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一章.ブレイキングケイジ編
3.まさか先輩まで言い出すとは思わないじゃん
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キックボクシングジムの練習は、3分と1分のインターバルで形成され、それを繰り返す。デジタルタイマーが設定され、その3分と1分をリピートするのだ。
準備体操を終えた僕は、体を温める為にアップの縄跳びを3分間跳び続け、1分のインターバル、そしてまた3分跳んで、1分休む。
簡単に見えて初心者はこれが意外にも辛い、ふくらはぎがこれだけで重くなる。僕も最初は舐めてかかってふくらはぎの重さと張りに嘆いていたが、今はリラックスして身体を温める日課となっていた。
そして3分の2セット、シャドーを行う。所属プロたちやプロ練に参加する人が、それぞれ相手を意識して、描いた相手に拳を振るい、蹴りを放つ。
ここを見れば、その選手が『どんな戦い方をするか』も分かってくる。出稽古出来た大迫選手は……『構えが無い』所謂『ノーガード』でフットワークも少ないが、小刻みに左のジャブから踏み込んで左のフックを振り回して、回り込むように身体を入れ替える。
大迫選手は元々合気道を嗜んでいたらしく、間合いもステップも独特で、そこから踏み込んでフルスイングによって殴り倒すと言うパターンを持っている。
対して僕は、あまり動かないのが『型』と言うか『スタイル』だろう。右腕を前に出して、左手は後ろに引く。僕はそもそも右利きだが、この構えは左利き、つまりは『サウスポー』と言う構えで、厳密に言ったら『コンバーテッドサウスポー』と言う、右利きがわざと左利きで構える型だ。
リズムを刻み、相手を目の前に想像する。
想像するのは……僕より身長が高くて、威圧感が凄まじい、そして『なんでもできる』相手、彼ならばリズムを刻んで入り込み、鋭い右が来る。
「シィイッ」
前手の右手で弾くけど、多分そのまま胸板にズレて入ったから、相手も下がった。仕切り直しになる……相手は僕の前手をジャブで触れるようにして距離を測って来たのでーー。
「シッツ!!」
左のミドルを放つ、防がれた!
返しの右ストレート!右ロー!!早い!!片足になった右膝内側をローで返しに蹴られた!!
ああ、今多分足を蹴られてダウンした。軸足払われて尻餅ついたなと、イメージして、空想のレフリーが合図をする。
落ち着いて、落ち着いて、よく見て。
相手がスイッチから左ミドルを放つ、右手で掴んだ!!これを流すように払って、左のミドルを放つ!!
「あ!?」
屈んで避けられた!?ああやっぱり彼はレベルが違う!!後ろに目があるんだ!!体幹も凄い!!すぐ右ミドルを返された!!
ギリギリスウェーで避けーー。
「あうっ」
本当に尻餅をついて、その時ブザーが鳴ってインターバルに入った。
「あいも変わらず、想像相手は久瀬か?」
「はい……」
大迫さんが息をあげて見下ろして来て尋ねてくる。今のシャドーで、作り上げている相手……その通りであった、あの大晦日で負けて、退院して練習を再開してから、僕のシャドーボクシングで想像する相手は1人だった。
久瀬秀一郎(くぜしゅういちろう)
今現在、この日本で『最強のキックボクサー』で、BOFユースを二連覇し、今年のBOFでプロデビューする、僕の目標であった。
『高校生最強』ではないのだ、彼は『日本最強』と、日本中のキックボクサーが答える。重量級から軽量級の全階級含めた、全ての選手がそう言うだろう。
僕は、その最強と大晦日に戦ってボコボコにされて負けた。その手土産は、右腕一本だけ……僕は肋骨やら歯、鼻の骨に眼窩底骨折までして意識まで飛ばされて負けた。
下馬評も9割負けると言われた試合だったし、なんなら姫原オーナーには『棄権しても良い』とまで止められての試合を、僕は戦った。
「プロ行っちゃいましたけど、僕は……もう一度久瀬くんと戦いたいんです」
その久瀬くんと、もう一度戦いたくて、僕は今必死に練習しているのだ。
「なら、優勝してBOFと契約しないとな」
そのための近道が『BOFユース』での優勝だろう。
