間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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一章.ブレイキングケイジ編

8.モブから見た『アニメっぽい学校の治安』ってこんな感じなのか?

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「おい久島!!ブレイキングケイジ出るってマジか!?しかも秋山とやるって!!」

 おい昨晩の話だぞ、何でもう広まってんだと朝の登校路で伊佐美くんが僕のブレイキングケイジ出場を知っていた。しかしカメラ回してたから生放送してたのかな、秋山のクリアユースチャンネルがと、今の情報社会のスピードを実感させられた。

「昨日の夜、ジムに来たんだ、朝原光流さん連れて……YouTuberの繋がり利用して、よくもまぁ仕掛けて来たよ……オーディションに出てそこで焚き付けたと思われる」
「つーか朝原さんも50万人程度の秋山の話よく聞いたよな……サイン貰いたかった」
「僕いらないからあげるよ、名前書いてもらってないし」
「マジか!?ありがと!!」

 ミーハーな彼はサインが欲しいらしいので、カバンに入れっぱなしの朝原さんサイン色紙を僕は伊佐美くんに渡してやった。

 さて、試合が決まった僕はあと十数日のために準備をしなきゃいけない。既に昨日の夜から、脳みそはしっかり戦闘モードに切り替えた。

「……情報が欲しいな、相手は素人だからありゃしない」
「あん?素人相手にか、普通に出れば勝つんじゃねぇの?久島ぁ……」
「そこが怖い、情報がないと言う事は、対策が取れない、何してくるか分からないんだ」

 僕は伊佐美くんに、心中を吐いた。はっきり言ってしまえば『怖い』と。

「普通ならさ、アマチュアでも大抵道場やジム間の情報、戦績から相手がどんなのか分かる……けど、素人のデビュー戦程何も見えないとね?それに、身長差と体重差もある」
「た、確かに……素人だから何するか分からねぇってのあるか、他のスポーツなら兎も角、殴り合い、蹴り合うわけだから……身長と体重も、それだけで色々変わるんだよな」

 伊佐美くんも素人ながら、階級や身長差をある程度は理解していた。

 目測で測るなら、僕は171cmに対して秋山くんは、179cmはあると思われる。8cmの差は大きい、あとガタイがいい……元野球部のアスリートだ、今も引き締まってスポーツも体育で活躍しているし、身体能力はある。

 体重差と身長を使った番狂せは、十分あり得る。

「何よりさ……この試合、秋山くんは一つを除いていい事ずくめなんだよ、対して僕はデメリットばかりだ」

 何よりもこの試合、僕のメリットは皆無だが、秋山くんはいくらでもメリットがあると言うや、伊佐美くんはこちらを向いて尋ねた。

「と、言うと……」
「動画のネタとして、勝とうが負けようが美味しいんだ……仮に、万が一に秋山くんが間違って勝てば……そりゃもう大金星の人気者になれるよね?絶対負けないけど」
「おう、でも……久島が勝てばいいだけじゃねぇの?」
「……勝っても僕に向けられるのは、素人に本気出した、大人気ない高校生格闘家のレッテルだ」

 僕の話に、伊佐美くんは成る程と理解して苦苦しい顔を浮かべた。

「そして、秋山くんは無謀な挑戦を視聴者とクラスメイトから讃えられのさ、よくやったと……さらに、1分間の試合だから、判定になった場合、負けても"それだけ耐えてみせた"と評価が上がる」

 勝っても負けても……秋山くんにはいい事ばかりで、こちらはメリットが無い。勝とうが冷笑、負ければ全て失う試合……しかし、唯一『マシな勝ち方』が僕には一つだけ存在した。

「八方塞がりってわけか……で、唯一の勝ち筋、秋山を叩き潰せる勝ち方となりゃあ……」
「……秒殺失神KOで、世界中に無様な姿を刻み込む、だ」

 これだ、秋山千才を無様に失神させれば、この挑戦は無謀だったと少しは彼のファンやクラスメイトも黙らせる事ができるだろう。

 だからこそ……僕はこの『喧嘩の延長線な公式戦』を、本気で望む事にした。

「だから、ごめん……しばらく帰りも寄り道できんくなる、伊佐美くん」

 本気で挑む、本当の試合と同じ準備で、秋山くんをぶちのめすから、しばらくは一緒に帰れないと僕は伊佐美くんに伝えた。すると、伊佐美くんは笑いながら背中を叩いてくれた。

