間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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一章.ブレイキングケイジ編

4.青春はぶつかりあいだ

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「うあ ああ あ あ!?久島くんが見た事ない嫌な顔してる!!」
「ちょっ!?そんなに嫌だったんか!ブレイキングケイジ!!」

 ブレイキングケイジに出ないか?まさか日に2回同じ話が出るなんて、なんなのだろう一体と、僕は余程嫌な顔をしてしまったらしい。

「いや……話し相手に今朝、同じ事を提案されまして……」
「それでかぁ、やっぱ人気なんやブレイキングケイジ」
「下手なマイナー団体よりファイトマネー出ますからね、何より……YouTubeで発信されている、活躍したら名を売れて有名になれる、登竜門ではありますからね、ヤカラどもの……喧嘩の延長線みたいな試合ばかりだから、過激な物に飢えた若者のファンが多いんですよね」

 やはりブレイキングケイジは、話題性があるようだ。僕も何度か動画を見てみたが、ヤンキー同士の構想の代理となる舞台にされたり、因縁を煽りあったりと、その舞台劇を楽しむ視聴者が多いらしい。

 そして、ファイトマネーも出る。これがでかいのだろう。

 BOFで、日本チャンピオンは一試合30~50万と聞いた。世界チャンピオンのベルトを巻いてようやく一試合100万だと、ここに選手個人の人気やスポンサー料でようやく一試合500万くらいらしい。

 マイナー団体のチャンピオンは……一試合30万程度だ。しかもチケットを売ったりして稼ぐ必要がある……と聞いた。

 しかし、ブレイキングケイジは、何の格闘技の経験すらない不良がオーディションに受かって戦うだけで30万、マイナー団体名チャンピオン並みに稼げるらしい。そして活躍すれば、朝原光流がまた次もと呼んだりレギュラーとして出演してその出演料まで貰えるらしい。

 聞いた話では……一試合100万貰った奴もいるという。プロでもない、街のヤンキーあがりが。

 プロ格闘家というのは、稼ぐのが難しい『現実』がある。

 日本格闘技の全盛期からしばらく、今の稼げないマイナー団体より、こういった稼げる団体があるならばと、有名になれるならばとオーディションを受けるプロが居るのもまた、現実なのだ。

「一試合30万かぁ……俺が昔世話になった団体は、チケット売って稼いでたから……羨ましくはあるなぁ」
「生活かかってると魅力ある話やな……」
「昔活躍して、引退したファイターも引き出して対抗戦できるあたり、マネジメント力あるし興業としても成功してるのがでかいな」

 世知辛い事情の中を生き抜いた、ベテラン格闘家とオーナーはしみじみと『金』という名の魅力に2人は頷いた。

「……だからって、僕は素人と喧嘩する為に、あんな団体で試合したくありません」

 確かに、プロは稼がねば生活できない。だからってあんな格闘技ですら無い、ヤンキーの喧嘩の見せ物小屋みたいな場所で戦うのはまっぴらだと、僕はグローブを嵌めた。

 そのまま僕はサンドバッグに向かい、インターバル終了のブザーが鳴る数秒前に、その前に立った。

「ブレイキングケイジ以外で、アマチュア試合をお願いしますね、姫原オーナー」

 ブザーが鳴り響く。その瞬間僕は、少しばかりの苛立ちを込めて……目の前のサンドバッグへ向けて早速、左のミドルキックを放った。
 
 右足首から、膝へ、さらに腰を捻り……そのエネルギーを左足に伝えて、放たれた左ミドルキックは……凄まじい音と鎖の軋む音をジムに響かせた。

「……まぁ、そこらの素人ヤンキーが久島くんの蹴り受けたら死ぬわな、ちゃんと基本できてる経験者とかやないと」
「去年のアマチュア試合、久瀬くん含めて何本、骨を蹴り折ったんだっけ久島くん」
「7本……あと、ファイナル8で戦った久瀬くんの前のチャンピオンは、頸椎捻転と顎の骨粉々にした」
「その蹴りだけで、ユース本戦へ初出場から3位……今年はさらに強くなってるから、勝てる奴は高校生に居ないんじゃないか?本当」

 姫原オーナーと、大迫さんの会話を聞きながら、僕はミットを蹴り抜き、殴り、時には肘打ちを叩き込む。

 そうだ、この蹴りを……そこらの素人にむけて放つなんてできない……。

 同じく鍛え上げ、そして覚悟を持ってリングに上がってくる格闘家だからこそ、本気になって叩き込めるんだと、さらに僕は揺れるサンドバッグを蹴り抜いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 『青春』の景色って何だろう?