BOFユースで優勝すれば『プロ契約権』が与えられる。これはBOFのプロファイターとして契約、試合を組んでもらえると言うものだ。
マイナー団体からベルトを取って、BOFと契約を結ぶ道筋より近道だ。その門は全てのアマチュア、プロ高校生ファイターに開かれている。
僕は久瀬くんと戦いたかった。
もう一度戦って、勝ちたかった。
あの大晦日で僕は……。
初めて、悔しいと感じたから。
「久瀬くん、多分しばらくしたら中量級行くと思うんです」
「まぁあの子、明らかに減量キツイ感じだったしな、ユースは60リミットのスーパーフェザー級だけだし……」
「まだ彼が軽量級を主戦場とする内に、彼が手の届かない場所へ行かない内に、もう一度戦いたいんです」
その久瀬くんと、もう一度戦う機会は、あとしばらくしたら無くなるだろうと僕は思った。彼は体格も、骨格もユースのリミット60kg減量にキツイと呟いていた。
そして、BOFで一番層が厚いのが『ミドル級』の70kgだ。激戦区、ゴールデンミドルと呼ばれるこの階級にいずれ久瀬くんは参戦すると、決めている。その前に軽量級のベルトを取るとも……。
同じ階級で戦える期間までに、久瀬くんと再戦したい。その為には……今年優勝してプロ契約権を絶対勝ち取らねばならない。
さっきは姫原オーナーや大迫さんに『優勝できるか分からない』とは言ったけど……あのカレンダー通り今年優勝する気概は、誰よりも僕は持っているつもりだった。
「でも、結構期間空くんだよな?ファイナル8のシード権持ってるから、9月だろ?」
とは言え、その大会は9月に行われるわけで、試合の間が開く事を大迫さんも知っていて、そこはどうなのかと尋ねた。
「そうですね……だからオープン大会かアマチュアの大会に1回、参加しときたいなと相談したくて」
その件もあって今日は姫原オーナーに相談しようとも思っていた事を僕が明かすと、姫原オーナーは、頷いた。
「そうやな、6月あたりにどこか探してーー」
なら間を取って二ヶ月後に出れそうな大会を探そうと言いかけた姫原オーナーに、大迫選手がふと思い立ち言い放った。
「そう言えば、今月にブレイキングケイジのオーディションが近くでやるって言ってたな、久島出たらどうだ?お前出たら盛り上がるぞ、絶対」
ニヤニヤ笑って丁度いいとばかりに、今朝伊佐美くんが言い出した事を、大迫さんも言い放ったのだった。
準備体操を終えた僕は、体を温める為にアップの縄跳びを3分間跳び続け、1分のインターバル、そしてまた3分跳んで、1分休む。
簡単に見えて初心者はこれが意外にも辛い、ふくらはぎがこれだけで重くなる。僕も最初は舐めてかかってふくらはぎの重さと張りに嘆いていたが、今はリラックスして身体を温める日課となっていた。
そして3分の2セット、シャドーを行う。所属プロたちやプロ練に参加する人が、それぞれ相手を意識して、描いた相手に拳を振るい、蹴りを放つ。
ここを見れば、その選手が『どんな戦い方をするか』も分かってくる。出稽古出来た大迫選手は……『構えが無い』所謂『ノーガード』でフットワークも少ないが、小刻みに左のジャブから踏み込んで左のフックを振り回して、回り込むように身体を入れ替える。
大迫選手は元々合気道を嗜んでいたらしく、間合いもステップも独特で、そこから踏み込んでフルスイングによって殴り倒すと言うパターンを持っている。
対して僕は、あまり動かないのが『型』と言うか『スタイル』だろう。右腕を前に出して、左手は後ろに引く。僕はそもそも右利きだが、この構えは左利き、つまりは『サウスポー』と言う構えで、厳密に言ったら『コンバーテッドサウスポー』と言う、右利きがわざと左利きで構える型だ。
リズムを刻み、相手を目の前に想像する。
想像するのは……僕より身長が高くて、威圧感が凄まじい、そして『なんでもできる』相手、彼ならばリズムを刻んで入り込み、鋭い右が来る。
「シィイッ」
前手の右手で弾くけど、多分そのまま胸板にズレて入ったから、相手も下がった。仕切り直しになる……相手は僕の前手をジャブで触れるようにして距離を測って来たのでーー。
「シッツ!!」
左のミドルを放つ、防がれた!
返しの右ストレート!右ロー!!早い!!片足になった右膝内側をローで返しに蹴られた!!
