告した。

「ダンジョンに入る前に喧嘩とは感心せんねぇ」
「すみませんマルズさん、コイツが生意気なんでつい……」

 どうやら、この白髪のおじさんマルズが今回のレイドクエストの指揮官らしい。通常のレイドクエストでは国の軍隊から指揮官役が一人派遣されて冒険者達を束ねるが、今回も例外ではないみたいだ。     
 
 レイドクエストに参加する人数は、俺を合わせて10人だった。
 指揮官マルズとルシドが所属する4人パーティ、もう一つの3人パーティ、そして俺と同じくソロで参加している女の子だ。

「初めに言っておくが冒険者諸君の勝手な行動は断じて許さない。ダンジョンの中では私の命令が絶対だ。もし背くようならば魔獣ではなく私に葬られることになると思え」

 指揮官マルズを先頭に俺たちはA等級ダンジョンの中へと突入した……
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