 『高校生だからこそできる事』は、たくさんあって、それを全てはできないわけで……。

 むしろ一つもできずに、青春を灰色にしてしまう子も居る。

 僕は?違う、色々できて充実している。

 友達に恵まれ、スポーツも勉強も問題ない。

 日々是上々というやつだ。

 進学校の推薦も。

 野球の名門校からのオファーも。

 全部蹴って地元の高校に落ち着いたのは、受験戦争や、レギュラー争いと言った『争い』よりも。

 友達との『楽しい3年間』が欲しかった、からだ。

 『高校三年間』いや、あと一年と少しになるか、僕は晴れやかなる青春を謳歌していた。

 そんな友達との青春を、僕は『動画』にして投稿していたら、人気者になれた。僕たちの晴れやかな様に『こんな学生生活過ごしたい』とか『まるでドラマのよう』と、好意的な評価を貰い、チャンネル登録者は50万人を突破した。

「秋山くん、どうしたの?」
「んー……」

 そう尋ねてくる僕の幼馴染で、金髪に染めた髪の女の子、クラスメイトでもある、柳朝子だ。

 朝子に後ろから抱きしめられ、柔らかな双丘を服越しに感じながら、僕は彼女に悩みを打ち明ける。

「最近の再生数が良くなくてね、一年の時は100万再生あるんだけど、今は平均10万から20万、動きも鈍くてさ」
「そうなの?」

 最近、僕らのチャンネルでもあり、YouTuberチーム『クリアユース』の再生数が伸び悩んでいた。いや、そもそも再生数は気にしてない。僕らが好きに集まって、好きにやりたい事やっているのを動画にして、青春の思い出にして残しているだけだ。

 けど、やはり数字を見てしまうと人間気になってしまう。登録者も50万人超えてから次の1万人がまだ届かない……それを聞いた朝子は笑いながら提案する。

「うーん、私脱ごっか?コスプレとか?比嘉出さんやら東条ちゃん、内藤先輩を誘ってさ」
「何考えてるのさ、安易なエロ売りしたら炎上するでしょ、僕ら高校生なんだから」
「えー?そう?でも秋山くん、私らの裸見てるしエッチもしてるじゃん、今更だよ」
「まぁ……そうだけど……」

 幼馴染の提案に苦笑する、流石にダメだろうと。それに、朝子に比嘉出さん、東城ちゃんに内藤先輩の肌を、50万人のよく分からない奴らに見せたくなんてない。勘違いした奴らが、変な事しにくるかもしれないから。

「こう、何か……青春っぽいのをやりたいよね、春だから」
「皆で花見は?まだ桜あるし」
「いいね、お菓子持ち寄って……あ、新しいクラス全員で花見をしてみた!とかーー」

 朝子から、クラスで花見を動画にするのはどうかと言われ、それもいいなと提案を飲み込んだ矢先……見ていたYouTubeのオススメ欄に、僕らの青春とは『真反対』なチャンネルを見つけた。

 自動で、音声無しに再生されたその動画は、仮眠そめたりタトゥーを体に刻んだ、ヤンキー達が金網で殴り合ったり、お笑い番組のようにトークから喧嘩が始まったりと、騒々しかった。

 チャンネル名は『ブレイキングケイジ』

 格闘技……いや、たしかこれは『ヤンキーが格闘技で成り上がる』とかだったか。

「やだ、こわっ……馬鹿みたいに騒いで殴り合ってる」
「けど今人気なんだって……ふーん、朝子はこういうの苦手?」
「いや、アイドルや俳優とかのドラマでヤンキーものは見たりするけど……」
「あれは面白いよね、アクションで見る分には」

 人は退屈を紛らわす為に『非日常』を求める、漫画のヤンキーものなんて、警察が機能してなかったり、自警団を騙り正義の味方をやってたり荒唐無稽でばかばかしい。

 けど、そんな『暴力』に人は魅せらるのかもしれない。学もない馬鹿な奴らが、拳ひとつでふんぞりかえって幸せを掴む様が。

「あ!この人知ってる!格闘家で強い人で、元ヤンなんだ」
「へぇ……すごいや、登録者349万人……」

 そんな格闘技イベントの主催者が映って、朝子は指差した。この『ブレイキングケイジ』自体はチャンネル登録者26万人だが、主催者の格闘家『朝原光流』は、僕らの7倍近くの登録者を持つ、人気YouTuberであり、格闘家だったのだ。

 ……ふと、僕は頭によぎった。

 僕らの青春に足りないもの、それは……『ぶつかり合い』じゃないかと。

 僕たちは同じクラスでも、いくつかのグループに分かれ、仲良くしているが、やはりその中には仲間はずれが居る。片隅で寝てる奴、僕らを僻み舌打ちする奴、何を考えているか分からない奴。

 クラスが一丸となるには、青春には、時として衝突試合、相互理解を深める必要があるのではないかと、委員長を仰せつかった僕はそう思った。

「……ボクシンググローブって、いくらくらいするんだろ」

 早速僕は、通販サイトでボクシンググローブを探す事にした。
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