間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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一章.ブレイキングケイジ編

7.試合決定

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 あの後……伊佐美くんは『クソボケがぁーー!』と、放課後の帰り際、校門の外で吐き散らした。僕も、何があったか聞いたら『ウ…ウソやろ、こ…こんなことが!こ…こんなことが許されていいのか!?』となった。

 いじめというか、校内カーストによる事実隠蔽が行われてめちゃくちゃ恐怖した。

 つまり言えば『口裏合わせ』しやがったのだ、あの場に居た観客の、クラスメイト全員。

 秋山くんは人気者YouTuberでクラス委員長である、そんな彼が少し頼めば彼を慕う、今回の炎上騒動を隠す為に『してないですよ、そんな事、彼らの言いがかりです』と言いやがったのだ。

 多勢に無勢とはこの事、僕と伊佐美くんに、被害者である山城くん以外は皆、秋山くんに頼まれて『屋上ブレイキングケイジ』はなかった事にしやがったのだ。

 僕と、伊佐美くん、そして山城くんは……これから恐らくクラスからハブられる日々が始まるのかもしれないと、いつもなら殴って蹴って霧散してくれる心のモヤが晴れなかった。

「イィッサァア!!」

 いつもなら左の蹴りに繋げるコンビネーションが、今日は繋がらない……腹が立って、平静じゃない証拠だ。

 ……僕のせい、なのだろうかと考えしまう。あの時割って入らず、山城くんがボロボロになって晒される姿を見ていろと、そうしたら僕はこんな事にならなかったじゃないかと考えさせられる。

 そんな事は、絶対したくない。

 正義の味方をきどりたいとかじゃない!あの場でもし、観衆の1人になっていたら!僕はそれこそド腐れクソ野郎の人でなしに成り下がっていた!後悔してない!!

 けど、伊佐美くんを巻き込んでしまった!彼はただ手伝ってくれただけ、あの時先生方への報告は、僕が行うべきだったんだと悔やみきれない!

「ぇええし!えぁああし!!」

 モヤモヤを、自身への悔やみを!サンドバッグにいくらぶつけても晴れない!!どうしたらいいんだとなる中、3分のブザーが鳴りインターバルになって、ゼェゼェ息を切らして僕は自分のスポドリが置いてある壁に向かった。

「どしたん久島くん、めっちゃ荒れてるやん……」
「姫原オーナー……」
「蹴りに繋がずずーっとパンチコンビネーションばかり……何かあったんやろ?」

 姫原オーナーに、見抜かれてしまった。まぁ当たり前か、自覚はあるから。違う……もしかしたら、頼りたくて、言い出せないから、気づいて欲しいからこんな事してたのかもしれない。

 子どもの八つ当たりだ、なんて醜い……僕は、姫原オーナーに言うべきか迷ってしまう。

「その……学校で……いや、何でもないです」

 学校の外の中の人に言って、どうするんだよ。どうにかなるのか?また、巻き込んで迷惑かけてしまったら?そんな事が頭によぎって僕は止まってしまった。

「何かあったんやな……分かった、言えるようになったら言いよ?手遅れになる前に……」
「え?」
「出来る事は限られとるけど、どうにかしたるからさ久島くんはまだ高校生の子どもなんやから」

 姫原オーナーは、無理には言わなくていいと諭してくれた。ただし、手遅れになる前に言ってくれと。

 ありがたい事である、子どもとして甘えていいんだからと、いつでも相談に乗ると言う姫原オーナーに、僕は頭を下げた?

「ひ、姫原オーナー!!大変です!!」

 そうしていると、ジム会員の練習生が慌てて入って来た。尋常じゃないほどの慌てぶりに姫原オーナーは何事かとなった。

「なんや!?もしかしてヤクザの地上げでも来たんか!!うちは借金も何もしとらんぞ!!」
「あ、あさ!あさ、あさ!あさーー」
「あさ?まさかオ◯ム真理教か?麻◯でも蘇ったんか」

 その名前出すのはダメだろ!?とブラックジョークをかますと、入り口から入って来た人物に姫原オーナーも、そして僕も驚愕し、練習生の慌てぶりを理解した。

「どうもご機嫌よう、初めまして、朝原光流です」

 入って来たのは『FUJIN』で戦う、日本のMMA人気ファイター……朝原光流であったのだから。

「あ、朝原光流さん!?どうして此処に!!」

 トップの、しかし畑違いだが活躍しているまさかの人物がジムに来訪したのを見て、姫原オーナーもさん付けで呼んだ。

「すいませんね、突然アポイントメントも無しに来ちゃって……このジムに用事があって来たんですよ」

 深々頭を下げた朝原さん、生で見ればその威圧感の凄まじさに気圧される。何をしに来たのかと、僕は思わず身構えた。

「用事ですか……何でしょうか?」
「単刀直入に言うと、久島くんをブレイキングケイジにオファーしたいんです、5月の大会に」

 なにっ、僕はまさかの、団体を経営する本人からオファーが来て驚愕した。だがしかし……僕は即座に頭を下げた。

「モ、モウシワケアリマセンガ、オコトワリサセテイタダイテモヨロシイデショウカ」
「うおっ早くて堅苦しい、相手も聞かずに断るとかマジか」

 はっきり言えば、僕は所謂『ヤンキー上がり』の格闘家は嫌いだった。だけど、朝原さんは今を活躍するトップ戦線の格闘家でもある為、実力には敬意を払ってるつもりだ、ご足労の所悪いが、僕はブレイキングケイジが嫌いだから出る気はありませんと頭を下げた。

