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謎の鉱石

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 危険な状況ではあるがゴブリンキングとレッドゴブリンの蛮行は見過ごせない。

 俺が臨戦態勢に入ろうとした時、地響きのような鈍い音が鉱窟全体に響き渡った。

 その音を聞いたゴブリンキングとレッドゴブリンは深淵の方へと歩き去って行った。

 俺達は急いでケインとエイブリーの状態を確認した。

 ケインは既に息を引き取っていたがエイブリーはかろうじて生き延びていた。

 ソラが〈治癒の左手〉を発動しようとエイブリーの胸に手を当てた時に意識を取り戻した。

「頼む……楽に死なせてくれ」

 俺はエイブリーの発言の意図を瞬時に理解した。

 ゴブリンにおかされた場合は不治の病を患うから余命は長くても半年だ。しかも地獄のような苦しみと共に絶命することになる。
 
 ただ、だからといってここで止めを刺すことなどできるわけが……

「私が楽に逝かせてやろう」

 ベルが毅然と言った。

「ま、まてよベル……俺の役目だ」

 ベルに十字架を背負わせる訳にはいかない。

 だがエイブリーの絶望的な表情は見るにたえない。 

「エイブリーさんが人類の為に最前線で戦った英雄であることを僕達は決して忘れません。誇りを胸に旅立って下さい」

「レオ君……ありがとう、辛い役目を頼んでごめんね」

 エイブリーは少し微笑むと涙ながらに言った。

 最期に笑顔が見れてよかった。

 俺は震える手で黒剣を振り下ろした。

 強い虚無感に襲われたが今は感傷に浸っている場合ではない。

 エイブリーとケインを供養すると俺達は洞穴を出て深淵へと戻った。

 さっきまで何台も自動走行していたトロッコが消え去っていた。

 ここで引き返すこともできるが俺達の任務はまだ終わっていない。シェスターの探索とレアな鉱石の採掘の為にさらに下層へと降りることを決断した。

〈土魔法・砂雲〉

「たぶん、さっきの地響きが作業終了の合図なのだろう。だとすれば今は安全だろうから砂雲で一気に底まで降りよう」

「わかったよ、レオ」

 ソラが言った。

 遂に深淵の底に辿り着くと目の前に荘厳な扉があった。

 不快な轟音が荘厳な扉の向こうから聞こえてくる。

 扉は少し開かれているから〈学級閉鎖クローズ〉を使って中に入った。

 するとゴブリンキングがあぐらをかきながら大いびきで寝ていた。

 その手前で座り込んでいるレッドゴブリン15体はキングの護衛なのだろうが、談笑しており明らかに気が抜けている。

「レオ見て、ゴブリンキングの冠」

 ソラが言った。

 キングが頭にかぶった冠に埋め込まれた鉱石が眩いばかりに輝いていた。

「あれは図鑑でも見たことがないな、間違いなくウルトラレアの鉱石だ」

 この世界の鉱石には様々な力があって特にレアな物は凄まじい発電効果を持つから地下暮らしの人類には欠かせない。

「私のスキルでキングの頭上に出口を設置しようか?」

「頼むベル」

 ベルはキングの頭上の天井に〈移動玄関〉の出口を設置した。

 俺達は荘厳な扉をいったん出てから200m離れた位置に入り口を設置した。

「俺が冠に埋め込まれた鉱石を入手するからソラとベルはここで待ってて」

「わかった」
「了解」

 俺は〈無断欠席エスケープ〉を使うと移動玄関の出口から体を出してキングの頭上から冠に触れた。

 鉱石に手が届いたがしっかりと埋め込まれていて奪い取れない、仕方なく短剣で冠と鉱石の接着面を切断すると遂に鉱石を掴みとった。

 だが、その衝撃で冠がキングの頭からずれ落ちて地面に落下してしまった。

 冠の落下音でキングが目を覚ますとレッドゴブリン15体は一斉に青ざめた。

 俺は鉱石を持ちソラとベルが待つ入り口に戻るとすぐさま〈学級閉鎖クローズ〉を発動した。

 その瞬間、荘厳な扉が破壊されて血走った眼をしたキングが雄叫びをあげながら飛び出してきた。

 怒り狂ったキングによって逃げ惑うレッドゴブリンは瞬く間に皆殺しにされた。

 少し冷静さを取り戻したキングは辺りを見渡すと俺が奪取した鉱石を血眼で探しているようにみえる。

 その表情からは憤怒だけでなく焦燥感も漂っている。どうやら俺の想像以上に特別な鉱石なのかもしれない。

 この鉱石が人類復権への鍵を握るかもしれないという予感めいたものが胸をよぎった。

 だが、まずは無事に鉱窟から脱出しなければならない。
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