「当日、俺も試合見るからよ……秋山の顔凹ませてやれ」
「うん、ただじゃ返さない……前歯28本折るつもりで戦う」

 その言葉を聞いた、伊佐美くんが少し慄いて離れた。

「え……どしたの?」
「いや、いま久島が人殺しの目になったから……」
「どんな目してんの……」

 僕はそんな怖い顔と眼差ししているのか……ちょっとショックだが、そう話していると正門に辿り着いた。

「うん?」

 その正門に、彼は立っていた。屋上ブレイキングケイジの被害者、山城雄一くんだった。彼は僕と伊佐美くんが来たのを見つけると、おずおず申し訳なさそうに近づいて来た。

「あ、あの……動画見てさ、久島くん……僕のせいで、出たく無い試合に出るって…….ごめん」

 昨日の自分が、まだ悪いと彼は思っているらしい。わざわざ僕らが登校するのを待って謝ろうとしていたのかと、僕は悪くない山城くんに言った。

「キミは悪く無いって……気にしないでよ」
「け、けど」
「あ、だったらさ、応援してよ試合、それだけでもう十分僕は力になるからさ」

 気にしているならば、試合で応援して欲しい。何せクラスメイトに、僕を応援する奴は少ないから、その応援が力になると僕は、山城くんに拳を向けた。

「そーそー、見とけよ山城ぉ?久島はガチ強いんだからよ、秋山が失神KOして全世界に無様晒して二度と街を歩けなくしてやっから!」
「そ、そこまでしなくても」
「いや、する、彼はそこまで踏み込んできたから許さない」

 その通りだ、秋山くんは踏み込んだらダメな場所に、糞踏んだ土足で踏み込みやがったから、しっかり報いを受けさせてやると胸張る僕に、お前そんなキャラだったんかと伊佐美くんはさらにギョッとして、山城くんはちょっと引いてた。

「取り込み中んとこ悪いけどよ、秋山の奴ら早速やっとるぞ」

 そうして校門前で話をしていたら、また1人現れた。

「本田くん?」
「本田ぁ、どうしたぁ!秋山がまた何かやってんのかぁ」

 昨日、秋山くんの凶行を教えてくれた本田くんが、ポケットに手を突っ込みながら歩いて近づいて来た。

「いま教室で自分が久島とブレイキングケイジで戦うって宣伝して、勝ち負けの予想投票しとんだわ、くだらねー事しやがる」

 なにっ、まさかのクラスメイトに宣伝!?しかも勝敗の投票!?朝っぱらから秋山くんは何をしでかしているんだ!?先生方々は注意しないのかよと流石に僕は驚愕した。

「いつからこの学校の治安はヤンキー校レベルまで落ち込んでんだよあー!?偏差値50の普通校だろ!生徒会と教師陣は止めるとかしろよ!?」
「その生徒会メンバーに、秋山の女の1人が入っているみてーだぞ」
「どんだけ権限持っとるんだあいつは!?フィクサーか!?学校牛耳っとるんか!やっとるわ!昨日それを垣間見たわ!」

 どうするよこれ、今2年2組酷い有様って事か?この状況で授業とか受けれるのかと、心配にすらなった。

 けど、ふと横を見て震えている山城くんを見て、自らに言い聞かせた。

 臆するなと、一番怖くて強い奴と僕は戦ったんだ、それに比べたらこのくらいと、僕は伊佐美くんや本田くん、山城くんに言う。

「行こう、気にせず……許容ライン相手が超えて来たら、試合前に失神KOしてやる」
「こりゃ戦争だなぁ、おい本田ぁ!投票券あるなら渡せや!久島に票いれっからよぉ!」
「俺も久島に入れたんだ、あのバカ秋山の、無様見れるって聞いてるからな」

 あ、本田くんもその口なんだなと、僕たち4人はいつの間にか一個の徒党となり、教室へ乗り込んで行ったのだった。

 あれから少し、僕に友達?が増えた。

 いやこれ、友達って言うのか?僕は首を傾げるしかできなかった。
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