「まぁ待ってよ久島くん、その対戦相手くらい聞いてもいいじゃない?」
「た、対戦相手?」
「実はね、今日オーディションしてて、彼がキミとうちの金網で戦いたいからってのもあって尋ねて来たのよ、オーナーさん?彼を中に入れても?」
「ああ、はい、構わないですよ」

 ブレイキングケイジを舞台に、僕と戦いたい人?どこぞのヤンキーでも入ってくるのかと、入り口から入って来た『対戦相手』に僕は目を見開いた。

「どうも、みなさん!透き通る青春の使者、クリアユースの秋山千才です!」

 カメラを人に持たせて撮影しながら、入って来たのは……秋山千才だった。僕は……今日の事もあり苛立ちが湧き立った。

「……何しに来たのさ、秋山くん」
「何って、キミと戦う為に挑戦状を叩きつけに来たんだよ」

 にかにか笑う彼に、僕はふざけるなと思った。今日の昼の出来事の仕返しに、まさかプロ格闘家まで巻き込み、ブレイキングケイジに上がれと言うのかと。

 僕は……一旦落ち着いた。馬鹿馬鹿しいと、あれだ、迷惑系の炎上商法だなと。

「……朝原さん、すいませんけど僕は……素人と戦えませんよ、アマチュアとは言え僕も格闘家の端くれですから、矜持は持っているつもりです、彼を怪我させたくありません」

 誠心誠意、大人の対応で行こう。アマチュアとは言え素人相手に戦う気にはなれない、まぁテンプレのお断りをすれば……。

「え?なに久島くん……もしかしてさ、僕に負けるのが怖いの?」

 煽り方としてはパターンだなと、怖いのかと煽る秋山くんに、僕はキッパリ言い切る。

「どう取ってもらって構わない、けど……こんな試合を受けた瞬間、僕は矜持も誇りも失う……受けないよ、やらない、キミとは」

 腰抜け扱いでもすればいいさ、勝手に、素人を殴ったり蹴ったりは絶対したらいけないのが格闘家なんだ、僕は喧嘩をする為に格闘技やってるわけじゃないと断った。

 その時、わざとらしい拍手が朝原さんから鳴り響いた。

「いいね久島くん、キミいい子だよ、大人でちゃんと分別弁えてる、俺が連れて来たこのガキと大違いだ……久島くんは間違ってないよ」

 朝原さんが、僕を褒めた。しっかり人間できて大人の対応していい子だと、この世間知らずのガキとは大違いだなと言うと、秋山くんは苦笑を浮かべた。

「けどさぁ……格闘家としては俺違うと思うんだよね?久島くん……キミ、舐められてんだよ、この子にさ?1分間なら僕のが強いって……腹立たねぇ?」

 腹が立ってないと言えば嘘になる。今日の学校の出来事もあって、苛立ちは募っていて、いつも通りここで練習しても苛立ちは晴れないくらいだった。

「久島くんはさ、確かにアマチュア格闘家だよ?けど、素人の習い初めとかじゃなくて……キミはBOFが抱える原石で、看板背負ってるんだ、他のアマチュアと違う……大人としてキミは正しいけどさ、舐めた奴らへの格闘家の対応じゃねえよ……キミが逃げたらさ、こんな事にならない?BOFのアマチュアは腰抜けの集まりだって、さ?」
「!?」

 僕はこの時、正常な判断力を奪われていた。元々不良なのか、喧嘩上がりもあるのか、煽りが上手かったんだと思う……自分の逃走が、あのリングで戦って買って来たアマチュアの選手達、さらには……久瀬くん似たまで泥を塗るかもしれないと、過ってしまったからだ。

「この格闘技と、キミを舐め腐ったガキをさ?合法にぶちのめしてやりたくない?学校で"喧嘩"したら久島くんはいくら正しくても、その時点で悪だ……だが、契約書交わしてうちがリングで戦わせたら、それは立派な"試合"となるわけよ……証明してやれ、舐めた代償をきっちり彼に払わせてやれ、俺が許すからよ……てかさ、俺も腹立ってんだわこの、格闘技舐め腐ったガキに」

 自分は味方だ、心配するな、そんな甘言に煽られた。そして苛立ちも最高潮に達していて、僕の本心は露呈する。

『免罪符を得た』
『むかつく奴を、ぶちのめせる』
『何なら、リング禍扱いで殺せる』

 そんな僕の本音が、言葉を紡ぎ出した。

「……姫原オーナー……」
「なんや」
「出ても、いいですか、ブレイキングケイジ……!」

 それは、最後のロックだった。唯一言い訳になる、指導者からのストップ……僕を管理する責任者の意向には、意思があろうと逆らえない。

 しかしーー。

「やったれ久島くん、そのガキをぶちのめしたれ、負けたら許さん、負ける事は万に一つ、いや京に一つありゃせんけど」

 姫原オーナーも『舐めたやつは許さない』タイプの人だった。

「出ます、ブレイキングケイジ」

 その言葉を聞いた朝原は、オーディションの決まり文句をカメラに向けて言い放った。

「じゃあ、この2人試合決定で」

 怒りを抱えて、僕は、大晦日以来の試合が決まった。
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