ああ、今多分足を蹴られてダウンした。軸足払われて尻餅ついたなと、イメージして、空想のレフリーが合図をする。
落ち着いて、落ち着いて、よく見て。
相手がスイッチから左ミドルを放つ、右手で掴んだ!!これを流すように払って、左のミドルを放つ!!
「あ!?」
屈んで避けられた!?ああやっぱり彼はレベルが違う!!後ろに目があるんだ!!体幹も凄い!!すぐ右ミドルを返された!!
ギリギリスウェーで避けーー。
「あうっ」
本当に尻餅をついて、その時ブザーが鳴ってインターバルに入った。
「あいも変わらず、想像相手は久瀬か?」
「はい……」
大迫さんが息をあげて見下ろして来て尋ねてくる。今のシャドーで、作り上げている相手……その通りであった、あの大晦日で負けて、退院して練習を再開してから、僕のシャドーボクシングで想像する相手は1人だった。
久瀬秀一郎(くぜしゅういちろう)
今現在、この日本で『最強のキックボクサー』で、BOFユースを二連覇し、今年のBOFでプロデビューする、僕の目標であった。
『高校生最強』ではないのだ、彼は『日本最強』と、日本中のキックボクサーが答える。重量級から軽量級の全階級含めた、全ての選手がそう言うだろう。
僕は、その最強と大晦日に戦ってボコボコにされて負けた。その手土産は、右腕一本だけ……僕は肋骨やら歯、鼻の骨に眼窩底骨折までして意識まで飛ばされて負けた。
下馬評も9割負けると言われた試合だったし、なんなら姫原オーナーには『棄権しても良い』とまで止められての試合を、僕は戦った。
「プロ行っちゃいましたけど、僕は……もう一度久瀬くんと戦いたいんです」
その久瀬くんと、もう一度戦いたくて、僕は今必死に練習しているのだ。
「なら、優勝してBOFと契約しないとな」
そのための近道が『BOFユース』での優勝だろう。
BOFユースで優勝すれば『プロ契約権』が与えられる。これはBOFのプロファイターとして契約、試合を組んでもらえると言うものだ。
マイナー団体からベルトを取って、BOFと契約を結ぶ道筋より近道だ。その門は全てのアマチュア、プロ高校生ファイターに開かれている。
僕は久瀬くんと戦いたかった。
もう一度戦って、勝ちたかった。
あの大晦日で僕は……。
初めて、悔しいと感じたから。
「久瀬くん、多分しばらくしたら中量級行くと思うんです」
「まぁあの子、明らかに減量キツイ感じだったしな、ユースは60リミットのスーパーフェザー級だけだし……」
「まだ彼が軽量級を主戦場とする内に、彼が手の届かない場所へ行かない内に、もう一度戦いたいんです」
その久瀬くんと、もう一度戦う機会は、あとしばらくしたら無くなるだろうと僕は思った。彼は体格も、骨格もユースのリミット60kg減量にキツイと呟いていた。
そして、BOFで一番層が厚いのが『ミドル級』の70kgだ。激戦区、ゴールデンミドルと呼ばれるこの階級にいずれ久瀬くんは参戦すると、決めている。その前に軽量級のベルトを取るとも……。
同じ階級で戦える期間までに、久瀬くんと再戦したい。その為には……今年優勝してプロ契約権を絶対勝ち取らねばならない。
さっきは姫原オーナーや大迫さんに『優勝できるか分からない』とは言ったけど……あのカレンダー通り今年優勝する気概は、誰よりも僕は持っているつもりだった。
「でも、結構期間空くんだよな?ファイナル8のシード権持ってるから、9月だろ?」
とは言え、その大会は9月に行われるわけで、試合の間が開く事を大迫さんも知っていて、そこはどうなのかと尋ねた。
「そうですね……だからオープン大会かアマチュアの大会に1回、参加しときたいなと相談したくて」
その件もあって今日は姫原オーナーに相談しようとも思っていた事を僕が明かすと、姫原オーナーは、頷いた。
「そうやな、6月あたりにどこか探してーー」
なら間を取って二ヶ月後に出れそうな大会を探そうと言いかけた姫原オーナーに、大迫選手がふと思い立ち言い放った。
「そう言えば、今月にブレイキングケイジのオーディションが近くでやるって言ってたな、久島出たらどうだ?お前出たら盛り上がるぞ、絶対」
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